親の期待に応え続けた「いい子」が30代で陥る人生の落とし穴
プレジデントオンライン / 2020年12月12日 11時15分
※本稿は、おおたとしまさ・監修、STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ・編集『究極の子育て 自己肯定感×非認知能力』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■周囲の期待に過剰に応えようとする「いい子症候群」
みなさんは、「いい子症候群」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
「いい子」というからには、悪くないどころか、いいことのように思うかもしれません。でも、いい子症候群の子どもたちの場合、必要以上にいい子であろうとする傾向があるのです。
その大きな特徴としては、自分を抑えて周囲の人の期待に過剰に応えようとする、いま風にいえば、空気を読もうとするあまりに、自分というものがわからなくなっているということが挙げられます。
■自分がなにを食べたいのかすらわからない
いい子症候群の子どもたちの典型的な行動例を挙げてみましょう。
家族と一緒に食事に出かけたとします。普通の子どもであれば、たまの外食で、なにを食べようかと大いに興奮している場面ですよね。
でも、いい子症候群の子どもたちは、自分がなにを食べたいのかということすらわからない。なぜかというと、なにを食べたいといったら親が喜ぶのかというようなことばかり考えるように、小さいときから強いられてきたからです。
つまり、子どもをいい子症候群にさせてしまう最大の要因は、親の子どもとのかかわり方にあります。子どもが子ども自身の気持ちに従って行動できるようなかかわり方をしていないのです。
■「あなたにとってもいいことだと思うよ」
いい子症候群が怖いのは、いい子症候群の子どもたちの多くが、いい子症候群であることに無自覚だという点。
わたしが過去に出会った女性を例にしましょう。彼女は、母親からこんな言葉をかけられ続けて育ちました。
「お母さんは英語をきちんと習いたかったから、あなたにはそうしてほしい」
「お母さんは、本当は学校の先生になりたかったから、あなたにはそうなってほしい」
「そうするのが、あなたにとってもいいことだと思うよ」
彼女は、母親の期待にしっかり応えて英語の教師になりました。そして、それが母親のためにやってきたことなんて思うこともなかったし、自分にとっての幸せだと信じて疑うこともありませんでした。
ところが、35歳くらいになったときに、突然、「わたしの人生って誰のものなのか」「わたしの人生は空っぽじゃないのか」という思いに襲われて、心が不安定になったのです。
■いい子症候群の子どもは「アダルトチルドレン」になる
彼女はもう30代でしたから、厳密にいえばいい子症候群とはいえません。
いい子症候群の子どもは、大人になったときに、「アダルトチルドレン」と呼ばれるようになります。アダルトチルドレンとは、子どもの頃に自分らしくさせてもらえない体験を重ねることで、大人になってからも、生きづらさを抱えてしまう大人のことです。
アダルトチルドレンの人たちはたくさんの問題を抱えています。
例に挙げた女性のように、人生そのものに対して空虚感を抱いてしまうこともそう。
また、職場や家庭などの人間関係においても多くの壁にぶつかります。
自分がなにをどうしたいのかということがわからないため、「わたしはこうしたい」という交渉ができないからです。そうして、我慢に我慢を重ねて不満を限界までため込んだ揚げ句に、「わたしを大事にしてくれない!」と怒りを爆発させるということになる。
でも、相手からすれば、自分のことをなにもいわない人の気持ちなんてわかりようがありませんよね。
■子どもに「空気を破る」練習をさせる
いい子症候群の特徴は、周囲の空気を過剰に読もうとすることです。
そう考えると、子どもをいい子症候群にしないためには、子どもに「空気を破る」練習をさせればいいのです。
外食の場面は最適でしょう。親の希望など関係なく、子ども自身に自分が食べたいものを真っ先に選ばせてあげればいい。
このとき、親の顔色を窺うような素振りを子どもが見せていたとしたら、危険信号と考えていいと思います。
「なにを食べればいいかな?」というふうな、指示待ちの言動を子どもがするようなら、いい子症候群の兆候が見られますから、要注意!
■親に必要な「待つ力」
そして、子どもが自分で決められるまで、親は辛抱強く待ちましょう。ここに、欧米と日本の大きなちがいがあります。
![おおたとしまさ監修、STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ編『究極の子育て』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/d/200/img_fd8309836b5cabea919b0c240d7e4ab2327296.jpg)
欧米人の親の場合、「なにを食べたい?」と子どもに聞いたら、子どもが自分で決められるまでずっと待ちます。欧米には、たとえ相手が子どもであっても、自己決定を大切にする習慣があるからです。
ところが、日本人の親は待てない。「じゃ、これにしとこうか」「これ好きだよね、これでいいよね?」と、親が決めて押しつけてしまうのです。
いい子症候群の子どもは、親からすれば親のことを考えてくれて、反発もしてこないし、まさにいい子に思えるでしょう。でも、手がかからないいい子というのは、のちのち手がかかる人間になりやすいのです。
子どもをいい子症候群にしないため、日本人の親にもっとも必要なものは、なによりも根気、「待つ力」ではないでしょうか。
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明治大学文学部教授
1963年生まれ、福岡県出身。心理学者。「時代の精神(ニヒリズム)と闘うカウンセラー」「現場教師の作戦参謀」を自称する。1986年、筑波大学人間学類卒業。1992年、同大学大学院博士課程修了。英国イーストアングリア大学、米国トランスパーソナル心理学研究所客員研究員、千葉大学教育学部講師、同大学教育学部助教授を経て、2006年より現職。専門は人間性心理学、トランスパーソナル心理学。スクールカウンセラーとしての活動歴も長く、学校カウンセリングや生徒指導の専門家でもある。著書に『いい教師の条件』(SBクリエイティブ)、『教師の悩み』(ワニブックス)、『孤独の達人 自己を深める心理学』(PHP研究所)、『「本当の大人」になるための心理学 心理療法家が説く心の成熟』(集英社)などがある。
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(明治大学文学部教授 諸富 祥彦)
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