「なぜ見ないのか」鬼滅の刃ブームに乗り遅れた人たちに言いたいこと
プレジデントオンライン / 2020年12月4日 11時15分
■まさに私にうってつけのテーマである
担当編集者からこんな依頼が届いた。
まさにこのテーマ、私にうってつけではないか! 「今さらブームに乗りにくい」「後から乗っかるのが恥ずかしい」という人はなーんにも気にしないでいい。散々その経験をした結果、開き直ってしまった1973年生まれの私がこれまでいかに、ブームから遅れる人生を送り続けてきたか!
もちろん『鬼滅の刃』の存在は知っているし、各種コラボ商品をコンビニや自販機で見たし、主人公がチェック柄の服を着ているのは分かるし、主人公の名前が巨人の捕手・炭谷銀仁朗に似た名前だったと記憶しているし、映画『千と千尋の神隠し』を超えるかもしれない興収を挙げていることや単行本が1億冊を超えていることも知っている。
コロナ禍での大ヒットとして明るい話題になったことや、配給会社の株価が上がったこと、元々アニメを放送したフジテレビはオンエアに躊躇していたことや、観ていない人に「知らないの?」と批判的文脈で語る「キメハラ(『鬼滅の刃』ハラスメント)」という言葉まで存在すると報じられたことも知っている。
■あらゆるブームに「乗り遅れる」人生だった
さらに、コロナの第3波の原因はGO TOキャンペーンと『鬼滅』の劇場版大ヒットにある、とまで言われた(各所から「映画館満席!」「間隔空いてなかった!」の声が出た)。何しろ「人が動く」「人が集まる」の二大巨頭とされたのだ。そりゃあここまでメディアが『鬼滅』を大量に取り上げているから、この程度は関連情報を知ることとなる。作品の設定もいつの間にか知ってしまった。
さて、毎度ブームに乗り遅れる人生を送ってきたし、今回もまったくブームに乗らなかったが、結局それでいいんじゃないか、とも思っている。その原点となるのが、わが家の教育方針だった。なんと、私の母は「目が悪くなるからテレビは禁止!」という教育方針を私に4歳から課したのである!
というわけで、私は『Dr.スランプアラレちゃん』『オレたちひょうきん族』『川口浩探検隊』『夕やけニャンニャン』『スクール・ウォーズ』『スチュワーデス物語』など、小中学校で話題となっているものについていけない人生を長きにわたって送り続けた。
結果的に私は左目の視力が0.2、右目が0.1と完全に近視になるため、母親のあの教育は一体何だったんだオラ、と思う。ただし、本や漫画は読むことは許されていたため、『北斗の拳』や『キン肉マン』といった週刊少年ジャンプに掲載された作品はすべて読んでいたし、子供にとって主要な本はほぼ全部読んでいただろう。
■同級生に「おっくれてる~」といわれる屈辱感…
小学4年生の時、担任の教師は「『1班』~『6班』という呼び方はつまらないので、各班、好きなキャラクター名をつけなさい」と命じた。わが班は「アラレちゃん班」となった。班の連絡ノートの表紙には自由に絵を描けることになっていた。小学生というものは残酷なもので、こんな時に何をするかといえば、テレビを見ないことが知られている(さらに、当時はまだジャンプも読んでいなかったので原作も知らない)私に絵を描かせようとしていたのだ。
そんな私だから、表紙の空白を前に何も描くことができなかった。これが同級生にとっては優越感を覚えたようで、「えぇ~、お前、アラレちゃん知らないの~」「おっくれてるー!」「だっせ~」などと囃(はや)し立てる。適当に米菓子の「アラレ」の絵でも描くか、と思ったがそれは私の無知を班替えの次学期まで晒し続けることになるため避けたかった。
そこでその班の良心ともいえる女子生徒が「別にアラレちゃんそのものを描く必要ないじゃん」と言いながら、流れ星の絵を描いた。今、YouTubeで同作のオープニングを見ると確かに流れ星のような演出はあるので彼女はこれを描いたのだろう。
■ジブリもドラゴンボールも半沢直樹も見ていません
この屈辱を基に私は家に帰って「お母さんがテレビを見せてくれないからオレは学校で恥ずかしい思いをしたじゃないかよ!」と言うことはなく、相変わらずブームに乗り遅れる人生を送り続けた。社会的には「ブームになった」とされるが、私が触れたことがない作品・エンターテイナーを「ごく一部」列挙する。
◆「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズ
◆ジブリ作品全て
◆ディズニーアニメほとんど(たまたま地上波テレビで見た『アラジン』以外全て)
◆ONE PIECE
◆ガールズ&パンツァー(ガルパン)
◆DRAGON BALL、1回目のピッコロを倒した後
◆ラブライブ!
