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国民がGoToに浮かれる折も折、皇居内で執り行われたやんごとなき儀式の全容

プレジデントオンライン / 2020年11月26日 17時15分

11月21~23日の三連休の嵐山界隈はコロナ感染症拡大前の様相 - 撮影=鵜飼秀徳

紅葉が見ごろを迎えた全国の観光地が人でごった返す中、11月23日に皇居内で重要な儀式が行われた。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳氏は「天皇が国や国民の安寧・五穀豊穣を祈るため古くから執り行ってきた新嘗祭と、23日の勤労感謝の日には『1年の収穫物(生産活動)に感謝し、奉納する』という共通項があります」という——。

■新型コロナの第3波到来の中、観光地は人出でごった返し

先日の三連休(11月21~23日)の京都・嵐山は全国各地からの人出でごった返した。例年のことではあるが紅葉の美しいこの時期、名勝・渡月橋からほど近い私の寺では、法事が多くなる傾向にある。檀家さんの多くが、紅葉狩りと法事を兼ねてやってくるのだ。

この三連休では、1日に2座を務めた。しかし、いずれも開始時間が大幅に遅れるハプニングが起きた。近隣の道路が大渋滞したからだ。こんなことは初めてだ。

新型コロナウイルスの第3波到来によって、公共交通機関の利用を避け、多くがマイカーで移動した結果と思われる。合間を見て嵐山に様子を見に行くと、他府県ナンバーの車やバスが延々と続いている。冷え切った観光需要が多少でも回復すればよいが、一方で、コロナ感染症の第3波の拡大も心配な要素ではある。

■23日の勤労感謝の日の起源は「新嘗祭」であることをご存じか

三連休最後は、国民の祝日「勤労感謝の日」だった。一見地味な祝日ではあるが、世のビジネスパーソンの生産活動の労を労い、お互いに感謝し合うことが趣旨だ。

しかし、その起源は天皇が古くから執り行ってきた「新嘗祭」にあることをご存じだろうか。勤労感謝の日と、新嘗祭との共通点に疑問を持つ人も少なくないだろうが、「1年の収穫物(生産活動)に感謝し、奉納する」といえば、納得であろう。

テレビのニュースを見ていても、「GoToトラベル」の一時中断などコロナ関連の話題に終始していて、今年の新嘗祭の話題はあまり取り上げられていなかった。だが、実は皇室にとって、1年間を通して最も大事な儀式がこの日行われていたのだ。

本稿では、日本人のアイデンティティともいえる宮中祭祀、新嘗祭を紹介しながら、昨年実施された大嘗祭のその後を追ってみたいと思う。

新嘗祭とは天照大神などの神々にたいし、天皇自らが食事をもてなす祭祀である。新嘗祭には「新穀を嘗める(食べる)」という意味がある。

■国民がGoToに浮かれている折も折、皇居で執り行われた重要儀式とは

儀式が執り行われるのは宮中三殿(皇居吹上御苑にある3つの神社)の廊下の奥にある「神嘉殿(しんかでん)」という聖なる場所。神嘉殿の中に、神が座る神座と、神が休む寝座、そして天皇が座る御座、が設けられる。儀式は午後6時からと午後11時からの2回(有の儀、暁の儀)。それぞれ2時間ずつかけ、同じ内容で実施される。

2019年11月の大嘗宮一般公開の様子
撮影=鵜飼秀徳
2019年11月の大嘗宮一般公開の様子 - 撮影=鵜飼秀徳

長時間の正座を余儀なくされる儀式なので、現上皇さまが天皇だった時、新嘗祭のおよそ1カ月前から正座の訓練を続けられていたという。足がしびれて儀式に集中できなくなることのないように、との思いであった。それほど、天皇にとって新嘗祭は大事なのだ。

その儀式の内容は、秘められている。天皇と陪膳采女(はいぜんうねめ)と呼ばれる女官のみが、神嘉殿の中に入れる。したがって、所作の詳細は天皇になって始めて知ることができるという。

