弁護士が「いじめの証拠を動画で撮影しても法律違反にならない」と言う理由

プレジデントオンライン / 2020年11月19日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Borislav

いじめや暴力などの被害を受けたとき、隠し撮りや録音をしてもいいのか。弁護士の上谷さくら氏は「正当な目的のためであれば、隠し撮りでも違法行為にならない。そして、学校がいじめを放置する場合は弁護士を頼るといい」とアドバイスする――。

※本稿は、上谷さくら、岸本学『おとめ六法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■いじめはれっきとした犯罪行為

いじめをしてはいけないことは、はっきりと法律で明記されています。またいじめとはなにかについても、法律で定義されています。

「いじめ」の中には、犯罪行為にあてはまる行為も含まれます。

たとえば、次のようなものです。

・他人の物を壊す……器物損壊罪(刑法第261条)
・他人の物を盗む……窃盗罪(刑法第235条)
・他人を脅してお金を払わせる……恐喝罪(刑法第249条)
・他人を殴る、蹴る……傷害罪(けがをした場合、刑法第204条)、暴行罪(けがのない場合、刑法第208条)
・他人に水をかける……暴行罪(刑法第208条)
・他人の悪口を言いふらす……名誉毀損罪(刑法第230条)
・他人にしたくないことをさせる……強要罪(刑法第223条)

いじめに含まれる行為の多くが、刑法で禁止される犯罪行為にあたることがわかるはずです。

いじめの被害を受けたら、警察へ被害届を提出することも視野に入れましょう。

■学校で服を脱ぐように強要され…

上記以外のいじめ、たとえば、「集団で無視をする」「口をきかないように仕向ける」といった行為は、犯罪とまではいえません。

しかし、慰謝料の請求が可能な不法行為(民法第709条)には該当します。それらの行為が原因で学校に行けなくなったり、転校を余儀なくされたり、心身の不調が出た場合などには、民事裁判などの法的措置を取ることも考えられます。

【事例】
学校の教室で数名に囲まれて脅され、服を脱ぐように強要された。何人かがその様子を携帯で動画撮影していた。
【ANSWER】
18歳未満の者の性器やおしり、胸などが写っている画像や動画は「児童ポルノ」に該当します。児童ポルノを所持したり提供したりすると「児童ポルノ禁止法違反」という犯罪に問われる場合があります。所持や提供をするのが18歳未満の者であっても同じです。このケースでは、動画撮影という行為が、児童ポルノ禁止法違反に該当する可能性があります。また、刑法の強制わいせつ罪、強要罪にあたる可能性もあります

■学校が被害を取り合ってくれなかったら

学校教育の現場では、校長をはじめとする教師には、生徒の生命・身体の安全を守る義務(安全配慮義務)が課せられているといえます。

学校の教室
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

いじめに関しても、生徒からその訴えを聞いたのになにもしなかったり、不注意な言動で生徒に余計に大きな被害を与えた場合には、安全配慮義務違反による責任が問われる場合があります。

たとえば、次のようなケースです。

・いじめ被害の訴えを受けたのに「握り潰し」て報告等をしなかった
・いじめ被害の訴えを受けたのに、加害者から聞き取りをしただけで被害者を「嘘つき」呼ばわりして、被害者から加害者へ謝罪させた
・いじめ被害の訴えを受けたのに、被害者からの訴えを聞いただけで、被害者に「あなたにも落ち度がある」などと言って無理に納得させて、いじめ被害の訴えを取り下げさせた

教師等の責任を後で追及するためには、証拠が必要です。

いつ、どこで、誰に対し、誰が、どのような内容をどのように伝えたかについて、記録を残しておくことが重要です。

会話はできるだけ録音しておくのがベストです。

■教師や教育委員会を頼れないときは

いじめをやめてもらうためには、まずは親、担任やそのほかの教師、または教育委員会に相談するといった方法が考えられます。

問題は、相談した相手がなにもしてくれなかったり、誤った対応をして、ますますいじめがひどくなることです。

中途半端な対応をされることで、被害を相談したことがいじめの加害者に知られ、いじめ防止につながるような対応をしてもらえないばかりか、いじめの加害者からさらに仕返しされてしまうのでは、という不安もあるでしょう。

実は、それを防ぐ手立てはあまり多くないのが現状です。

しかし、親や教師、教育委員会以外にも相談する相手はいます。

弁護士です。

教師や教育委員会よりも先に弁護士に相談をして、その弁護士から教師や教育委員会に相談するという方法があります。第三者であり法律の専門家である弁護士が介入することで、学校や教育委員会による慎重でしっかりとした対応が期待できます。

また、警察やいじめ問題に取り組む民間団体などに相談することも考えられます。

■勝手にやりとりを録音してもいいのか

いじめのみならず、パワハラやセクハラなど、さまざまな被害にあっていることを最も直接的に、わかりやすく証明することができるのが発言の録音です。

音声記録
写真=iStock.com/deepblue4you
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/deepblue4you

録音することがプライバシー侵害にならないかが問題となりますが、正当な目的のためであり相当な範囲であれば、不法行為とはなりません。証拠としても有用性が認められます。

その内容を外部へ知らせることもプライバシー侵害の問題となりますが、これもパワハラやセクハラ、いじめを防止するために公的な相談部署へ知らせるなど、正当な目的があり、必要かつ相当な手段を取るならば、不法行為とはならないでしょう。

ただし、その録音を使って相手に仕返しなどをした場合は、違法となる可能性があります。

録音した会話を公開すると脅して謝罪や金品を要求したら、強要罪や脅迫罪、恐喝罪にあたりますし、会話を公開して発言者の社会的地位を低下させたら名誉毀損罪にあたる可能性があります。

【あなたを守る法律】
いじめ防止対策推進法 第4条 いじめの禁止
児童等は、いじめを行ってはならない。

■お酒を飲まされて性暴力を受けたら

お酒・薬・立場を利用してのわいせつ行為は、準強制わいせつおよび準強制性交等にあたります。

【事例1】
サークルの飲み会で一気飲みをさせられ、記憶を失った。気づいたら、飲み会で一緒だった先輩と裸でベッドにいた。先輩は私が積極的に誘ったので性交渉したというが信じられない。
【ANSWER】
「心神喪失」とは、失神状態、酩酊状態、睡眠中、高度の精神病を患っているなどの状態です。睡眠薬を飲ませるなど、他人を心神喪失や抗拒不能の状態にさせてからわいせつな行為をすると、準強制わいせつ罪にあたります。

このようなケースでは、加害者が「合意があった」と主張することが考えられます。そのため被害者側は、自分が泥酔状態であったことを立証する必要があります。

上谷 さくら(著)、岸本 学(著)、Caho(イラスト)『おとめ六法』(KADOKAWA)
上谷 さくら(著)、岸本 学(著)、Caho(イラスト)『おとめ六法』(KADOKAWA)

刑事事件として立件したい場合は、できるだけ早く警察へ相談に行きましょう。飲み会のメンバーやお店の人が、あなたが泥酔状態であったことを証言してくれれば、立件しやすくなります。

罪名に「準」がついているからといって、軽い犯罪ということではありません。

準強制わいせつ罪は、正常な判断ができない状態(心神喪失)や、心理的・物理的に抵抗できない状態(抗拒不能)を利用して、わいせつな行為をすることです。

準強制わいせつ罪は、強制わいせつ罪とは違って、暴行や脅迫がなくても成立します。

■立場を利用して抵抗できなくするケースも

【事例2】
運動部の顧問の先生から日々叱責され、理不尽な要求も拒めずにいた。
ある日、先生の車に乗せられて「俺の言うことを聞かなければ、試合に出させない」と言われ、先生からわいせつ行為を受けた。
【ANSWER】
抵抗することが心理的に非常に難しい状態にあることを「心理的抗拒不能」といいます。加害者と被害者が年齢的に大きく離れていたり、相手が非常に強い立場にあったり、抵抗することで被害者が大きな不利益を被る状況にあるなど、さまざまな観点から総合的に判断されます。

具体的には、芸能プロダクションの経営者が、「モデルになるために必要」と言って、女子学生を全裸で写真撮影をした事案や、英語講師が女子高生に対し、「英語が上達するリラックス法だ」と言って下着を脱がせて、わいせつ行為を行った事案などで、抗拒不能と認定されています。

【あなたを守る法律】
第178条 準強制わいせつおよび準強制性交等
1 人の心神喪失、もしくは抗拒不能に乗じ、または心神を喪失させ、もしくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条(強制わいせつ)の例による。
2 人の心神喪失、もしくは抗拒不能に乗じ、または心神を喪失させ、もしくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条(強制性交等罪)の例による。

----------

上谷 さくら(かみたに・さくら)
弁護士 第一東京弁護士会所属
福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。保護司。

----------

(弁護士 第一東京弁護士会所属 上谷 さくら)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング