極貧家庭からハーバードに進んだ私が「習いごと」より「自然と遊ぶ」を勧めるワケ
プレジデントオンライン / 2020年12月4日 9時15分
※本稿は、本山勝寛『自力でできる子になる好奇心を伸ばす子育て』(大和書房)の一部を再編集したものです。
■「非日常の刺激」が子どもの好奇心を呼び覚ます
私は、ハーバードで世界の教育を研究し、また5児の父として子育てを実践するなかで、いまの日本の教育や育児で最も足りないのは、「好奇心を育てること」だと痛感してきました。
そして、大きく時代が変化していくなかで、これから最も求められる力も「好奇心」だといえます。なぜなら、変化のスピードが速い時代において、必要な知識がすぐにアップデートされるため、今どれだけ知識を蓄えているかよりも、たえず学び続ける姿勢こそが、時代の変化を生き抜くために必要だからです。
学び続けるためのエンジンとなるのが、まさに好奇心です。
好奇心は新しい時代における重要な力であるという観点から、「CQ=Curiosity Quotient =好奇心指数」として注目される動きが、海外の学界やビジネス界でも起きてきているのです。
そして、子どもの好奇心を育てる秘訣の1つが「自然」と触れ合うことです。
子どもと自然豊かな場所に行ったことがある人であれば、誰もが感じていることだと思いますが、子どもたちは自然のなかに行くと、目をキラキラ輝かせながらいきいきと全身を動かして遊ぶでしょう。
それは自然のなかに飛び込むと、家や学校、幼稚園・保育園といった屋内での日常生活では得られないような「非日常の刺激」がたくさんあり、子どもの好奇心を呼び覚ますからです。
■「自然に触れさせること」がいちばん好奇心を伸ばす
レキットベンキーザー・ジャパン社が2012年に幼稚園および小学校教諭400人を対象に行ったアンケート調査によると、「“好奇心旺盛な子ども”を育むために必要だと思うことは何ですか」という問いに対して、「自然に触れさせること」が94.2%と1位で、「外遊びをさせること」が87%と2位でした。
一方で、「習いごとをたくさんさせること」は5.5%と下位にとどまりました。
では、それらが「最近の子どもに十分足りていると思うか」という設問には、「自然に触れさせること」では82.5%、「外遊びをさせること」では77.3%が「足りていない」という回答でした。
教育者であれば誰もが、自然に触れることによって子どもの好奇心が育つと考えているのに、それが足りていないと感じたまま放置している、そんな大きな矛盾の状態にあるのが日本の教育の現状なのです。
「自然」は子どもの好奇心が刺激され、解き放たれる絶好の場所です。
では、どのように自然と子どもとの接点をつくるか、大人はどのように接していけばいいか、自然を使ってすぐにできる親子のコミュニケーション法を3つ、紹介します。
■①イキモノ探しで「発見の喜び」を知る
1つ目は自然の中で、「イキモノ探し」をしてみることです。
自然豊かな公園で、森林や池の周りなどを、子どもと一緒に好奇心のメガネをかけてじっくりと散策してみましょう。
自然のなかに隠れているイキモノは、子どもたちにとってまさに「動く宝物」です。宝探しをするような感覚で虫を探してみましょう。
子どもたちが興奮して、アドレナリンを放出しているような様子になったら成功です。時間も忘れて「没頭」するという感覚です。
そして、見つけたときの「いたー!」という瞬間に、喜びと興奮がクライマックスに達します。
この「没頭」と「発見の喜び」こそが、子どもたちの脳と全身に蓄積され、好奇心を育てる重要な栄養素になるのです。
イキモノを探すといっても、種類によってそれぞれ難易度が異なります。幼児で小さい子の場合、夏であれば初めはセミの抜け殻を探すのもよいでしょう。夏の公園に行けば必ずといってよいほど、たくさんのセミの抜け殻があります。動く成虫とちがって、すぐに見つけられ、子どもでも自分で取ることができます。
公園や自然のなかに隠れ潜んでいるイキモノを「発見する喜び」を何度も味わうことで、子どもの好奇心は大いに刺激され、着実に成長していきます。
■②家庭で植物を育ててみる
植物や野菜の種を植えて、家庭で育てることもお薦めです。
毎日水をあげると、小さな種がやがて芽を出して成長し、葉っぱをつけ、花が咲き、そして実をつけるという成長のプロセスを経験することができます。
野菜であれば、なった実を収穫し、実際に食べることもできます。
イキモノが好奇心を育てるのによい点は、その場で動くというだけでなく、時間をかけて成長するという点にあります。
我が家では植木鉢でミニトマトやピーマンを育てています。
昆虫は父親が担当ですが、ミニ菜園は母親やおばあちゃんが子どもたちと一緒に育てています。植物や野菜を育てることも、好奇心を長く継続させ「成長と育成」を学ぶことのできるいい実践方法です。
