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お歳暮がなくなったように、「仕事の忘年会」はこのままなくなるのか

プレジデントオンライン / 2020年11月25日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Drazen Zigic

■一回でも忘年会を見送ると「もう、やらなくていい」となる

この冬、新型コロナがどのように再流行するかどうか不安な状況です。これから先、平均気温が低下し大気が乾燥するとコロナウイルスの活動は活発になるといいます。すでにフランスでは二度目のロックダウンが行われ、ヨーロッパとアメリカ、インドで感染の拡大が深刻な状態になりつつあります。

一方、日本や韓国、中国など東アジアの地域ではこれまで感染が抑えられる、ないしは感染が広がっても重篤化が抑えられてきました。このまま冬に第3波の感染が再拡大しても、欧米と比較して死亡者数は少なく抑えられる可能性もあります。

その前提で考えれば、日本にとってのこの冬のコロナ問題は経済面が大きいといえるでしょう。直近の問題は、年末年始の忘年会・新年会需要です。中でも忘年会は目前に迫っていますが、今年は一体どうなるのでしょうか?

年末年始の忘年会・新年会需要は、飲食店にとって書き入れ時です。しかし政府が「GoToは4人まで」と声を上げ始めたことで、今年は大企業を中心に「今回は忘年会禁止」というルールが広がりそうです。すると「新しい日常」が始まった今、一度忘年会をなくした結果、「もう、やらなくてもいいんじゃないか?」という意見が出るかもしれません。

実際、新しい日常は長期的に影響を及ぼしはじめています。会社に出勤しなくてもリモートで仕事が成立する。出張をしなくてもウェブ会議で用件が済む。きっかけはコロナでも、やってみて問題なかった、あるいは効率的だということがわかると、その変化はアフターコロナでもずっと続くことになります。つまりコロナ以降の経済ではオフィスビルやビジネスホテルの需要は元に戻らなくなりそうなのです。

■「会社は家族」の前提が覆された平成30年間のツケ

若い世代を中心に、もう20年以上も前から「そもそも忘年会って何なんだろう?」「忘年会って必要?」という声が挙がっています。会社によって仕組みはまちまちですが、部署単位で半強制的に出席を求められる会費制の忘年会について疑問が生じるのは当然かもしれません。しかも、新年会まで含めれば12月、1月という1年のうち約2カ月を確実に飲み会の調整に使っていることになります。

そもそも日本社会で年末になると忘年会が開かれるのは、小さな社会の中での結束力を強めるために必要だからです。

はるか昔、日本的労働慣行の中で終身雇用・年功序列だった時代には「会社は家族のようなもので、一生、社員の面倒をみてくれるものだ」という前提があって、年末にはその結束力を確認する意味で部署単位の忘年会に全員出席するというのは当然の慣行でした。

では、その労働慣行が崩れた平成の30年間はどうだったのか。これは皮肉な話ですがより一層、会社組織は結束力を高める必要が生じます。

■ジェフ・ベゾスが「従業員は財産」と直接言葉で伝えるワケ

経営学では、結束力の強い組織のほうが、結束力の弱い組織よりも業績がよくなる傾向があきらかになっています。ですから、アマゾンですらCEOのジェフ・ベゾスが「アマゾンで働く従業員たちがいかに会社にとって大切な財産であるのか」を直接言葉で伝えるのです。

会社としては終身雇用を放棄しても従業員の帰属意識は確保したい。その目的から月に一回の社員ミーティングや毎朝の朝礼など、会社によってスタイルは異なりますが経営ツールとしての集会が設定される。その中でもカジュアルな空気で会社幹部と従業員が交流できる忘年会は、経営側にとっては大切な経営ツールなのです。

新型コロナと同じタイミングで、日本企業全体に働き方改革の大波が押し寄せています。これまでの慣行とは違う、時代にあった新しい働き方を企業は導入する必要があります。その中で経団連が打ち出しているのがメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行です。

日本の大企業がジョブ型雇用に移行するということは、表面上は一人ひとりの従業員が何のプロなのかがはっきりすることを意味します。一方、根底ではそれまでのように従業員が会社組織のメンバーであるという前提が薄まります。

「君は生産管理のプロなのだから、会社がいまの事業から撤退したとしても、他の企業でプロとしての仕事を見つけることができるだろう」と会社から見放される時代がもうすぐ来るわけです。しかし重要なのはそうしたドライな関係性が強調されるのは会社の危機下だけの話です。

考え事をしているビジネスマン
写真=iStock.com/taa22
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taa22

会社としては平常運転の期間はそれでも従業員が組織のメンバーとして結束力を持ってくれたほうがいい。だからジョブ型へと働き方の前提が変わった世界では、経営ツールとして今まで以上に忘年会の重要性は高まるのです。

ここが飲食業界にとっては重要な変化かもしれません。これまでは放っておいても企業組織の中で惰性的に忘年会が計画され、部署の中で幹事が決まり、その幹事が自分で忘年会プランをネット上で探して予約してくれていた。しかしアフターコロナではいったん中止ないしは延期になった忘年会が、従業員側では「とくにやらなくてもいい」というように考えが変化する可能性があるのです。

そこで年中行事としての忘年会を継続させるために必要なのは、これまでのウェブ広告を用いたプル型ではなく、プッシュ型の需要喚起になる可能性があります。ぐるなびやホットペッパーグルメなどGoToイートの中核となったプラットフォームの営業部隊が大企業の上層部や管理職層に忘年会の重要性を説いて回って結束力を高めたいという需要を掘り起こすべきです。具体的な営業アプローチはともかく、飲食業界の営業先は若手の幹事くんから企業の幹部や人事部の管理職へと変わる可能性があるということです。

