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一見成功している「GoToトラベル」が旅行業界にもたらす2つの副作用

プレジデントオンライン / 2020年11月21日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pigphoto

10月末時点で、のべ3000万人以上が宿泊した「GoToトラベル」は、旅行業界の支援としてはまずまずの成果が出ている。しかし、問題点もある。観光戦略アドバイザーの村山慶輔氏は「GoTo事業には2つの副作用がある。これを乗り越えなければ、観光再生にはつながらない」という──。(第1回/全3回)

※本稿は、『観光再生 サステナブルな地域をつくる28のキーワード』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■前年比を超えるところも出てきたが……

11月13日、観光庁は「Go Toトラベル」事業の利用実績(7月から11月にかけて)の利用実績を発表した。利用人泊数は少なくとも3,976万人泊、割引支援額は2,087億円ということで、まずまずの成果が出ているといえる。

10月に入って、東京都民が「Go Toトラベル」の対象に入った影響も大きい。私自身、この数週間で松山、京都、沖縄、高山を訪れたが、客足が戻りつつあることを実感したし、実際に宿泊施設やエリアによっては「前年比を超えている」という声も聞いた。

ただ、アフターGo Toを見据えるならば、留意しなければいけない点もある。「一極集中の是正」「加速するオンライン化への対応」「顧客とのつながりの強化」の3つである。

■一見成功している「Go Toトラベル」の“副作用”

「Go Toトラベル」においてまずまずの成果が出ていると書いたが、問題点も指摘されている。それは受益者が偏っている点である。具体的には、エリアと宿泊施設における偏りがある。私も訪れた人気の観光地や都市圏近郊エリアでは利用が伸びている一方で、それ以外の地方エリアでは恩恵が小さいという地域性の偏り。

東京・浅草
写真=iStock.com/bradleyhebdon
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bradleyhebdon

さらに、温泉付きの個室を有するような高価格帯の旅館やリゾートホテルでは恩恵が得られているものの、単価の高くない宿泊特化型のホテルやゲストハウスなどでは苦戦が続いているという宿泊施設の形態による偏りがみられる。

先に書いた利用実績では、「Go Toトラベル事業における利用価格帯分布」も発表されており、5000円以上10000円未満の利用が37.4%と最大となっているとされているが、金額別施設の分布や割合、稼働率を考慮すると「比較的低価格の施設への効果が高い」と考えるのは早計であろう。実際、大手旅行会社からは「高価格の宿泊施設ほど先に売れていく」という声が根強い。

アフターGo Toを見据えるならば、こうした偏りは解消しなくてはならない。なぜなら観光業の成長、ひいては日本が世界の名だたる「観光立国」と肩を並べるためには、ここ数年、同業界の問題として指摘されていた「オーバーツーリズム」を解消する必要があるからだ。

そこには2つの理由がある。1つは観光客が集中することによって、地域社会との共存共栄が困難になり、住民の暮らしが脅かされるからだ。

観光庁がその発足当時から掲げてきた「住んでよし、訪れてよし」というビジョンにもある通り、観光振興の目的はあくまで地域住民の暮らしを豊かにすることにある。観光はその手段にすぎない。

■観光地にとって深刻な「一極集中」

もう1つは人口減少時代に突入したことで衰退・消滅の危機にある地域独自の文化や生活を維持していくためだ。これは、政府が掲げる訪日外国人数を2030年までに6000万人、あるいは彼らによる旅行消費額を15兆円に上げるという目標を達成するために欠かせない。

しかし、残念ながら現状の「Go Toトラベル」は、どちらかといえば観光客の一極集中を加速させてしまっている嫌いがある。高価格帯のものほど恩恵が得られる傾向があるなか、地域コミュニティとのつながりを重視した取り組みに恩恵が行き渡っているとは言い難い。アフターGo Toを見据えた場合、地域全体の魅力向上に資する宿泊施設をもっとバックアップすべきであるということだ。

