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「相場予想は時間の無駄だ」レジェンド投資家が“儲かる話”に耳を貸さないワケ

プレジデントオンライン / 2020年11月29日 11時15分

2万6000円台になった日経平均株価を示すボード=2020年11月17日午前、東京都中央区(写真=時事通信フォト)

11月17日、日経平均株価の終値が29年ぶりに2万6000円を上回った。いまは株の買い時なのだろうか。農林中金バリューインベストメンツ最高投資責任者の奥野一成氏は「短期的な株価の動きに一喜一憂したり、専門家の予想を当てに投資したりしてはいけない。投資は長期で考えたほうがいい」という——。

■専門家も、証券会社も市場予想はできない

先日、米国大統領選がおわり、バイデン氏の当選確実が報じられました。折しも新型コロナウイルスのワクチン開発報道とも相まって、日経平均株価は先月末から13.2%、S&P500指数は10.4%上昇しました(11月17日時点)。

この1カ月余り、経済ニュース番組やWEBセミナーなどには、毎日のように証券会社等から「専門家」が登場し、大統領選の行方とその後の相場予想に弁舌をふるっていました。4年前にも8年前にも繰り返された光景です。皆さんの中にも、それらにしたがって株式の売買をした人も多いのではないでしょうか。

結果は悲喜こもごもだと思いますが、証券会社の相場予想を聞いて投資行動をとることは、はっきり言って危険です。なぜなら証券会社は顧客に株式を売買してもらうことをなりわいとしているので、相場にポジティブな予想をするバイアスがあるからです。

このことはアカデミックな研究でも報告されています。株式を売買させることで儲けている人から相場予想を聞くことは、散髪屋に入って髪を切るべきかと聞くのと同じことなのです。

そもそも予想はあたりません。4年前の大統領選を思い出してみましょう。オバマから引き継いだヒラリー・クリントンが圧倒的に優勢と言われる中、セクハラ、パワハラ、人種差別なんでもありのトランプが勝つと予想していた人はほとんどいませんでした。(私の手元にある当時のリポートによると、11名の専門家が90%以上の確率、または大差でクリントンが勝つと予想しており、トランプが勝つと予想している人は1人もいません)

■4年前の米大統領選で“専門家”は二重の間違いをした

そして、従来の経済政策を踏襲するクリントンに対して、メキシコとの国境に壁を築くなどと荒唐無稽なことを言っていたトランプの「アメリカ・ファースト」政策は、グローバル経済の仕組みを破壊するものとして、万が一トランプが当選したら株価にはネガティブだ、と口々に言っていました。

結果はと言えばご存じのとおり、専門家の予想に反してトランプが当選しました。そして、彼らのご託宣に反してトランプ当選後には株価は上昇しました。専門家たちは二重に間違った訳です。

もちろん、そんな中でも、予想を的中させた人もいたでしょう。テレビに出てくるコメンテーターが、「私は最初からトランプが勝つと言っていた」などとしたり顔でコメントしているのをみて、「へぇ、この人ってすごいんやな」と思った読者も多いと思います。

しかし、これは、テレビ局がたまたま予想を当てた専門家を見つけてきて、その言葉を採り上げているにすぎません。いわばマスコミによる「後出しジャンケン」です。これは報道番組中に流れる街頭インタビューで、どんなに少数意見であっても番組側の採り上げ方によって印象を操作できるのと同じことです。

■予想が当たらない構造的な原因

ここで、そもそもどうして予想が当たらないのか、について構造的に考えてみたいと思います。

まず、その専門家が企業や大学に所属するサラリーマンである場合、彼らは基本的には「無難」かつ「慎重」な予想しかしません。なぜなら、予想を当てたとしてもよっぽどのことがない限り、彼らの給料が上がったりはしないからです。反対に攻めた予想を出して大いに外した場合は、すぐさま減給になることはないものの、社内で冷たい目で見られ、そのうちに「専門家」としてのポジションから外されるのです。

都市景観の前で実業家のグループ
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

サラリーマン予想屋は、攻めた予想をすることのアップサイドが小さい割にダウンサイドが大きいので、真面目に予想をしようというインセンティブが湧かないのです。だから、彼らが語る新春の相場予想はほとんどが「現状の株価を中心値にした一定レンジで揉み合い」なのです。

では、その専門家がサラリーマンではなく、自分でリスクを取っているケースはどうでしょうか。例えば、著名な投資家が出す相場予想をイメージしてください。実はこれはこれで厄介です。なぜならその予想は実際に彼がとっているポジションをフォローする内容、いわゆるポジショントークになることが多いからです。簡単にいうと、彼らが「そうなってほしい」と考える「願望」です。

このように、その専門家がサラリーマンであろうと凄腕の投資家であろうと、普通の人にとって有益な予想がでてこない構造になっているのです。

■知識人バイアス……専門家は楽観論を口にしない

予想をゆがめるもう一つの構造的な要因が「知識人バイアス」です。

「専門家」たちは一般的に知識人と思われている人種です。そのような「知的な専門家」は楽観的な断言をさけ、悲観的な懐疑を口にしがちです。なぜなら大衆から「バカ」だと思われたくないからです。

