「12人部屋に収監、食欲はなし」香港で収監された周庭さんの現在と今後
プレジデントオンライン / 2020年11月27日 18時15分
2019年の抗議活動に関連した無許可集会容疑で、2020年11月23日、裁判のために到着した後、メディアに向かって話す「香港衆志」の(左から)アグネス・チョウ、イワン・ラム、ジョシュア・ウォンの3人。 - 写真=AFP/時事通信フォト
■「心配をかけて、ごめんなさい。私は留置所で元気です」
公安条例違反罪に問われた民主活動家の3人に対する裁判が11月23日、香港で開かれた。周庭(23)、黄之鋒(24)、林朗彦(26)の各氏で、昨年6月に無許可の集会に参加して若者たちの参加を扇動したことなどで起訴された。
周氏は香港の民主運動の女神的存在で、来日して講演したこともある。
3人がそれぞれ起訴事実を認めたため、有罪と認定され、そのまま収監された。量刑を含めた判決は、12月2日に言い渡される。刑期は最高で5年とみられる。
収監された周庭氏の代理人は25日夜、ツイッターに以下のメッセージを投稿した。
「皆さんの関心に感謝します。心配をかけて、ごめんなさい。私は留置所で元気です。環境に適応しようと努力しています。皆さんと一緒に誕生日を過ごせることを願っています。待っていてください!」
周氏には12人部屋が割り当てられ、2晩とも眠ることはできたが、食欲はないという。
■黄之鋒氏は「独房で24時間電気が付いており、よく眠れない」
同じく収監された黄之鋒氏も代理人がフェイスブックに近況を投稿した。独房で24時間電気が付いており、よく眠れないという。
中国と香港の両政府は、活動家として知名度の高い3人に厳しい制裁を加えることで、香港の民主派議員や学生、若者を萎縮させることを狙っている。今年6月末の国家安全維持法(国安法)の施行以来、民主派の締め付けを強化。両政府の弾圧は際限がなく、3人が起訴事実を認めたのも、家族、友人、仲間に危険が及ぶのを避けようと考えたからである。
日本をはじめとする民主主義の国々は、中国・香港政府を批判し、3人の釈放と無罪判決を強く求めるべきである。それが自由を重んじる民主主義国家の証(あかし)であり、国際社会の役割だ。
3人は民主的な行政長官選挙を求め、2014年9月28日から79日間続いたデモ(雨傘運動、道路占拠運動)の中心メンバーだった。昨年の市民による大規模な抗議デモでも、民主派の主張を国際社会に発信し続けてきた。
収監に当たり、黄氏は「私たちは自由の価値を世界の人々に理解してもらおうと努めてきた。そのために自分の自由は喜んで犠牲できる。自由のために戦い続ける。中国政府には降伏しない」という内容の声明を出した。
国際社会はこれまでの3人の活動を評価し、自由の尊さをあらためて学び取るべきである。
■香港のすぐそばに待機していた軍隊が出動しなかったワケ
国際社会の存在が、中国政府の香港弾圧にブレーキをかけている。中国は昨年、大規模な抗議デモや集会に対して軍隊の出動を検討し、実際に香港に隣接する中国本土の深圳に軍隊を配備していた。しかし、結果として実質的な軍隊の出動はなかった。
もし軍隊が出動していれば、天安門事件(1989年6月)の悲劇の再来となった恐れがある。アメリカやイギリスなど欧米各国が中国・香港政府を批判したことが、軍隊の出動へのブレーキとなったと考えられる。
11月25日の産経新聞の社説(主張)はこう訴える。
「香港をめぐる中国の独善的な行動はとどまるところを知らない。11日には全国人民代表大会(全人代)常務委員会の決定に基づいて香港立法会(議会)の民主派議員4人の資格が剥奪された。18日には、3人の民主派前議員が議事進行妨害容疑で逮捕された」
「機密情報を共有する『ファイブアイズ』(5つの目)と呼ばれる米、英、オーストラリア、ニュージーランド、カナダの5カ国の外相は民主派議員の資格剥奪に対する抗議声明を発した」
