「年収620万円→実は200万円」出会い系での経歴詐称で慰謝料はとれるのか

プレジデントオンライン / 2020年12月1日 11時15分

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マッチングアプリは希望に沿う相手が見つけられるが、そこに書かれている経歴や年収が本当だとは限らない。弁護士の上谷さくら氏は「結婚前にパートナーとよく話し合うことが大切だ。そうでないと『結婚詐欺』などのトラブルに発展する可能性がある」という――。

※本稿は、上谷さくら、岸本学『おとめ六法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■まずは「法律婚」について知っておこう

結婚前と結婚後で一番変わることは、結婚して夫婦になると、法律によってさまざまな義務や責任を負うことです。たとえば、次のような義務があります。

・夫婦の協力義務(夫婦は互いに協力して生活しなければならない)
・夫婦の相互扶助義務(夫婦は互いに養わなければならない)
・夫婦の貞操義務(夫婦は互いに第三者と性的関係を持ってはいけない)

これらは、夫婦として「当たり前」のことと思えますが、ひとたび夫婦関係が険悪になったとき、法律は以下のようにあなたを拘束します。

・相手が無職になり、あなたにしか収入がなくなったとき→「相互扶助義務」によりあなたが相手を養わなければならない
・相手以外の異性にときめいたとき→「貞操義務」により恋愛できない

以上のような義務を免れるには、離婚という手続きを経る必要があります。結婚前のように、一言メッセージを送って別れる……ということはできません。

結婚とは、「相手と家族になる」ということです。「家族」とは、そのメンバーを一番近くで支えてくれるべき人々とされます。「家族」が簡単に離れたりひっついたりできてしまうと、メンバーを支えることはできないという考えからです。

■結婚にメリットってあるの?

法律婚の場合、一方の配偶者が死亡すれば、他方が死亡した配偶者の相続人になります。また、法律婚の夫婦の間に生まれた子どもは、認知なしに夫の子どもと推定されます。

さらに、法律婚の場合、所得税法・相続税法(贈与税)上の配偶者控除が受けられるというメリットがあります。これは、事実婚の場合は受けられません。また配偶者に対して贈与をした場合の配偶者控除も、事実婚の場合は適用されません。

日本人が外国人と法律婚をすれば、外国人に在留資格が生じえます。また、医療機関によっては、手術などの合意を、親族のほか法律婚のパートナーに限定している場合があります。しかしこれは法律で定められているわけではありません。

【あなたを守る法律】
民法 第752条 同居、協力および扶助の義務
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
民法 第760条 婚姻費用の分担
夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。
民法 第761条 日常の家事に関する債務の連帯責任
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。
ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。

■法律婚と事実婚の違い

事実婚とは、婚姻届を出さないだけで、カップルの双方が事実上の夫婦として生活する意思を有し、実際に夫婦と同様の生活を送るスタイルの結婚です。

若いカップル
写真=iStock.com/tantake
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「内縁」とは事実婚のことです。

憲法は「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し」と規定しており、「婚姻届の提出」を条件としていません。

事実婚は法律上、可能なかぎりで、婚姻届を提出した夫婦(法律婚)と同じように扱うこととされ、一定の法律上の保護を受けることができます。

しかし次のような点で、事実婚の夫婦は、法律婚の夫婦と扱いが違います。

・相手が亡くなったとき、相手の財産を「法定相続」できません。遺言により財産の遺贈を受けた場合でも、法律婚の夫婦間の相続の場合に比べ、税法上の優遇が受けられません。
・子どもができたときに、自動的には法律上の夫の子どもとは認められません。認知の手続きが必要です。

このほかにも、事実婚と法律婚では、法制度のうえで細かな取り扱いの差があります。

どのようなスタイルでも、しっかりパートナーと話し合って決めることが重要です。

■「他方はそう思ってなかった」という悲劇を防ぐために

事実婚は、「事実上」の関係であるため、法律婚とは違う方法で関係を証明する必要があります。「どちらか一人が事実婚と思っていても、他方はそう思ってなかった!」ということも起こりえます。

