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「PC誌元編集長もため息」お客をたらい回しにするパソコン業界の不親切

プレジデントオンライン / 2020年12月3日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Maryna Andriichenko

パソコンにはトラブルがつきものだ。仕事で使うPCなら社内で聞けるが、私用であれば販売元のサポートセンターに問い合わせるしかない。パソコン雑誌『YOMIURI PC』の初代編集長を務めたジャーナリストの知野恵子さんは「新聞社を辞めて、私用PCを買ったが、すぐにはまともに使えない。メーカーとソフト会社をたらい回しにされて、午前中だけで計6回も電話で問い合わせるハメになった」という——。

■パソコンを買おうと家電量販店に行ったら…

新聞社を退社した。まずパソコンを買わねばならない。考えた末、会社で使っていたパソコンと同じノート型のウィンドウズパソコンとソフトを買おうと決めた。長年、パソコンやインターネットを使っているが、機械操作は苦手だ。できるだけ慣れ親しんだ環境を再現し、操作のストレスを減らそうと考えた。

家電量販店の店頭でまず戸惑った。価格やスペックが書かれたボードに、ハードディスクの文字がないからだ。友人から聞いた話が頭に浮かんだ。「最近のパソコンはハードディスクではなく、動作が速い『SSD』を使うようになっている」。そうだった。「ストレージ」という記載があり、そこに「SSD」とある。なるほど、技術は変化している。

ボードを眺めていると、メーカー派遣の店員さんから「パソコンで何をしたいですか?」と声をかけられた。「文書作成、ネット、電子メール、リモート会議」「目に優しい大きな画面のノート型がほしい」と答えると、「カスタマイズ」を勧められた。自分でスペック、ソフトなどを選ぶ方法だ。ただ注文生産になるので、手元に届くまで2週間かかる。

■データは手元で保存? それともクラウド?

今日買ってすぐに使おうと思っていたが、持ち帰り可能な製品は限られる。結局、カスタマイズすることにした。モデルを参照しながら、メモリ、ストレージ、ソフトなどを次々と選んでいく。OSは「ウィンドウズ10プロ」が入っている。

悩んだのはメモリとストレージだ。大きいほど安心だが、高額になる。店員さんは「メモリよりもストレージを増やした方がいい」と言う。ウィンドウズ10そのものが大きなソフトである上、パソコンメーカーもいろいろとソフトを組み込むので、使える領域が減ってしまうからだ。客には迷惑な話だ。最近は、データをクラウドに保存する人が多いが、私は手元で保存したい。そこでメモリはそのままで、ストレージを増やした。

会社ではマイクロソフトの「ワード」「エクセル」「アウトルック」「パワーポイント」を使っていた。この4本がセットになっている「オフィス ホームアンドビジネス」(Office Home & Business)を購入し、トレンドマイクロのセキュリティーソフトも買った。

■「これで使える」と思いきや、異変が

きっかり2週間後、パソコンが届いた。同梱されていた「基本ガイド」に従って、ウィンドウズのセットアップ作業をこなしていく。最後に「マイクロソフトアカウントに切り替えるには」というページになった。「マイクロソフト社が提供している各種サービスを利用するために必要なアカウント」という説明が書いてあり、ネットに接続して作業するよう求められた。その通りにし、設定を終えた。

これでパソコンが使える。うれしくなって、「エクセル」に1行書き込み、保存してみた。すると、信じられないほど時間がかかる。何が起きているのだろう。はたと思い当たった。マイクロソフトのクラウド「ワンドライブ」に保存しようとしているのではないか。

ラップトップとスマートフォン
写真=iStock.com/hanieriani
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hanieriani

「クラウド保存は時間がかかる」と聞いたことがある。保存先をパソコンに変更しようとしたが、これまでのパソコンにあった「このPC」や「PC」が見つからない。すでに深夜。サポートセンターはとっくに終了している。

■席をはずしている間に起きた怪奇現象

翌朝、9時の受付開始時間ぴったりに、パソコンメーカーのサポート窓口に電話をした。事情を説明すると、「マイクロソフトアカウントにかかわることならマイクロソフトに聞いてほしい」と言われた。「御社の基本ガイドに従って操作したらこうなった」と粘ると、「PC」のアイコンを、パソコンの画面に表示する方法を教えてくれた。ようやくワンドライブへ引きずりこまれずにすむようなった。

その後もメールの設定などでトラブルが続く。この日の午前中だけでも、パソコンメーカーとマイクロソフトのサポート窓口に計6回電話をするはめになった。

その夜、パソコンで初めて原稿を書いた。途中で少し席をはずして戻ると、画面に「再起動しています」と表示され、点線で書かれた丸がくるくる回っている。私は再起動した覚えなどない。怪奇現象? 強制終了もできない。電源を切って、無理やり画面を消した。

■アウトルックでの送受信が遅すぎる!

マイクロソフトによると、原因は、私のパソコンの「アクティブ時間」が、「8:00~17:00」と設定されていること。ウィンドウズ10の機能のひとつで、アクティブではない時間帯にソフトを自動更新する仕組みだという。それで再起動画面だったのか。担当者によると、表示が出ている間は電源を切ってはいけないそうだ。ああ、もうやってしまった……。

メールもトラブルが続く。Gメール(Gmail)のアドレスを使っているが、アウトルックでの送受信に異常に時間がかかる。Gメールとアウトルックは、ファイル管理の仕方が異なるので時間がかかるそうだ。サポート担当者が、リモート操作でGメールの設定を変更すると、多少速くなった。だが、その後も同じ現象が頻発する。

言い出せばきりがないほどトラブルが続く。だんだん分かってきたのは、私が体験したトラブルの大半が、「デフォルト(既定)設定」「ネット」「縦割り」絡みということだ。

■ユーザーを苦しめる「デフォルト設定」の罠

パソコンやソフトには、標準的な使用を想定したデフォルト(初期)設定がされている。私は「オフィス」を購入したのだから、当然、メールソフトは「アウトルック」がデフォルトだと思っていた。しかし、そうではなかった。

パソコン画面下のタスクバーに表示されているメール型のアイコンをクリックすると「登録」を求められる。取材先から届いたメールや添付のPDFファイルに記載されたメールアドレスをクリックしても、メール作成画面は出てこない。サポート窓口へ問い合わせて、ようやくメールソフトのデフォルトが、ウィンドウズ10のおまけソフト「ウィンドウズメール」になっていると分かった。設定を変えると、あっけなく解決した。

ワンドライブへの保存といい、アクティブ時間といい、デフォルト設定には注意が必要だ。ネットを見ると、「ウィンドウズ10の余計なお世話をオフにしたい」「ウィンドウズ10を勝手に再起動させないための設定」などの書き込みがたくさん出てくる。悩まされている人が多いのだろう。

また、ネットを通じてさまざまなものがパソコンに入り込もうとしてくる。必要なソフトをネットでダウンロードしたら、頼みもしないセキュリティーソフトがくっついてきた。私のパソコンには別のセキュリティーソフトが入っている。うっかり組み込んでしまうと、トラブルの引き金になりかねない。

ウィンドウズ10のおまけソフトの中で、不要なものを削除したが、「自動更新の際に戻ってくることもある」と、パソコンメーカーの担当者から教えられた。ネットを通じて、自分たちのサービスに誘導しようという仕掛けがあちらこちらに設けられている。落とし穴に気をつけたい。

■サポート窓口がこんなに縦割りでいいのか

いったんトラブルが起きると、ぶつかるのは「縦割りの壁」だ。パソコンメーカー、ソフトメーカーの間をたらい回しにされることが少なくない。

例えばマイクロソフトのサポート窓口は「オフィス」と「ウィンドウズ」に分かれている。アウトルックを使用中のトラブルなので「オフィス」担当に問い合わせると、「ウィンドウズへ」と言われたり、パソコンメーカーに聞くように言われたりする。他社のソフトやハードが絡むと、さらに複雑になる。会社同士で責任を押しつけあい、客はサポートの隙間に落ちてしまう。

スマホで話しながら仕事する女性の頭上からの写真
写真=iStock.com/tdub303
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tdub303

パソコンやソフトはICT(情報通信技術)の基盤だ。政府がデジタル化を進める今、重要度は一層増している。にもかかわらず、こんな状況が続いている。心配なのは、行政手続きのオンライン化が進むことで、縦割りがさらに深刻化することだ。ハードメーカー、ソフトメーカー、行政機関と、たらい回しされるようでは困る。

■個人への視線は乏しいまま

菅義偉首相は行政の縦割り打破を唱えるが、ICT業界の縦割り解消も重要だ。個々人のパソコンやソフトは、人によってかなり違う。このため縦割りの壁を越えてサポートをするのは難しいと言われる。だが、技術やサービスは、変化と進化を続ける。官民で統括的なサポート態勢を作る必要もあるのではないか。会社などの組織に属していれば、組織内の担当部門が解決してくれるので、問題が見えにくい。だが、個人で実際にパソコンを買ってみると、そこにはいろいろな問題があるとよく分かった。

政府のデジタル政策の議論は、目標達成のスピード感を重視しているが、利用者の現状への視線は乏しい。政府は「誰一人取り残さない」と明言したが、それを忘れないでほしい。

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知野 恵子(ちの・けいこ)
ジャーナリスト
東京大学文学部心理学科卒業後、読売新聞入社。婦人部(現・生活部)、政治部、経済部、科学部、解説部の各部記者、解説部次長を経て、編集委員を務めた。約35年にわたり、宇宙開発、科学技術、ICTなどを取材・執筆してきた。1990年代末のパソコンブームを受けて読売新聞が発刊したパソコン雑誌「YOMIURI PC」の初代編集長も務めた。

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(ジャーナリスト 知野 恵子)

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