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一杯1万円と一杯300円、成功しやすいラーメン屋はどっち?

プレジデントオンライン / 2020年11月25日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gionnixxx

一杯1万円と一杯300円、成功しやすいラーメン屋はどちらだろうか。経営コンサルタントの西村豪庸氏は「僕なら一杯1万円のラーメン屋をつくる。価格を決めてから、『値段の割に安い』といわれるための付加価値を考えていく」という――。

※本稿は、西村豪庸著『SURVIVE 不確実性の高い新時代における生き残り戦略』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■流行っている店は数字に落とし込んで考え抜かれている

数字で判断することは、客観視をしていく上でもとても重要です。僕がこうした意識を培ったのは、一つには飲食店経営時代です。

19歳のときに起業してバーを開いてから、僕は和洋中、多国籍、カフェ、レストラン、バーなど、最終的には当時「寿司と焼肉屋以外はだいたいあります」と言っていたくらい、すべてのスタイルの飲食店を経営しました。さらに、自分で飲食業を経営する傍ら、飲食関連の派遣会社に登録して、さまざまなレストランで働かせてもらった時期もあります。

こうした経験の中で、流行っている店は数字に落とし込んで考え抜かれていることを身にしみて知りました。

その後、コンサルタントとしても、経営者としてもさまざまな業種に携わってきましたが、やはり、「数字を基準に考えられているか、いないか」が、ビジネスの成否に大きく関わっていました。

■バーを開業するなら「バーテンダーの処理能力」を数値化する

さて、突然ですが、ここで問題です。あなたがバーを開くとして、店内に置くカウンターの席数を決める場面を想像してみてください。

店舗の広さや、お客様の数など、考えるべき要素はいくつかありますが、僕なら最初に「バーテンダーの処理能力を数値化」します。

まず、カウンターに立つバーテンダーが、どれくらいの客数をさばけるのかを見積もります。たとえば、「ウチのバーテンダーのAさんは、1人で10人まで接客できる」といった場合は、この数字をもとに、カウンターの席数を考えます。

ここでもし、12席のカウンターを作ってしまうと、バーテンダー1人だけでは満席時にさばききれなくなります。お客様を10人しか入れないようにするか、バーテンダーを増やすしかありません。

でも、12席あるのに10人しかお客様を入れないと、「あそこ空いているじゃないですか」とお客様からクレームが来そうです。

では、バーテンダーを増やせばいいかというと、今度は「増やしたバーテンダーのリソースが余ってしまう」という別の問題が起きます。

仮に1人で10人さばけるバーテンダーを2人雇ったとすると、20人さばけるリソースがあるのにカウンターは12席。どうしてもバーテンダーの手が8人分空いてしまいます。給料は2人分支払っているのに、常に手が余っているという状態になるのです。

自然界に「0.2人分のバーテンダー」が存在すれば帳尻は合いますが、そんな人間はいませんから、どうしたって無駄が生まれるわけです。

こういった問題が起きないように、あらかじめしっかり数値化して、「バーテンダーの能力に見合った席数のカウンターを設置する」ことが肝心です。10人をさばけるバーテンダーがいて、10席のカウンターがあれば、オペレーション上の無駄も不足も起きません。あとは満席を目指して努力すればいいだけです。

■ビジネスモデルの設計においても最重要

これはあくまで一例ですが、ビジネスを行っていると、こんなふうにほとんどあらゆることが数字に落とし込むことで、適不適に分けられます。飲食店であれば、「食洗機を入れるべきか」「食器の拭き上げを誰にやらせるのか」「グラスの数はどれだけ必要なのか」といった点について、最適解を割り出すことができますし、販売業なら、「一日何軒訪問すればいいか」「新商品を投入するのはいつがいいか」「仕入れ先を選定するときの基準は何か」など、やはりビジネスのさまざまな要素の最適化をはかることができます。

そうやって数値化を物差しとして使うことで、利益をあげやすいオペレーションや事業スタイルを可視化することは、起業後の事業運営でも重要ですが、起業時のビジネスモデルの設計においても最重要です。

ビジネスの解像度を上げて、より勝てる前提条件に近づけるために、ヒト、モノ、コストなど、すべての要素を洗い出して数値化することで、中途半端なカウンターを設置してしまわないように、合理的な数字を目指してビジネスを組み立ててください。

■日常生活で鍛えられるビジネスのからくりを見抜く力

ところで、数字意識は普段の生活の中でもゲーム感覚で鍛えることができます。レストランに入ったら、「この立地でこの広さだったら家賃はだいたいこれくらいだろう。とすると、一日これくらい稼ぐ必要がある。そのためには粗利が半分としても、これくらいの客単価のお客様が○人くらい入る必要がある」などと計算してみるのです。

素敵なレストラン
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

そう考えると、イベントの集客も、電車の中の広告も、テレビコマーシャルも、目に入るあらゆるものが、数字意識をトレーニングする材料になります。「一本300円の飲料水を告知しているこのコマーシャルは、いったいどれくらい飲料水が売れればペイするのだろうか」などと考える癖をつけると、ビジネスのからくりがだんだん見えてきて楽しいですよ。

■ビジネスの本質は「これ、値段の割に安いよね」と思わせること

数字の話の延長として、「値段」についても触れます。値段、価格ほど重要な前提条件はないからです。

実業家として知られる稲盛和夫氏も、経営哲学のひとつに「値決めは経営」という言葉を掲げています。僕もさまざまなビジネスに関わってきたなかで、値段については散々考えてきました。

そうした経験を通じて、「ビジネスの本質は、『価格と価値の不等号』を成立させることにある」と考えるようになりました。

お客様に、「これ、値段の割に安いよね」と思ってもらえたら、「価値>価格」が成立したということです。だから買っていただける。至ってシンプルな話です。

逆に、価格に見合った価値を感じてもらえなければ、こちらがどんなに素晴らしい商品だと思っていても、絶対に買ってもらえません。

同じ1万円の商品でも、「これで1万円もするのか……」と買ってもらえないケースもあれば、「これが1万円なんて安い!」と即買いしてもらえるケースもある。だから、値決めは難しいのです。

黄金の輝き
写真=iStock.com/sbayram
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sbayram

■価格ではなく、「価値」をいじれ

この不等号を成立させるために、つまり、買ってもらうために、多くの人がやりがちなのが、「価格をいじる」ことです。

たしかに、値段を下げて「半額セール!」と売り出せば、それなりに売れるかもしれませんが、競合も半額セールをすれば勝てなくなります。低価格競争は結局、体力勝負・持久力勝負なので、削れる粗利に限界のある小さな会社が大企業に勝つのは難しい。それに、そもそも値札を付け替えるだけというのは、価値を無視した行為です。

そこで僕は、「価格ではなく価値をいじる」ということを一貫して考えてきました。実際、僕が代表を務めているインスタイルグループはM&Aで買収した一部の会社を除けば、セールを一切行いません。これは「価格よりも価値をいじったほうが最終的に勝ちやすい」と考えているからです。

具体的には、商品やサービスのクオリティを上げることで、価格と価値の不等号を成立させています。これがいわゆる「付加価値」です。

■先に値段を決めてしまったほうが、アイデアに困らない

では、そんな大切な値段を最初に決めるときは、どうすればいいのでしょう?

