「起業して年商1億円、年収1000万円」は誰でも達成可能である統計的根拠
プレジデントオンライン / 2020年11月24日 15時15分
※本稿は、西村豪庸著『SURVIVE 不確実性の高い新時代における生き残り戦略』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■サービスとは、高確率に賭け続けるギャンブル
飲食店でバーテンダーやギャルソン、ソムリエといった仕事をしていた当時、後輩に「サービス」という仕事を教えるにあたり、僕がよく言っていた言葉があります。
それは、「サービスとは、高確率に賭け続けるギャンブル」だということです。
たとえば、レストランに入店したお客様が、席につくなり、薬をテーブルの上に出したとします。そのとき「白湯(さゆ)を持っていけば、必ず喜んでもらえる」と言い切れるほど、サービスは単純ではありません。
お客様としては、食後に忘れずに飲むためにとりあえず薬を出したのかもしれないし、薬であろうとも氷水で飲みたいお客様もいるかもしれません。そもそも薬を飲むところを見られたくないという可能性もあります。
しかし、白湯を持っていくことで、「ああ、この人は薬を飲もうとした私のことをわかってくれて、わざわざ白湯を持ってきてくれたんだな」と喜んでもらえる確率のほうが高いでしょう。そこで、僕は薬を取り出したお客様がいた場合は、いつも白湯を持っていっていました。
しかし、あるとき前述のように氷水で飲みたいお客様がいらっしゃり、「こんなに暑いのに白湯なんて持ってくるな! 頼みもしないのに!」とお叱りを受けたとします。
さて、次回また違うお客様がご来店したとして、このサービスマンはどんな行動をとるべきでしょうか。
僕が教えていたのは、それでも「白湯を持っていく」ことでした。
■成功のポイントは「高い確率で喜んでもらえるか」
ここで、「白湯をやめて、次のお客様にも氷水を持っていく」ほうがしてはいけないことです。なぜなら、喜んでもらえる確率が低くなるからです。
100%確実に喜んでもらえるサービスなど、存在しません。人によっても、ときには同じ人でも、その日の気分やコンディション等によって、同じことをしても喜んだり悲しんだり、怒ったりする。人間とは、そういった生き物なのです。
あるのは「高い確率、期待値で喜んでもらえる」という行動のみです。
つまり、一度や二度、短期的に失敗したことを、長期的な行動指針に影響させるべきではないのです。
完璧なスイング、フォームをつくり込んだプロゴルファーと、適当なスイング、フォームのアマチュアゴルファーが勝負したとして、1ホールだけアマチュアゴルファーが奇跡のホールインワンでプロを下すことはあるでしょう。
しかし、18ホール続けて、適当なスイング、フォームでプロに勝ち続けられるか、18ホール通して評価したときに勝利をつかめるかといえば、その答えは否でしょう。
同じように、僕たちは、短期的な視点で自らの行動や結果を評価するべきではなく、その行動を続けていったとき、大数の法則(確率論の基本法則の一つで、ある試行を何回も行えば、確率は一定値に近づくという法則)に確率が集約したときに、プラスになっているかどうか、で行動しなければなりません。
そして、その視点からも僕は起業をして、長く生き残っていくことをおすすめしています。僕は起業と会社経営の経験をある程度積んできたので、少しは経験を話せるかなと思うのですが、結局、起業とは、期待値がプラスに歪んでいる状態なのです。
■「10年で9割が倒産」のウソ
一方で、起業をすることが、とても大きなリスクのように語られることがあります。そのことについて、これから説明をします。
たしかに起業をした人は、公務員や安定した大企業に勤める人に比べて、収入が不安定になりやすいことは事実の一端ではありますが、僕は起業が一か八かのように語られることに、違和感を持っています。
「起業はハイリスク・ハイリターン」
「大儲けできるかもしれないけれど、大損して借金を抱えるかもしれない」
こんなふうに語られることもあると思いますが、実際の起業のリスクとリターンには一般的な認知以上に、歪みが生じています。
代表的な例としては、まことしやかにささやかれてきた「10年で9割の会社が倒産する」というウソです。
まず、この「10年で9割の会社が倒産」の根拠となるデータには、ソースがありません。
一方、中小企業白書の「起業の実態の国際比較」を見てみると、開業率も廃業率も日本は10年後も15年後も4~5%前後であることがわかります。いったい、「10年で9割倒産する」という脅しのような、起業反対派の「錦(にしき)の御旗(みはた)」の根拠は、どこにあるのでしょうか。できれば教えてほしいくらいです。
■統計学的に、起業は決してリスキーではない
そもそも、基本的な考え方として、リスクとリターンは釣り合っているものですが、なかにはリスクとリターンが歪んでいることも多いのです。こういった市場の歪みを橘(たちばな)玲(あきら)さんは「黄金の羽根」と呼び、著書『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)の中で教えてくれていますし、世の成功した人たちは、成功すれば天井知らず、失敗しても出資金の範囲内で責任を取ればよく、自己破産でリセットできる起業を「リスクとリターンが歪んでいる」と認識してどんどん行動を起こしています。
成功が青天井だということがわかりにくければ、起業を単純化して数字にしてみましょう。
A.1回ガチャを回すのに、10万円かかる(資本金、参加費)。
B.10%の確率(10回に1回)で1000万円が当たる(1000万円の利益が出る)。
さすがに単純化しすぎに見えますが、こんなガチャなら10回、回しますよね? 10回で当たらなくても、20回くらいまでは回してしまうのではないでしょうか? 確率論、期待値的には正しい行動です。A、B、2つの前提条件がきちんと正しいものなら。
