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「このままで、いいのですか?」政官財依存体質のままでは日本に未来はない

プレジデントオンライン / 2020年12月6日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mack2happy

■過去30年間の「不都合な事実」から目を逸らすな

地球環境の悪化は、18世紀の産業革命以降じわじわと進んできましたが、急速に悪化し始めたのは1970年代以降のことであり、わずかここ50年間のことにすぎません。

しかし、だからといって50年前の生活様式に戻すべきだとか、まして産業革命以前に戻すべきだと主張するつもりはありません。ただ、エネルギー多消費型の生活様式を変えない限り温室効果ガスを減らせないという、過去30年間の事実から目を逸らさないでほしいと願っています。

私たちのような環境NPOのみならず、心ある政治家、経済人、有識者も、これまで機会あるごとに「環境の危機」を訴えてきました。しかし、その声は広く国民に届くことはありませんでした。いや、ある範囲までには届いていたと思いますが、国民全体の生活様式や行動を変えるまでには至りませんでした。「不都合な事実」は、私たちを含むそうした人たちのパワー不足の結果でもあったことを認めざるを得ないと思っています。

■毎年のように世界を襲う「何十年に一度」の大災害

環境の危機は、異常気象などの気候危機だけではありません。いや気候危機だけに限っても、日本国内では今年7月の梅雨前線の停滞による豪雨で九州の球磨川が氾濫するなど、熊本県南部地域を中心として犠牲者は60人を超えました。

2019年9月の台風15号(房総半島台風)では千葉県各地で電柱が倒壊するなどして死者3名、同年10月の台風19号(東日本台風)およびその関連豪雨では長野県の千曲川が氾濫するなど全国140カ所で浸水が発生し、死者は107人を数えました。

世界を見渡せば、今年のカリフォルニアの山火事、アフリカ東部を中心に大発生したサバクトビバッタの穀物被害、昨年はオーストラリアでも大規模な山火事がありました。もちろん、われわれがニュース報道で知ることのできない気候変動を原因とした被害が世界各地で起こっているに違いありません。「何十年に一度」といわれるような大災害が、じつは毎年のように日本や世界を襲っているのです。

■生物絶滅、有害化学物質、海洋プラごみ……

2019年に「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)」が発表した「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」では、これまでに調査した動植物のうち、約100万種がここ数十年のうちに絶滅の危機にあると報告されています。

医薬品、化粧品、食品添加物、農薬、洗剤、防虫剤、消臭・芳香剤、プラスチック添加剤など、実に広範囲に使用されている化学物質は、一つひとつの濃度は微小でも、その蓄積がもたらす人体や生態系への憂慮すべき事態は、静かに、確実に進行しています。

海に浮かぶビニール袋やビン、コップ
写真=iStock.com/Placebo365
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Placebo365

ここ数年、日本でも大きな話題となった海洋プラスチックごみ問題も深刻で、今年7月からのレジ袋の有料化へとつながっていきましたが、もちろんレジ袋の使用量を減らすだけで解消するような小さな問題ではありません。レジ袋の有料化はあくまでも国民が問題意識を共有するための第一歩、「きっかけづくり」の事例にすぎないのです。

■「21世紀に則した」、しかし「過去50年とは異なる」生活様式

これら広い意味での環境問題はそれぞれ大問題で、その課題や解決方法も多岐にわたりますが、実は私たち人類の生活様式の変化が起点となってもたらされたものという点で共通しています。私たち生活者・消費者の日々の小さな選択や行動が環境問題を深刻化させているのです。

私たちの生活を産業革命以前の様式に戻すことはできません。21世紀の今日に則した、しかし、ここ50年間とは違う新たな生活様式を創り出していくしか道はないのです。その際、私たち一人ひとりがこれらの環境問題を「自分事」として捉え、知恵を絞り、工夫を重ねることが決定的に重要となります。

