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「風俗嬢なのにレイプに遭った?」医師でもそう話す性風俗業界の現実

プレジデントオンライン / 2020年11月20日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MATJAZ SLANIC

現在、日本には約30万人の風俗嬢がいると言われている。社会からの偏見にさらされやすい彼女たちはどのような苦悩を抱えているのか。看護師の木村映里氏は「風俗嬢であるというだけで医療の平等から排除されている現実がある。彼女たちが人として当たり前に尊重される医療を受けられるようにすべきだ」という――。(第1回/全2回)

※本稿は、木村映里『医療の外れで 看護師のわたしが考えたマイノリティと差別のこと』(晶文社)の一部を再編集したものです。

■「お前の業界のクソ医者どうなってんだよ!」

「私ね、風俗の仕事大っ嫌いなの。でも誰かに囲われて、鳥籠に入れられて生きるくらいなら、誰に何言われたって今の方がマシ。だからこれからも風俗嬢だよ」

果歩(仮名)は新宿ゴールデン街の、200軒以上の飲み屋がひしめき合う中でも特に奥まった、お酒と煙草の匂いが染みついた小さな店で、そう話しました。新宿のデリバリーヘルスで働く果歩と知り合ったのは私が22歳の時で、当時果歩は20歳でした。

感情の起伏が激しく、よく笑いよく泣く果歩から、知り合って3年以上が経ったある日「お前の業界のクソ医者どうなってんだよ!」と会うなり大声で言われました。

驚いて話を聞くと、在籍している店で月一回の性感染症検査が推奨されているため、3カ月続けて家の近所の同じ産婦人科に行ったところ、「なんでそんなによく来るの?」と訊かれた、との話でした。

今後も通おうと思っていたことから、性風俗で働いていると正直に話したら、その医師に「そんな仕事してる人を診るためにやってるわけじゃないんだよね」と言われた、と。

■メディアから発信される性風俗産業への偏見

「そんな仕事って何なの。患者になら何言ってもいいわけ? お前の城にそんな仕事のあたしが踏み込んですいませんでしたね。もう二度と行かないって感じ。ってか、あんた達の業界ってなんかこう、すっごいむき出しだよね、あの時の梅毒のやつだってさ」。

果歩が「梅毒のやつ」と言っていたのは、日本における急激な梅毒患者数の増加(*1)への啓発として、2018年12月に講談社「コミックDAYS」編集部が自社のWebサイトで、産婦人科をテーマとした漫画『コウノドリ』の、風俗嬢から梅毒の感染を受けた男性が妊娠中の妻にも梅毒を感染させるというエピソードを期間限定で無料公開したこと(*2)、それを受けて医療従事者がSNSで「風俗に行ったら性感染症の検査を」「風俗嬢が全員性病検査をしていると思うな」という文面で啓発を行っていたことを指していました。

医療従事者の、性風俗で働く人達をまるで病原菌か何かのように扱う啓発の直後に激怒していたのはむしろ私で、そんな風に性風俗が話題になっていること自体、果歩は私から聞かなければ知らなかったはずでした。

果歩はその時には「お医者さんなんてあたし達のこと嫌いに決まってるじゃん」と笑いながら言っていたのですが、結局、彼女自身が生身で、医療従事者の偏見を引き受ける結果となってしまった。私は愕然としました。

■医療は誰ひとりとして排除してはいけない

果歩は話し始めてすぐに、「えりのせいじゃないのに言い方悪かったね、ごめん」と落ち着きを取り戻しましたが、後に続いた「えりはそんな業界でよくやってるよね。えりの話聞く度、昼職の人なんてそんなもんでしょって思ってたし、偏見込みで金稼いでるんだからって思ってたけど、不意打ちであんなこと言われたら、さすがに傷付くよ」という言葉に、尚更返答に詰まりました。

親の虐待から逃げて東京に来て、性風俗店の寮で18歳から生活していた果歩が今の生き方を「自分を苦しめてきた何かよりはマシ」と思えること自体は、人生の肯定といえるものなのだと思います。

それでも彼女が自身の生活を肯定する文脈に、「たとえ医療が受けられなくても」という不文律が入っていることを、私は自分が医療従事者だからこそ、受け入れたくなくて、どんな生き方を選ぶ中でも、「必要な医療が受けられなくても良い」と思われてしまうなんて、私が嫌だな、と感じました。

看護師である私にとって、医療は誰でも、どんな状況でも受けられるものでなくてはいけないのです。

■医療従事者に不足している「基礎知識」

性風俗産業で働く人達から、「性病検査に行ったら『そんな仕事するな』と説教された」という話を聞く経験は少なからずあります。

医者
写真=iStock.com/AaronAmat
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AaronAmat

性風俗で働くシングルマザーの友人が子どもを健診に連れていった際、医師に風俗嬢だと話したら子どもを虐待しているのではないかと疑われ、「もう病院には行かない。怖くて行けない」と泣いていたのを受けて、次の健診に看護師として付き添ったこともあります。

