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三浦瑠麗「米国の分断がなぜ進んだかを理解するための一冊」

プレジデントオンライン / 2020年12月4日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/da-kuk

■2016年の米大統領選で何が起きていたのか

久保文明・金成隆一著『アメリカ大統領選』(岩波新書)は、大統領選投票直前に出版された新書だ。本書を読めば大統領選の仕組みがわかり、長い歴史をコンパクトに学べるようになっている。ただ、本書の価値はもちろんそれだけではない。2016年の米大統領選の間に起きていたことを、選挙取材とその後の追跡取材のかたちでしっかりと指摘していることだ。16年に何が起きたかを本質的に理解していなければ、20年を理解することは難しい。

20年の大統領選は、16年とほぼ同じ構図だった。まず、いずれも共和党の大統領候補としてトランプ氏が出馬している。そして、ヒラリー・クリントン氏はワシントン政治のインサイダーとみなされたが、バイデン氏は8年間副大統領を務めた白人高齢男性。いわばエスタブリッシュメントだ。

今回バイデン氏が辛くも激戦州の大半を制して勝利したのは、都市部やマイノリティの高い支持に加えて、社会的に保守的な白人労働者をある程度奪い返せたからだろう。だが、米国では4年前と変わらず党派間に強い敵意が存在しており、いや増すばかりだ。

本書が引用するピュー・リサーチ・センターの調査によれば、民主党支持者の価値観はますますリベラルに、共和党支持者の価値観はますます保守になっている。大都市に住む比較的恵まれた白人有権者以外の、郊外や田舎の白人有権者が人種問題や移民問題を契機に共和党にどっと移動し、またマイノリティの人口比が増えたことで民主党が変質したからだ。

■米国がかつて経験したことのない事態

現在起きている変化は、白人が遠くない将来に絶対的マジョリティの座から転落することから生じている。米国がいまだかつて経験したことのない事態だ。

日本において移民が増えた結果、日系の比率が50%を割り込むことが予想されればどのような社会現象を生むだろうか。そうした事態が起こる以前に急旋回して社会が保守化するであろうことは想像に難くない。共和党が「不法移民」に不寛容になった背景には、そうした米国の白人の危惧がある。

米国はダイナミズムに富む国だ。不法移民バッシングが煽られる一方、女性の地位向上はこの4年間だけを見ても劇的に意識変化が起きている。18年の中間選挙では白人の高学歴女性は一気に民主党支持に傾いた。#MeToo運動が湧き起こり、また直前にカバノー連邦最高裁判事をめぐる性的暴行疑惑が報じられたためだ。日本では太平洋の向こう側の同盟国の分断を嘆く論調が多いが、分断の底には明白な価値観の差異がある。

米国では、共和党と民主党の競争がどのような対立軸に沿って行われるかが調整される過渡期にあるという見方ができる。白人が都市部と田舎、男女、学歴などの差を超えて1つになれない以上、必ず人種問題以外の対立軸が生じる。それを見守っていこうと思う。

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三浦 瑠麗(みうら・るり)
国際政治学者
1980年、神奈川県生まれ。神奈川県立湘南高校、東京大学農学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。著書に『21世紀の戦争と平和』(新潮社)、『日本の分断』(文春新書)など。

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(国際政治学者 三浦 瑠麗)

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