■地域社会を支える「分散型ホテル」

インバウンド市場の成長に伴い、全国各地に増えてきたのが、宿泊に特化したゲストハウスや分散型ホテルである。もちろんすべてがあてはまるわけではないが、その多くが地域コミュニティとの横のつながりを重視し、いかに地域全体でゲストを迎え入れるかに注力してきた存在である。

日本の伝統的旅館に到着する若い旅行者のグループ
写真=iStock.com/JohnnyGreig
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JohnnyGreig

客室はリノベーションした地域の空き家(ビル)や古民家を活用し、入浴は地域の銭湯を推薦し、ディナーは地域のローカルな居酒屋へ連れて行き、朝食は地域の小さなお店が作ったものを提供する、地域住民とゲストが行き交う場やきっかけをつくって交流を促すといったことなどがその特徴だ。

代表例をあげると、インバウンドの先駆者ともいわれている東京・谷中にある「澤の屋旅館」を筆頭に、古き良き商店街の空き店舗を利活用した名古屋・円頓寺にある「なごのや」、2018年から星野リゾートが始めている都市観光ブランド「OMO」、兵庫・丹波篠山発祥で全国に広がりつつある空き家(古民家)を活用した「NIPPONIA HOTEL」。

この7月に岐阜・飛騨古川エリアでオープンしたローカルさにこだわり抜いた「SATOYAMA STAY」、あるいは先にも挙げたドミトリーを活用した幾多の地域に根ざしたゲストハウス(簡易宿所)である。

■観光客と地域の結びつきが新たな価値を生み出す

コロナ禍において大きなダメージを受けているこうした事業者を支えることは、地域社会を支えることと同義であるゆえ、恩恵が行き渡るようにしなくてはならない(もちろん高級旅館やリゾートホテル、さらにはラグジュアリーホテルなども、日本の観光にはなくてはならない存在であることは追記しておく)。

なぜなら、こうした分散型ホテルには「地域への経済的な波及効果が大きい」ことに加えて、「観光客と地域の結びつきによって、新たな価値の創造につながる」からだ。地元の人だけでは気づけない地域ならではの魅力が発見されたり、外部の人間と地域住民とのコラボレーションによって(観光分野だけに限らない)新たなコンテンツやサービスが生まれるといったことが期待される。

結果的に、それは近い将来に再開する国際観光において、世界の観光客が日本を訪れる大きな動機になっていくということだ。

■人気を集める「バーチャルツアー」

旅行会社も「Go Toトラベル」事業の恩恵を大いに受けている。ある旅行会社では、「10月に入ってから、前年比で3倍近くの数字になっている」や「予約数が前年比超えしているだけでなく単価も高い」といった声があがっている。

そうした旅行会社の声を拾っていくと、ある1つの共通点が見えてくる。それは、「オンラインへの移行」である。したがって、私はアフターGo Toを見据えると、オンライン化への対応が成否をわけるとみている。

旅行会社においては、大手ほど恩恵を受けているという声が根強い。的を射た意見であるが、一方で地方の中小の事業者でもうまく波に乗れているところもある。オンラインを強みに変えている事業者だ。

たとえば、京都のミニツアーを提供する「まいまい京都」。同サイトは4月、5月には存続の危機に陥ったが、その後、クラウドファンディングも活用しながら、オンライン化の流れに合わせて、魅力あるコンテンツを揃えたことで、見事な復活を果たしている。

具体的には、リアルでは不可能な付加価値をつけた企画が人気を呼んでいる。たとえばリアルのツアーで回れる場所は、2時間でせいぜい数カ所だが、バーチャルなら10カ所以上回ることも不可能ではないし、通常は保存を目的として立ち入りが禁じられているところでも、バーチャルであれば大人数で入ることが可能だ。

