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「マジ限界だ」コロナ陽性の高齢者と濃厚接触リスク大な介護従事者の半泣き告白

プレジデントオンライン / 2020年12月5日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SetsukoN

介護従事者は医療従事者と同じく、人との密接を避けられない仕事だ。感染予防をしていてもリスクは大きい。要介護者の自宅を訪問してリハビリをしている、ある男性理学療法士は「今年の3月からずっと極度の緊張状態が続いています。感染の恐怖に加え、厚労省は介護報酬改定により訪問リハビリの抑制をしようとしており、それによって失職の不安も同時に抱えないといけない」という――。

■要介護者に寄り添う仕事をする人は3月からずっと極度の緊張状態

新型コロナウイルスは第3波による感染拡大が発生。感染者だけでなく重症者も日を追うごとに増えており、医療体制の崩壊が危惧されている。医療関係者が抱える危機感やストレスは相当なものだろう。

これは介護従事者も同様だ。人との密接を避けられない仕事。感染すれば重症化しやすい高齢者と接しているため感染防止策の徹底に努めているが、再拡大の勢いの中では完全に防ぎきれるものではなく、クラスターが発生している高齢者施設もある。

首都圏のA市で訪問リハビリをしている理学療法士のSさんは、クラスターによる感染が身近に迫った経験を持つ。緊張の日々を聞いた。

「先日、A市内のデイサービス(要介護を受けた人が施設に通い、入浴・レクリエーション・食事などをする)でクラスターが発生しましてね。そこで陽性になったある高齢者の方が、うち(訪問看護ステーション)のリハビリの利用者さんだったんです。その方がPCR検査を受けて陽性が判明した前日、私の同僚の理学療法士Bが先方の自宅に出向き60分間のリハビリを行っていました。『こりゃBはアウトだな』と思いましたよ。いうまでもなくリハビリは患者さんに寄り添って行います。必要に応じて身体の各部に触れますし、顔を近づけて会話もする。もちろん私たちは感染予防のためマスクと手袋をつけていますし、患者さんにもマスクはしていただいています。でも、これだけ密接していれば感染する確率はかなり高いはずです」

■「仕事そのものが感染リスクであり、四六時中ピリピリ」

この事実が判明した時は、看護ステーション内にも衝撃が走ったそうです。

「感染のリスクを下げるため職員同士、会話も必要最小限の業務連絡にとどめていましたが、私たちはステーション内でBと濃厚接触しているわけです。Bはもちろん、職員も全員がすぐにPCR検査を受け、結果が出るまで業務を停止しました」

検査結果は、陽性者のリハビリを行ったBさんは幸いにも陰性。当然、Sさんなど他の職員も陰性だったが、新型コロナウイルスが身近に迫っていることを痛感し、緊張感は増すばかりだそうだ。

「訪問リハビリを受けている利用者さんは高齢のうえ、何らかの基礎疾患があり免疫力が落ちている方ばかりですから、絶対に感染させてはいけないという思いがあります。にもかかわらず首都圏では感染者が激増。私たちが仕事をする市もそのエリアにありますから、いつどこで感染するか分からないという不安がある」

「今回のケースのように患者さんがデイサービスなどの通所介護で感染することもありますし、家庭内感染が増えているとも聞きます。訪問リハビリによって感染するリスクもあるのです。仕事そのものが感染リスクであり、四六時中ピリピリしている状態なんです」

■「介護現場の人間はみな疲弊しきっています」

リハビリの専門職には3種があります。起き上がる・立ち上がる・歩くといった基本的な体の動作ができるようにする理学療法士(PT)、手を使って、何かをつかむ・食事をする・字を書くといった日常的な動作ができるようにする作業療法士(OT)、言語機能や発声に不安がある患者さんに聞く・話すといったコミュニケーション能力を回復させる言語聴覚士(ST)です。

老人ホームの女性
写真=iStock.com/SetsukoN
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SetsukoN

