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独身が増え続ける原因を「若者の恋愛離れ」にしたがるメディアの大ウソ

プレジデントオンライン / 2020年11月30日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chalabala

■昔の若者は草食ではないし、恋愛力も高かった?

人間とは不思議なもので、事実を信じるのではなく、自分が信じたいものを事実と考えるようになるものです。それが、たとえ虚構だったとしても。つまり、信じたくない事実は、事実として認められず、闇に葬り去られるのです。

日本の未婚化・非婚化を論じるときに必ず「若者の草食化」とか「若者の恋愛離れ」という話が出てきます。これは、裏返せば、昔の若者は草食ではないし、恋愛力も高かったということを言いたいのかもしれませんが、果たしてそれは本当でしょうか?

今月14日に、NHKが「結婚や異性と交際していない人増加 女性は20年で1.5倍に」というニュースを報じ、話題になりました。こういう報道を見て、世のおじさんたちは「そうだな、その通りだな。イマドキの若いもんは……」と膝を叩くのでしょう。しかし、申し訳ありませんが、少なくとも「恋愛において若者が草食化した」などという事実はありません。虚構です。

このニュースで報道された言説のもとになっているのは、国立社会保障・人口問題研究所が5年おきに発表している「出生動向基本調査」の中の、「独身者調査」に基づくものです。そこには、未婚男女に対して「現在の交際状況」を聞く項目があります。この質問は、少なくとも資料をさかのぼると、1982年の調査(当時は「出産力調査」という呼び方)から始まっています。しかし、なぜか報道では1992年からの推移しか追っていません。

実際、1982年から、18~34歳までの未婚男女の「恋人のいる率(婚約者ありも含む)」というのがグラフ化したものが図表1となります。

恋人がいる率は30年前からほぼ変わらない

■「恋愛強者3割の法則」とは

確かに、2015年の調査では、男性21.3%、女性30.2%と1992年以降で見れば下がり続けているように見えますが、1982年と比べれば、男性は21.9%とほぼ変わらないし、女性は23.9%でむしろ6ポイントも上昇していることになります。2000年ごろに恋愛人口が増えているのは単純に当該年代の人口増によるものです。

1982年から2015年までの30年強の長期的なスパンでみれば、男女とも「恋人がいる率」というのはいつの時代も2割~3割台程度の間に収まっていると見た方が妥当です。これを僕は「恋愛強者3割の法則」と名付けています。

これとは別に、自分が主宰しているラボでも2014年以降、未婚者の「恋人がいる率」を毎年調べていますが、出生動向基本調査と同様、大体男女とも3割前後の数字で一定しています。

よくよく思い出していただきたいのですが、たとえば高校時代、クラスの中で女子と付き合っていた男子の比率なんてせいぜい多くて3割程度ではなかったでしょうか。バレンタインにチョコをもらえる男子より、もらえない男子の方が多かったのではないでしょうか。「恋愛強者3割の法則」とは、つまり、恋愛していた男女はせいぜい3割であって、あとの7割のマジョリティは恋愛無縁層だったということです。

■「異性の友人」も恋人に入れている?

出生動向基本調査の数字の切り取り方にも問題があります。世間には「何がなんでも、今の若者は草食であってくれないと困る」という考えの方がいるもので、そうした方は「恋人がいる」という数字だけではなく、そこに「異性の友人がいる」という数字を加算して、「恋人がいる+異性の友人がいる」の合計を「恋愛している人」という定義にしています。

男性と女性がテーブルの上で手を重なる
写真=iStock.com/lechatnoir
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lechatnoir

「異性の友人」というのはあくまで「友人」であって「恋人」ではないし、大体において告白をした際に「良い友人でいましょう」と返された場合、それは拒絶と同義です。そもそも単なる友人のことを交際している(付き合っている彼氏や彼女)と脳内変換してしまうようなら、それはもうすばらしく純情な人か、あるいは、ストーカー的思考を持った人ではないのかと思います。

1980年代、「恋人あり人口」は男性の方が多いのですが、この当時いわれた言葉が「アッシー・メッシー・みつぐくん」でした。当人は彼氏気分だったかもしれませんが、それは付き合っていたうちには入らないのです。

■男女間で10ポイントも差がつく理由

さて、「恋人がいる率」のグラフをご覧になって、何か違和感を覚えた人もいると思います。男女で「恋人がいる率」に10ポイントもの差があることです。1982年こそほぼ男女同率でしたが、1987年以降はほぼ女性の「恋人いる率」がいつも男性より高くなっています。

これは、決して、既婚者に騙(だま)されて不倫交際をしている女性が多いとか、男性の二股交際が多いということを意味するのではありません。もちろん、そうした事例も中にはあるでしょうが、この男女の率の差は、そもそものこの年代の未婚男女の人口差によります。

2015年の国勢調査によれば、20~34歳までの未婚男女は、男性の方が約99万人も多いのです。20~50代までに拡大すれば、未婚男性が女性より300万人も多い「未婚の男余り現象」といいます。

これは、元来男児の方が出生数が多いことによります。それでも昔は男女比率がほぼ同じだったのは、女児に比べて男児の方が乳幼児死亡率が高かったからです。しかし、医療の発達で乳幼児死亡率は大幅に改善されました。よって、生まれた男児はそのまま成人していくため、結果的に人口動態的には、「男余り」が発生します。これは日本だけではありません。アメリカでも900万人、中国では3000万人以上、インドに至っては5000万人もの未婚男性が余っています。そうした人口動態により、男性は女性より恋愛する機会は少なくなります。

