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杉山愛が「引退後10年間はプライベートを重視する」と決断した理由

プレジデントオンライン / 2020年11月27日 15時15分

元プロテニスプレイヤーの杉山愛氏 - 撮影=原貴彦

日本人プロテニスプレーヤーとして世界の舞台で数々の記録を達成した杉山愛さんは、現在もテレビのコメンテーターをはじめ、多彩な分野で活躍中だ。引退後も変わらないポジティブさの源について、イーオンの三宅義和社長が聞いた——。(第1回/全3回)

■少しずつでもいいので自分を成長させていく

【三宅義和(イーオン社長)】テレビや雑誌などで拝見する杉山さんといえば、「とにかくポジティブで、いつも笑顔」という印象が非常に強いです。明るさを維持する秘訣と言いますか、なにか心がけていらっしゃることはあるんですか?

【杉山愛(元プロテニス選手)】私自身が常にポジティブでいられているわけではないんですけれども、現役時代から大事にしているひとつの柱が「自分のプレーを通じて観客のみなさんに元気や勇気を与えたい」「プラスのエネルギーを感じてもらいたい」ということです。それは引退後も一貫していて、メディアを通して私がなんらかの情報を発信するときは、少しでも明るい気持ちになってもらいたいということを意識しています。

【三宅】そういう思いがあるのですね。

【杉山】あと、もうひとつ大事にしている柱があります。これは私が25歳のときに経験したスランプ以降に自分に与えた課題でもあるんですけれど、「どんな困難であってもしっかりと向き合い、少しずつでもいいので自分を成長させていくこと」。これも常に意識しています。

【三宅】そうでしたか。

【杉山】逆に心を強くするためですね。もちろん、いまでも心が折れそうになったりすることはあります。でも、そんなときに「これはきっと自分が成長できる機会なんだ」と解釈するようにすると、「ちょっと頑張ってみようかな」とモチベーションが湧いてくるんです。

■個々の人生哲学が問われる時代に

【三宅】心が折れるといえば、新型コロナの影響が各方面に出ています。

【杉山】そうですね。私も神奈川県茅ヶ崎にある自分自身のテニスクラブの運営にもっと力を入れようと思って動いていた矢先のコロナ禍で、ストレスを抱え込むような感じですけれど、落ち込んでいるだけでは事態はよくならないので、いろいろ前向きに試行錯誤している最中です。

【三宅】こんな状況下で心折れずにどう生きていくかというのは、人類共通の課題なのかもしれませんね。

【杉山】本当にそう思います。個々の人生に対する哲学がより問われるということは、今回感じましたね。

■メンタル維持法「最初から万人受けを狙わない」

イーオン社長の三宅義和氏
撮影=原貴彦
イーオン社長の三宅義和氏 - 撮影=原貴彦

【三宅】プロスポーツの世界は、ストレスや重圧も尋常ではないと思うのですが、どうやってメンタルを維持されるんですか?

【杉山】最初から万人受けを狙わないことかもしれません。「本当にわかってくれる人にわかってもらえばいい」というのが根底にあるんですね。たとえば、私も最初のころは完全にアウェーの環境で試合をすることが多かったんですけれど、テニスのファンって目が肥えているので、自分が良いプレーをすると段々応援してくれるようになるんですね。それに気づいてからは環境に左右されづらくなりました。

【三宅】杉山さんとしては、自分のプレーに集中していればいいわけですね。

【杉山】そうです。コメンテーターのお仕事をするときも、別に極端なことを言うわけではないですけれど、やはり根底には「わかる人にわかればいい」というのがあるので、あまり重圧のようなものは感じません。

■対戦相手ではなく自分の力を出すことにフォーカス

【杉山】あと、本当に調子が良いときは、周りの声が聞こえなくなるものです。試合に入り込んでいて、自分のプレーに集中できる。その状態になったほうがいいパフォーマンスができることが経験上わかっていたので、できるだけ自分のプレーに徹するように意識していましたね。

【三宅】対戦相手のことはどれくらい意識するものですか?

【杉山】これもやはり同じで、「自分のやるべきことをしっかりやる」という方向に照準を置くようにしていました。25歳でスランプを経験するまでは、対戦相手のことや勝ち負けの結果がすごく気になって、常に自分の感情が揺さぶられながら生きていたなと思うんです。ただ、テニスは対戦相手がいるので、自分がいくらベストパフォーマンスをしても、実力が上の人がそれ以上のパフォーマンスをしたら、負けてしまいます。勝ち負けも大事ですが、それよりも自分のベストを出すことが重要だと思うようになれたんですね。

むしろ普段から自分の物差しをきっちり持って、自分が今出せることをオールアウトすることにフォーカスしていけば、試合に負けたとしても自分に足りないものが明確に見えてきます。「今日の相手はここが上手かった。ここが自分は足りなかった」。そういったことを冷静に把握して、その課題を1つずつクリアしていけば、必ずより良い選手、より良い人間になれるんだというシンプルなことに気づいたんです。

【三宅】外を見るのではなく、内を見ると。

【杉山】そうですね。相手の実力やコンディションは自分ではコントロールできません。でも、自分の能力を100%引き出せるかはコントロールできます。「自分でコントロールできることは徹底しよう」という考え方に変わってから、精神的にもだいぶ楽になりましたし、自分の力を出し切りやすくなりましたね。

■胸にぽっかり穴が空いた時期に、やりたいことを言語化

【三宅】「人生を前向きに生きるにはどうしたらいいか」という問いに対するひとつのヒントとして、杉山さんが書かれた『杉山愛の“ウィッシュリスト100” 願いを叶える、笑顔になる方法』(講談社)という本は素晴らしいと感じました。ウィッシュ、つまり「やりたいこと」をどんどん言語化して、実際にやっていこうと。どういう意図ではじめられたのでしょうか?

【杉山】引退が早いスポーツ選手によくあることだと思うんですけれど、私も現役を引退したあとに「この先の人生をどう生きるか」についていろいろ模索していた時期があって、そのときにたどり着いたんです。

私は4歳でテニスに出会って、どんどんのめり込んで10代でプロになったわけですが、感覚的にはまるで夢の中で生きている感じなんですね。「これ以上の天職は絶対にない」と。しかも34歳で引退をする時点で「できる限りのことはやり切った」という感覚も強かったんですね。

【三宅】なるほど。

【杉山】本来なら引退後に半年ぐらいゆっくり時間をとって、自分と向き合いながら次の人生について考えようと思っていたんですけれども、引退した翌日からいろんなお仕事のオファーが舞い込んできました。よくありますよね。スポーツ選手が辞めるといろんなメディアに呼ばれたり、トークショーがあったりとか。

もちろん、それはありがたい話ではありました。ただ、そういった生活をしていると、身体は忙しいけれどもマインドがどこに向かっているのかわからないバランスの悪い状態が続くんですね。しかも、そんな状態にいるのに「次なる目標はなんですか?」と決まって聞かれる。私はそれがすごくストレスで、一応、笑顔で答えるんですけど、内心「そんなことわかんないよ!」と思っていたんです。

【三宅】定年退職した翌日に「で、次は何を目指すのお父さん?」と聞かれているようなものですからね(笑)。

【杉山】まさに(笑)。自分が全力を注いできた人生の第一幕がようやく終わった直後にそんなにすぐに大きな目標が見つかるわけもなく、胸にぽっかり穴が空く時期がありました。そんなときですね。「自分は何をしたいのか」を書き出してみようと思ったのは。

■引退後、自分に与えた10年の猶予期間

【杉山】「どうせだったらたくさん書こう」と思って100個を目標に書きはじめたんですけど、いざやってみると20、30個で手が止まったんですね。「え? これしかないの」という感じではあったんですけれど、そこからさらにアイデアを絞り出して書き足していったら、100個ぐらいになりました。

