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名探偵ホームズの人気は「ワトスン博士ありき」と言われるワケ

プレジデントオンライン / 2020年11月23日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tomazl

探偵小説「シャーロック・ホームズ」は、なぜ人気が衰えないのか。ホームズ研究家の北原尚彦氏は「ワトスン博士という“最強の相棒”がいるからではないか」と指摘する――。

※本稿は、北原尚彦『初歩からのシャーロック・ホームズ』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

■ホームズの「相棒」にして真の友

シャーロック・ホームズのシリーズにおいて、ホームズの次に重要な人物――いや、同等に重要な人物と言っていいだろう――、それはジョン・H・ワトスン博士だ。

ベイカー街221Bの部屋にホームズと共に住んでいて、ホームズの探偵業の相棒であり、記録係でもある。ホームズ正典は(ごく僅(わず)かな例外を除いて)ワトスン博士が書いた形になっている。

1878年にロンドン大学で医学博士号を取得後、ネトリー陸軍病院で軍医としての研修を受けた。その後、第五ノーサンバーランド・フュージリア連隊に配属され、インドへ向かう。到着時点で第二次アフガン戦争が勃発していたため、隊を追ってこの戦争に従軍。マイワンドの戦いで負傷して病院に収容された後、腸チフスにかかって衰弱し、英国に送り返された。

ロンドンで財政的に先行きが怪しくなった頃、旧知のスタンフォードとばったり出会い、下宿の家賃を分担できる同居人を探しているという人物の話を聞かされる。渡りに船とばかりに飛びついたところ、それがシャーロック・ホームズだったのである。

■ラグビー経験者で競馬好き

頑健な人物で、「サセックスの吸血鬼」の記述によれば、かつてラグビーをしていたこともある。競馬が好きで、傷痍(しょうい)年金のおよそ半分をつぎ込んでいたという(「ショスコム荘」)。「踊る人形」では、クラブでサーストンという人物とビリヤードをしていたことをホームズに言い当てられているが、この際もお金を賭けていたかもしれない。しかしそのサーストンに勧められたアフリカの株への投資(かなり賭博性が高い)は断っているので、賭けられれば何でもいいというわけではないようだ。

家族構成については、『四つの署名』における記述によってファーストネームのイニシャルが「H」の兄(シャーロッキアンの一説では「ヘンリー」)がいることだけは判明しているが、その兄も既に亡くなっており、ホームズと同居を始めた時点で天涯孤独だったようである。

■従軍時の負傷の場所にも諸説あり

結婚してベイカー街から離れていた時期もある。『四つの署名』事件で出会ったメアリ・モースタン嬢と婚約し、後の記述からすると彼女と結婚生活を送っている。パディントンに引っ越して、自宅兼医院を構えていた。その時期でも、ホームズに呼び出されれば一緒に調査をし、相棒を務めた。

しかし事件記録(正典)を時系列順に並べなおしてみると、『四つの署名』事件以前にも結婚していた時期があるようなのである。そのため、シャーロッキアンによってワトスン複数回結婚説が唱えられている。また、2回だけでなくそれ以上だとする説もある。

説といえば、従軍した際にワトスンがどこを負傷したかも、諸説ある。『緋色の研究』では“肩”を撃たれたと書かれているが、『四つの署名』では“脚”を撃たれた、と記されているのだ。シャーロッキアンの間では「肩説」「脚説」「両方説」「恥ずかしいところを撃たれたために誤魔化した説」などに分かれている。

■ミドルネームは「ヘイミシュ?」

また正典では、ミドルネームの「H」が何の略であるかは記されていない。しかしシャーロッキアンの間では「H」=「ヘイミシュ」である、つまりフルネームは「ジョン・ヘイミシュ・ワトスン」である、というのが定説となっている。

ホームズのシルエットが描かれた、ロンドン地下鉄ベイカーストリート駅のホーム
写真=iStock.com/mikkoseppinen
ホームズのシルエットが描かれた、ロンドン地下鉄ベイカーストリート駅のホーム - 写真=iStock.com/mikkoseppinen

ワトスンのファーストネームは「ジョン」なのに、妻が一度だけ「ジェイムズ」と呼んでいるシーンがある。これも正典の謎のひとつなのだが、スコットランド語で「ヘイミシュ」がジェイムズと同義であるため、ミドルネームの「H」が実は「ヘイミシュ」であり、それゆえ妻は家庭内で愛称として「ジェイムズ」と呼んでいた――と結論付けられたのだ。この説を唱えたのは、ミステリ作家でありシャーロッキアンでもある、ドロシイ・L・セイヤーズである。

ホームズの引退後は別々に暮らしていたが、週末にはたまにサセックスの隠居地へホームズを訪ねていた、と『ライオンのたてがみ』で語られている。しかし同事件はワトスンのいないときに発生したため、ホームズ自身が筆を執っている。そしてホームズが『最後の挨拶』の事件で久々に現役復帰した際には、ワトスンも協力要請を受け、久方ぶりの再会を果たした。

何年も死んだと思っていたホームズが突然生きて目の前に現れた際には失神したりしているため、「ワトスンは女だった」という説を唱えるシャーロッキアンもいる。

■対等のパートナーである理知的医師

ベイジル・ラスボーンがシャーロック・ホームズを演じた映画では、ナイジェル・ブルースが“間抜けな引き立て役”としてワトスンを演じたため、長らくワトスン自体にもそのイメージが持たれていた。

北原尚彦『初歩からのシャーロック・ホームズ』(中公新書ラクレ)
北原尚彦『初歩からのシャーロック・ホームズ』(中公新書ラクレ)

それを払拭し、正典本来の「対等のパートナーである、理知的な医師」としてのワトスンのイメージに戻したのは、グラナダ版ドラマ『シャーロック・ホームズの冒険』におけるワトスン俳優デヴィッド・バーク(及び後半のエドワード・ハードウィック)の功績が大きい。

ホームズ以前の創作上の探偵、ポーの生んだオーギュスト・デュパンにも相棒はいた。しかしホームズとワトスンのコンビの印象があまりにも強すぎるため、探偵の相棒のことは「ワトスン役」と呼ばれるようになっている。

やはり、シャーロック・ホームズが未だに人気があるのは、ワトスンというパートナーがいてこそなのである。

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北原 尚彦(きたはら・なおひこ)
作家、ホームズ研究家
1962年生まれ。青山学院大学理工学部物理学科卒。作家、翻訳家、ホームズ研究家。日本推理作家協会会員。日本古典SF研究会会長。1990年『ホームズ君は恋探偵』(北原なおみ名義)で小説家デビュー。小説『シャーロック・ホームズの蒐集』と研究書『シャーロック・ホームズ語辞典』で日本推理作家協会賞候補。ほか小説『ジョン、全裸連盟へ行く』『ホームズ連盟の事件簿』等、研究書『シャーロック・ホームズ秘宝の研究』等、訳書キム・ニューマン『モリアーティ秘録(上・下)』等。ドラマ『ミス・シャーロック』等の監修を務める。

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(作家、ホームズ研究家 北原 尚彦)

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