「保険料の3割は経費等で消える」保険で老後に備える人が迎える残念な結末
プレジデントオンライン / 2020年11月28日 11時15分
■コロナ禍第3波のなか「家計を助ける保険の見直し」
「コロナ禍の影響で収入が減り、今までみたく高額な保険料は払えません。保険の見直しをしたいです」
「もともと、月に数万円も払う必要はないと思っています」
今年の春以降、保険相談にいらした方とこのようなやり取りをする機会が増えました。
収入減などが保険見直しのきっかけになるのは残念なことです。ただ、第3波のさなかにあって、家計の改善に役立てると実感もしています。以下、あらためて、見直しのポイントを整理しておきます。
■「老後」と「保険」の相性は最悪
保険料負担の重さに苦しむ人たちには、次のような共通点があります。
①「老後の保障を充実させたい」と考えている
②保険で「資産形成」を行おうとしている
③「保険販売に携わる人」に相談している
まず、老後の保障について、複数の保険会社で商品設計に関わってきた60代の方の言葉を引用しておきます。
「老後の医療費などは、健康保険と自己資金での対応が基本です。同世代の知人や友人にも『民間の保険で備えると高くつく』と助言しています」
その通りだと思います。老後と保険の相性は極めて悪いからです。
保険の利用が最適なのは、現役世代の世帯主が子供が自立するまでの一定期間、万が一に備えるような場合です。死亡率が低いので、安い保険料で大きな保障を確保できます。
老後の保障は逆です。高齢になるほど、入院するリスクなどは高まります。大病にかかる人も増えますから、手ごろな保険料で手厚い保障を得られるはずがないのです。
■保障内容等が「変わらないことは大きなリスク」
「若い時から一生涯の保障がある医療保険などに加入しておくと安心」とも言えません。契約内容が更新されないために、医療環境の変化などとともに、保障内容が劣化することもあるからです。
たとえば、厚生労働省の病院報告で「入院患者の平均在院日数(一般病床)」を確認すると、1999年では30.8日だったのが2019年では16日となっています。この20年ほどの間に、入院日数に連動している「入院給付金」の価値などは、ほぼ半減していると見られるのです。
開腹手術をしていた病気が投薬で治るようになり、「手術給付金」が出なくなっている例もあります。
1980年代の終わりに、入院時と死亡時の保障が手厚い「がん保険」に加入していた人が2000年代にがんに罹った時、通院治療だけで治ったため、給付金が全く支払われなかった事実もあるのです。
「一生涯の保障が安心」というのは願望にすぎず、保障内容等が「変わらないことは大きなリスク」だと痛感します。
■保険料の3割超が経費等に消える現実
もとより、保険におけるお金の流れは、簡略化すると「保険料-保険会社の経費・収益=各種給付金」となります。加入者全体で見ると収支はマイナスになるのです。
開示情報が乏しく、マイナスの割合は推計する以外にありませんが、筆者は、いくつかの会社の決算情報などから、医療保険やがん保険の場合、30~50%程度と見ています。
複数の保険数理の専門家に確認しても「経費だけで30%前後、給付を高めに見込んでおくことで余るお金もたっぷりある」とのことです。つまり、7万円用意するのに10万円を超えるお金がかかるわけです。これほど「お金を失いやすい仕組み」を、一生涯にわたり利用するのは賢明ではないはずです。
私たちは、幸運なことに国民皆保険の国に暮らしています。健康保険には「高額療養費制度」があり、健康保険が適用される医療費の自己負担には上限があります。低収入の人や高齢者に手厚い制度でもあります。
「高齢になるほど、保険で安心したい」という気持ちが切実であるほど、先の専門家による「老後の医療費などを民間の保険で用意すると高くつく」という言葉を思い出す必要を感じます。
■保険で資産形成は可能なのか?
