1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 政治

「無断外出は罰金5万円」第2波でロックダウン生活を送るイタリア人の本音

プレジデントオンライン / 2020年11月29日 9時15分

二度目のロックダウン入りしたミラノ市内のスフォルツェスコ城前広場で、無断外出の監視にあたるカラビニエリ(国家憲兵隊)の兵士(2020年11月7日) - 写真=AFP/アフロ

欧米諸国で新型コロナウイルスの感染が急激に拡大しつつある。イタリアでは11月5日から再びロックダウンに入った。ミラノ在住のジャーナリスト・新津隆夫氏は「クリスマスを無事に過ごしたいという一念で、イタリア全土がロックダウン生活に耐えているようにみえる」という——。

■自宅から1キロ圏内であれば散歩が許されている

一日あたりの新規感染者が3万人を超え、11月5日に再びロックダウンを決めたイタリア。その前の週からすでに夜間10時以降の外出が禁止され、巷(ちまた)では「またか」との落胆が広まっていた。コロナの猛威がピークとなっていた今年3月、4月のイタリアではゴミ袋を出しに外に出ることさえも人の目をはばかるほどの緊張感があった。筆者はこの地に20年以上住んでいるが、夜間にあれほど頻繁に警察のパトカーを見たことはなかった。

今回のロックダウンも外出時には仕事か医療か食品の買いだしといった理由を明記した申請書を携帯が義務付けられ、それに違反した者には400ユーロ(約5万円)の罰金が科せられる。屋外では常にマスクが義務付けられ、居住地の市を超えての移動は禁じられる。

翌6日のニュースによれば、薬局の順番待ちの間に広場のベンチで新聞を読んでいた80代の男性1人、またBAR(バール、立ち飲みカフェ)の前で座ってコーヒーを飲んでいた老人2人に400ユーロの違反切符が渡された。

とはいえ、春のロックダウンでは不要不急の外出は犬の散歩に限られていたため、ご近所で犬を貸し借りすることさえあったが、今回は自宅から1キロ圏内であれば散歩が許されている。表通りをブラブラしている人の数が目立つし、食品店以外のすべての商店を閉鎖した春に比べると、美容室・理髪店、ジェラート店、タバコ販売店など、営業を許可されている業態もある。

■高校・大学は原則オンライン授業

今回のロックダウンに対してもっとも周到な準備を整え、機敏に動いているのが教育機関だ。イタリアの学校は9月に始まり6月に終わるが、春のロックダウンは2月半ばの日曜日の夜に突然「明日から学校は閉鎖されます」と告げられ、なんの準備もできないままに2週間ほど「教育」が完全に停止した。

3月からはオンライン授業が始まったが、トラブルが相次いだ。イタリアのブロードバンドの普及率は北部で85%、南部では77%ほどで、家庭にオンライン授業に対応できるだけのネット環境がない生徒も多いためだ。加えて教師側も手探りで進めるしかなく、結果として多くの未修科目を残してしまった。

ミラノ近郊の高校のある教師が言う。「イタリア教育省の決定により、学校を開けるのは幼稚園と小学区のみ。高校と大学は公共交通を使い居住区域外の学校に通うケースが多いため、オンライン授業とされました」。

中学校では初めて習う科目が多い1年生のみ対面授業を実施。またディスレクシア(読み書き障害)の生徒に対しては、中高ともに対面授業が行われれる。「オンライン授業は学校からの配信で行われ、教師は通常通り学校に出勤して仕事をする形です」

■低所得家庭には回線整備の補助金も

イタリア政府もオンライン授業に対応するためコンピュータの購入やブロードバンドへの加入を促すため低所得の家庭を対象に最大500ユーロの補助金を出した。すでにネット環境があっても30Mbps以下の通信速度であれば補助金を利用できる。ちなみに、拙宅はADSL回線を使用しているが、接続速度は35Mbps程度。これが平均的なイタリアのネット環境である。

しかし、これはあくまで遠隔学習は可能だと確認したにすぎない。ミラノのアレッサンドロ・ヴォルタ高校のドメニコ・スキラーチェ校長は各メディアに対し、「可能であれば午前の2時間だけでも学生を学校に戻してあげたい。学校は彼らの生活であり学問を学ぶだけの場所ではないからです」と、レストランや商店は時間制限を設けて営業を許可しているのに、政府の学校への言及がないことに異を唱えている。

スキラーチェ校長は2月の学校閉鎖の際、イタリアの高校生が必修で学ぶアレッサンドロ・マンゾーニの小説『いいなづけ』(黒死病流行下の17世紀ミラノが舞台)を用いて、当時の混乱を繰り返してはならないと説いた人物だ。他の欧州連合(EU)各国では学校の閉鎖は実施されておらず、ただでさえイタリアは、2013年の国際成人力調査において「読解力」と「数的思考力」の2分野で最下位にランクされるなど、教育レベルの低下が指摘されている。春の第1波の時のように教育を止めたくない、という思いがあるのだろう。

■イタリアではあまり聞かないアジア人攻撃

9月27日、日本人ジャズピアニストの海野雅威さんがニューヨーク市内の地下鉄の駅で若者グループから暴行を受け重傷を負う事件が発生した。新型コロナの蔓延(まんえん)を契機として、アメリカではアジア系に対する人種差別的な暴行などの事件が増えており、同事件の犯人たちも海野さんに対し「チャイニーズ」などと叫びながら襲い掛かったといわれている。

