「マイホームと賃貸はどちらがお得か」お金のプロの最終結論
プレジデントオンライン / 2020年12月3日 15時15分
※本稿は、加谷珪一『お金で絶対に苦労しない方法を教えてください!』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■マイホームは「住宅」ではなく「資産形成」の視点で考える
——マイホームと賃貸では、どちらがお得ですか。先輩や友だちに聞いても、意見がすごく分かれるんですよ。一生家賃を払い続けるなんてムダだって言う人もいれば、せっかく買っても地震でつぶれたら終わりだ、なんて言う人もいて、よくわかりません。
これは永遠の問いですね。私も実によく聞かれるんですよ。ストレートに答えると、「資産価値のある家を手に入れられるなら、賃貸よりマイホームがおすすめ」となります。なぜか「マイホームを買いましょう」と言うことを期待されていることが多いんですが、実際にはそんなに単純に言えるものではありません。
どちらが得かと拙速に答えを求める前に、知ってほしいことがあります。会計的に見ると、マイホームか賃貸かによって、住まいの意味がまったく変わってくるという点です。
——会計的にってどういう意味ですか?
賃貸住宅の場合、家賃は家庭という事業を営むうえでの「経費」です。ですから、いくらの家賃が妥当なのかは、その支出に対して得られる効用のバランスによって決まってきます。ここでいう効用というのは、住環境に対する満足感です。
家賃というコストに対して、十分なリターンがあるのであれば、経費の使い方として「成功」しているといえるでしょうし、そうでないならタイミングを見て引っ越しを検討すべきでしょう。
一方、マイホームの場合、買った瞬間に「資産」になりますから、単なる「住宅」ではなく、「資産形成」の視点で考えるべきです。その意味で、何より資産価値が下がらない物件を選ぶことが絶対条件です。
継続的に資産の価値が増加するか、せめて下がらない家であれば、その買い物は「成功」だったといえます。もし購入後に「失敗」だったと気づいたとしても、そうそう簡単に買い替えるわけにはいかないでしょうから、購入時にはよくよく注意しないといけないわけです。
一般に日本の住宅は価値を維持できる期間が短く、戸建てで平均30年程度しかもちません。マンションだともう少し長くて、平均50年ぐらいでしょうか。マイホームを買うなら、少なくとも自分が死ぬまで、資産価値が担保できる家であることが必須の条件です。
そういう物件を見つけることができたなら買ってもいいでしょうね。間違っても「そろそろマイホームが欲しいから」「子どもも生まれたことだし」などと十分に吟味しないで買ってはいけません。あっという間に価値が暴落して、しまいには「負動産」になってしまいかねませんから。
こう考えてみると、比較すべきは、持ち家か賃貸か、ではないことがわかるんじゃないでしょうか。持ち家にしても賃貸にしても、それぞれの軸で成功か失敗か分かれます。
■日本の住宅は貧弱、アメリカは不動産で一財産を築ける
——マイホームは人生でいちばん大きな買い物、なんていわれますが、そのわりに30年しかもたないなんて、ちょっとひどい話ですよね。
そうなんですよ。住宅を資産として見た場合、日本の住宅はあまりにも貧弱です。高度成長時代に生活の基礎インフラをおざなりにしてきたツケで、日本の住宅は粗悪なものばかりです。本当に残念としかいいようがありません。
特に戸建ての場合は、築40年を過ぎる頃には、ほとんど廃屋同然になってしまいます。そのため不動産を使った資産運用は難しいんですよね。住宅市場という点では、やはり欧米型のほうが圧倒的に優れています。
アメリカの場合、家の造りが根本的に違っていて、築100年もの家でも、ごくふつう「現役」で使われています。むしろ、古い家をきちんと整備することで、買ったときより価値が上がることさえあります。
ですからアメリカ人にとって、最大の資産はやっぱりマイホームです。マイホームを買って資産価値が上がると、そこで生じた余剰部分を担保にまたローンが組めますから、もう一軒買って人に貸し出す、といった資産運用が可能です。ものすごいお金持ちでなくても不動産で一財産を成すことができるので、ごくふつうに会社員として働きながら、退職する頃には1億円や2億円の資産をもっているという人もざらにいます。
■資産価値が下がらない物件選びのノウハウ
——現実的に国内で家を買う場合、どうやって選んだらいいんでしょう? 例えば、マンションのほうが手軽そうですが、資産価値としては一軒家のほうがいいですか?
