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「アメリカ国民の半分はトランプ派」という事実を無視してはいけない

プレジデントオンライン / 2020年11月13日 18時15分

ワシントンにあるトランプ氏のホテル前でバイデン氏の旗を掲げる支持者=2020年11月7日 - 写真=時事通信フォト

■トランプ氏の大統領職へのこだわりは異常としか思えない

アメリカの大統領選で勝利を確実にした民主党のジョー・バイデン前副大統領(77)が11月10日、地元の東部デラウェア州で記者会見を行った。

バイデン氏は共和党のドナルド・トランプ大統領(74)が敗北を認めていないことに対し、狼狽や当惑、困惑を意味する「embarrassment」という表現を使い、「実に恥ずかしいことだ」と批判するとともに「大統領のレガシー(政治的遺産)にとって良くない」と語った。トランプ氏に早く敗北を認めることを求め、「協力がなくとも政権移行の準備は進められる」と強調した。

トランプ氏はバイデン氏の勝利宣言以降も、法廷闘争を叫び、敗北宣言を拒んでいる。だが、選挙の不正を疑わせる情報はない。11月6日付の記事「身勝手な勝利宣言をするトランプ氏が、このまま大統領でいいはずがない」でも指摘したが、トランプ氏の大統領職へのこだわりは異常としか思えない。潔さのかけらもない。このまま赤っ恥をさらしたまま消え去るのだろう。

■トランプ氏の得票は2008年のオバマ前大統領を上回っている

今回の大統領選では、バイデン氏とトランプ氏がともにオバマ前大統領が初当選した2008年の過去最多得票数(6950万票)を更新した。

報道によれば、バイデン氏が勝利宣言をする直前の6日未明時点の集計でバイデン氏は7350万票、トランプ氏も6960万票を獲得していた。総投票者数は1億5800万人を軽く超え、投票率は66.4%に達した。大統領選の投票率が60%台後半となるは、1908年以来のことになる。

トランプ氏は前回、得票数ではヒラリー・クリントン氏よりも少なかった。しかし、獲得した選挙人の数でヒラリー氏を上回って勝利した。

なぜ今回の大統領選はこれだけ投票率が高くなったのか。新型コロナの感染拡大で郵便投票の条件が緩和され、多くの有権者が期日前投票を行ったことに加え、就任以来、問題発言を繰り返してきたトランプ氏の勝敗に注目が集まったからだろう。

今回の大統領選挙で敗れたとはいえ、トランプ氏に投票したアメリカ国民はたくさんいた。いわば依然としてアメリカ国民の半分はトランプ氏に期待している。トランプ氏が消えても分断は解消しない。私たちはその厳しい現実を直視する必要がある。

■選挙では激しく対立したが、結局は一緒にやっていくしかない

トランプ政権が誕生してからアメリカの分断の溝は日増しに大きくなり、それは大統領選挙で頂点に達した。国民は共和党の「赤」と民主党の「青」に分かれ激しく衝突した。性別、人種、所得、宗教……。それぞれの政党には強みを持つ支持層がある。しかし、それらの対立と片づけてしまえば、分断は深まるだけだ。

共和党vs民主党
写真=iStock.com/Aquir
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Aquir

選挙では赤と青に分かれた。だが、選挙が終われば、アメリカに住む同じ国民である。対立を続けても、いいことはひとつもない。いずれにしろ、一緒にやっていくしかないのだ。

民主主義を健全に機能させるには、そうしたリテラシーを持つことが重要だ。選挙は多数決で決まる。しかし選挙が終われば、多数派は少数派を包摂し、そして連帯していくための方法を考えなければいけない。それが民主主義だ。

■「この大国の軌道を正す歴史的な重責を自覚してもらいたい」

バイデン氏の当選が確実視されると、日本の全国紙も一斉に社説のテーマに取り上げた。扱いも大半の新聞社が1本社説という大きさだ。

11月10日付の朝日新聞の社説は「米大統領バイデン氏当確 民主主義と協調の復興を」との見出しを掲げ、冒頭からこう訴える。

「米国社会の融和と国際秩序の再建が喫緊の課題である。この大国の軌道を正す歴史的な重責を自覚してもらいたい」

「融和」と「再建」。まさにその通りだ。トランプ大統領の手によって破壊された社会をもとの状態に、いやもっと素晴らしい社会に変えていく努力が欠かせない。かつて世界中の人々を魅惑したアメリカン・ドリームを復活すべきである。そのうえで国際社会に大きく貢献してほしい。

朝日社説はさらに訴える。

「型破りの大統領は来年1月に去る。だが、彼を支えた米社会の深層は変わらない。人種などの多様化に伴う摩擦に加え、広がる経済格差への労働層の怒りがくすぶり続けるだろう」
「地域、性別、世代など様々な分断をどう乗り越え、米国本来の多元主義を回復するか」
「勝利演説でバイデン氏は『団結をめざす大統領になる』と強調した。女性初の副大統領となるカマラ・ハリス氏とともに、国民統合の道を探ってほしい」

「人種差別」「経済格差」「様々な分断」。どれもアメリカ社会に巣くうやっかいな問題である。しかし、バイデン氏にはあきらめずに前に進むことを期待する。

■ハリス氏こそが、アメリカ初の女性大統領になる人物

とくにハリス氏はまだ56歳と若い。容姿からもみなぎるエネルギーが伝わってくる。

ハリス氏は、インド出身のがん研究者の母親と、ジャマイカ出身の経済学者の父親の間に生まれ、カリフォルニア大学のロースクールなどを卒業した。検察官となり、女性として初のカリフォルニア州司法長官をも務め、2016年からはカリフォルニア州選出の上院議員として活躍してきた。