なんらかの書面を作成して万が一のときに備えておくことが有効です。

また、入籍はしないにしても親族・知人・職場関係者を招いて、結婚式・披露宴を挙げておくのもよいでしょう。

「事実婚」の証明に役立つものには、ほかに次のようなものがあります。

・一方が他方の健康保険上の被扶養者になっている
・一方が他方の生命保険の受取人になっている
・住宅の賃貸契約で両者が共同賃借人になっている
・住民票の続柄欄に「夫(未届)」「妻(未届)」と記載されている

同棲は、カップルが同居するだけで、夫婦として生活する意思まではない場合を指します。両者に「結婚」しているという「意思」があるかどうかが、同棲と事実婚の最大の違いです。

【あなたを守る法律】
憲法 第24条
1 婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻および家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
国民年金法 第5条 用語の定義
7 この法律において、「配偶者」、「夫」および「妻」には、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものとする。

■「結婚詐欺」は罪に問える?

刑法の詐欺罪は経済犯なので、金品をだまし取る行為がなければ、刑法上の詐欺にはなりません。「結婚するつもりがないのに、結婚をエサに金品をだまし取った」ということが必要です。

ワイン
写真=iStock.com/BrianAJackson
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そのため、仕事や学歴、年収などについて嘘をつかれていても詐欺にはなりません。

また、結婚できると一方的に信じて肉体関係を結んでも、犯罪にはなりません。

刑法の詐欺罪は、次の点を満たすかどうかによって判断されます。

・人をだましたり、嘘をついたりする
・だました被害者に勘違いをさせる
・被害者が勘違いのために財産を渡す
・加害者が被害者の財産を受け取る

刑法の「詐欺罪」が認められるには、加害者の行為が上記4つをすべて満たし、それらに因果関係があることを証明する必要があります。

上谷 さくら(著)、岸本 学(著)、Caho(イラスト)『おとめ六法』(KADOKAWA)
上谷 さくら(著)、岸本 学(著)、Caho(イラスト)『おとめ六法』(KADOKAWA)

たとえば「だますつもりはなかったが、被害者が勘違いをして代金を支払った」という場合は詐欺とはみなされません。

詐欺は証明することが難しい犯罪です。加害者側が「だますつもりはなかった」「被害者が勘違いしただけ」と主張した場合、そうでないことを証明するのがどうしても難しいためです。被害者が複数いるのであれば、証明がしやすくなる場合があります。

民事訴訟の場合、相手に支払いをした内容や経緯、代金の請求の手順などのさまざまな要素に問題がなかったかどうかをさまざまな角度から検証し、契約の無効や取り消しを主張していくことになります。

■「自称620万円」の男性が年収を詐称していたら

【事例1】
28歳の女性。マッチングアプリで、年収620万の38歳の男性と知り合った。年は上だが、話しやすく意気投合。気になるのは、やたら高級なレストランに行きたがるわりに、「今は結婚資金を貯めておきたいから」などと言い、私に奢らせることだ。
しかし、それ以外は気になるところはなかったので、順調にお付き合いを進めていた。いよいよ結婚の話になったが、そのとき実は、相手は年収200万円で離婚歴があり、元妻が引き取った一人息子のために養育費を支払っているということがわかった。
相手の男性からいままで払った食事代と慰謝料を取りたいが、可能か?
【ANSWER】
相手にご馳走したことは、「贈与」となりますので、食事代を取り戻すことはできません。また、年収について嘘をついていたこと、離婚歴があること、養育費を払っていることについて黙っていたことは、人としてどうかという問題はともかく、その事情だけで慰謝料を請求することは難しいと思われます。女性が、その男性の言葉を信じて積極的に結婚に向けて相応の準備を進めて出費をしていたり、婚約が成立して仕事を辞めていた等の事情があれば、請求できる可能性があります。

■いざというときに知っておきたい法律

マッチングアプリには、条件が合う人を探せるという利点もありますが、虚偽の情報が混ざっている可能性もありますので、慎重に利用しましょう。

【あなたを守る法律】
刑法 第246条 詐欺
1 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
民法 第587条 消費貸借
消費貸借は、当事者の一方が種類、品質および数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
民法 第703条 不当利得の返還義務
法律上の原因なく他人の財産、または労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

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上谷 さくら(かみたに・さくら)
弁護士 第一東京弁護士会所属
福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。保護司。

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(弁護士 第一東京弁護士会所属 上谷 さくら)

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