「とにかく書き始めればいい」79歳で1年に9冊も本を書いた私のやり方
プレジデントオンライン / 2020年12月8日 11時15分
■情報を集めればテーマが見つかるわけではない
文章を書く際の鍵となる「適切なテーマ」や「よい質問」は、どうしたら見いだせるでしょうか? テーマは何もしないでいるときに天から降ってくるものではありません。また、テーマ探しをやれば必ず見つかるというわけでもありません。「ボタンを押せば適切なテーマが示される機械」などというものも、ないのです。
よいテーマを見つけるためには、「つねにテーマ探しを意識し、さまざまな情報を捉え、考えに考え抜く」ということしかありません。探して探して、探し続けるのです。「たくさんの情報を収集すればテーマが見つかる」というわけでもありません。あまりに大量の情報を集めれば、情報洪水に飲み込まれて、方向を見失ってしまうでしょう。
私は『「超」文章法』(中公新書/2002年)において、「テーマの発見は8割の重要性を占めているにもかかわらず、明確な方法を見いだすことができない。具体的な方法はない」と書きました。では、この問題については、全く答えがないのでしょうか?
■アイディアの多くは仕事が進んだところで出る
実は、この点について、私の考えは変わりました。テーマを見いだすための最も確実な方法は、「仕事を続けること」です。仕事を続けていると、その中から新しい疑問が生じ、新しいテーマが見つかるのです。
これを「クリエイティング・バイ・ドゥーイング」ということにしましょう。「ラーニング・バイ・ドゥーイング」ということがいわれますが、知的生産においては、「クリエイティング・バイ・ドゥーイング」が重要なことです。これは、「仕事をしながら創り出す」ということです。アイディアの多くは、仕事がある程度進んだところで出てくるのです。
■とにかく始める、すると成長する
テーマも同じです。「テーマ探しをやって適切なテーマを探し当て、それから仕事を始めて進めて完成させる」ということは、滅多にありません。そうではなく、「何かのテーマで仕事を始めていろいろ調べたところ、別のもっと適切なテーマがあると分かり、実はそれが本当の金鉱であることを見いだし、テーマをそれに変更して仕事を進める」という場合のほうが多いのです。つまり、テーマも、試行錯誤でしか見いだせない場合が多いのです。
![野口悠紀雄『書くことについて』(角川新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/f/200/img_2f1eb804279c4a46fe64d6c2f4b28397253907.jpg)
したがって、必要なのは、「とにかく始める」ことです。準備ができてから始めるのでなく、準備がなくとも始めるのです。
多くの人は、テーマが見つかってから動きます。その順序を逆転させることが必要なのです。「とにかく何か書いてみる」、「すると成長する」。このことを、私は、毎日実感しています。仕事の中で一番難しいのは、出発することです。出発すれば進みます。そして完成します。
多くの人は、テーマが見つからないから始めないのですが、そう簡単にテーマが見つかるはずはありません。そして、仕事を始めないと、そのことに頭が向きません。しかし、仕事をとにかく始めることなら、誰にでもできます。
「クリエイティング・バイ・ドゥーイング」は、私の最新刊『書くことについて』(角川新書)が提案する最も重要なノウハウの1つです。そして、そこではただ「始めよ」というのでなく、そのための仕掛けを、以下のように提案しています。
■思いついたことを音声入力でメモする
しばらく前までは、PCで作業をする場合においても、「仕事を始める」ことに対して一定の障壁がありました。「仕事を始めよう!」と決心して机に向かって座り、PCの電源を入れるという作業が必要だからです。現実には、たったこれだけのことが大きな障壁になるのです。
しかし、現在では、この障壁が非常に低くなっています。スマートフォンを取り出し、メモのページを開き、音声入力でとにかく何かを話してみる。それだけの操作でテキストファイルの原稿ができます。これに関してはさまざまな仕組みを構築していくことが可能です。思いついたアイディアを逃さないようにする仕組み、そして、そうしたアイディアを育てていく仕組み、それらのアイディアをまとめて組み上げ、構成していく仕組みです。
ただ、これらの整備は徐々に行なえばよいことで、とにかくこの第1歩を踏み出すことが創造活動で最も重要なことなのです。
そうした中で最も重要なのは、「まず何かを書く」ということです。そのための重要な手段が音声入力です。仕事を始めていれば、朝起きたときに何か考えが浮かぶはずです。思いついたことを音声入力でメモします。昨日、人と会って話したことを思い出してみましょう。そこに何かよいアイディアが潜んでいないか? 昨日読んだ本で、何か手がかりになることはなかったか? このようにして思いついたことをすぐに記入できるように、スマートフォンを枕元に置いておきます。
朝食のときに新聞を読んでいる人も多いでしょう。何か意見をいいたい記事を探します。そして、その記事に対する意見や感想を書いておきます。仕事が一段落して立ち上がるとき、アイディアが浮かぶ場合も多いでしょう。
■音声認識でグーグルドキュメントにメモする
「とにかく始める」方法として、「スマートフォンのメモのページに音声入力する」と述べました。「とにかく始める」方法は、これ以外にもあります。思いついたことを書き留める方法としては、紙片やメモ用紙、あるいはノートに書き留めるという方法もあります。
これらのどれを用いてもよいのですが、いつでもどこでも書くことができ、そこから成長させられるという点から、スマートフォンを用いてグーグルドキュメントに書くことを強く推奨します。その際に音声認識を用いることも強く推奨します。
■デジタル情報の文書をクラウドに保存する
メモ用紙やノートなどに書き留めたメモは、そこから成長させることが、できなくはないのですが、効率的にはできません。デジタルな形態になっていても、PCというローカルな端末に保存しているのでは、それを成長させていくことが難しいのです。
アイディアを成長させるためには、文書がデジタル情報の形で書かれており、しかも、それがクラウドに保存されていることが必要です。ごく最近では、AI(人工知能)のパタン認識能力が向上してきたので、手書きのメモなどについても、それをデジタル化して処理することが可能になってきました。
浮かんだアイディアをすぐにキャッチできる仕組みを作った後で必要なのは、それらのアイディアが成長できるような仕組みを作ることです。これが「アイディア農場」であり、そこでは「多層ファイリング」の仕組みが重要な役割を果たします。
![スマートフォンを操作する男性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/b/670/img_6bbcb26a05a7374d3b8760d38a7ebad8509769.jpg)
■まず体系ができあがれば新しいアイデアも出てくる
全体の体系を作り上げてしまうと、アイディアが出やすくなります。全体の体系ができあがってくると、抜けている部分などについて、新しい考えが出てきます。この場合は、その考えをどこにはめ込むかがはっきりしているので、新しいアイディアを書き留めることは簡単です。それとこれまで書いたところとの反応で、さらに新しい発展が期待できるでしょう。
こうしたメカニズムを活用するためにも、「とにかく仕事を始める」ことが重要です。そして、仕事を始めれば、仕事は完成します。
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一橋大学名誉教授
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2017年9月より早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。近著に『経験なき経済危機――日本はこの試練を成長への転機になしうるか?』(ダイヤモンド社)、『中国が世界を攪乱する―AI・コロナ・デジタル人民元』(東洋経済新報社)ほか。 ◇野口悠紀雄Online
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(一橋大学名誉教授 野口 悠紀雄)
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