世の中を懐疑的にみて、慎重論を述べている方が「賢そう」に見えるので、例えば現在のような好調な株式相場をみるとほとんどの専門家が「バブルの可能性」だとか「慎重になった方がいい」などと口にするのです。私はそのような人たちの予想が当たったのを見たことがありません。

これは日曜日の朝の情報番組を観ていても思い当たるでしょう。地政学問題、コロナ問題、社会情勢……すべての問題において、コメンテーターたちがしかめ面で問題をほじくり出し、「困った、困った」と言っています。そのほうが賢そうに見えるからです。盛り上げ役のはずのお笑い芸人までしかめ面をしているのは、まさに噴飯モノです。

彼らは、同じことを言うのでも悲観的な言い回しを用います。例えば「新型コロナは3年後に収束する」と言うより「3年間は収束しない」という表現を使います。これは、コップに半分水が入っていることを「半分しか水が入っていない」という表現をするのと同じです。そんな彼らが唯一ポジティブなコメントを出せるのが、ひいきのチームが勝った日のスポーツコーナーなのです。

■「相場は2割の人しか勝たない」ようにできている

以上のように、専門家の予想は構造的に当たらない、むしろ外れるようなバイアスがかかっています。予想が単なる確率論であれば、予想の正誤は50%の確率となるはずなのですが、このようなバイアスが構造的に存在するとすれば半分以上の確率で間違うということになります。これはこれで利用することが可能です。

相場の世界では、「あの人が強気になったら、そろそろ相場も終わりだね」とか、「あの人がポジションを投げたら(売却したら)、そろそろ買わなくちゃ」みたいな、いつも間違える人がいるものです。このような「ネガティブ・インディケーター」を見つけた場合は、大いに参考にすればいいでしょう。もちろん逆方向に、ですよ。

ノートパソコンで株価チャートをチェックする男性
写真=iStock.com/SARINYAPINNGAM
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SARINYAPINNGAM

先述のように、「専門家」の予想は構造的に外れるバイアスが働くうえに、中短期の相場という特殊な場所ではその傾向がより鮮明になります。なぜなら、「相場は2割の人しか勝たない」ようにできているからです。中短期で証券を売買する相場はいわばギャンブルのようなもので、「誰かが勝つときは誰かが負けている」構造です。

そのようなゼロサムゲームにおいては、大多数の人が勝つことはありえず、大多数の屍の上に2割の勝者が成立しています。大多数の人が「買いだ」と言って、強気相場の「熱狂的陶酔感(ユーフォリア)」に浸っているタイミングこそが、絶好の「売り」タイミングなのです。

■他人の意見や雰囲気に流されず、時間を味方に長期投資を

人間の心は弱いもので、大多数の人が「買いだ」と言っているところで「売りだ」とは言えないものです。最初は「これはバブルだ」と言っていた人たちが「バブルではないかもしれない」と言い出したら、そこが相場の天井になるのです。逆に、リーマンショック、大震災、コロナショックのように大多数の人たちが「世の中が終わるのだ」という局面こそが「買い」の好機になります。

このように中短期の株式市場は投機(ギャンブル)です。お金を賭ける場所ではありますが、お金を投資して増やす場所ではありません。だからこそ私は、一般の個人投資家の皆さんには、長期投資、オーナーとしての企業投資という、時間を味方につけるプラスサムゲームをお勧めしています(長期投資の重要性や、どのような投資をすべきなのかについては、前回詳しく紹介しましたので、そちらを参考にしてください)

もちろん、投資と投機の違いを認識したうえで、ギャンブルがしたいという人もいるでしょう。そういう人にとっては、中短期の株式市場は非常に適しています。なぜなら賭場に払うテラ銭(手数料)が他のギャンブル(競馬、競輪、宝くじ等)よりは圧倒的に少ないからです。

話が脱線しましたが、相場予想に限らず、人の予想は、「構造的に」当たらないようにできています。結局は、自らファクト(事実)にあたり、自分の頭で考え、自分の足で行動するしかないのです。大事なことは他人の意見や雰囲気に流されない「自分の価値観」を形成することなのです。

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奥野 一成(おくの・かずしげ)
農林中金バリューインベストメンツ常務取締役兼最高投資責任者(CIO)
1992年京大法学部卒。ロンドンビジネススクール、ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS 証券を経て 2003 年に農林中央金庫入庫。2014年から現職。バフェットの投資哲学に通ずる「長期厳選投資」を実戦。機関投資家向けファンドの運用総額は3000億以上を突破し、その運用哲学と手法をもとに個人向けにも「おおぶね」ファンドシリーズを展開している。著書に『教養としての投資』(ダイヤモンド社)がある。

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(農林中金バリューインベストメンツ常務取締役兼最高投資責任者(CIO) 奥野 一成)

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