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目の前で信号無視…「信号は守らなくていいの?」と娘に聞かれた弁護士の答え

プレジデントオンライン / 2020年11月26日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Asobinin

子どもに交通事故の危険や、性犯罪への防犯意識を根付かせるにはどう伝えるのがいいのか。小学生の娘をもつ弁護士の上谷さくら氏は「私は娘のために車の運転をやめた。やりすぎと思われるかもしれないが、子どもが事故や事件に巻き込まれないためには気をつけすぎるに越したことはない」という——。

■弁護士として子どもにどう伝えているか

私は犯罪被害者支援をライフワークとする弁護士です。性被害、殺人や交通死亡事故等の人が亡くなる事件の代理人を多く手掛けています。どの事件も、当事者や家族にはつらい出来事であり、人生そのものに多大な影響を及ぼします。

特に子どもは被害に遭いやすいのに、自分の身を守ることが難しく、親は心配が尽きません。「どうしたら子どもが被害に遭わずにすみますか?」と、多くの親御さんから質問されます。なかなか回答が難しく、これであれば万全、という方法はありませんが、私にも小学生の娘がいますので、不安な気持ちはよく分かります。

私は弁護士としての経験を踏まえ、できるだけ娘が被害に遭わないために、おそらく一般的な家庭とは違うことを伝えています。いくつかの点を、2回に分けてご紹介します。

■大好きだった運転をやめた理由

交通事故は、本当に恐ろしいです。私は弁護士になってから、車の運転をやめました。前職の新聞記者時代は、どこにでも車を運転して取材に出かけており、運転は大好きだったのですが、弁護士となり多くの交通事故案件を扱うようになってからは、当時事故を起こさなかったのは単なる幸運だとしか思えなくなったからです。

車の運転は、一瞬の油断が取り返しのつかない結果を生みます。悪質なスピード違反や飲酒運転など、故意による事件も後を絶ちません。大人でも車が突っ込んできたら避けようがない中で、どうしたら娘の命を守れるか考えた結果、ありのままの現実を伝えることにしました。

私は娘が保育園児の頃から、「青信号でも安全ではない」と教えました。「赤信号を無視して突っ込んでくる車がいる」「お酒を飲んで運転している人もいる」「スマホを見ながら運転している人もいる」と。特に子どもは小さいので、運転席から見えないこともあります。

「車が曲がる時、運転手さんが自分に気づいているのか、じっと目を見るんだよ。目が合ったら止まってくれるはずだから、そしたら横断歩道を渡っていいよ。目が合わなかったら、車が通りすぎるまで渡らずに待とうね」と繰り返し伝えました。

交差点では、曲がり切れずに歩道に突っ込んでくる車もいますから、「信号待ちする時は、交差点から離れたところに立つように」と伝えています。私と一緒にいる時は、必ず離れたところに一緒に立ちます。

■ルールを教えている目の前で信号無視する人が…

子どもの目の前で、赤信号を無視して横断歩道を突っ走っていく人を時々見かけます。「あの人はどうして信号無視するの?」という質問に、どう答えていいのか分からない、という親御さんの話をよく聞きます。

私は、「急いでいるのかもしれないけど、自分の都合だけ優先して、交通ルールを守らないダメな大人がいるってことだよね。あの人は、運転する時も赤信号無視するんじゃないかな。だから、気をつけないといけないんだよ。青信号を信じていれば、安全なわけではない」と娘に伝えています。

交通ルールに限らず、日ごろから娘に話しているのは、大人だからといって信用していいわけではないということです。法律ルールを守らない人間が、世の中にはたくさんいます。もちろん、守らない人が一方的に悪いのは間違いありません。でも、そういう人がいるという現実を知っていれば伝え、未然に防げることがあるかもしれません。

特に交通事故は、命にかかわる重大な事件で、取り返しがつきません。だから、被害に遭わないように自分でも気をつけないといけない場合もあるということを、繰り返し話し聞かせています。

また、プライベートで自分が担当する死亡事故の現場近くを通る時は、現場に行って娘と一緒に花を手向けたり手を合わせたりします。その時、娘に事故の状況を伝え、「ちゃんと青信号で横断歩道を渡っていたのに、すごいスピードで車が突っ込んできたから死んじゃったんだよ」と説明します。そうすると、事故が起こるはずのない場所でも死亡事故が起きるのだ、ということが実感できるからです。

横断歩道を渡る子供
写真=iStock.com/ti-ja
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ti-ja

■防犯意識を高めてもらうために伝えていること

また、娘の性被害を防ぐためにも心掛けていることがあります。子どもの性被害は発覚しにくいということは、受任した事件を通じて痛感しています。子どもを性の対象とする大人の多くは、子どもを手なずけて信頼させ、それにつけ込んで犯行に及びます。ですから、幼いうちは、大人と二人きりになる環境にしないことが大事で、私もそのことには気をつけてきました。

また、「水着で隠れるところは、他の人が勝手に触ったらダメなんだよ。大人でもしてはいけないんだよ」ということは娘に伝え、もしそういうことがあったら教えてね、ということも伝えてきました。それから、ホームセンター等の不特定多数が出入りするトイレはとても危険です。ある程度の年齢になるまで、絶対に1人で行かせないことが重要で、私も常に付き添うようにしてきました。

今後、成長するにつれさまざまな性被害に遭う恐れがありますが、中でも、多くの女性が経験する痴漢被害はとても心配です。現在、たとえ一駅であっても、子どもを1人で電車に乗せることはしていません。中学校もできるだけ徒歩圏内のところに行かせるつもりです。もし、それなりに長い時間、電車通学しなければならない学校に進学することになったら、徒歩で通える場所に引っ越しするかもしれません。

それが叶わずに電車通学になったら、同じ時間の電車に乗らないこと、乗る車両を毎日変えること、などを教えるつもりです。大阪の高校生が考案した「痴漢抑止バッジ」をつけるなど、娘と一緒に対策を練りたいと思います。過保護ではないか、そこまで制限したら子どもの探求心が奪われ、社会性が養われないのではないか、という意見があるかもしれません。

■できれば1人で電車に乗せたくない

しかし、多くの事件を通じ、性犯罪加害者の実態を知るにつれ、一度子どもが目をつけられたら、子どもが自力で身を守ることは相当に難しく、常にそのような危険に晒されていることを痛感しています。探求心や社会性も大事ですが、身の安全に勝るものはないと思います。

制服の学校の場合、朝、駅のホームに立っているだけで、そこが自宅の最寄り駅であることと、通っている学校の名前が分かります。そうすると、学校のホームページなどで行事が分かることもあるので、行動パターンが分かります。それを見て、お気に入りの子どもの後をつけるのは簡単なことです。

性犯罪に関わる仕事をしている知人は、「娘は一生電車に乗せない」と冗談交じりに言っていましたが、私もできれば娘を1人で電車に乗せたくありません。痴漢の数自体も多く、1人が繰り返し行うので、被害が減ることはありません。痴漢というと軽く見られる傾向にありますが、ストーカーやレイプなどにエスカレートしやすく、被害者の心身を傷つけるものだからです。

お酒を飲む年齢になったら、レイプドラッグなどの知識も必要でしょう。友達とカラオケに行くと、そこに乱入してくるグループがいるかもしれない、その時どうすべきか? など、成長に合わせて日常的にシュミレーションするようにするつもりです。

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上谷 さくら(かみたに・さくら)
弁護士 第一東京弁護士会所属
福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。保護司。

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(弁護士 第一東京弁護士会所属 上谷 さくら)

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