「弱点は克服するな」どの業界もトップセールスは劣等感を持った人が多い
プレジデントオンライン / 2020年12月13日 9時15分
※本稿は、和田秀樹『感情の整理学』(エクスナレッジ)の一部を再編集したものです。
■人間は他人と比べたがる動物
私たち人間は、「人と比べたがる」動物です。仕事ができる人を見て「とてもかなわない」、ドジな人を見て「自分はまだマシ」と常に反応してしまいます。
そして「劣等感」「コンプレックス」、つまり、「自分は人より劣っている」という感情に悩まされます。頭が悪い、能力がない、背が低い、ブサイク、口ベタ、地方出身など、なんでもその原因になります。
劣等感にとらわれて「どうせなにやってもダメ」と、自分から可能性を閉ざしている人も多いといえます。なんとも残念です。その欠点は、武器になるかもしれないのに。
■トップセールスマンに朴訥タイプが多いワケ
「あがり症」に悩んでいて、「克服したい」と相談にきた自動車のセールスマンがいました。いかにも実直な感じですが、質問するたび顔がまっ赤になって、返事もしどろもどろ。要領も悪そうで、「セールスマンとしては、さぞ苦労しているだろうなあ」とこちらが心配になるほどでした。
ところが周囲からの情報が集まると、彼はなんと1年に100台以上の車を売り上げる、トップセールスマンでした。何度か話を聞くうちに、理由がわかりました。とても誠実で一生懸命であるだけでなく、あがり症である点がかえって顧客に安心感を抱かせていたのです。
セールスマンは口八丁手八丁と思われがちですが、そういうタイプは実際には相手に警戒感を抱かせることが多いものです。そのため、どの業種でも売り上げトップになるのは意外に朴訥な人が多いです。
「あがり症は、あなたの大きな武器だと思いますよ。克服なんかすると強みを失うことになるのでは」と私が言うと、彼は「わかりました。私はこれからも、口ベタであがり症なセールスマンとしてやっていきます」と、ニッコリして帰られました。
■森田療法式「欠点を見ないで目標を見る」
それでもやはり劣等感にとらわれてしまう、という人には「欠点を見ないで目標を見る」という、森田療法の方法をお勧めします。赤面症に悩む、もうひとりの学生さんとのやりとりを再現してみます。
【和田】「顔が赤くなると、なにがマズいのかな?」
【学生】「ヘンな人だと思われます」
【和田】「そうか、あなたは人に好かれたいんですね」
【学生】「……でも、こんな顔ではムリです」
【和田】「うーん、私も精神科の医者を長くやっていますが、顔が赤くなるけれど愛されている人は何人も知っていますよ。もっと知っているのは、顔が赤くならないのに嫌われてる人です」
【学生】「それは目からウロコです」
【和田】「私には赤面症は治せないけれど、あなたが好かれる方法……印象を明るくするとか、話がはずむ方法とかなら、一緒にいくらでも考えられますよ」
治しようのない欠点のことを悩んでも、ラチがあかない。だから「なりたい自分」に向かって「改善」を工夫して自分を高めよう、という考え方です。
■最良の克服法は「得意で熱中できるもの」を伸ばす
そして、すべての劣等感の、最良の克服法は「ひとつでいいから、自分が得意で熱中できるものを、脇目も振らず伸ばす」こと。
たとえば私は小学校のとき、そろばんを始めたところ1年で3級になることができました。それが大きな自信になって、学校でイジメられても、運動音痴でも、メゲずにいられました。そろばんつながりで算数・数学が好きになり、それを伸ばして東大に入り、医者になりました。
年収数億円のユーチューバーが続出するなど、特技を生かせる仕事の幅は広がっています。目標を立てて得意なことに打ち込めば、気づいたら劣等感なんて吹き飛んでいますよ。
■ひどい目に遭わされた相手は「うらんでもいい」
いじめの話をしましたが、弱点やコンプレックスを武器にできる人がいる一方で、自分がひどい目に遭わされた相手に対し、「許せない」という気持ちから抜け出せない人もいます。どれだけ時間がたっても、くり返し、くり返し、ドロドロとしたうらみがわいてきて苦しい、というパターンです。
この場合、弱点を武器にするどころの話ではありませんね。
生きていく中で、家族や他人に対しうらみのような感情を抱えてしまうこともあると思います。そういう人に対し私は、「うらみ続けていい。許さなくていい。無理して消すことはないんだよ」と伝えるようにしています。自分の本当の気持ちを受け入れると、少し気がラクになるのです。
そのうえで、「動いて気分転換」を試みます。ドロドロした感情は「手洗い」「うがい」「トイレ」「シャワー」「洗濯」など、水に流すアクションですっきりしやすいです。
■うらみを受け入れた後は「損得」を考える
うらみがわくたび、「うらんでもいいんだ」と受け入れて気分転換していると、そのうち、ちょっと飽きてくるかもしれません。そこで次に「損得」を考えてみます。
どうしても許せないアイツは、いま、どこでどうしていると思いますか? あなたを傷つけたことを深く悔やんで、つらい毎日を送っているでしょうか?
残念ながらおそらく、きれいさっぱり忘れて元気に生きているでしょう。にもかかわらず、あなたはずっとうらみにとらわれ、長いこと苦しみ続けている。
「ああ時間がもったいない、バカバカしい」そう思えたら、うらみの手放しどきです。「おまえを許す。サヨナラ」と、洗面台にでもジャージャー流してしまいましょう。
■「絶望名人」カフカも4回恋をした
しかし、なかなか「うらみっこなし」にはなれない深い痛手もありますね。
「将来に向かって歩くことは、ぼくにはできません。将来にむかってつまずくこと、これはできます。いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」これは『絶望名人カフカの人生論』(飛鳥新社)にある、作家フランツ・カフカの言葉。常に悩み、弱音を吐き、『変身』『審判』などの作品で悪夢を書き続けました。
それも発表する気はなく、全原稿の焼却を友人に頼んだのですが、カフカの死後、友人が遺言にそむいて次々に刊行したおかげで、20世紀を代表する作家に。
読者からは「心が沈んだときに暗すぎるカフカを読むと、なぜか勇気づけられる」「絶望感たっぷりなのに笑ってしまう」……と、救われたという声が多いそうです。
絶望ばかりしつつ、カフカはプラハの保険局で役職に就き、4回恋をして婚約者に500通も手紙を送りました。死因は結核で、自殺はしていません。
どん底まで落ちても、あせることはない。ボヤく場を見つけて、マイペースで、やれることをやっていけばいい。カフカを読んで、「なんだ、こんなんで生きていけるんだ」と気がラクになる人は、とても多いと思います。
■うらみを抱えたままでも何だってできる
私もよく患者さんに「気持ちが打ちのめされたら打ちのめされたまま、落ち込んだら落ち込んだままでもいいんですよ」と言います。
「うつむいて生きるのも悪くない、というくらいの気持ちになったほうがラクです。心の自然治癒力を信じて、自分をよくいたわって、生活のリズムだけは守っていってください」とアドバイスすることもあります。
うらみはやっかいですが、うらみつらみを抱えたままでも、なんだってできます。カフカを見習って、創作でも仕事でも恋でも、手当たり次第にやってみましょう。
ジョギングや筋トレなど「やっている間は頭がからっぽになる」運動も、気分転換に最高です。うらんでもいい。ただ、うらみから「離れる」時間を増やしましょう。
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国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。
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(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹)
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