理学療法士と作業療法士は機能回復のリハビリを行なうために患者さんの体に触れますし、言語聴覚士は誤嚥を防ぐサポートをするため口の中に触れることがある。3職種とも感染のリスクに常にさらされているといえます。

「感染が拡大し始めた春先は、日本人の多くの人が得体の知れないウイルスに対する不安を感じ、緊張したと思うんです。でも、3密を避ける、ソーシャルディスタンスをとるといった予防策によって少しは安心できたはずですし、第2波が収まった頃はGoToキャンペーンなどによって息抜きすることができた。しかし、医療従事者と介護従事者は3月ぐらいから、ずーっと緊張しっ放し。第3波が起きてからは、さらにそれが増しており、これからも延々と続くのです。私に限らず、介護現場の人間は疲弊しきっています」とSさんは苦しい胸の内を明かします。

それに加えて最近、訪問リハビリの専門職の人たちを悩ませる事態が起こりました。

■訪問リハビリを行う専門職の多くが職を失う可能性

2021年4月の介護報酬改定で厚生労働省が「訪問看護ステーションによる訪問リハビリの抑制」を検討していることです。現在、在宅介護でのリハビリの多くは訪問看護ステーションに所属するリハビリ専門職が担っています。厚労省がそれを抑制しようとしているのは「訪問看護ステーションは看護師が医療的ケアをするためにあるが、最近は訪問リハビリの比率が高くなっており、本来の役割を失う懸念がある」ということからです。この背景には訪問リハビリの多利用が介護保険財源の圧迫につながるため抑制したいという国の本音が見え隠れします。

この改定案が通ると、訪問リハビリを行っている専門職の多くが職を失う可能性があるそうです。

「私たちの雇用問題だけではありません。現在、在宅でリハビリをされている患者さんやそのご家族にとっても困ることなんです」

そう言ってSさんは、具体例を語ってくれました。

「病気での入院がきっかけで要介護生活に入る方は少なくありません。病気の影響や入院生活によって体の機能が弱り、自力でトイレに行けなくなったりするのです。そこで私たちが訪問し、トイレに行けるようリハビリを行うわけです。自力でトイレに行けるかどうかというのは患者さんの心身に及ぼす影響が大きいものなんです。オムツをし、ご家族や介護サービスの人にその処置をしてもらう状態になると患者さんは精神的に弱り、衰えも進行してしまいます。でも、自力でトイレに行ければ気持ちは前向きになり元気になれる。ご家族の負担も軽減されるわけです。訪問リハビリを抑制されたら困る方はたくさんいるんです。また、リハビリの利用過多が介護保険財源を圧迫しているといいますが、患者さんの機能が回復に向かえば介護サービスを減らすことになり、結果的に財源を守ることにもつながる。にもかかわらず短絡的に抑制するというのは意味が分かりません」

■感染リスクと失職リスクを抱えて生きなければならない

訪問リハビリに従事する専門職の人たちは今、この改定案の見直しを求めて署名活動をしているそうです。その書面の記述に「介護保険利用者だけでも約8万人の方がサービスを受けることができなくなり、リハビリ専門職は約5000人が雇用を失うと見込んでいます」とあります。

マスクで介護ベッドに横たわっているシニア女性
写真=iStock.com/MichikoDesign
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MichikoDesign

「コロナウイルス感染に対する極度の緊張感と職を失うかもしれない不安。訪問リハビリを行っている者は、この二重苦を背負って仕事をしていることを知っていただきたいですね」とSさんは語ります。

※筆者註:12月2日、訪問リハビリの抑制案は関係機関や専門職の反対の声が根強く、厚労省は2021年度の法改正では見送りを決定しました。しかし、この問題はくすぶり続けるでしょうし、訪問看護におけるリハビリ専門職の立場の弱さは解消されないはずです。

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相沢 光一(あいざわ・こういち)
フリーライター
1956年生まれ。月刊誌を主に取材・執筆を行ってきた。得意とするジャンルはスポーツ全般、人物インタビュー、ビジネス。著書にアメリカンフットボールのマネジメントをテーマとした『勝利者』などがある。

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(フリーライター 相沢 光一)

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