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英国の超名門校トップが語る「日本の学校では創造性が育たないたった一つの理由」

プレジデントオンライン / 2020年11月21日 9時15分

マイケル・ファリー氏/ハロウインターナショナルスクールの運営責任者。新しい学校プロジェクト、現在の学校運営、およびグループ全体の戦略的開発を監督する。以前はブリティッシュスクール東京、ハロウインターナショナルスクールバンコク校の校長を務めていた。 - 写真提供=ハロウインターナショナルスクール

イギリスのパブリックスクール「ハロウスクール」は、450年の歴史を持ち、ウィンストン・チャーチルをはじめ過去7人の首相を輩出した超名門だ。2022年8月には、岩手県安比高原に日本校を開く。なぜいま日本で開校するのか。ハロウスクールトップのマイケル・ファリー氏に聞いた——。

■2022年夏、安比高原に日本校を開校

——2022年8月に岩手県の安比高原にハロウインターナショナルスクール安比ジャパン(以下、ハロウ安比校)が開校します。開校の経緯を教えてください。

【マイケル氏】これまでハロウインターナショナルスクールは、1998年に設立したタイのバンコクに始まり、香港、上海、北京に開校してきました。これらアジアの国々は、かねて国際教育への関心が大変高く、それに応える形で学校をつくってきたのです。今回、安比高原に開校するハロウインターナショナルスクールは、初めての日本校になります。

今回、日本に開校するようになった理由は、岩手県安比高原という最高の教育ができるロケーションの土地を確保できたからです。岩手県と岩手ホテルアンドリゾートというパートナーに恵まれ、安比高原スキー場に隣接する場所に全寮制の寄宿学校が建てられることになりました。

英国ハロウスクールは、ヒースロー空港から車で30分程離れたロンドン郊外の丘の上にあります。豊かな自然の中でコミュニティをつくり、さまざまな経験をさせて、リーダーを育ててきた歴史があります。私たちはこの環境こそが「ゴールドストーン(宝)」だと考えていて、ハロウ安比校は、都市部に建てられたアジアのどの校舎よりも英国ハロウスクールに近いものとなっています。実際、ハロウインターナショナルスクールの教員の多くが、ハロウ安比校の素晴らしい環境を知って、異動を希望しているくらい(笑)。生徒も中国や香港、台湾、韓国、インド、シンガポールなど、アジア全域を中心に、そしてヨーロッパ、北アメリカからも募集する予定です。

■リーダーシップやレジリエンスが育つ

——ハロウ安比校では、どんな教育が行われるのでしょうか?

【マイケル氏】基本的には英国ハロウスクールと同じです。11歳(小学校6年生)〜18歳(高校3年生)の7年間の教育課程を計画しています。共学で、生徒全員が寄宿舎に住むフル・ボーディングスクール(※)です。

ハロウ日本校の完成イメージ
写真提供=ハロウインターナショナルスクール安比
ハロウ安比校の完成イメージ。敷地には寮や学校だけでなく、スポーツ施設、ITセンター、研究所、音楽スタジオ、劇場などがつくられる。詳しくは11月28日に行われる国際教育博で公表予定。 - 写真提供=ハロウインターナショナルスクール安比

カリキュラムはイギリス式で、高1終了時に英国義務教育終了資格である国際標準試験「International General Certificate of Secondary Education(IGCSE)」を、高校最終学年ではイギリスの大学入学資格にあたる「General Certificate of Education Advanced Level(Aレベル)」を受験し、世界のトップ大学への進学を目指します。

英国ハロウスクールでは卒業生の多くがケンブリッジ大学やオックスフォード大学などに進学しています。しかし、特筆すべきは学業成績だけではありません。大学入学時にはリーダーシップやレジリエンス、協働力、コミュニケーションスキルなど、社会で必要とされている力を身に付けている点が評価されています。高校卒業時点で、すでに社会に貢献できる人材が育っているのです。

その秘密は、寄宿生活にあります。長期休暇を除き、生徒は仲間とともに学校とハウス(寮)を行き来します。ハウスでは自分の選択したスポーツ競技やボランティア活動に従事するほか、教員は授業後もハウスで個別の宿題をサポートします。

さらに、個別化されたパストラルケア(学習面・精神面・健康面を始めとした多面的・総合的サポート)も、教員と寮のハウスマスターによってなされます。ハウスマスターは、思春期の心身の悩みなどもサポートできるプロフェッショナルです。全寮制という制度のもと、教員・ハウスマスター・同じ寮の仲間が一体となって一人ひとりの学力と心身の発達をサポートし、生徒一人ひとりの最大限の可能性を引き出す仕組みがあるのです。

※フル・ボーディングとは、通学を認めない全寮制寄宿学校のこと。通学と寄宿の両方があるボーディングスクールは、ハーフ・ボーディングと言ったりする。

■課題授業で忙しい生徒の一日

——学校生活をイメージするために、生徒の1日の過ごし方を教えてください。

【マイケル氏】一言で言うと、なかなか忙しいです。

まず生徒たちは、早朝からクラブ活動の練習などで1日をスタートします。その後ハウスで一緒に朝食をとり、1時限目のクラスに向かいます。昼食の時間も、生徒が自主的にアクティビティーを行ったり、教員に授業の質問に行ったりと、忙しいことが多いです。

