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男子御三家の男性教員が実娘を女子中高に通わせてホクホク顔のワケ

プレジデントオンライン / 2020年12月2日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Xavier Arnau

近年、中学受験では「共学校」が人気だ。だが、塾代表で講師の矢野耕平氏は「女子受験生が“共学校しばり”によって選択肢が狭まり、受験校選定に苦しむ家庭は少なくない。都内の私立中の約4割を占める女子校を選択肢とする方法もある。男性の目を気にせずのびのびと育つなど共学校にはないメリットもある」という——。

■コロナ禍の中学入試「どの学校を受験するか決めにくいワケ」

中学受験生の保護者にとってわが子の入試まで残り約2カ月となった。大半の家庭は、例年、この時期に最終的な受験パターンを確定させる。

だが、自分自身もそうだが、同業者の話に耳を傾けても、今年度はいつもと様相が異なる。最終的な受験パターン選定が全体的に遅れているように感じられるのだ。

これは紛れもなくコロナの影響だろう。今年の私立中学校は学校説明会のオンライン開催が中心であり、また、夏休み明けくらいからライブの学校説明会を再開できたと思いきや、「密」を避けるため座席数が絞り込まれ、そのせいですぐに申込受付が完了する学校が目についた。中学受験生保護者にとって、わが子の受験校選定の「決め手」が見つかりづらい年になってしまっている。

これは受験生自身も同様である。昨年までは、私立中高の運動会や文化祭を直接見学することで、その学校への「憧れ」を強くしていくのだが、今年はいわゆる「外部」の見学が禁じられたところが多い。文化祭などはオンラインを駆使して外部公開した学校がいくつもあったが、どちらにせよ学校に足を運べない受験生が多かったのは間違いないだろう。

■女子校だらけの東京で「共学しばり」をすると自分の首を絞める

今回は中学受験に挑む「女子受験生」にしぼり、受験校選定についてのヒントを探っていきたい。中学受験生の保護者が娘さんの受験校を検討する場合、次の2軸で学校の選定するケースが多い。

①女子校にするか、あるいは、共学校にするか。
②進学校にするか、あるいは、大学付属校にするか。

東京にはたくさんの私立中高があるが、この2軸を組み合わせると、意外なくらいにその選定範囲が狭まるものだ。だからこそ、この2つの尺度のこだわりが強すぎると、「併願校」を決定する際に適当な学校がなかなか見つからず、受験パターンが確定しないという事態に陥る場合がある。とくに「共学校しばり」の家庭にその傾向が顕著に出る。その結果、最悪の場合、「挑戦校」ばかりの受験パターンが出来上がってしまうこともある。これは危険だ。

なぜ「共学校しばり」だと受験プラン決定に難航するのか? 実は東京の私立中高は「女子校」だらけだからだ。

一般財団法人東京私立中学高等学校協会のオフィシャル情報サイトによると、東京都にある私立中学校182校のうち、女子校が71校(39.0%)、男子校が31校(17.0%)、共学校が80校(44.0%)だ。最も多いのは共学校だが、男女別に定員を設けている。そのため、各校の女子定員数は概して少なくなる。

結果、女子受験生が「共学校しばり」にすると、わが子に適した合格校をゲットするために受験校選定にあれこれ苦悩してしまうのだ。

東京にはなぜこんなにも女子校が存在しているのだろうか。各女子校の成り立ちに目を向けると、そこにいくつかの共通項を見いだすことができる。

ひとつは、主として明治期に海外から布教目的で来日した宣教師たちがこぞって女子校を設立したことが挙げられる。当時の政府が男子教育の充実を優先したその「隙」をついた形ともいえる。

2つ目は、明治期~大正期のいわゆる「女性解放運動」と連動していくつもの女子校が設立された点である。その中には、女性の自立を促すための職業訓練校や専門学校も含まれていて、それらを前身とした女子校がいまなお残っているのだ。

■「男女同じ学び舎で過ごすほうが健全」だから共学校狙い、は正しいか

東京にはこんなにたくさんの女子校が溢れているのだが、「共学しばり」の家庭はなぜ女子校を避けるのだろうか。保護者からよく聞くのはこんな話だ。

「世の中は男女で構成されているのだから、多感な中高時代は男女同じ学び舎で過ごしたほうが『健全』ではないか」

『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文藝春秋)
『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文藝春秋)

一見、理路整然とした物言いに感じるが、この弁を丸ごと肯定すると「女子校=不健全」ということになる。果たしてそうなのだろうか。

わたしは5年前に『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文藝春秋)を上梓し、これを執筆する上でこれら3校の学校関係者や卒業生たちに取材を重ねた。その中で、女子学院中学校高等学校の前院長である田中弘志先生が「女子教育」の意義を端的にこんなふうに言い表していた。それを引用したい。