彼女達の話を聞く度に、なぜ風俗嬢というだけで医療の平等から排除されなければいけないのかと、腹立たしい気持ちは着実に積み上がっていきます。

しかしその一方で、「医療従事者自身が性風俗で働く人々と日常の中で出会う機会を持たないが故に、性風俗産業自体が、どこか別の世界の話であるように思えてしまうのではないか」とも想像します。

実感を持てない遠い世界の存在としか認識できないのであれば、実在の人間としての対応ができないのも理解できます。

医療を行うための基礎として、性風俗産業の基本的な知識を我々は無視できないはずだと、私は感じます。

■仕事中に性暴力を受けることも…

医療と関連の深い項目として、性風俗産業の中で発生する強制性交等罪があります。性器性交、性器挿入のことを性風俗業界では「本番」と呼びますが、そこには、「本番強要」という問題があります。

金銭の授受を伴う性器性交は(ソープランド以外では)法律で禁止されています。店の中に本番行為を行う女性店員がいると、客が他の女性を指名した際に「○○ちゃんは本番させてくれたのに」と強要し、トラブルを生む可能性があるため、店から在籍女性に対しても本番行為の禁止は厳しく言い渡されています。

しかし客の中には禁止されていることを知りながらしつこく本番をせがむ者や力ずくで挿入行為を行おうとする者もおり、2018年には群馬県で、ホテルに派遣された無店舗型性風俗店勤務の女性が、本番行為を断ったことで客の男性に切り付けられる事件が起きました。(*3)

本人の同意のない性器挿入行為は、店や業界のルールに違反しているだけでなく、強制性交等罪に該当します。外傷が生じた場合には、強制性交等致死傷罪としてさらに重い犯罪となります。

日本では、性暴力被害に対するワンストップセンターの拡大と共に、性暴力被害者の支援を専門とする看護師(性暴力被害者支援看護職・通称SANE)の養成が行われており、性暴力に対する関心は今後も高まっていくと思われますが、性風俗産業に従事する人が暴力被害に遭った際に適切に対応できる現場の人間がどれだけいるのか、私は懐疑的です。

「風俗嬢なのにレイプに遭った……?」と首をかしげる医療従事者の方が、圧倒的に多いのではないでしょうか。

■現在の性風俗店の約7割は「無店舗型」

以前、救急医の友人から、「風俗の女性が客に酒の瓶で殴られたって来たんだけど、どういうことなの? どうなってるの? なんでスタッフの男の人普通に付き添ってるの? 殴られる前にどうにかしないの?」と訊かれたことがあります。

法律上、パチンコや水商売、性風俗は全て「風俗営業法」の中にあります。一般に「風俗」と呼ばれる、女性店員が男性の客に性的なサービスをする仕事はその中で「性風俗関連特殊営業」に該当し、営業のためには届け出が必要です。

性風俗店には大きく分けて、店舗型と無店舗型があります(*4)。店舗型は多くの方が歓楽街などで見たことのある、ソープランドやファッションヘルスといった形態となります。一方無店舗型は、事務所(多くは雑居ビルなどの一室)でスタッフが客からの電話を受け、客が指定した自宅やホテルに女性店員を派遣するもので、主にデリバリーヘルスと呼ばれます。

1999年の風営法改正に伴い、店舗型性風俗店は建築基準や営業時間などの制限が厳しくなり減少しました。それに伴い、比較的規制が緩い無店舗型性風俗店は今も増加傾向にあります。現在の性風俗店の約7割はこの無店舗型性風俗店です。

2018年に群馬県のホテルで客の男に切り付けられたのは、デリバリーヘルス勤務の女性でした。前年、池袋のホテルでも、デリバリーヘルス勤務の女性が客の男に殴られ、現金を強奪される事件が起きています。(*5)

暴力
写真=iStock.com/Mixmike
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mixmike

■「すぐ逃げられない状況」が被害を増やしている

店舗型性風俗店では、呼べば届く距離に男性スタッフがいますが、無店舗型はそうではありません。客が先にホテルに入っている、もしくは客の自宅に行く業態では暴力や盗撮といった事態が後を絶たず、働いている女性が常に危険に晒されているのが現状です。

さらに昨今のラブホテルのドアは手動ロックではなく、部屋に入った途端に鍵が自動でロックされ、部屋の入り口に設置されている会計システムにお金を入れて会計を済まさなければ開錠されないシステムとなっています。

被害に遭いそうになってもすぐに逃げられない状況が作られていることも、被害を増やす要因のひとつになっていると考えられます。

救急医の友人にこの話をすると唖然としていました。「客がやばい人で、刃物とか持ってたら殺されるよね? スタッフさんに連絡するスマホ取り上げられたり壊されたりしたら終わりじゃない? そんなに怖い思いをした後での受診だったなんて……よく分からなくて縫合だけして帰しちゃった。知っていれば精神科コンサルとか、警察呼ぶとか、できたはずなのに」という言葉が出てきたことにはほっとしました。