英国ハロウ校の生徒たち
写真提供=ハロウスクール
英国ハロウスクールの生徒たち - 写真提供=ハロウスクール

放課後もさまざまな部活動、ゲストスピーカーを招いたイベント、ボランティアなどが用意されており、生徒はいくつかの活動に参加し、夕方に寮に戻ります。

夕食後は、宿題や予習などハウスマスターにサポートしてもらう勉強の時間があります。勉強については、新型コロナウイルス感染症の影響でオンラインを使ったレクチャーや課題提出の仕組みが整いました。

■座学だけではリーダーは育たない

——課外授業が非常に充実していますが、これにはどのような意図がありますか。

【マイケル氏】課外授業活動を通じてさまざまな経験を積むことは、リーダーになるために必要不可欠だからです。人生は常に順調とは限りません。良い教育とは、生徒が困難に直面しても、生き抜くことができる教育だと考えています。そのためには挑戦や失敗をする経験が不可欠で、座学だけでは良きリーダーは育めないと考えています。

ハロウインターナショナルスクールバンコクの課外授業活動の様子
写真提供=ハロウインターナショナルスクールバンコク校
ハロウインターナショナルスクールバンコク校の課外授業活動の様子 - 写真提供=ハロウインターナショナルスクールバンコク校

ひとつの例として、ボランティア活動を通じた「リーダーシップサービスプログラム」の話をしたいと思います。

ハロウインターナショナルスクールバンコク校のある女子生徒は、観光客が多く訪れるタイでは有名な山にもかかわらず、観光客が立ち止まる施設もなければ、電気などの設備も不十分で、夜は子供たちが焚火の煙の中で勉強するような環境のため、村以外の人を引き付けることができていなかった、ある村のためにプロジェクトを始めました。

自分たちが普段知っているものとは全く異なる環境に置かれたからこそ、生徒が考えた方法は大変クリエーティブで、かつ、サステイナブルな方法でした。山から草木を切る、土を集め自分たちで踏んで混ぜて粘土を作るところから始めたのです。村の人たちと協働し、関係性を築き、2つの建物を建てていきました。

3年後、建物は完成し、鍵を村長にプレゼントしました。その後、これまで立ち止まりもしなかった観光客がその建物を中心に立ち寄るようになり、村に新たな収入が生まれ、雇用も創出できたのです。

ハロウスクールは約450年前に、もともとエリートや富裕層のための学校としてではなく、若い青年たちが、郊外の自然豊かな環境で精神的にも身体的にも健康に成長し、リーダーとしての教養と精神を身に付け、コミュニティへ貢献できる人材を育てるための学校として生まれました。その精神は今も生きているのです。

■日本には創造性の教育が足りない

——日本では2020年に学習指導要領を変更し、生徒中心のアクティブな学びを増やしていこうとしています。しかし、まだまだ座学が中心で、ハロウのような課外授業も不足しているように感じます。日本の教育については、どのように思われていますか?

【マイケル氏】私は2003年から6年ほど日本にいたので、日本の教育者と交流があり、日本の教育の素晴らしい点も知っています。たとえば、実用的な知識を授けることにはたけています。

ただ、創造性や、ゼロから物を作り出すマインドセットを育てる仕組みは足りないと感じます。

■知識ではなく学びのプロセスを教える

——創造性を育てるには、どのような教育が必要でしょうか?

【マイケル氏】ハロウで行われているように、生徒それぞれの興味、関心にあわせた活動をサポートする必要があるので、一斉授業中心から、一人ひとりの個別化を重視した授業に切り替えていく必要があると思います。しかし、これは大改革になるので政府が動かないと難しいでしょう。

授業で教える内容も、ハロウの教育とは根本的に違っていると感じています。知識を教えることは確かに大切ですが、ハロウ校では学び方のプロセスを教えることを重視しています。たとえば、生徒が問題を見つけ出し、リサーチ方法を組み立て、テストしてデータを集め、結果を導き出す。こういった学び方のプロセスを教えていくことを大切にしています。

ハロウインターナショナルスクールバンコクの授業風景
写真提供=ハロウインターナショナルスクールバンコク校
ハロウインターナショナルスクールバンコク校の授業風景 - 写真提供=ハロウインターナショナルスクールバンコク校

そして、さまざまな活動を通じて、挑戦する機会を与えます。失敗しても、それが学びの機会であることを教えていきます。こうすることで、フレキシブルで創造的で、失敗を恐れないマインドセットを持つ人材が育っていきます。

日本の教員のトレーニングも必要でしょう。ハロウ安比校ができれば、国際教育の新しい基準を創り出すだけでなく、カリキュラムデザインや学生の評価方法などの指導でもお手伝いができるかもしれません。日本の教育改革の促進剤になれればとも思っています。私はできると信じています。

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宇野 令一郎(うの・れいいちろう)
リトルエンジェルス・インターナショナルスクール 理事長
リトルエンジェルス・インターナショナルスクール理事長、アオバジャパン・インターナショナルスクール理事、熊本大学大学院教授システム学専攻非常勤講師。2009年より現在まで、インターナショナルスクールからオンライン大学まで9つの教育機関の設立や再生に関わる。カナダ・McGill大学経営大学院(MBA)、熊本大学大学院(教授システム学修士)、慶応義塾大学経済学部卒業。

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(リトルエンジェルス・インターナショナルスクール 理事長 宇野 令一郎)

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