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「独身の日でも荒稼ぎ」年収30億円"口紅王子"はなぜそこまで儲かるのか

プレジデントオンライン / 2020年11月17日 15時15分

2020年11月11日深夜に開催された「独身の日」の期間中、中国東部浙江省杭州市のメディアセンターに表示された配送注文数を示す画面 - 写真=AFP/時事通信フォト

中国最大のネット通販セールとして知られる「独身の日」。今年の流通額は前年比85.6%増と大幅な伸びを記録した。その背景にはインフルエンサーが動画で商品をPRする「ライブコマース」という手法があるという。ジャーナリストの中島恵氏が解説する——。

■過去最高を記録した「独身の日」、何が違った?

11月11日深夜0時、中国最大のネット通販セールであり、消費の一大イベントとして知られる「独身の日」(双11、ダブルイレブン)が終了した。最大手であるアリババ集団の流通額は過去最高の4982億元(約7兆9000億円)と、前年比85.6%増となる大幅な伸びを記録。ネット通販第2位の京東集団(JDドットコム)も2715億元(約4兆2700億円)と前年を30%以上も上回った。

世界89カ国・地域の25万以上のブランドの商品をめぐり、約8億人の消費者と500万以上の企業が参加。最終的にアリババと京東の2社だけで日本円にして12兆円という驚異の流通額をたたき出した。

今年は例年と大きく異なる点がいくつかあった。ひとつは実施期間だ。

2009年から始まった同イベントはこれまでずっと11月11日の1日のみだったが、今年は販売期間が11月1~3日と11日の計4日間に設定されたことだ。これには例年、殺人的な忙しさとなる宅配業者の出荷ピークを分散させるという狙いがあったようだが、購入の予約と販売の期間が長くなったことが流通額の増加に結びついた。

2つ目は、やはり新型コロナウイルスの影響だ。今年は海外旅行に行けず、お金をあまり使わなかった人々が、例年以上に多くの買い物をしたことだ。

主に売れたものは、デジタル製品、家電、化粧品、衣料品、靴、バッグ、食品、健康関連、ベビー・マタニティ用品、日用雑貨などで、アイテム的には例年とほとんど変わらなかったのだが、中には富裕層が億単位の不動産や億単位の宝飾品、プラダ、カルティエなどの高級ブランド品、自動車なども購入したという。もはや中国人にとってネット通販は日常の一部であり、ネット通販で買えないものはない、ということを改めて示した。

■実演販売が見られる「ライブコマース」が人気

しかし、何といっても、今年最大の特徴といえば、やはりライブコマースという新しい販売チャネルを利用した人が多かったという点だろう。ライブコマースは、簡単にいえば「ネット上で、生放送で行われる実演販売」。「ネット通販と動画の融合」や「ネット版のテレビショッピング」と呼ぶ人もいる。

中国では2018年ごろから流行(はや)り始めたものだが、これまで主流の販売チャネルにはなっていなかった。だが、今年は新型コロナの影響で、中国でも1月下旬から4月下旬くらいまで、人々はほとんど外出することができなかった。その際、家の中でスマホを見ている時間が非常に長く、スマホ上の生中継で、テレビのように「ながら視聴」できるライブコマースが、「まるでその現場にいるような感覚で買い物ができる」「説明が分かりやすくて、おもしろい」という理由で、急速に消費者の注目を集めるようになったのだ。

中国のデータでは、2020年3月現在、ライブコマースの利用者は約2億6500万人で、ネット通販の利用者の37%を占めている。流通額は2018年の段階では2000億元(約3兆円)にもみたなかったが、2019年は約3900億元(約6兆円)となった。2020年末には6000億元(約9兆円)以上になる見込みだといわれており、新型コロナをきっかけに、これからの消費を牽引する救世主的な存在として注目されている。

■ライブ感と、その場で質問できる安心感

ライブコマースとは具体的にどのようなものなのか。中国語では「直播(ジーボー)」といい、最も多くの人々が利用している淘宝(タオバオ)のライブコマースなら「淘宝直播」(タオバオジーボー、またはタオバオライブ)という。あるタレントやインフルエンサー(KOL)が、あらかじめ告知していた生放送の時間にアプリを開くと、彼らが画面のこちら側に向かって語りかけ、まるでテレビショッピングのように、宣伝したい商品の特徴や使い心地などについて身振り手振りで説明するというものだ。

ライブコマース
写真=iStock.com/PhotoAttractive
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PhotoAttractive

画面上では、視聴者が質問を直接書き込めるコメント欄があり、それが次々と表示されていき、タレントやインフルエンサーはそれにその場で答えてくれる。画面の端にはショッピングカートのアイコンがあり、そこをクリックすることで、その商品をすぐに購入することができる。

前述したように、ライブコマースの魅力は「ライブ感」や「臨場感」、「双方向性」だ。そして、商品をさまざまな角度から見たり、動かしたりしてもらえることによって視覚から得られる「情報」もある。中国にとって、もともとメディアは管制メディアであり、政府のプロパガンダ的な存在だったことから、人々はお仕着せの広告を信用しない傾向が強かったが、親しみやすいインフルエンサーがPRすることで信頼感を持つ人が多い。

ライブコマースでは、彼らと直接話せているような感覚もあり、彼らの説得力のある「しゃべり」にも引きつけられるようだ。アプリに表示されている写真を見てクリックする従来型のネット通販よりも、動きのある商品をクリックするほうが楽しいと、「新しいもの好きな中国人」がその新鮮さに飛びついたのだ。

■1回の配信で3億円分を売り上げる「口紅王子」

今、中国で最も人気があるインフルエンサーといわれているのは薇娅氏(Viya)と李佳琦氏(Austin)という2人だ。薇娅氏は1985年生まれの女性、李佳琦氏は1992年生まれの男性で、ともに数年前からインフルエンサーとして頭角を現し、今や中国の若者の間では知らない人はいないといわれるほどの「中国人インフルエンサーの2大巨頭」となった。李佳琦は1回のライブコマースで3億円分以上の化粧品を売り上げるといわれ、自ら口紅をつけて、その使用感などを巧みな言葉で表現することから「口紅王子」というニックネームで呼ばれている。

彼のインフルエンサーとしての収入の仕組みは主に2つだ。中国のKOL事情に詳しく、日本企業の対中ウェブマーケティングなどのビジネスを手掛ける「クロスボーダーネクスト」の何暁霞社長によると、1つ目は広告収入だ。

李佳琦氏が代表を務める事務所には数百人のスタッフがおり、世界中の企業から仕事の依頼が来る。彼に商品のPRを依頼したい場合、まず企業は自社の商品を李氏が代表を務める事務所に送付し、条件面の交渉をする。そこで最終的に選ばれた商品を李氏がライブコマースで宣伝する。通常、ライブコマースは10~15分程度だ。1日5~6時間ライブコマースをする場合、30~40個の商品を紹介するが、「独身の日(ダブルイレブン)」のように注目されるイベントの場合、広告費は通常よりも高く設定される。

■資生堂、カルビーなど日本企業もオファー

2つ目は販売して売り上げた金額のレベニューシェアだ。通常は総売り上げ額の20%以上を報酬として受け取る場合が多いという。李氏の年収は明確には分からないが、何氏によると「2億元(30億円)以上はあるのではないか」と推測する。今春、李氏は上海市内に広さ1000平方メートルの豪邸を1億3000万元(約20億円)で購入して大きな話題となった。

中国の有名インフルエンサー李佳琦氏
中国の有名インフルエンサー李佳琦氏(李氏のウィーチャット公式アカウントより)

彼はもともとロレアルの美容部員だったが、その整ったルックスと女性目線の話術でたちまち人気となり、「买它」(マイター、Buy itの意味)という中国語のフレーズは彼の代名詞になった。彼が取り上げるのは化粧品、日用品、食品などさまざまで、日本企業では資生堂、コーセー、カルビー、龍角散、近江兄弟社などがある。

李氏や薇娅氏などのトップインフルエンサーは別格中の別格といえるが、今年の「独身の日」のセールでも、彼らをはじめ中国中の有名無名のインフルエンサーがライブコマースを行った。今年とくに目立ったのは、企業(メーカー)の担当者や経営者など、“一般人”がライブコマースを行ったことだった。今年の618(6月18日に行われる、独身の日に続く2番目に大きなセール)には、中国の有名なエアコンメーカー、格力の董明珠会長が自ら出演して話題を集め、売上高も大幅に伸ばしたことから、以後、同じような宣伝効果をもくろむ企業が、経営トップや社員を全面に出して次々とライブコマースへと参入した。

■「独身の日」で売れた日本製品は?

その流れは日本にも押し寄せており、資生堂は「独身の日」に合わせ、東京本社と中国杭州のスタジオを生中継して、ブランド責任者や現地法人の担当者らがライブコマースを行った。必ずしも有名インフルエンサーではなく、企業側の担当者から直接、プロ目線での説明を聞きたいという視聴者の声に応えた格好で大好評だった。

資生堂の積極的な動きでも分かる通り、「独身の日」は新型コロナで売り上げ低迷に喘(あえ)ぐ日本企業にとっても大きな商機で、たくさんの日本企業がこの日のセールに参戦している。日本の商品は越境ECという形で今回も販売されたが、海外からの輸入製品の中で最も人気なのが日本の商品だった。日本は2016年からずっとトップの座をキープしており、今年5年連続で第1位をキープした(続いて、アメリカ、韓国の順)。

日本製品で売れたのはヤーマン、花王、資生堂などの商品だ。商品別でみると、ヤーマンの美顔器をはじめ、化粧品、日用品などが目立つ。日本の美容関連商品が売れる背景にあるのは、中国のネット通販利用者の半数以上を占める20~30代の若者の美容や化粧への高い意識だ。

■美容に目覚めた若者たちの間で人気

かつて、多くの中国人女性にはお化粧をするという習慣がなかったが、2015年ごろから急激に美容に対する意識が高まった。SNSが普及して、自撮りをする女性が増え、自意識が高まったことや、海外ファッションやトレンドへの関心、経済的な余裕が背景にある。中国では若い女性だけでなく、若い男性も美容への関心が高く、上海に住む私の知人の男性(29歳)も、アンチエイジング化粧品を定期的にネット通販で購入し、使っていると話していた。中国や欧米の化粧品ブランドも人気があるが、日本製品には信頼感と安心感があり、人気がある。

新型コロナが発生する以前は「美容整形のために日本に行っていた」という若い女性もかなり多かったが、今年はそれもできなくなってしまった。いつになったら自由に海外渡航できるかまだ誰にもわからないが、今年1~6月に中国のオンライン旅行大手のシートリップが行った調査によると、日本は「コロナ後に行きたい国」の第1位になったそうだ。そうしたこともあって、「独身の日」セールでも日本製品を欲しいと思う人が多かったようだ。

現在、大流行中のライブコマースという新しい手法は日本企業にとっても数少ない売り上げ増加の希望の星だ。つくづくそう考えさせられた今年の「独身の日」だった。

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中島 恵(なかじま・けい)
フリージャーナリスト
山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。

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(フリージャーナリスト 中島 恵)

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