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連載・伊藤詩織「パリから逆輸入された"日本のアール・ブリュット"とは何だ」

プレジデントオンライン / 2021年1月7日 9時15分

筆などを使って壁に描くのではなく、唾液と爪で壁をけずり描かれた壁画「無題」勝山直斗作(たかはしじゅんいち=撮影)。

■パリから逆輸入された「日本のアール・ブリュット」とは何だ

「芸術の最良の瞬間は、その名を忘れたときである」。フランス語で「生(き)の芸術」を意味するアール・ブリュット(Art Brut)は1945年、フランスの画家ジャン・デュビュッフェ氏が提言した。アートがアカデミックで高貴なものだった当時、精神病患者の作品集を見た彼は、伝統や流行、教育などに左右されず自身の内側から湧きあがる衝動のままに表現した「生の芸術」に心を揺さぶられたという。

そんなアール・ブリュットに心を奪われ、キュレーターとして関わってきた小林瑞恵さんは2000年代半ばに何度か日本での展示を試みたが、国公立の美術館は名もない芸術家の作品に対し関心を寄せなかった。

ところが10~11年に日本のアール・ブリュットを紹介する大規模な展覧会がパリで開かれ、12万人もの人を惹きつけた後、日本でも注目されるようになった。そうして、日本のアール・ブリュットは「逆輸入」されたのだ。

東京都渋谷公園通りギャラリーで、そんな歩みが鮮やかにキュレーションされた作品たちの前で小林さんはインタビューに答えた。私たちは展示されているアーティストの中でも最年少、福祉施設で暮らす06年生まれの勝山直斗さんの作品の前で足を止めた。

施設の部屋の壁一面に描かれた壁画は“普通”だったら問題行動とされてしまうかもしれない。でもその創作は、彼にしかできない独創的表現、アール・ブリュットと捉えられ展示された。

■障がいは社会制度がつくり出している

世界中を回ってきた小林さんは「障がいは社会制度がつくり出している」と話す。

小林さんによれば、国や社会制度の違いで障がいの定義・認識が違うのだ。小林さんがタイのある村に行ったときに、どんなにアール・ブリュットの説明をしようとしても、伝わらなかった。

小林さんは片方の足がない人を指差した。しかし、村人にとっては一緒に生きているその1人で、「障がい」という認識がなかったのだ。

人もアートも同じでグラデーションの中にある。どんな物差しでもはかれない、「私は私」とありのままに創作されるアール・ブリュットはとてもパワフルだ。

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伊藤 詩織(いとう・しおり)
ジャーナリスト
1989年生まれ。フリーランスとして、エコノミスト、アルジャジーラ、ロイターなど、主に海外メディアで映像ニュースやドキュメンタリーを発信し、国際的な賞を複数受賞。著者『BlackBox』(文藝春秋)が第7回自由報道協会賞大賞を受賞した。

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(ジャーナリスト 伊藤 詩織)

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