「すると、中国外務省の趙立堅報道官は『中国の主権と安全、発展の利益を損なうなら、目を突かれて失明しないように気を付けよ』と言い放った」
■菅首相は会談で香港情勢について触れ、懸念を表明
何と低劣な脅し文句だろう。これに対し産経社説はこう指摘する。
「まるで無頼漢のような発言である。『責任ある大国』から発せられる言葉ではない。中国政府は国際社会から厳しい反発を受けていることが分からないのか」
「米国は大統領選後の政権移行期で香港問題に積極的に関与しにくい。日本はなおさら、人権問題をめぐって、中国に厳然とした態度を示すべきだ。菅義偉首相は25日の中国の王毅国務委員兼外相との会談で、香港をはじめとする中国政府の人権弾圧を取り上げ、明確に抗議すべきである」
見出しも「香港活動家の収監 首相は王毅氏に抗議せよ」だ。
菅首相は会談で香港情勢について触れ、懸念を表明した。この産経社説を読んだのかもしれない。ただ、会談は事務的な内容が大半で、香港の人権問題への懸念表明は簡単なものだった。残念である。
11月13日付の朝日新聞の社説は「中国と香港『一国二制度』を壊すな」との見出しを掲げ、香港議員の資格剥奪問題を取り上げている。書き出しはこうだ。
「香港の自治と民主主義が窒息させられようとしている。自由を誇った都市社会を中国流に塗り替える暴挙が、またも重ねられてしまった」
「窒息」「塗り替える暴挙」と朝日社説らしい皮肉が込められている。
■「一国二制度」を形骸化させるものであり、断じて容認できない
朝日社説は「中国は香港に『高度の自治』を保障する、というのが対外的な約束だ。ところが今回、立法会の議員資格を奪うことができる条件を大きく広げた」と指摘し、こう主張する。
「反政府的な言動を取り締まる国家安全維持法に続き、『一国二制度』を形骸化させるものであり、断じて容認できない」
なるほど、その通りだ。
朝日社説は「今回の(全国人民代表大会の常務委員会の)『決定』には、議員の資格失効の条件として、香港に『忠誠』を尽くすという要求に従わない▽国家の安全に危害を与える――などが並ぶ。あいまいで恣意的な判断が可能となる内容が多い」と解説したうえで、こう指摘する。
「これでは政府への抗議や異議表明など、民主派が行ってきた多くの活動が失効の根拠にされる恐れがある。議会の運営自体も変わるだろう」
「民主派議員の多くは市民の直接投票による選挙で選ばれている。その政治的な言動を理由に資格を一方的に奪うのは、思想弾圧であり、民主主義を真っ向から否定する行為である」
■香港の問題を「対岸の火事」としてはならない
このままでは香港の自治と民主主義を保障する「一国二制度」が崩れていく。国際社会が重ねて強い声明を出し、さらなる国際世論を形成していくべきだ。
香港が自由を失えば、香港が築き上げてきた自由な金融市場なども姿を消す。世界各国の資本が次々と香港から流出する。すでにそうした傾向は表れている。
中国にとっても経済的なダメージは大きいはずだ。その辺りを習近平(シー・チンピン)政権はどう考えているのだろうか。
朝日社説は最後にこう主張する。
「日本政府や欧米諸国からは、懸念の表明が相次いでいる。共産党政権は強硬姿勢を崩していないが、国際的な世論の圧力を強める必要がある」
「対外公約や『法の支配』を無視するような中国の姿勢を座視すれば、その影響は周辺地域と世界に及ぶ。日本を含む各国とも、香港の現状を自らの問題ととらえねばなるまい」
この朝日社説の主張に賛成する。香港の問題を「対岸の火事」としてはならない。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)
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