まず、マンションか戸建てかで見ると、資産価値という点では圧倒的にマンションです。先ほど言ったように、戸建ての場合、一般的な日本の木造住宅はほんとうにもたないので、あっという間にダメになって、資産価値として最後は土地代ぐらいしか残らないと思っておいたほうがいいです。
ただし、マンションなら大丈夫、と太鼓判を押せるわけでもありません。日本のマンションは、断熱性のない窓ガラスをふつうに使っていたり、まともな断熱の施工すらなされてないことも多く、欧米の住宅市場の常識では考えられないほどスペックの低い物件が多いんです。アジア圏のなかで比べても、中国や韓国よりも平均的なレベルは低いでしょうね。
ですから、たとえマンションでも、転売して資産を大きくするといった使い方までは、ほぼ期待できません。最低限、自分が死ぬときまでは資産価値を維持できれば御(おん)の字(じ)と思ったほうがいいでしょう。
■マンションは中古と新築にはこだわらない
——ということは、せめて新築を選ぶべきでしょうか?
マンションに限っていえば、中古か新築かには一切こだわらないでいいでしょう。立地条件がよくて、かつ管理体制がしっかりした物件であれば、中古でも十分使えるものがあります。
新築マンションのほうが、内装の設備が最新式であるといった利点はありますが、建ぺい率(敷地面積に対して許されている建築面積の割合)ギリギリいっぱいに造られていることが多い点は少し注意が必要です。そのような物件は、ゴミ出しのときに雨に濡れる構造になっていたり、急な階段がついていたりすることもあります。
その点、むしろ古いマンションのほうが、敷地の使い方が全体にゆとりがあって、共有部分も広かったりして、いろいろ使い勝手がいいことも多いんです。
西園寺さんの年齢なら、ゴミ出しのときに急階段があってもまったく気にならないでしょうけれど、ずっと住み続けるかもしれないと考えると、高齢者にとって生活しづらい点がないか、ということも考えたほうがいいでしょうね。
なお、戸建て住宅に関しては、先ほども言ったように、非常に寿命が短いために、そもそも中古市場に流通するに値する物件がありません。住宅市場に占める中古の割合は2割程度しかなく、ほとんどが新築で占められています。これがアメリカやイギリスだとまったく逆で、新築は1〜2割で、8割以上が中古物件です。つまり、住宅の寿命にそれだけ差があるということです。
■最も重視すべきは好立地で駅近という条件
——できるだけ長く資産価値を維持できるマンションの選び方を、もう少し詳しく教えてもらえませんか?
一般に住まい選びの基準というと、広さ、間取り、立地の3つになりますが、最も重視すべきは立地です。利便性の高い地域にあって、最寄り駅から近いのがまず絶対条件です。好立地で駅近という条件さえクリアしていれば、少々狭かったり、使い勝手がよくない間取りだったとしても、そうした欠点をカバーできます。
リモートワークが増えてきたとはいえ、まだまだ都心に通わなければならない人も多いわけですから、たとえ広々とゆとりある間取りで内装などが立派でも、長時間の通勤を強いられる環境にある物件は敬遠されますね。最寄り駅までバスを使わないといけないとか、急な上り坂の上に立っているような物件も、なかなか買い手がつかないことが多いです。
□資産価値が下がらない家が手に入るなら、賃貸より持ち家のほうがお得。
□資産価値という点では、戸建てよりマンションを選ぶべき。
□マンション選びで最も重視すべきは「立地」。利便性が高い地域にあって、最寄り駅に近いのが絶対条件。かつ管理体制が良好な物件がよい。
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経済評論家
1969年宮城県生まれ。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村証券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。その後独立。中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行うほか、億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
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(経済評論家 加谷 珪一)
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