<彼女たちにとって人生の多感な時期に女性だけで学ぶ意味は、男性の目を意識しないで伸び伸びと飾らずにありのままの自分を出せるという点がまず挙げられます。たとえば、容姿に劣等感を持っている子。男性の前だとそれに引け目を感じている子であっても、女性の中だけだと自分が身に纏ったものをすべて剥ぎ取って『良いところ』も『悪いところ』もさらけ出せる。自分の持つ『光るもの』を周囲に評価してもらえる環境があるのです>

挙手する女子生徒たち
写真=iStock.com/xavierarnau
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/xavierarnau

このことばを聞いてなるほどと納得させられた。女子校出身者の特性のひとつに「大人になってからも付き合っているのは中高時代の友人ばかり」というケースが多いように感じているのだが、これは女子校生活で彼女たちは「性別」など意識せず、人間同士の遠慮のいらない関係性を構築できたからなのだろう。

■辛酸なめ子さんの『女子校礼賛』で女子校ライフを覗き見る

先日、書店をぶらぶらしたら、興味深いタイトルの本を見つけた。

約10年前にベストセラーとなった『女子校育ち』(筑摩書房)の著者であり、漫画家・コラムニストの辛酸なめ子さんの新刊『女子校礼賛』(中央公論新社)だ。辛酸なめ子さんも女子学院出身である。

早速手に入れて読んでみたが、上述した女子学院前院長の田中先生の弁を女子目線でやわらかく表現したことばに出合えたのだ。それを一部引用したい。

「『女子校はドロドロしてそう』と言われがちで、たしかに校風が閉鎖的だったりするといじめが発生することもありますが、共学の女子同士よりも平和な人間関係を築いていると思われます。共学では男子をめぐって女子同士はライバルで、モテがヒエラルキーの上位になるための重要な要素ですが、男子がいない女子校では皆仲が良く、美人じゃなくても生命力が強い人や個性的な人、何かに秀でている人が人望を集めます」(同書より)

辛酸なめ子『女子校礼賛』(中央公論新社)
辛酸なめ子『女子校礼賛』(中央公論新社)

『女子校礼賛』というタイトルとは異なり、女子校生活の暗部についても赤裸々に記述されている。

たとえば、自身と全く校風の合わない女子校に入学し、学校に対して反抗した揚げ句に退学してしまった子の実例なども細かに描いている。その一方で、女子校だからできる独自の教育、女子校だからこそ築き上げることのできる人間関係についてもふんだんに紹介されている。良くも悪くも「女子校」について皆さんが抱いているイメージが覆されることは間違いないだろう。

本書では女子校の潜入取材を果敢におこなっていて、そのスポットの当て方がこれまたマニアックである。いわゆる「千重の一重」的な見せ方ではあるが、その「一重」から女子教育、女子校ライフの醍醐味がふっと浮かび上がってくるような筆致である。

なお、首都圏の私立中高では学習院女子、東洋英和女学院、豊島岡女子学園、横浜雙葉、桜蔭、雙葉、田園調布雙葉、普連土学園、吉祥女子、玉川聖学院、白百合学園などが取り上げられている。関心のある方はぜひ手に取ってほしい本である。

■男子御三家の男性教員が実娘を女子中高に通わせてホクホク顔のワケ

話を冒頭に戻そう。

「共学しばり」でわが子の受験校を検討している家庭は、この機会に子を交えて「女子校」を調べてみてはいかがだろうか。2月の中学入試の受験校の選択肢が一気に広がるかもしれない。東京にはなぜこんなにもたくさんの女子校があるのか、いや、生き残っているのか。それは、女子教育が確かな意義を持つ証左である。

そういえば、「男子御三家」と形容される某校の先生に取材していた折、こんなことを言われたのを思い出した。

「わたしの娘は女子校に通ったのですよ。まあ、とにかく楽しそうで。でも、あんなに強い子に育つとは思わなかったな」

奈良・東大寺で、ピースサインをして写真に納まる女子高生7人
写真=iStock.com/ssiltane
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ssiltane

個人的な話で恐縮だが、わたしの妻は女子校卒で、娘も女子校に通学している。この先生の発言に対して、わたしは深く深く頷いたのであった。

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矢野 耕平(やの・こうへい)
中学受験専門塾スタジオキャンパス代表
1973年生まれ。大手進学塾で十数年勤めた後にスタジオキャンパスを設立。東京・自由が丘と三田に校舎を展開。学童保育施設ABI-STAの特別顧問も務める。主な著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)、『旧名門校vs.新名門校』』(SB新書)など。

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(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表 矢野 耕平)

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