同サイトのツアーでは、普段は非公開となっている二条城の東大手門の内部に入れる企画があるが、初回は500名定員で完売、第2回はテレビでもおなじみの歴史学者磯田道史氏が案内役を務め、900を販売した。今後、このようなオンラインならではの付加価値がポイントになってくる。

■“ブーム”で終わらせないためには

ただ、「Go Toトラベル」事業は良くも悪くも、カンフル剤であると私は考えている。すなわち一時的な特需であるということだ。

Go To依存から脱却するためには、「Go To」という接点でつながった顧客と1回の関係性で終わりにさせるのではなく、深い関係構築を目指していく必要がある。

値段(安さやお買い得感)ばかりを重視する客かどうかを見極めたうえで、サービスやコンテンツといったお金以外の部分で自分たちを選んでくれる顧客としっかりつながり、ロイヤルカスタマーを育成していくのだ。

具体的には、旅行会社やOTA(オンライントラベルエージェント)に頼り切るのではなく、自社で顧客管理の仕組みを構築し、顧客と直接的につながっていくこと。

そのひとつの方法が、拙著『観光再生~サステナブルな地域をつくる28のキーワード』でも詳述した「観光CRM」である。CRM(Customer Relationship Management=顧客関係管理)は顧客属性や接触・購買履歴といったデータを蓄積・管理し、それぞれの顧客に応じたきめ細かい対応を行うことで長期的な関係性を築き、顧客満足度の向上や取引関係の継続につなげる取り組みである。

顧客満足度と顧客ロイヤルティの向上に資するといわれるこのCRMは、顧客を主役にしたマーケティングの1つとして広く一般に知られているが、良くも悪くも観光業においてはその対応が遅れていた面があった。日本の観光産業は、マスツーリズムや発地(送客)型観光が主役だったからだ。

しかし、昨今、着地型観光の重要性が謳われ、また、CRMを効率的に行うためのツールが各所で開発されてきたこともあり、観光に関係する地域の観光団体や事業者でも活用する観光CRMに取り組む例が出てきている。

■コロナ禍で見えた「待ったなし」の状況

とはいえ、CRMツールの導入には技術的にも経済的にもハードルがある場合も少なくない。事業者が単体で活用するには、人的リソースの問題もある。そこで次善策として、SNSを活用するという手もある。

『観光再生 サステナブルな地域をつくる28のキーワード』(プレジデント社)
『観光再生 サステナブルな地域をつくる28のキーワード』(プレジデント社)

実際、由布院から車で20分に位置する大分・湯平温泉の旅館「山城屋」はSNSの活用によって、2016年の熊本地震で8割を占めていた外国人客の激減からのV字回復を成功させている。

同館の代表・二宮謙児氏は、既存客が多くを占めていたフェイスブック上でつながる外国人客に対して積極的に情報発信を行ったという。その結果、半年と待たずに、客が戻ってきたのである。これも広義のCRMの取り組みだといっていいだろう。

本稿ではアフターGo Toを見据えた施策について考えてきたが、いずれもGo Toや今般のコロナ禍を抜きにしても普遍的な視点ばかりである。これまでも重要だといわれてきたことが、コロナによって加速したといったほうが自然である。

いままで先送りにできたこと、先延ばしにしてきたことが待ったなしの状況になったということではないかと感じているのは私だけではないはずだ。

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村山 慶輔(むらやま・けいすけ)
やまとごころ代表取締役
兵庫県神戸市出身。米国ウィスコンシン大学マディソン校卒。2000年にアクセンチュア入社。2006年に同社を退社。2007年より国内最大級の観光総合情報サイト「やまとごころ.jp」を運営。「インバウンドツーリズムを通じて日本を元気にする」をミッションに、内閣府観光戦略実行推進有識者会議メンバー、観光庁最先端観光コンテンツインキュベーター事業委員をはじめ、国や地域の観光政策に携わる。 11月16日に『観光再生 サステナブルな地域をつくる28のキーワード』(プレジデント社)を出版した。

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(やまとごころ代表取締役 村山 慶輔)

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