「最も恐れるのは質問がなくなること」79歳で1年に9冊の本を書いた私の発想法
プレジデントオンライン / 2020年12月11日 11時15分
■テーマを見いだすための「質問ジェネレーター」
何について書くのか、テーマを自動的に見いだすテーマ発見器はありませんが、その近似物「質問ジェネレーター」を作ることはできます。この方法の要点は、異質な考えに接する機会を作り出すことです。自分1人の考えに閉じこもっていては、質問はなかなか出てきません。質問は、異質な考えに接することによって出てくるのです。
具体的な方法として、異質な考えに接するために最も効率的なのは、本を読むことです。そして、そこに述べられている考えに対して質問をすることです。もっといえば、そこで述べられている考えに反論することです。それによって問題を掴むことができます。
これは、普通考えられている読書法とは異質なものです。多くの人は、本から教えを受けようとしています。つまり、著者から知識や考え方を学ぼうというのです。しかし、ここで推奨している方法は、そうした受け身の読書ではなく、もっと積極的なものです。最初から喧嘩腰で本に臨むのです。本に対して批判的な態度で接し、異議を唱えようとするのです。
私は、アメリカで大学院の学生として勉強していたとき、図書館の本を読んでいて、「この考えは間違っているのではないか?」といった類の書き込みがあるのを見て、大変興味深く思いました。考えてみると、昔から、多くの人が本に書き込みをしていました。
なお、カレントトピックス(時事問題)については、新聞や雑誌の記事について、同様のことを行なうことができます。
■AIとクラウドを用いて自分自身と対話する
異質な考えに接するためのもう1つの方法は、講義をすること、あるいは研究会のような集まりで発表することです。ここでの質問から、新しい発想が出てきます。
![野口悠紀雄『書くことについて』(角川新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/f/200/img_2f1eb804279c4a46fe64d6c2f4b28397253907.jpg)
私は、新型コロナウイルスの感染拡大で集会ができなくなるまで、毎月1回、特別講義と称して公開講義を行なってきたのですが、この大きな目的は質問を出してもらうことでした。あるいは、ブレインストーミングを行なって自分の考えを出し、それに対して質問をしてもらうことが考えられます。能力の高い人たちとのブレインストーミングなら、多くを期待することができます。
対話のメモを見直すことも有用です。他の人の考えに接すれば質問が出てきます。こうしたメモには、手書きのものが多いでしょう。これらは、写真に撮り、データベース化します。自分のメモを後から見ることは、しばしば有用です。状況が変わってその問題を新しい観点から、つまり、別人のような視点で、見ることができるからです。
何週間も前のメモを見て、「こんなによいことを考えていたのか!」と自分で感心することもあります。そうしたものが見つかると、貴重な玉手箱を持っているような気持ちになります。
ここで提案しているシステムは、昔から作家が書いていた「創作ノート」と同じものですが、AI(音声入力)とクラウド管理(グーグルドキュメント)によって、はるかに強力な仕組みになっているのです。これは「自分自身との対話」です。これはグーグルドキュメントのコメント機能の活用で進められます。
■疑問を持ち続けることが大切
私は質問をたくさん持っています。私が最も恐れるのは質問がなくなってしまうことですが、当面は恐れることはありません。質問が次々に湧き出してくるからです。仕事を進めていることが、問題を捉えるための最強の方法です。
私は、子供の頃から、疑問を持ち続けてきました。例えば、つぎのようなことです。
分数の割り算は、分子と分母を逆にして掛ければよいのはなぜか? 夜が暗いのはなぜか? 星は無数にあるのだから、不思議なことだ。「宇宙が膨張しているからだ」という答えを知ったのは、ずいぶん後のことです。
なぜメキシコとアメリカの間にはこれほどの豊かさの差があるのか? カリフォルニアに留学していたとき、アメリカの豊かさを見て、毎日のようにそう考えていました。いまに至るまで満足できる答えを見いだせません。
■依頼によって新たな関心を見出すこともある
友達同士で問題を作っていたこともあります。マーティン・ガードナーの数学パズルが面白かったのは、問題の設定が面白かったからです。私は、いまでもたくさんの質問を持っています。そして、さまざまな方法によって、これらの質問に対する答えを見いだそうとして努力しています。
![新しいアイデアは、疑問を解決します](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/c/670/img_5c453dd843d1bdcf84e067c49578c3e8600514.jpg)
例えば、つぎのような質問です(これらは、新型コロナウイルス期以前の日本経済に関するものですが)。
・人手不足なのに、なぜ賃金が上がらないのか?
・日本企業の売上高は伸びていないのに、なぜ利益が増えるのか?
・日本の産業は元気がないのに、なぜ株価が上昇するのか?
原稿依頼やインタビューなどで、私がそれまで関心を持っていなかったこと、あるいは漠然としか意識していなかった問題を示されると、大変ありがたく思います。そのことについて関心を寄せることになるからです。
ただし、それは、具体的なテーマを示された場合であって、「日本経済の問題点について」とか、「技術の新しい進展について」といった漠然としたテーマでは、このようなことにはなりません。「いかにしたら生産性を高められるか?」、「いかにしたら豊かになれるか?」では、問題の設定が広すぎ、漠然としているため、答えを出すことができません。有意義なのは、操作可能な形で設定された問題なのです。
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一橋大学名誉教授
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2017年9月より早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。近著に『経験なき経済危機――日本はこの試練を成長への転機になしうるか?』(ダイヤモンド社)、『中国が世界を攪乱する―AI・コロナ・デジタル人民元』(東洋経済新報社)ほか。 ◇野口悠紀雄Online
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(一橋大学名誉教授 野口 悠紀雄)
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