新嘗祭では、この年に収穫されたばかりの新穀が神前に供えられる。新穀で作った御飯や御粥、酒のほか、干物(鯛、いか、鮑、鮭)、果物(干柿、棗、栗など)など。

天皇は、神々への供物を柏の葉の小皿に自ら盛り付ける。そして、神々と一緒にご飯を食べるのである。これは「神と天皇とが一体になる」ことを意味している。新嘗祭が特に宗教色の強い儀式と呼ばれる理由はここにある。

■天皇の最初の新嘗祭=大嘗祭に行ってわかったこと

この新嘗祭、昨年は「大嘗祭」という名称で11月14日に執り行われた。大嘗祭とは、新たに即位した天皇の最初の新嘗祭のことを指す。一世につき一度きりの重要儀式であり、大嘗祭をもって正式に神々から皇位継承を認められるのである。

大嘗祭の様子はテレビや新聞などで大々的に報道されたので、記憶に新しい人も少なくないだろう。大嘗祭では、それを執り行うためだけの「大嘗宮」と呼ばれる特別な神殿が建設される。そして儀式が終われば、速やかに取り壊される。

昨年の大嘗祭終了後には、大嘗宮が一般公開された。実は私も京都から、わざわざ見に行った。大嘗宮を見られる機会は一生に何度もあるものではないからだ。この一般参観には、78万人もの人が訪れた。

大嘗宮は見事な神社建築である。祭場となる「悠紀(ゆき)殿」「主基(すき)殿」のほか大小およそ40棟もの建屋で構成されている。その設営を担ったのは、60年に一度の「出雲大社 平成の大遷宮」を手がけるなど、伝統的宗教建築物を得意とする大手ゼネコン・清水建設だった。

大嘗宮に使われた木材は、全国からの選りすぐりのもの。長野産の唐松や北海道産のヤチダモなどの、皮付き丸太を使った古代の建築法が採用された。大嘗宮はおよそ2カ月かけて、計120人の宮大工によって完成した。

■大嘗祭の建屋の主要な木材はバイオマス発電の燃料に再利用

ちなみに、清水建設の入札金額は9億5700万円(税込み)。「国民の負担を最小限に」との天皇陛下の御意向をふまえ、前回の大嘗宮の時に比べて8割ほどの広さに抑えられた。一部建屋では、プレハブ建築も採用された。

大嘗宮は清水建設が手がけた
撮影=鵜飼秀徳
大嘗宮は清水建設が手がけた - 撮影=鵜飼秀徳

前回、平成の大嘗祭の時には消費税が3%であったが、令和の大嘗祭では10%に引き上げられたことも規模縮小の理由となったようだ。

儀式が終了した大嘗宮は、「焼納(神聖なものを焼いて奉納すること)」されるのが通例という。しかし、今回は2000年に制定された「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(建設リサイクル法)」によって、再利用されることになった。

一時は住宅建材などに転用されることも検討された。しかし、部材の多くに穴が開いていたり、丸木は乾燥されていなかったりして、住宅用には不向きであった。

建材の再利用法は、意外なものだった。建屋の主要な木材はバイオマス発電の燃料に、庭の柴垣や砂利は公園に移設されたのだ。

大嘗宮の建材はバイオマス発電に再利用された
撮影=鵜飼秀徳
大嘗宮の建材はバイオマス発電に再利用された - 撮影=鵜飼秀徳

バイオマス発電とは、その燃料である木チップを燃やしても二酸化炭素の増減に影響を与えない「カーボンニュートラル」の考え方によって、成り立っている。地球温暖化を加速させない次世代の発電として注目を集めている。

しかしながら役割を終えた後とはいえ、大嘗宮は聖なる建築物。たとえば古いお札やお守りなどはきちんとお焚き上げするだろう。そのため、再利用化に反対する声が上がったのも事実だ。

だが、宗教儀式もある程度は、産業界の動向と歩調を合わせることが求められる時代になったということ。それを令和の大嘗祭が示唆してくれた。その一方で、大嘗宮のバイオマス化は、意外にも「お焚き上げ」を考えた結果だったのかもしれない。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『仏教抹殺』(文春新書)など多数。近著に『ビジネスに活かす教養としての仏教』(PHP研究所)。佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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