■「霞が関・永田町・大手町」連携方式との決別

これまで、環境政策に限らず日本の重要な政策は、「霞が関」の一部官僚、「永田町」の特定利害国会議員、そして「大手町」あたりの一部大企業、さらには彼らに親和性のある、あるいは官僚からみて都合のよい「有識者」といわれる一部の学者や専門家などの、ごく限られた人脈と知恵だけで決定されてきました。

そこで出される結論はいつも「経済成長」が第一優先で、「経済成長を促進する中で環境問題にも配慮する」ことはあっても、「環境対策を優先する中で経済成長にも配慮する」という順番になることはありませんでした。

環境危機の克服に向けた「社会人・勤労者としての開発・改善努力」「納税者・有権者としての適切な判断」「生活者・消費者としての協力姿勢」。そうしたもののすべてが、環境危機の回避へとつながっていくのです。

■「環境」を国家の主軸に据えた「新しい経済社会」

私は今年10月に『危機の向こうの希望』を上梓しました。同書のサブタイトルは「『環境立国』の過去、現在、そして未来」としています。

「環境立国」というと、省エネ技術の開発とか、燃料電池車の普及、さらには大気中CO2の吸収技術など、もっぱら環境対策技術で国を立てていこうとしている考え方と狭く捉えられてしまうかもしれません。

しかし私の考える「環境立国」は、同書で明らかにしたように、「環境」を国家の主軸に据えた新しい経済社会を実現しようとする運動の総称であって、そこには「憲法改正」「経済や技術のグリーン化」「教育の改革」「市民(特に女性)の参加を制度的に保証する」など、きわめて広範な活動を含んだ「立国」なのです。若者や学生を含むさまざまな職種の人々に自主的、積極的な参加を求めて日本の国を再起しようとする一大運動を表そうとした意図が込められているのです。

■自分たちで壊したものは、自分たちで元通りに戻す

かつて公害対策技術先進国だった日本は、21世紀に入ってからの20年間、私が関わってきた環境問題において世界のイニシアチブを握ることは一度としてありませんでした。イニシアチブを握るどころか、国際社会での存在感が希薄な「環境後進国」になってしまったのです。

加藤三郎『危機の向こうの希望 「環境立国」の過去、現在、そして未来』(プレジデント社)
加藤三郎『危機の向こうの希望 「環境立国」の過去、現在、そして未来』(プレジデント社)

同書で私が問い掛けたかったことは、たった一つに集約することができます。

「このままで、いいのですか?」

私は、日本のみならず、いま地球上に暮らすわれわれ世代が地球環境をめちゃくちゃにしてしまったのなら、それをできる限り元通りに戻すのがわれわれ世代の当然の責務だと考えています。そして、これから進む道の羅針盤となるよう、そのための処方箋を同書に収めたつもりです。

土俵際まで追い詰められた今日の環境危機を元の位置まで押し返したとしたら、その先には、持続可能で心豊かな新たな社会、新たな「希望」が開けていると信じています。

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加藤 三郎(かとう・さぶろう)
環境文明研究所 所長、認定NPO法人環境文明21顧問
1939年、東京生まれ。1966年、東京大学工学系大学院修了、厚生省(公害課)に入省。1971年、環境庁設立に伴い同庁へ出向。1990年、同庁地球環境部初代部長に就任。1993年に退官するまで、公害対策基本法、環境基本法、国連人間環境会議と「地球サミット」への準備など、日本の公害・環境行政の根幹を定める仕事に携わる。退官後ただちに現在の環境文明研究所ならびに認定NPO法人環境文明21の前身組織を設立。以後、NGO・NPOの立場から環境に対する広範囲な提言を発信し続けている。早稲田大学環境総合研究センター顧問、毎日新聞日韓国際環境賞審査委員などを兼務。最新刊の『危機の向こうの希望』『環境の思想』(プレジデント社)ほか著書多数。 環境文明研究所 認定NPO法人環境文明21

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(環境文明研究所 所長、認定NPO法人環境文明21顧問 加藤 三郎)

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