しかし、「そんな場所で働いてるなんて可哀想だよね。好きでもない男とセックスしてさ。セックスは愛してる人として欲しい。いや好きでその仕事してるなら別にいいんだけど」という言葉が続いたことに、私は違和感を覚ました。

■「安全」がもっとも優先されるべき

性風俗産業は、「社会の貧困の被害者だから支援が必要」あるいは、「好きでその仕事をしているから自己責任」の両極端に切り分けられやすい職種です。

木村映里『医療の外れで 看護師のわたしが考えたマイノリティと差別のこと』(晶文社)
木村映里『医療の外れで 看護師のわたしが考えたマイノリティと差別のこと』(晶文社)

しかし、「被害者」と「自己責任」は何を境界にジャッジされるのでしょうか。毎日毎日辛く悲しく生活を切り詰めて性風俗の仕事をしている人だけに支援が必要で、その仕事で稼いだお金で好きなものを買ったり、仕事の中に楽しさを感じたりしたら、途端に自己責任になってしまうのでしょうか。

仕事の主体性なんて、ある時もあればない時もある、としか言いようがないのでは、と私は考えます。

では性風俗産業について、社会の文脈で持ち出す時には何を基準にすれば良いのか。私はそこに「安全」を最優先事項として挙げます。

どんな動機で、どんな状況で働いていても、当事者が性風俗の仕事を好きだと思っていても嫌いだと思っていても、まず日々の仕事が安全であること、誰かに脅迫されたり殴られたり切り付けられたりせず、性感染症をうつされることもなく安全に働けることは、誰がどんな目で性風俗を見ようとも、ないがしろにされてはならないことです。

上述した無店舗型性風俗店の問題は、社会が性風俗を「是か非か」のみで捉え、「性風俗店なんて見たくないから」と店舗型性風俗店を過度に規制した結果として、当事者が心身の危険に晒されている現状です。

性感染症リスクも含め、医療も無関心ではいられない問題の多さに、私は医療現場の人間として強い危機感を持っています。私が本書で、私自身が当事者として経験した水商売の領域ではなく性風俗産業に注力して論じるのも、性風俗産業が、医療により深く食い込む課題を持っているからです。

医療が性風俗産業に対してなすべき対応、と書くと、まるで性風俗産業を特殊な扱いとするように聞こえてしまいそうですが、実際のところ医療従事者にできることは、性風俗産業に従事している人達が医療機関を受診した時、彼女達は我々にとってあくまでひとりの患者だという事実を忘れないことでしょう。

女性医師
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

■性風俗産業にこそ手厚い医療が必要だ

例えば、「どうしたら性感染症リスクを減らせるか」の具体的な方法を共に検討することは、通常の診療内における、個々の患者の生活内で可能な一次予防策の提案と何ら変わりありませんし、継続受診に繋げること、明らかな暴力に晒されていないかどうかを観察し、適切な処置を行うことは、性風俗産業と関係なく、あらゆる患者に対して持つべき視点です。

性風俗で働いているからといって眉を顰(ひそ)める医療従事者ばかりではないことも重々理解しています。COVID-19騒動の時に、当事者団体が「少しでも安全に働けるように」と発信したプレイのノウハウを感染症専門医が監修していた時には、感動に近い気持ちを持ちました。(*6)

慎重な配慮をもって診療を進めている医療従事者だって確かに存在し、「言わないだけで、風俗で働いている患者はもっとたくさんいるのかもしれない」と話してくれた医療従事者の存在に救われ、こうして文章を書くことができています。

性風俗産業は仕事の特性上、医療との結びつきを切ることができません。だからこそ彼女達にとって、病院に行くこと、医療と関わりを持つことが不要な傷付きに繋がらず、人として当たり前に尊重される医療を受けられることを、そのための我々自身の配慮を、私は医療に対して求めています。

(注釈)
*1 厚生労働省「梅毒の発生動向の調査及び分析の強化について」
*2 コミックDAYS編集部ブログ「『コウノドリ』梅毒エピソードを緊急無料公開!」
*3 「呼んだデリヘル嬢切り付ける 46歳男を逮捕 被害者?ツイート『客に殺されかけたよ!!』」産経新聞、2018年6月14日
*4 SWASH編『セックスワーク・スタディーズ:当事者視点で考える性と労働』日本評論社、2018年
*5 「『プロ意識が低い』とデリヘル嬢に激高…初風俗で支払いの料金26万奪った都立高教諭の怒りの沸点」産経新聞、2017年6月24日
*6 SWASH「コロナ予防的なセックスワークの働きかた~アンチコロナプレイで少しでも安全に働こう!~」

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木村 映里(きむら・えり)
看護師
1992年生まれ。日本赤十字看護大学卒。2015年より看護師として急性期病棟に勤務し、2017年に医学書院「看護教育」にて1年間巻頭連載を行う。『医療の外れで 看護師のわたしが考えたマイノリティと差別のこと』(晶文社)が初の著書となる。

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(看護師 木村 映里)

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