■恋愛強者による「時間差一夫多妻制」が起きている

そして、これは自由恋愛になればなるほど、格差が広がります。昨今離婚が増えて、よく「3組に1組は離婚する」とも言われていますが、離婚した男性は、再婚率も高く、その相手は初婚の女性を選びます。要するに、一部の恋愛強者の男性が次々と初婚女性と結婚と離婚を繰り返すという「時間差一夫多妻制」によって、未婚のままの男性はそのまま生涯未婚で過ごすことになるというわけです。

常に3割はいる恋愛強者の影で、一度も恋愛経験のない恋愛最弱者男性も3割存在する背景には、そういうカラクリがあるのです。

「恋愛強者はいつの時代も3割しかいない」という話をすると、真っ向から反論をする人がいます。「恋愛できる人間が3割しかいないなら、1980年代までの皆婚時代は実現しなかったはずだ。やっぱり今の若者がだらしないのだ」と。

既婚者が全員恋愛強者だと思っているんでしょうか?

前回書いた「岡村隆史さんの「年の差婚」を羨ましがる中年男性に降りかかる現実」で、婚姻数が減っているのは「夫年上婚」の減少だという話をしました。「夫年上婚」の大部分を支えていたのは、まさに伝統的な「お見合い婚」です。

これも出生動向基本調査にありますが、日本において、「恋愛婚」が「お見合い婚」を抜いたのは1965年ごろです。そこから「お見合い婚」比率はどんどん下降し、2015年にはわずか5%程度になりました。

ノートパソコンで作業する女性
写真=iStock.com/Rawpixel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rawpixel

■「皆婚」を支えていたのはお見合いだった

さて、ここで思い出してほしいのは、かつて生涯未婚率と呼ばれた50歳時未婚率は、1920年の国勢調査以来、ずっと男女とも5%以下でした。それが5%を男性がはじめて突破したのが1990年です。ここが、明治民法によってスタートした「100年の皆婚時代」の終焉と言われています。

1990年に50歳だった男性とは、1940年生まれで、お見合い婚が過半数を割った1965年に当時の結婚適齢期といわれる25歳だった人たちです。つまり、100年続いた皆婚とは、決して若者の恋愛力によるものではなく、お見合いという社会的お膳立てによって支えられていたものであるといえます。

さらに言えば、2010年男性の50歳時未婚率は20%を超えましたが、彼らは1960年生まれで、20代を1980年代というバブル時代および恋愛至上主義時代ですごした人たちです。あの時代、多くが恋人を有し、恋愛を謳歌していたかのように錯覚している人がいますが、図表1で示した通り、現代と変わらず、3割しか恋愛なんてしていません。

■自力で恋愛結婚している層はほぼ減っていない

婚姻数が減ったのは、若者が恋愛しなくなったからと結論づけたい人もいるようですが、それも関係ありません。恋愛と結婚は別です。次に示すグラフは、婚姻数(初婚)と社会的なお膳立てに頼らず自力で恋愛結婚した夫婦の数を表したものです。初婚数は人口動態調査から、自力恋愛結婚数は、出生動向基本調査の「夫婦の知り合ったきっかけ」の中から、「お見合い・結婚相談所」と「職場での出会い」を除いたもので独自に算出したものです。

見合いや職場に頼らない「自力恋愛結婚数」は増えている

これを見れば一目瞭然。初婚数は最盛期だった1970年代の半分まで激減していますが、「自力による恋愛結婚数」は1970年代以降現代までそれほど減少していません。実質この50年間、お膳立てによらず自力で恋愛し、結婚する層は一定数いるといえます。

■「若者の恋愛離れ」にすり替えてはいけない

婚姻数が減った原因とは、見合いと職場婚という社会的な結婚お膳立てシステムの崩壊によるものであり、草食化や恋愛離れなどという若者の意識の問題ではないと解釈すべきです。

ちなみに、なぜお見合いだけでなく「職場での出会い」も除くかというと、そもそも日本の戦後の結婚ブームを支えていたのがまさにこの「職場結婚」だったからです。今では問題視されますが、当時の企業は男性社員の結婚相手候補として女性社員の採用を考えていました。当時は「腰掛けOL」を経て「寿退社」するのが典型的な女性のルートでした。結婚式の仲人はほぼ会社の上司が担当しました。

その職場結婚も現在は激減しています。きっかけは1997年のセクハラ裁判と言われています。企業も男性自身も、職場で付き合うということがリスクに変わってしまったのです。

もちろん、職場での出会いにおいても純粋な自力恋愛結婚もあったと思いますが、従来のお見合いに代わって職場縁という新たな社会的お膳立てが結婚減少を穴埋めしてきたのが70~80年代の姿です。

少子化の問題は、基本的には非婚化の問題であり、結婚する人が少なくなればなるほど自動的に出生数は減ります。かといって、今更、昭和の結婚お膳立てシステムに回帰することはできないでしょう。何より問題の根源を若者の意識にすり替えるのはやめていただきたいと思います。

それは、おじさんの留飲を下げるだけで何の問題解決にもなりません。今のアラカン世代もその上の80代の世代も、少なくともその7割は自分たちの恋愛力によって結婚できたわけではないのですから。

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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会―「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち―増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』(ディスカヴァー携書)など。韓国、台湾などでも翻訳本が出版されている。

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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)

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