11月7日夜、バイデン氏とともにデラウェア州ウィルミントンで演説したときの「私は女性として初めての副大統領だが、最後ではない」という言葉が実に良かった。アメリカの多くの若い女性に大きな勇気を与えた。

バイデン氏を支える大きな力となることは間違いない。沙鴎一歩は彼女こそが、アメリカ初の女性大統領になる人物だと思っている。

■「地球規模の課題は大国も単独では解決できない」

話を朝日社説に戻そう。

朝日社説は「国際社会では、米欧や日本などの民主主義国と、中国、ロシアなどの権威主義国との価値観の対立が鮮明になっている」と書いた後にこう指摘していく。

「その中でトランプ氏は同盟関係を軽んじた。目先の打算で北朝鮮の首脳をたたえ、西欧は突き放すような無原則な姿勢が国際政治のモラルを侵食した」
「中国と覇権を争うさなかに、米国の強みである同盟のネットワークを損ねる。そんな矛盾した対外政策は、根底で自らの力の源泉を見誤っていないか。いまや世界は、大国間競争の時代が再来したとも言われる」
「だが、コロナ問題が示したように、地球規模の課題は大国も単独では解決できない。多極的な協調しか対処の道はない」

同盟国の力を軽視し、目先の利益で動く。国際政治のモラルをないがしろにして中国と覇権争いにまみれる。トランプ氏の政治は国内外を問わず、社会を大混乱させた。だが、そんなトランプ氏を大統領に選んだのはアメリカ国民であり、アメリカという国の民主主義なのだ。民主主義の在り方が問われていることは間違いない。トランプ後の社会は、これまで私たちが築き上げてきた民主主義や自由主義、それに資本主義をさらに発展させる方法を考える必要がある。

朝日社説は続けて主張する。

「バイデン氏は、トランプ政権による過ちの是正が最初の仕事となろう。気候変動をめぐるパリ協定とイラン核合意への復帰を果たし、核軍縮体制や中東政策の立て直しが必要だ」
「そのうえで、米国自身が築いてきた戦後秩序を礎に、新たな現実に対応していく結束の枠組みづくりをめざすべきだ」
「バイデン氏は就任1年目に、民主国家を一堂に集めた首脳会合を開くと宣言している。広がるポピュリズムのなかで、民主主義の復権に向けて米国が決意を示すならば意義深い」

「民主主義の復権」。もちろん、復権がなければその発展はない。

■「米国の安定と威信を取り戻せ」と読売社説

11月10日付の読売新聞の社説は書き出しからこう主張する。

「トランプ政権の4年間で失われた米国の安定と威信を取り戻さねばならない。『自国第一』主義から国際協調路線への回帰も急務である。強い指導力が問われよう」

見出しは「バイデン氏勝利 米国の安定と威信を取り戻せ」である。

読売社説は指摘する。

「トランプ氏は一貫してウイルスの危険性を軽視し、『事態は好転する』との楽観的な見方を根拠なく示し続けた。専門家の意見に耳を貸さず、経済活動の維持、再開に重点を置いた。感染防止との両立に腐心する様子は見られなかった」
「米国は世界最多の感染者と死者を記録している。トランプ氏は、中国や世界保健機関(WHO)の過失を非難してきたが、結果責任は免れ得ない。国民の命と生活に直結する問題で我流を押し通すのは、無理があったと言える」
「実業界出身の『アウトサイダー』として既存政治の打破を図る手法は、多くの弊害を招いた。宣伝と誇張に満ちたメッセージをひっきりなしに発信する『ツイッター政治』はその象徴だろう」

コロナ対策には規制と促進のバランスが欠かせない。トランプ政治にはそのバランスがなかった。責任を中国やWHOに押し付けるのも無理があった。やはりアウトサイダーなのだ。彼の大きな武器はツイッターだったが、これもツイッター社から警告を何度も受けていた。

■勤勉さで成功を勝ち取る「アメリカン・ドリーム」が薄れつつある

さらに読売社説は書く。

「米国で社会の分断と閉塞感が強まった背景には、構造的な問題が横たわっている。グローバル経済や自由貿易、産業のIT化の進展で恩恵を受けたのは一部の分野に限られ、むしろ『格差が広がった』と感じている人は少なくない」
「工業地帯や農村の白人労働者らは、エリート中心の政治から見捨てられたという意識から、トランプ氏の岩盤支持層を形成した。均等な機会の下で、勤勉さで成功を勝ち取る『アメリカン・ドリーム』の価値観は薄れつつある」

経済格差の深刻さが分断の背景にある。努力次第でだれもが真の豊かさを得られる新しいアメリカン・ドリームを構築してほしい。アメリカがそれを率先することで、世界の国々にビジョンを示すことができるからだ。

読売社説は分断の解決策についてこう指摘する。

「行き過ぎた格差を是正し、中間所得層の拡大を図ることが、分断修復への一歩となろう。穏健な中道・中流層を広げていく取り組みは、左右両極の偏った主張を排除し、政治と社会を安定させることにもつながるはずだ」

革新の朝日社説ならともかく、保守を代表する読売社説でさえ「『左右両極の偏った主張を排除』するべきだ」と訴える。分断を解決していくには、バランス感覚を失わないことである。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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