「英国版GoToで大批判」英ジョンソン首相が何をしても叩かれるワケ
プレジデントオンライン / 2020年11月20日 15時15分
■再ロックダウンで、政党名まで変更に
日本でも新型コロナウイルスの感染拡大の第3波が押し寄せているが、先んじて流行が再拡大した欧州では、感染拡大を封じ込めるために11月から各国で緩やかな都市封鎖(ロックダウン)が敷かれている。フランスやスペイン、ドイツなどでは、その成果もあって1日当たりの感染者数は徐々に減少しているようだ。
他方でいくつかの国では、都市封鎖にもかかわらず感染の拡大はまだ続いているが、その代表的な国として今年1月に欧州連合(EU)から離脱した英国がある。英国の中心であるイングランドでは、11月5日から12月2日まで全土で都市封鎖が敷かれており、第1波のときほどではないにせよ市民の生活が制限される事態となっている。
都市封鎖に伴う人々のストレスはやはり大きいようだ。ロンドンに居を構える筆者の友人は、リモートで仕事をしつつ、同時に自宅待機を余儀なくされている子供たちの面倒をみる生活が続いているという。外出も結局のところは制限されているため、親子関係が煮詰まってくることは容易に想像できる。
なおかつて英国のEU離脱を鼓舞し、有権者に対して過激な主張を展開してきたナイジェル・ファラージ氏は、都市封鎖に反対する立場から自らが率いる政党名を「ブレグジット党」から「英国改革党(Reform UK)」に改めた。人々のストレスをくみ取るためとしているが、彼の日和見的なスタンスは正にポピュリストそのものだ。
■なぜメディアは英国版Go To Eatをそこまで批判するのか
日本と同様に英国でも、苦境にあえぐ飲食業に対する支援策としてEat Out Help Out(外食で助けよう)というキャンペーンが行われた。8月の月火水に対象の店舗で飲食した場合に限り、1回につき50%(上限10ポンド、約1400円)のクレジットが消費者に還元される仕組みであり、いわば英国版Go To Eatといえる。
このキャンペーンは8月に限定されて行われたが、9月に入って新型コロナウイルスの感染が拡大すると、英国版Go To Eatがその主因の1つであるとメディアで指摘されるようになる。制限されていた経済活動を緩和すれば感染者数が増えることは当然であり、それはあらかじめ想定されていた事態のはずだ。
それに英国でも、飲食店が混み合うのは基本的に週末の木金土だ。日曜日は多くのレストランが閉まっている。平日の週の前半にインセンティブを出されたところで、それに刺激されて飲食店に繰り出す人々がどれだけ増えたか定かではない。メディアの政府叩きのスタンスは非常に極端であったといわざるをえない。
メディアによる過剰な英国版Go To Eat批判は、要するにジョンソン首相叩きだ。新型コロナウイルスの感染拡大を受けてジョンソン政権の支持率は低空飛行が続き、浮上の気配はない。有効な感染対策が採れないばかりではなく、結局のところジョンソン政権が何ひとつとして成果を残していないことへのいら立ちが英国社会で広がっている。
■バイデン勝利でジョンソン首相の面目は丸つぶれ
新型コロナウイルスの感染拡大に対しては、どの国でも有効な手立てが採れていないのが現状だ。しかし英国の場合、やはり外交面での失態が目立っており、それがジョンソン政権によるコロナ対応批判を増幅させている。最大の汚点は、相思相愛と思っていた米国のトランプ大統領からむしろ手痛い仕打ちを受けたことにある。
ジョンソン首相とその側近は、EU離脱後の成長戦略の幹として米国との間で自由貿易協定(FTA)を結ぶことを重視していた。しかしトランプ大統領は米国に偏って有利な内容をFTAに盛り込むよう主張、さらに英国市場から敵対する中国の華為(ファーウェイ)製品の排除を求めるなど一方的な要求に終始、交渉は事実上、決裂してしまった。
そのトランプ大統領は11月の米大統領選挙で敗北、表舞台から去ることになった。親EU派であるバイデン次期大統領は英国のEUとの融和を求めており、ジョンソン首相の面目は丸つぶれとなった。さらに政権内では内部分裂も生じており、首相の私的顧問として意思決定に多大な影響を与えたカミングス氏が事実上、解雇される事態となった。
有権者の支持に加えて、内外で支えを失ったジョンソン首相は文字通りの窮地に立たされている。こうした状況でジョンソン首相は、11月末をリミットにするEUとの通商交渉に臨んでいる。かつてEUの条件をのむくらいなら移行期間を年内で打ち切るほうがマシだと強弁を張ったジョンソン首相だが、その態度を維持できるだろうか。
■結局のところ英国はEUと歩調を合わすことに
EUは2019年末、2050年までに地球温暖化ガスの排出実質ゼロを目指す野心的な構想「欧州グリーンディール」を発表した。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて悪化した景気の回復を促すための経済対策の中にも、環境対策は組み込まれている。未曽有の経済危機に瀕しても環境への配慮を忘れない点に、欧州らしさが出ている。
これに遅れること約1年、英国でも11月18日に「グリーン産業革命」という「欧州グリーンディール」と似たような構想が発表された。英国もまたヨーロッパであり、環境問題に対する有権者の関心は強い。そしてこの問題に対するスタンスの違いが、実はトランプ政権とジョンソン政権がかみ合わなかった背景の1つでもある。
米国のバイデン次期大統領は環境対策に好意的であり、英国と価値観を共有している。そして、バイデン次期大統領は親EU的でもある。トランプ大統領の下で緊張した欧米の関係は、間違いなく修復に向かう流れにある。トランプ大統領と手を携えて新たなスタンダードを作ろうとしたジョンソン首相のキバは抜かれたも同然だ。
ノーマルに考えれば、11月内のEUとの交渉は移行期間の実質的な延長で決着がつくはずだ。少なくともジョンソン首相が望んでいたかたちでFTAが結ばれることは考えられない。仮に通商交渉で合意に達せず、年内で移行期間を打ち切るとしても、結局のところ英国は価値観を共有するEUと歩調を合わさざるをえないだろう。
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三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。
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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員 土田 陽介)
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