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「死ぬまで介護のマンションは5億円」60代が"怖くてお金が使えない"と悩むワケ

プレジデントオンライン / 2020年11月24日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imacoconut

老後に向けて、どの程度備えればいいのか。HONZ代表の成毛眞氏は「介護格差は今後大きく広がるだろう。老後2000万円程度では、安心できなくなっている。少子高齢社会で長生きをするのはリスクになってしまう時代が来る」と説く——。

※本稿は、成毛眞『アフターコロナの生存戦略』(KADOKAWA)を再編集したものです。

■老後2000万円問題どころではない

コロナに目が行きがちだが、日本には他にも地震をはじめとする天災、さらには超高齢社会のリスクがある。老後2000万円問題で青ざめている場合ではないくらいの厳しい未来が待っている。

1億人を割りさらに減る日本の総人口
『アフターコロナの生存戦略』(KADOKAWA)より

まず、これからの超高齢社会では介護職の確保が難しくなる。確保が難しいということは人件費が高騰するわけで、介護費用も連動して上昇する。いくらロボット技術が発達しても、人と同じ役割を果たすにはまだ時間がかかる。

外国人労働力に頼ればよいという意見もあるが、東南アジアが発展すればするほど、出稼ぎに来てくれる人はいなくなる。

だったらと、東南アジア以外の労働力に頼る手はあるだろう。実際、現在でもネパール人が現地では社会問題化するほど日本に来ている。両親が出稼ぎに行ってしまったために、住人のほとんどが子供と老人だけになった村もあるそうだ。

それ以外で可能性があるのは、バングラデシュ、パキスタン、イラン、アフガニスタンやインドの一部くらいだろう。アフリカも候補だが、日本は遠いため、多くはヨーロッパへ向かうに違いない。

■若い労働力を介護職にばかり入れるわけにもいかない

しかし、そうした地域も経済発展するにつれ、日本で働くことの魅力は次第に失われるだろうし、日本がどこまで移民を受け入れるかも判然としない。

結果、介護従事者が足りなければ、利用者も介護する側も劣悪な環境に身を置かざるを得なくなる。

では、日本の若者の多くが介護職に従事したらどうなるか。

本来、IT産業とか自動車産業とか、外貨を稼げるような仕事に労働力を割くべきところ、介護職ばかりに人を送り込んだら日本経済は立ち行かなくなるだろう。

また、介護職が増えれば、当然、保育士などの確保は今よりも難しくなる。看護師だって足りなくなるだろう。今回のコロナでも露呈した看護師の労働環境・待遇問題はより深刻化し、改善しない限り人材を確保するのはどんどん難しくなる。

■尊厳死・安楽死の線引きをどう決めるのか

結局、既に述べたように、人件費は上昇し続け、医療・介護制度は破綻しないまでも、逼迫することになるだろう。

そうした状況で議論の対象になるのが、尊厳死や安楽死だ。ただし、その議論は簡単ではない。どうやって線引きすればいいかわからないからだ。

重症度なのか、年齢なのか、手間暇なのか、医療費なのか、答えは簡単には見つからない。

様々な病気の患者について、医療費がかかるからとか、手間暇がかかるからとか、治る見込みが薄いからといって切り捨てることができるのかという話だ。80代、90代なら寿命という諦め方もできるが、とくに若い方に対して、命の線引きなどできるわけがない。

■介護格差はとんでもないレベルにまで開く

しかし、少子高齢化という問題は待ってくれない。そのときに国としてどういう政策をとるかも大事だが、個人としてどう考え、どう生きていくかが問われることになる。

成毛眞『アフターコロナの生存戦略』(KADOKAWA)
成毛眞『アフターコロナの生存戦略』(KADOKAWA)

そして、その際について回るのがお金の問題で、介護格差というのは、とんでもないレベルになるだろう。

聖路加国際病院の横に「サービス付終身賃貸マンション」が建っているのをご存じだろうか。そこに入居すると、何かあれば3分以内に手術ができるくらいの距離にあるため、相当高いだろうと思って料金を見たら、予想をはるかに超える金額で度肝を抜かれた。

65〜79歳で入居して2億〜5億円以上かかるというのだ。さすがになぜその値段なのか理屈がわからず呆然としてしまった。老後2000万円問題が容易に吹っ飛んでしまうくらいの金額だ。

とはいえ、私の知り合いにも40、50人はキャッシュで5億円払えるような人がいるのだから、日本全国には5億円払ってでも入りたい人は相当数いるのだろう。

5億円というのは極端な例で、多くの人にとっては関係のない話だが、金額の多寡は別として、長生きするというのはお金がかかるし、最期まで健康でいられる保証もない。つまり、長生きというのはリスクになってしまう時代が到来したということだ。

■生活保護を受ける高齢者世帯は89万世帯以上

では、幸いにも医療・介護問題に直面しなければ、お金の問題から解放されたり、憂いのない人生の後半戦を送れるかといえば、そうではない。

今後は今以上に所得格差が拡大し、富裕層と貧困層とに二分されるからだ。というか、今でも既に二分されている。

2019年10月時点のデータでは、生活保護を受けている高齢者世帯は89万世帯以上で、全体の5割強を占めている。高齢者は旗を持ってデモをしないからわからないだけで、公営住宅とか、なんとか団地といったところの高齢化率、生活保護受給率はかなり高いだろう。

所得が低い層が集まるところでは商店街も廃れてしまう。1食350円の弁当でも買えないくらいの状態に陥っているからだ。

しかし、これは他人事ではないかもしれない。将来的に中間層の地盤沈下が進むと、誰もが同じような境遇になることだって十分考えられる。

先述したように介護職に労働力を割いたり、外貨が稼げなくなると、国際的なプレゼンスも低下し、国民の8割が下流化することだってありうるだろう。

■1億円持っていても「安心できない」

逃げ切り世代の一翼を担っている私たちの世代でさえ、長生きすることを考えると、怖くてお金が使えないという声を聞く。

たとえば、大手電機メーカーの本社で部長をやっていた同級生は、話を聞く限り自宅を含めて1億円くらいは持っているようだったが、安心できないといっていた。

今60歳そこそこで90歳まで生きるとしたら、残り30年弱ある。年金はあるにしても、単純計算で1億円を30年で割ると、年間300万円ちょっとしか使えないことになる。

1億円の中には自宅も入っているが、これからはどんどん家の価値は下がっていく。人口が減って、空き家が増えるから当たり前だ。そうすると、住宅の資産価値はどんどんゼロに近づく。

■数十年後には不動産業界自体の行く末が危うい

もちろん、住宅の資産価値については立地によりけりではある。しかし、今よりも条件はシビアになるだろう。

たとえば、東京であれば新宿とか渋谷から30分の場所はもうダメになって、15分以内の場所でなければ売れないとか、たとえ主要駅から15分以内でも駅から徒歩10分ではダメで、5分以内でないと売れないとかいうように、どんどん条件が厳しくなっていくはずだ。

しかも、駅ごとに明暗が分かれてしまうから、これからは住む場所を選ぶのは非常に重要かつ難しい。このまま人口が減って、空き家が増え続けると、数十年後には不動産という業界自体、風前の灯になっているかもしれない。

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成毛 眞(なるけ・まこと)
HONZ代表
1955年、北海道生まれ。中央大学商学部卒業。自動車部品メーカー、アスキーなどを経て、1986年、日本マイクロソフト入社。1991年、同社代表取締役社長就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社インスパイア設立。2010年、書評サイト「HONZ」を開設、代表を務める。

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(HONZ代表 成毛 眞)

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