【三宅】考えるだけではなく、書き出すのがいいですよね。

【杉山】そうなんです。書き出すと優先順位が見えてくるんですね。私の場合、1位が結婚で、2位が出産でした。結婚は何歳でもできるかもしれないけど、出産はタイムリミットがあるなと思い出したら、「この先10年はプライベートを優先しよう」という方向が見えてきたんです。仕事ももちろん大事ですけれど、今までテニスの世界で全力で頑張ってきたので、とにかく次の10年はプライベートを中心に生活して、その間に本当にやりたい仕事、「これが天職だ」と思える仕事を見つければいいじゃないかという発想になりました。自分に猶予期間を与えることですごく気が楽になりましたね。

【三宅】人生は長いですし、仕事だけが人生ではないですからね。

【杉山】そのことに気づけたことが良かったですね。とくに女性は出産・育児とキャリアのバランスをどうとるかという難しい選択があるわけですけど、ウィッシュリストのようなかたちで自分が望む人生を一度言語化して整理してみるというのは、おすすめしたいですね。

■To Doではなく「やりたい」ことを考える

【三宅】私も本を読んで少し書き出してみたんですけど、書き出す作業自体が楽しいですね。

三宅 義和『対談(4)! プロフェッショナルの英語術』(プレジデント社)
三宅 義和『対談(4)! プロフェッショナルの英語術』(プレジデント社)

【杉山】楽しいですよね。なぜ楽しいかというと、To Doリストではないからだと思います。「やらなくてはいけない」ではなくて「やりたい」。たぶん多くの日本人はto doを書き出すのは得意なんですけど、それはいったん脇に置いて、「自分の人生をどう生きたいか」「どんなことをやりたいか」「どういう方向に行きたいか」を考える時間を意識的につくることは大切だと思います。

【三宅】現代人は多忙ですからね。

【杉山】おっしゃるとおりです。仕事や学校、育児、交友関係などに追われる毎日を送っていると、知らないうちに「なんのためにこんなことしているんだっけ?」と方向性を見失うことは誰しもあると思うんですけど、そんなときに自分のウィッシュリストを眺めて、5分、10分でいいので、自分と対話をする時間をつくる。そうやって「自分はいま本当に何がしたいのか」ということを問いかけつづけることによって、少しずつ「自分らしい人生」が送れるようになるのかなと思っています。

【三宅】しかもto doではないので、変わってもいいわけですよね。

【杉山】もちろんです。真面目な人は自分がやりたいことを書き出した瞬間にタスク扱いにしてしまいがちなんですけど、心境の変化は誰でもあるので、どんどん更新していけばいいんです。

一方で、リストに書いていることを実現していきながら、「これとこれとこれはやった!」とチェックしていく充実感もあるんです。考えるのも楽しい。実現する方法を考えるのも楽しい。願いが叶ったことが増えていくことも楽しい。それがウィッシュリストなんです。

元プロテニスプレイヤーの杉山愛氏(左)とイーオン社長の三宅義和氏(右)
撮影=原貴彦
元プロテニスプレイヤーの杉山愛氏(左)とイーオン社長の三宅義和氏(右)。衣装提供:Doubleface Tokyo,ABISTE - 撮影=原貴彦

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三宅 義和(みやけ・よしかず)
イーオン社長
1951年、岡山県生まれ。大阪大学法学部卒業。1985年イーオン入社。人事、社員研修、企業研修などに携わる。その後、教育企画部長、総務部長、イーオン・イースト・ジャパン社長を経て、2014年イーオン社長就任。一般社団法人全国外国語教育振興協会元理事、NPO法人小学校英語指導者認定協議会理事。趣味は、読書、英語音読、ピアノ、合氣道。

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杉山 愛(すぎやま・あい)
元プロテニスプレーヤー
4歳でテニスをはじめる。17歳でプロに転向。シングルス492勝(優勝6回)、ダブルス566勝(優勝38回)、グランドスラムのダブルス優勝4回。ダブルスでは世界ランク1位に輝き、オリンピックにも4回出場。グランドスラムのシングルス連続出場62回の世界記録を樹立するなど、日本を代表するプロテニスプレーヤーのひとり。2009年に現役を引退し、現在は様々な後世育成事業を手がけるほか、スポーツコメンテーターとして活動するなど、多方面で活躍中。

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(イーオン社長 三宅 義和、元プロテニスプレーヤー 杉山 愛 構成=郷 和貴)

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