さまざまな考え方がありますが、僕は、まず値段を決めた上で、提供する価値を調整することをおすすめします。

一般的な方法としてよくあるのが、値決めをするときに競合などの市場環境やターゲット層をリサーチして、「この値段なら売れる」という推測のもと値段を決めるというプロセスをたどるというものです。「この商品を好みそうなのは若い男性で、競合商品はいくらいくらだから、それより少し安い○○円にしよう」というようなやり方です。

これに対して僕は、先に独断で値段を決めます。「一杯300円のラーメンを売る」にせよ、「一杯3000円のラーメンを売る」にせよ、とにかく値段を先に決めてしまうのです。

こうやって値段を仮にでも決めてしまえば、「300円のラーメンを欲しがるのはどんな人か」「何杯売らないといけないのか」「どんな立地と相性がいいのか」「家賃はいくらくらいまで払えるのか」「どんなラーメンなら価格と価値の不等号を成立させることができるのか」といったことがイメージできるようになってきます。さらには告知方法や欲しい人材など、ビジネスを形にするために必要なものを、パズルのピースのように見つけることができます。

■市場リサーチからは、曖昧な戦略しか出てこない

一方、一般的なやり方で、「リサーチの結果、このエリアには20代男性が多いから、20代男性向けのラーメン屋を開く」と決めたとしても、最適な値段を決めることは難しいはずです。そもそも「20代男性」というターゲット自体が曖昧なので、「どんな価値を提供すればいいのか」「値段はどうするのか」といった点がなかなか決められません。そうなると、結局「競合よりも少し安くする」という安易な値段設定を採用しやすくなってしまうのです。

曖昧なターゲットに向けて安易な値段や価値を設定するくらいなら、値段を決めてから、商品の中身や価値を決めるほうが合理的です。

■想定するお客様のライフスタイルを具体的にイメージする

値段を仮決めしてから、商品の価値を詰めていくやり方は、慣れないうちは難しいかもしれません。そういったときは、カスタマーストーリーを作るのがいいと思います。

西村豪庸著『SURVIVE 不確実性の高い新時代における生き残り戦略』(プレジデント社)
西村豪庸著『SURVIVE 不確実性の高い新時代における生き残り戦略』(プレジデント社)

300円のラーメンを好きになってくれる人のライフスタイルをできるだけ具体的に想像して、ストーリーにしてみるのです。

実際、僕は新しい事業を興すとき、その事業の商品を買ってくれるお客様をイメージして、このカスタマーストーリーを作り、従業員と共有していました。一時期は「短編小説を書くのが仕事」みたいになっていましたが、これも一人ひとりの顧客、ターゲットにしっかりフォーカスするため、顔が見えるマーケティングをするためでした。

要は、「できるだけ具体的にお客様のライフスタイルを想像する」ことが、価値を詰めていくときに重要なのです。

そして、その顔が思い浮かぶ人に向けて、「あの人は月3万円のお小遣いの中から、このシャツを買ってくれるだろうか? 買うだろうか?」と考えているわけです。

■「百円玉」と「一万円札」のどちらを集めるのが得意か?

そんなわけで、値段、価格を決めるときは、「自分が低価格商品と高額商品のどちらを売るのが得意なのか」という点も考えると良いと思います。つまり、「百円玉を集める」のと「一万円札を集める」のを比べて、自分はどちらに向いているのか、頭の中の「キャラ」と相談して、「イメージがつきやすいのはどちらか」ということです。

僕は、自分が商品やサービスに高い付加価値をつけて高額で売るほうが得意と自覚していますから、「ラーメン屋をやれ」と言われれば、一杯1万円や3000円のラーメン屋をつくるでしょう。でも、僕と違って薄利多売の商売が好きで上手な人であれば、一杯300円のラーメン屋を開いたほうがうまくいくと思います。

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西村 豪庸(にしむら・ひでのぶ)
経営コンサルタント
INSTYLE GROUP代表、INSTYLE Inc.代表取締役CEO。中央大学法学部卒。大学在学中の19歳のときに飲食店を開業。その後、直営、プロデュース、ファンドなどの投資店舗も含めて110店舗まで拡大した後、それらをすべて売却。その頃から経営コンサルタントとしての活動を本格化させる。代表を務めるインスタイルグループは、飲食、アパレル、エンターテインメントなど、多業種の企業で構成されている。

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(経営コンサルタント 西村 豪庸)

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