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実体経済を上回り日経平均"29年ぶりの株高"を導き出した投資家の心理

プレジデントオンライン / 2020年11月30日 18時15分

上昇した日経平均株価を示す電光ボード=2020年11月25日午前、東京都中央区 - 写真=時事通信フォト

■海外投資家が日本株に資金を振り向け始めた理由

11月25日、日経平均株価は2万6296円で終了した。この水準は、およそ29年ぶりの株高レベルだ。世界の主要投資家は、低金利環境の継続や、複数の新型コロナウイルスワクチンへの期待を高め、より積極的にリスクをとっている。それが、日経平均株価を29年ぶりの水準に押し上げた主な要因だ。

コロナワクチン開発への期待は、経済の正常化への思惑を通して株式市場の様相を少しずつ変えつつある。というのも、それまで上昇の中心だった米GAFAMなどのIT先端企業から、コロナショックに直撃された株価が低迷気味だった銘柄に注目が徐々に移り始めている。

そうした投資家の投資銘柄の変化は、産業へのセクター・ローテーション(資金の振り向け)と呼ばれる。その流れを受けて、海外投資家は出遅れ感が目立った日本株に資金を振り向け始めているようだ。今後の展開を考えた時、もう少し、わが国をはじめ世界的な株高環境は続く可能性がある。なぜなら、FRB(米連邦準備理事会)などの主要中銀が金融緩和を重視しているからだ。

ただ、いつまでも株価が上昇し続けることはない。欧米では感染の再拡大によって景気回復ペースが鈍化し始めた。いつ、どのような効果のあるワクチンが世界全体に供給されるかも不透明だ。そうした不確定要素が世界の株式市場にどう影響するかは冷静に考えなければならない。

世界的な株高の影響で、主要国の株価は軒並み高値圏にある。一部には既にバブルの域との指摘もある。冷静さを忘れてはならない。

■有力ITプラットフォーマー不在で景気回復が鈍化

わが国の株価は海外投資家の行動に大きく影響される。11月第2週の売買合計金額を見ると、東京証券取引所の第一部に上場する株式の7割、日経225先物の87%が海外投資家だ(ともに委託取引に占める割合)。事実上、海外投資家が日本株を買えば、わが国の株価は上昇する。反対に、彼らが売れば株価は下げる。

海外投資家にとって、日本株は“世界の景気敏感株(世界経済の動向を敏感に反映する株)”だ。わが国では、人口の減少と少子化、高齢化が3つ同時に進み、経済は縮小均衡に向かっている。そのため、相対的に成長期待の高いアジア新興国などに進出して業績拡大を目指す企業が増え、米中など海外の景気動向やドル/円などの為替レートの変動が企業業績に与える度合いが増した。

国際協力銀行が実施した『わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告』によると、2002年度に27.9%だったわが国製造業の海外売上高比率は、2018年度に38.7%に達した。非製造業の分野でも、海外経済の影響は増大傾向にある。中国をはじめとする外国人観光客の増加は、飲食や宿泊、百貨店、航空、陸運などのセクターに追い風となった。

海外の要素に依存して持ち直したわが国経済にとって、新型コロナウイルスが与えた影響はあまりに大きかった。3月下旬以降の米株式市場では、カネ余り環境が鮮明となる中で、アマゾンなど有力ITプラットフォーマーの業績拡大や経済のデジタル化の加速によるIT先端企業の成長期待が高まり、米ナスダック総合指数を中心に株価は大きく上昇した。米GAFAMなどは成長期待の高い“グロース株”の典型例だ。

一方、わが国経済には有力ITプラットフォーマーが見当たらず、機械や自動車などが経済を支えている。世界的な移動制限によって、インバウンド需要も消滅した。その状況下、わが国の景気回復には米中以上の時間がかかる。そうした見方に基づいて、世界の主要投資家は日経225先物などを売りに回った。それが、日本株の戻りの鈍さの原因だった。

■値嵩株と日経225先物で利得狙う海外投資家

11月に入ると株式相場の潮目が変わった。3日の米国の大統領選挙の終了によって先行きのリスクが低下した。そのうえ、5日の米連邦公開市場委員会(FOMC)にて当面は低金利(カネ余り)環境が続くことが確認され、多くの投資家がリスクテイクに積極的になった。さらに、ワクチン開発への期待が高まり、リスクテイクが勢いづいた。