◆マッドマックス 怒りのデス・ロード
◆米津玄師(パプリカ含む)
◆逃げるは恥だが役に立つ(逃げ恥)
◆半沢直樹
◆オレたちひょうきん族
お前はじゃあなんのエンタメを知っているのだ? と言われるが、こうなる。
◆70~80年代の英米ロック
◆ファミコン・スーパーファミコン及びその復刻版
◆80~90年代のナムコ、カプコン、コナミのゲーム
◆80年代中盤の少年ジャンプ作品
◆光栄(現コーエーテクモホールディングス)の『三國志』『信長の野望』
◆MLB(米大リーグ)
◆NBA(米バスケットボールリーグ)
◆NPB(プロ野球)
◆FIFAワールドカップ
◆UEFAチャンピオンズリーグ
◆ドラゴンクエストI~VII、IV、XI(2D版)、ファイナルファンタジーVI
◆機動戦士ガンダムとその関連グッズ(作品、PS2のゲーム、フィギュア)
■まったく興味がないのにやる理由がない
NHK紅白歌合戦を最後に見たのは1993年だし、最後にCDを買ったのは1994年、『ファイナルファンタジーVI』のサウンドトラックだ。AKBグループの歌で知っているのは『恋するフォーチュンクッキー』と『会いたかった』のサビ部分だけだし、嵐はデビュー曲のサビ部分しか知らないし、EXILEも『Choo Choo TRAIN』は知っているが「これってもともとはZOOじゃないか? JR東日本のスキーのCMで見たアレだろ?」と思う。
最近メディアが激推しのNiziUや10月に終わったリアリティー番組『バチェロレッテ・ジャパン』も関連記事を編集することはあったため、大まかな概要は分かるものの、それ以上調べたり実際に見たりするつもりもない。
ここ何年も大ヒットしたゲームが登場している。『あつ森』『ポケモンGO』『パズドラ』『モンスト』『モンハン』などさまざまだが、どれもやったことがない。理由は「スマホとNintendo Switch、PS4を持っていない」ということが大きいが、もっとも大きいのは「まったく興味がない」ということに尽きる。興味があればスマホもSwitchも買えるので。
そもそも私は方向音痴のため、地図が読めないので『ポケモンGO』はできないし、方向感覚がヒドすぎるため3Dのゲームは『三國無双』や『ワンダと巨人』『鬼武者』レベルでさえプレイできない。『ドラゴンクエストVIII』でさえ無理だ。
だったら何をやっているかといえば、主に『ドラゴンクエストVI』より前のドラクエシリーズと、完全に3D要素のない『3DS三國志』(PC版の『三國志V』がベース)をニンテンドー3DS(3D機能は使わないけど)やり続けている。三國志などもう7年以上やっている。
■「『おもしろい』って騒ぎまくる風潮にムカムカする」
以前、東洋経済オンラインで同世代の常見陽平氏(千葉商科大学准教授)、おおたとしまさ氏(育児・教育ジャーナリスト)、赤木智弘氏(ライター)と映画『スター・ウォーズ』について座談会をした。常見・おおた両氏が同作に詳しく、赤木氏と私がまったく知らない、という体で記事になった。(「「スター・ウォーズ」にイラッとする人の目線 みんなが大好きという前提で話をするな」、2016年2月18日)まさに今回の『鬼滅の刃』と同じ視点の座談会だ。
ここでは、常見・おおた両氏が赤木氏と私にいかにスター・ウォーズ(SW)が素晴らしいかを述べるもわれわれがまったく腑に落ちない、という展開になる。私は、作品の内容を予想しろ、と言われ、こう答えた。
さらに、なぜお前は見ないのか? と聞かれ、こう答えた。公開日にコスプレをする人が楽しんでいる様(さま)を喜々としてメディアが報じる様も「宣伝に貢献するなよ、一般人を煽るなよ」と思った。もちろん、ファンには何も思うところはない。あくまでもメディアが「推し過ぎ」なのがイヤなのだ。