次に、家計にとって、おそらく最も痛いのが、保険での資産形成をもくろむことです。手数料等の諸費用が高いからです。生命保険料控除による税の軽減効果を考慮しても、デメリットのほうが大きいはずです。
提案書・設計書・保険証券などで加入から1年後の返戻率(解約返戻金÷既払い保険料)を確認するとわかります。
大幅なマイナスであることが多いはずです。通常、契約から10年間、「解約控除」があるからです。保険会社が契約初期に発生した諸費用(販売手数料等)の未回収分を、経過年数に応じて、お客さまの積立金から差し引いて解約返戻金を支払う仕組みです。
■ツケは加入者に回る
契約初期に多額の費用が発生するのは、営業部門の動機づけを強くしたい保険会社の都合であるにもかかわらず、加入者にツケが回るのです。
したがって、1年後の返戻率が低い契約ほど、初期費用が高く「運用に回るお金が少ない」「自己資金が大きく減った状態から運用が始まる」と判断できるのです。
たとえば、保険料を米ドルなどの外貨で運用する「外貨建て保険」の月払い契約の場合、1年後の返戻率がゼロというケースもあります。
このような契約では「1年目の保険料は、ほとんど運用に回らない」と見られるのです。「1年でマイナス100%」の場合、他の費用が一切発生しないという非現実的な想定のもとに、20年で均しても毎年マイナス5%の逆風を受けながらの運用になるわけです。「論外だ」と即断できるでしょう。
■魔法の方法がない限り「有利」にはならない
保険料を一括払いする「一時払い保険」でも同じです。1年後の返戻率が93%の場合、「たとえば、退職金1000万円を投入したとたんに、70万円も手数料が引かれる。魔法のような運用法でもない限り、有利なはずがない」と想像できます。
残念ながら、保険会社は特別な運用法を持っているわけではありません。単に保険料を国内外の長期債券や投資信託で運用するだけなのです。
したがって、保険での資産形成については「余計な仲介料を保険会社に払いながら、債券投資など行うことになる」と認識したらいいと思います。
■保険会社の社員は何に入っているのか
以上の2点に留意すると、正しい保険との付き合い方は明らかです。(国や勤務先の保障制度なども含む)自己資金では対応不可能な大金が必要になる緊急事態のみ、保険で備えればいいのです。一般の方、特に会社員は子育て中の死亡保障くらいで済むことが多いでしょう。
実際、保険会社の内勤部門で働いている人たちも、あまり一般個人向けの民間の保険には入っていません。CMなどで宣伝されている商品は利用せず、社内で案内される「団体保険」で死亡保障を持つ程度にとどめているのです。
保険料は年間でも数万円で、月々数万円の保険料負担に悩む人たちとは対照的です。
■「保険を販売する人に相談する」という大矛盾
一般の人が高額契約を結んでしまう要因は、保険会社の営業担当者・代理店など「保険を販売している人たちに相談している」ことに求められます。
相談相手がFP(ファイナンシャルプランナー)の有資格者であっても、商品販売に関わる限り、顧客とは「利益相反」の関係です。
金融機関に所属しない「独立系」と呼ばれるFPでも代理店業務に関わっていることがあり油断できません。
家計のことを思うと、保険の利用は必要最小限にとどめたいところですが、販売に関わる人たちは、不要な保険であっても最大限に売るほうが潤うのです。
■「保険の見直し」による「保険の適正化」を
資産形成目的の契約などに力が入るのも当然です。「年間保険料×歩合」といった報酬体系の場合、まとまった額の老後資金などを用意する保険では、保険料も相応に高額になるからです。
したがって、一般の人が、適切な選択をするためには、保険販売による報酬を得ていない有識者に相談料を払って助言を求めるのが無難だと思います。
保険の見直しにより、保険料を大幅に削減(適正化)できる人は多いはずです。
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1959年生まれ。長崎大学経済学部卒業。アパレルメーカー勤務を経て日本生命に転職、営業職を約10年務める。その後、複数社の保険を扱う代理店に移る。2012年、営業マンと顧客の利益相反を問題視し独立。独自の視点から情報発信を続けている。主な著書に『「保険のプロ」が生命保険に入らないもっともな理由』(青春新書プレイブックス)、『生命保険の罠』(講談社+α文庫)、『いらない保険』(講談社+α新書)ほか、著書・メディア掲載多数。
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(オフィスバトン「保険相談室」代表 後田 亨)
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