ワクチンは世界経済が新型コロナウイルスを克服するために欠かせない。米欧の大手製薬企業の治験で有効な結果が得られたことを好感し、主要投資家は先回り的に世界経済が回復に向かうとの期待を強めた。結果、株価上昇が顕著だったIT先端銘柄を売り、コロナショックに直撃された在来産業(エネルギーや航空など)を購入する“セクター・ローテーション”が起きた。

コロナウイルスCOVID-19ワクチンを準備する医師
写真=iStock.com/FilippoBacci
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FilippoBacci

その一環として海外投資家は、有力ITプラットフォーマー不在であり世界を代表する“バリュー(出遅れ)株”とみなした日本株を買い戻した。買うから上がる、上がるから買うという強気心理が連鎖し、国内でも先行きに強気な投資家が増えた。

11月初旬から第2週までの間に、海外投資家は日経225先物を約8900億円買い越した。買い越し額は、TOPIX先物を上回る。その背景には、日経平均株価の算出方法が大きく影響している。

日経平均株価はわが国を代表する225社の株価の単純平均によって算出されている。価格の単純平均であるため、ファーストリテイリングや東京エレクトロンなどの“値嵩株(1株当たりの株価が高い株)”の値動きがインデックス全体の動きに大きく影響する。

世界の株式市場で一部投資家の買い(売り)が、インデックス全体の上げ(下げ)に影響を与えることができるのは、日本以外に見当たらないと指摘するベテランファンドマネジャーもいる。

その点に着目して海外投資家は値嵩株を買い、日経225先物も買い上げることによって、相場全体の押し上げ圧力を高め、利得を狙った。そうした動きにつられるようにして、他の投資家が相場に参戦し、日経平均株価の上昇が顕著になった。それは行動経済学の理論にある“バンドワゴン効果”の良い例だ。

■世界全体が免疫を獲得するには時間がかかる

海外投資家が一部の値嵩株と日経225先物に注目した取引を進めた結果、わが国の株式市場はゆがみ始めた。どういうことかといえば、特定の銘柄に買いが集中し、一部銘柄の過熱感が高まっている。例えば11月24日の東京株式市場では、ファーストリテイリングと東京エレクトロンの2銘柄だけで日経平均株価を約132円押し上げた。

当面、そうした状況が続く可能性はある。世界経済全体で低金利環境は続く。反対に言えば、世界的に財政支出が増える中で、どの国も金利上昇は避けたい。国債の流通利回り低下によって、投資家(特に、機関投資家)は相対的に期待収益率の高い株式に資金を配分せざるを得ない。

さらに、米国のバイデン次期大統領が政権引き継ぎに取り掛かり始めたことによって先行き不透明感は追加的に低下した。早ければ年内に米国でワクチン接種が始まるとの期待もリスクテイクを促す。押し目があれば短期目線で買いを入れたい機関投資家は多く、国内外で目先の株価はサポートされるだろう。

ただし、世界経済を取り巻く不確定要素は増大傾向だ。ワクチン開発と供給には不安な部分がある。特に、新興国へのワクチン供給体制がどうなるかは見通しづらい。世界全体が免疫を獲得するには時間がかかるだろう。

■「すでに株式バブルは発生している」

欧米やわが国では新型コロナウイルスの感染再拡大によって景気回復ペースの鈍化懸念が高まっている。11月のユーロ圏総合PMI(速報値)は景気の拡大と縮小の境目である50を下回り、景気の二番底は不可避の状況だ。

中国経済では債務問題が深刻だ。中国は主要国に先駆けて景気回復を実現したが、共産党政権が経済と金融市場の安定を目指すことは難しくなっている。

財務・技術データ分析グラフ
写真=iStock.com/MicroStockHub
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MicroStockHub

このように考えると、カネ余りと先行きへの過度な強気心理に支えられた国内外の株価上昇は、短期的には続く可能性がある。しかし、世界経済の実体面に比べて株価は高すぎる。すでに米国やわが国では株式のバブルが発生しつつあるとの見方を持つ経済の専門家もいる。

今すぐではないにせよ、どこかのタイミングでわが国の株価に調整圧力がかかり、先行きへの懸念が急速に高まる展開は排除できない。高値恐怖感を感じる投資家も増えており、徐々に国内株式相場の不安定感は高まるだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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