しかし、実際の起業はこんな感じだと思います。10回連続で失敗した人なんてあまり見たことがないですし(勝ち負けを単純に50%の事象とした場合、1000分の1以下の確率です)、勝率を10%以上にする努力は随所でできます。
つまり、起業は「一か八かのギャンブル」になることもあれば、「ほぼ勝てるゲーム」になることもある。その違いを生むのが「前提条件」、すなわちゲームでいうところの初期設定やルールなどです。これはたとえば、業種業態、出店場所、価格設定などさまざまなものが挙げられます。
こうした前提条件が自分に有利なところをうまく探すか、自分に有利な前提条件をうまく設定し、整えれば、もともと「失うものは少なく、得るものは大きい」という有利に歪んだ起業という選択肢が、さらに自分に有利に歪んだものになります。
■年商1億円の会社は誰でも作れ、年収1000万円は誰でもなれる
さて、どんどん行きましょう。続いてのショッキングな事実はこちらです。
「年商1億円の会社は誰でもつくれるし、年収1,000万円なんて誰でもなれる」
中小企業庁のホームページの中に「中小企業実態基本調査」という項目があります。そこを紐解いてみるとわかりますが、「一企業当たり売上高」つまり、中小企業の平均年商は年によって多少のバラツキはあるものの、僕がこのサイトを見始めた10年、15年前からずっと1億4000万円~1億7000万円くらいが平均です。
例として令和元年の調査の概要数字(平成30年度)を、少しここに書いておきます。
・法人企業の一企業当たりの売上高は、3億1196万円(前年度比10.1%減)、個人企業の一企業当たりの売上高は、1374万円(同2.0%増)。
・法人企業の一企業当たりの従業者数は15.7人(前年度比4.8%減)で、個人企業の一企業当たりの従業者数は2.6人(同2.0%減)。
・社長(個人事業主)について、年齢別割合が最も大きいのは60歳代(30.0%)、在任期間別割合が最も大きいのは30年以上(35.8%)。
ちょっとわかりにくいのは「法人企業」と「個人企業」の違いくらいでしょうか。
つまり、法人として会社登記している「法人企業」か、「青色申告や白色申告などを行っている、いわゆる個人事業主」かの違いです。
別の言い方をすると、法人企業に限った場合、実は平均年商は1億円ですらなくて、3億円です。「平均点30点のテストで10点を取るのがそんなに大変か?」ということをここでは言いたいのです。
そして、ここでも先程の理屈を補強する材料がありました。「在任期間別割合が最も大きいのは30年以上(35.8%)」。10年で90%が倒産するのではなかったのでしょうか。
同じように、年収1000万円の人の割合を知っていますか? さすがにこちらは平均以下とは言いませんが、「民間給与実態統計調査」で見るとだいたい5%前後、20人に1人くらいいます。一クラス40人の中の2人です。これは、果たしてレアキャラでしょうか。どうしても到達できない水準でしょうか。1万人に1人ではなく、20人に1人。なんとかなりそうな気がしませんか?
はい、なんとかなります。それがあなたにとってのクリア条件で、適正なステージで戦い、生き残り、レベルを上げていくことができれば。
世間一般に信じられているまことしやかなウソの実態なんて、こんなものなのです。
■変化を恐れず、幸せに生き残っていく
リスクとリターンは歪みが生じるものだから、起業はほぼ勝てるゲームになり得る。そして、その選択がそんなに高いハードルでないこと、レアでないことがわかったとして、それでもあなたが「起業が怖い」と思う理由は何でしょうか。その対処法をお話しして、次に移りたいと思います。
そもそも、先程の「9割が10年以内に倒産」というネガティブ情報が蔓延している理由は、僕たちの脳の構造のせいです。
基本的に僕達の本能部分は原始時代となんら変わっていませんから、「あそこに猛獣がいる」とか、「この毒キノコは危ない」というネガティブ情報のほうが、生死に関わるため、重要なこととして信じ込むし、周りに伝えやすいという性質があります。
スマホもSNSもない時代には、ガセネタであっても、ネガティブ情報を鵜呑みにしたほうが、生存確率が上がったからです。「あそこに猛獣がいる」という情報がガセネタでも、信じて近づかないほうが、生存できた、ということです。
同じように、変化を怖がるのも、原始時代の脳構造によるものです。
昨日と同じ道を通れば、実はそこが流砂だった、とか猛獣の巣だった、といったことは少なくなります。だから、変化は怖いし、ネガティブ情報を全部鵜呑みにして、信じたほうが種の本能に近いのです。
しかし、残念ながら今は21世紀。連載当初の設定での猫型ロボットの誕生日は過ぎてしまうくらいの新時代です。
ガセネタのネガティブ情報を鵜呑みにして、昨日と同じ今日が来ると思って変化しないことが、一番のリスクになるかもしれない時代です。こんな時代を幸せに生き残っていくためには、変化を恐れず、進化を続けて状況に適応、対応していくことです。
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経営コンサルタント
INSTYLE GROUP代表、INSTYLE Inc.代表取締役CEO。中央大学法学部卒。大学在学中の19歳のときに飲食店を開業。その後、直営、プロデュース、ファンドなどの投資店舗も含めて110店舗まで拡大した後、それらをすべて売却。その頃から経営コンサルタントとしての活動を本格化させる。代表を務めるインスタイルグループは、飲食、アパレル、エンターテインメントなど、多業種の企業で構成されている。
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(経営コンサルタント 西村 豪庸)
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