■忘年会需要は“法人”から“プライベート”にシフト

さて、ここまでは企業の部署単位のような大人数の忘年会についての話をしてきました。忘年会のもうひとつのボリュームゾーンである少人数の仲間内の忘年会についてはどうでしょうか。

実は飲食業界にとっては企業や団体の忘年会需要よりも、個人の少人数単位での忘年会需要の獲得のほうが今後はより重要になるのではないかという予測があります。

その視点で私が参考になると考えるのが、お歳暮需要の変化です。昭和の時代、お歳暮といえばお世話になった恩師、会社の上司や取引先に贈るものだと考えられてきました。ところが時代が変わり、コンプライアンスが重要視されるようになった結果、上司にお歳暮を贈る習慣は廃れ、取引先からも「従業員に対する贈り物等のやり取りは禁止する」といった通達が当たり前のように出される世の中になってきました。

お歳暮
写真=iStock.com/Promo_Link
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Promo_Link

その結果、今ではお歳暮市場に占める取引先や仕事関連の需要は激減し、アンケート調査によってはお歳暮需要全体の15%程度まで比率が低下してしまいました。では誰にお歳暮が贈られているのかというと、圧倒的に親、親戚、そして知人です。

お歳暮と比べれば少人数の忘年会は仕事関連でも誘いやすいかもしれません。会社の先輩が後輩数人に「おい、鈴木組の忘年会やるぞ」と誘うケースは自然ですし、取引先に対しても「年末に一度、軽く会食でも行きませんか」と誘うのは接待としても声をかけやすいものです。

とはいえお歳暮の事例を念頭に世の中の需要全体を考えると、そういった法人需要的な性格の忘年会からプライベートな性格の忘年会へと需要がシフトしていくという流れは飲食店としてしっかりとおさえておく必要はありそうです。

その観点で、アフターコロナで小規模プライベート忘年会需要を習慣として確保していくために、今年の冬に重要なことは何でしょうか。私は引き続きGoToイートを盛り上げることが来年以降の忘年会需要の灯を消さないために重要だと考えています。ポイント還元の第一弾はすでに予算終了しましたが、11月下旬から始まった第二弾の「GoToイートプレミアム付食事券」が忘年会の未来のカギを握るのです。

■GoToイートは自粛期間にジワジワと効く

さまざま批判のある政府のGoToキャンペーンですが、その中でGoToイートキャンペーンは比較的うまく回っていると捉えられています。実際に10月1日に始まったGoToイート第一弾は、農林水産省の発表では10月23日時点ですでに予約が1500万人を超えたといいます。

GoToイートが需要喚起をする仕組みとして面白いのは、利用が無限に続く仕組みになっている点です。オンライン飲食サイトで予約をしてランチで500円、ディナーで1000円のポイントがついても、それを次に使わないとお得になりません。それで次の予約をして食事に行くとまたポイントがつく。すでにポイント付与は多くのサイトで終了しましたが、付与されたポイントはその多くがまだ未使用であり、来年3月末まで使えます。

つまりこれから先、新型コロナが再び猛威をみせ始めて、フランスと同じように日本でも「そろそろまた自宅に籠ったほうがいいかな」と考える時期に、別の事情として「でも手元にポイントがずいぶん残ってしまっているからな」と消費者が悩む状況が発生するわけです。

ここは個人の判断が分かれるところですが、一定の人たちは「だったら親孝行で家族忘年会でも開こうか?」とか「仲の良い友人でいろいろあった2020年をしめようか?」といったように、若者世代で少人数での飲食店利用の増加につながる可能性は高いです。

■国民の約半数に向けた施策で、忘年会消滅を防げるか

GoToイートについての世論調査を見てみると、国民の約半数は冷めた目でみていることがわかります。この新型コロナが危険な時期に税金を投入してわざわざ感染を広げるようなことをする意味があるのかといった意見です。

ところが残り半数は真逆で、せっかくGoToイートキャンペーンがあるのだから、この時期に大いにそれを利用したいと言っています。つまりここがGoToイートの政策としての肝の部分で、国民の半数が外出を自粛する中、税金を投入することで残り半分の国民に飲食店に向かってもらおうとしている。これが苦境の飲食業界を救うためのGoToイートの戦略なのです。

GoToイートキャンペーンはその性格上、人数が多い会社での忘年会よりも人数が少ないグループでの忘年会の方が使いやすい仕組みです。仮に第一弾の仕組みを使って30人の忘年会の幹事を担当して3万円分のポイントを手にしてしまうと、それをどう組織に還元するかでひと悶着が起きそうです。それよりも第二弾のプレミアムお食事券を利用した4~5人の集まりなら25%分のプレミアム分だけ精算の際に差っ引けますし、そのことで予約した幹事は讃えられるでしょう。

仲間内の忘年会というのは年賀状と同じで、必要な年中行事であると同時に、なんとなくの惰性で続いている習慣でもあります。それが一度止まってしまうと、ひょっとすると「もうなくてもいいんじゃないの?」と言った具合に、行事としての需要がなくなっていく方向に世の中が動いてしまうかもしれません。ですから新型コロナが猛威をふるう2020年冬は飲食業界にとっては鬼門です。

しかしそこで忘年会がなくならないように個人忘年会需要をGoToイートが下支えしてくれるわけです。そしてもし忘年会がコロナ余波でキャンセルになったら、ポイントが残っているので今度は新年会を企画しなければならない。新型コロナで景気が心配な飲食業界を支えるために、GoToイートは思っていた以上に重要な政策だといえるのではないでしょうか。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。

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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

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