【常見】君はジブリも同じ理由で嫌いだよね。
【中川】そうだよ。何が「バルス祭り」だ。オレがゲーム『三国志』が好きなように、個々人に好きなエンタメがあっていいわけ。でも、昨今のマスコミやネットは「話題になっている作品はみんなが好きなはずだ」って押し付けや同調圧力がすごく横行している。
■野球中継ばかり見る父親が嫌ではなかったか
そして予想通りだが、同作のファンであろう人物からは「おまえこそ選民意識だろ。見もしないでよくここまで言える」と書かれた。当時、東洋経済オンラインにはコメント欄があったが、私に対しては「こじらせている」だのいろいろと書かれた。
要するに、「流行りものに乗れない」ことについて「そんなもんどうでもいいだろ。好きなものを見ればいいだろ」と意固地になると、バカにされるようなのだ。「オレらは好きで見てるのに他人の趣味にガタガタ言うな」と。いや、オレとお前、同じこと言ってるじゃねぇかよ……。
いや、そうではないのだ。メディアや、感動した人・興奮した人による「過度な押し付け」が嫌いなのである。かつて、プロ野球の巨人戦を毎日地上波で放送していた頃、家庭ではチャンネル争いがあった。父親は巨人戦を見ているが、妻と子供は見たくない。結局野球というものを「押し付けられている」感覚があり文句を言っていた。
親戚の集まりなどで大人の男性が野球の話ばかりしていて女性と子供たちがシーンとしている、というシーンも私は見てきた。多分、この時は後ろめたいというよりは「むかつく」「うざい」という感覚を覚えたのでは。しかし、スマホが普及し、メディアや「流行りもの情報」がより身近になり、ハマっている人々の熱狂的な意見がフェイスブック等で目に入ってくると、どことなく押し付けられている感覚が生まれてくる。
どいつもこいつも『アナ雪』で「レリゴー!」とやっていた時期を思い出す。
■「乗り遅れた」と感じる人に言いたいこと
そして、勝手な予想だが、「レリゴー!」に乗れなかった人は『鬼滅』に乗れないだろうし、もっと言うとハロウィンで仮装をしたくないタイプなのではないかと思う。なんとなくメディアや職場の人の雑談から「みんなが知ってること」「みんながやってること」を知り、疎外感を覚えるタイプだ。もちろん『鬼滅』はリピーターもいるだろうが累計約2000万人が見たわけだから、とんでもない数である。
だが、これは日本人の約16%なわけで、「みんな」では決してない。今回『鬼滅』を見ていない人がもしも後ろめたい気持ちになっているのであれば、それは「もう個人の趣味でしかないじゃないか。気にしなさんな」と言いたい。
冒頭でサラリと巨人の炭谷銀仁朗の名前を入れたが、野球ファン以外であれば知らない名前である。大谷翔平の名前は知っていても炭谷や中谷将大(阪神)の名前は知らない人も多いだろう。人々の知識や趣味なんてもんはそんなもんだ。「人生色々、趣味も色々」でいいのである。
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ネットニュース編集者/PRプランナー
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。
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(ネットニュース編集者/PRプランナー 中川 淳一郎)
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