もちろん、性別に関係なく子ども自身が好奇心をもったものに、時間をかけてトライできるように促し、見守ることが一番です。
■③イキモノノートをかく
私の息子はよく捕まえたイキモノの特徴と絵をノートに書き記しています。
初めは絵もさほど上手ではないし、虫の名前と種類くらいでしたが、段々と細部まで観察してリアリティある絵が描けるようになったり、特徴もマニアックな内容を書き記すようになりました。文章や絵を書くアウトプット力だけでなく、好奇心をエンジンにしながら物事への「観察力」を磨く楽しい実践になっています。
この「イキモノノート」は我が家の息子だけでなく、世界の経営学の大家も実践していたトレーニングです。
世界的なベストセラービジネス書で『ビジョナリー・カンパニー』という本があります。この本の著者であるジム・コリンズは、少年時代、大の虫好きでした。
よく虫を捕まえ、瓶に入れ、何日間も観察し、虫の行動、食べたもの、動きを実験ノートに一つ残らず記録していたといいます。
大人になると、彼はヒューレット・パッカードに就職しましたが、世界的な大企業での仕事でも心からの満足は得られませんでした。
そこで、少年時代によくやった、虫を観察して実験ノートに書き留めるという方法を、今度は自分自身に応用させました。
実験ノートのタイトルに自分の名前をつけて「ジム虫」と書き、それから1年以上、自分自身の行動や仕事ぶりを細かく観察しました。
まるで、少年時代に虫の行動を観察したように。そうして、1年以上、実験ノートをつけ続けると、あるパターンが浮かび上がりました。
■子ども時代の好奇心が天職へと導いた
彼は複雑なシステムに取り組んでいるときや、人に何かを教えているときが最高に楽しいと感じるということが鮮明になったのです。そして、彼はシステムについて誰かに教える仕事をしようと決意し、ヒューレット・パッカードを辞め、学界の道を選びスタンフォード大学で教鞭をとることにしました。
ジム・コリンズは自分自身の真の強みと可能性を、まるで子どもが昆虫観察をするかのように自己観察することで導き出したのです。少年時代に好奇心とともに昆虫ノートで磨いた「観察力」が、自己分析だけでなく、自身の専門分野とした企業研究にも発揮され、経営学の大家として成功する力になったといえるでしょう。
ここまで、すぐにできる自然の中でのコミュニケーション法を3つご紹介しました。
親の立場からすれば、不透明な未来に対して不安を覚え、どんなにお金をかけてでも子どもたちにあれもこれもとさせておきたくなるかもしれません。子どもの歩んでいく道を親が先回りして、しっかりと安全な道を整えて、高いところまで自動でたどり着くエスカレーターがないか探し回りたくなるかもしれません。
■「自力で学び続けられる人」は何があっても乗り越えられる
しかし残念ながら、未来を完璧に予想することはできません。どんなに先回りして準備しても、思い通りにならないこともあるでしょう。それでも、未来がどうなろうとも、社会がどう変わろうとも、確実にいえることがあります。
それは、自力で学び続けることができる人は、途中で様々な困難や失敗、紆余曲折があったとしても、必ず成功にたどり着くことができるということです。
自らの内側に学びのエンジンを備えた人は、変化に対応しながら、少しずつでも毎日、毎年成長し続け、やがて望んでいることを実現します。自力で学び続けるエンジンを持つことこそ、本記事でお伝えしてきたあくなき「好奇心」を持つことです。
好奇心や学びのエンジンは、遺伝的に備わっているものだけでなく、意識して育てることができるものです。
日々子どもたちと接しながら、私自身も一人の親として子育てに悩みながら、苦労しています。子どもたちの明るい未来を築くためには、日本の子どもたちを育てる大人が、子どもたちの好奇心を思いっきり伸ばし、自力で学び続ける子に育んでいくことだと確信しています。
一人でも多くの大人がそのことに気づいて、子どもたちの可能性を最大限に引き出すことができれば、これ以上の喜びはありません。
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日本財団子どもサポートチーム兼人材開発チーム チームリーダー
東京大学工学部システム創成学科卒業。ハーバード教育大学院国際教育政策専攻修士課程修了。『16倍速勉強法』(光文社)、『最強の独学術』(大和書房)、『今こそ「奨学金」の本当の話をしよう。』(ポプラ新書)など著書多数。5児の父で、4 回育児休業を取得。「学びと社会のイノベーション」をテーマとしたオンラインサロン「MSI塾」を主宰。
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(日本財団子どもサポートチーム兼人材開発チーム チームリーダー 本山 勝寛)
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