また、フランスでもアジア人差別を煽るような動きがあった。11月1日付の日刊紙「ル・モンド」によると10月下旬、ツイッターに「今日で漫画はやめる。アジア人狩りだ」などとと呼びかける書き込みがあり、警察も警戒感を高めた。実際、今年初めの第1波の時にもフランスではアジア人に対する嫌がらせが起こっており、今回は100人の国会議員がこの動きに反対する連名書簡を発表した。

ゆえに「イタリアでも同様の動きがあるのではないか」との心配の声が筆者の元にも寄せられるのだが、今のところ新聞やテレビなどの大メディアがアジア人への攻撃を報じたのを目にしたことはない。

現在、連立与党を組む市民政党「五つの星運動」で2013年から2018年までロンバルディア州評議会の報道担当を務めたシルバーナ・カルカノさんは語る。「私たちイタリア人は人種差別主義者ではないと思いますが、現政府がコロナによる経済的な困難を解決する手段を外国人差別に向けさせない努力をしていることも大きい。ファシズムの時代はイタリアにとって恥ずべき残念なことでしたが、イタリアの歴史は常に他人から侵略を受け、暴力や彼らの要求に苦しんできたのです。結果としてここにはギリシャやオーストリア・ハンガリー、ブルボン王朝などの文化が混在しています」

一方でカルカノさんはこうも語る。「現政府が失業問題を解決できないと、次の選挙では人種差別を助長することで利権を持とうとする人々に負けてしまうかもしれません。私自身は非人種主義的な政府が続くことを祈っていますが……」

■ヘイトクライムを抑止する政府の努力

社会に人種主義的な動きが起こらないようにするひとつの方策として、イタリア政府が発表するコロナ被害のデータには外国人の割合は明記されていない。感染者も死者もすべて合計でのみ報じられている。「外国人のせいで医療崩壊が起こった」「外国人がコロナを蔓延させている」などの臆測をもたせないためだ。

しかし、現実問題として、第1波でもっとも被害の大きかったロンバルディア州の州都・ミラノの人口の20.1%、つまり5人に1人は外国人であり、例えばコロナ対応の中心となったミラノ市内のサッコ病院の救急外来は、コロナ以前から常にほとんど外国人である。というのは、イタリアは人道を尊重し不法滞在者であっても救急外来に行けば無料で治療を受けることができるからだ。もちろん、コロナの治療も同様。

前述のように公式には数字が出ていないものの、医師でありイタリア保険省・保健委員会の議長フランコ・ロカテッリ氏は「コロナ感染者の30%は外国人だ」と日刊紙「Libero」(7月17日付)の取材で認めている。9月18日付のネットニュースサイト「Genova24」でも「ジェノバの旧市街における感染者の半数は外国人だ」とのリグーリア州知事のコメントを載せている。

カルカノさんが指摘するように、イタリアでアメリカやフランス、他の欧州国のようなヘイトクライムが発生しないのは、外国人と共存してきた歴史と、現政府がコロナによるストレスのはけ口を外国人へ向けさせないようにしている努力の結果だというのは正しいだろう。

■クリスマスを無事に迎えれられるか

たしかに、欧州での感染再拡大は急だが、今回各国政府がロックダウンに踏み切ったのには、ひとつの目的があると言われている。

それはカトリック国も多いヨーロッパにおいてクリスマスはもっとも大切な年中行事であり、この時期に規制を緩めて家族や親戚との交流を自由にしたいという思惑があるからだ。

クリスマスまでの状況改善を皆が祈っているが......。写真は2019年のクリスマスのミラノ大聖堂(ドゥオーモ)前の模様
写真=iStock.com/Giuseppe Piazzese
クリスマスまでの状況改善を皆が祈っているが……。写真は2019年クリスマスのドゥオモ(大教会)前の模様 - 写真=iStock.com/Giuseppe Piazzese

春のロックダウンでは「温かい言葉で国民を諭せるイケメン」と人気だったイタリアのコンテ首相だが、農業関係からは人手不足のための滞在許可証の緩和、美容院の組合からはロックダウン中の営業許可、さらには飲食店業界からの悲鳴も大きく、経済対策への不満は日に日に増している。

イタリア全土の一日の新型コロナによる死亡報告数は、11月26日に823人を記録するなど、原稿執筆時点ではピークアウトする兆しが見えない。一方で一日の新規報告感染者数は、11月13日に4万902人のピークをつけた後、徐々に減少傾向にある。

厳しい外出制限一方で、ミラノのドゥオモ(大教会)の広場には“例年通り“、名物となった巨大ツリーが登場した。クリスマスまでの残り3週間で事態がさらに悪化しないよう、イタリア人は期待半分、不安半分で、コロナ前と変わらぬクリスマスが過ごせるよう祈っている。

----------

新津 隆夫(にいつ・たかお)
ジャーナリスト、コラムニスト
1959年、東京・浅草生まれ。1993年「激安主義」(徳間書店)にてバブル後の激安ブームを牽引。1997年からイタリア在住。テーマはスポーツ、車、グルメ、政治、歴史、教育などイタリアのカルチャーすべて。主な著書に「丙午女」(小学館)、「会社ウーマン」(朝日新聞社)など。福岡RKBラジオ「桜井浩二 インサイト」に不定期出演。

----------

(ジャーナリスト、コラムニスト 新津 隆夫)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください