話すときにマスクを外すバカは、なぜ非常識な行動を取ってしまうのか
プレジデントオンライン / 2020年12月11日 11時15分
■日本も欧州も常識になったマスク、しかし…
11月26日、兵庫県市川町の中学校で生徒20人に新型コロナ感染が確認されたというニュースがありました。この学校では全校生徒参加の合唱コンクールが体育館で開かれ、集団感染が起きたクラスの生徒はほとんどがマスクをせずに歌っていたということです。
現在、日本でも海外でも「マスクを着用すること」は常識です。それなのに「普段は当たり前のようにマスクをする習慣のある人」がなぜよりによって飛沫が飛ぶ「合唱」や「会話」、「くしゃみ」などの際にマスクを外してしまうのでしょうか。今回はそんな不思議な現象について考えてみたいと思います。
今年の春先にはマスクというものに懐疑的だったWHO=世界保健機構も現在は180度方向転換をし、ヨーロッパ各地でのロックダウンについて「もしもマスク着用率が95%になれば外出制限は必要なくなる」としており、ヨーロッパの人々にマスクの着用を徹底するよう呼びかけています。
ドイツなどではマスクの着用が義務づけられている一方で、ヨーロッパ全体でみると着用率が60%以下であり、全員がマスクをするようになるまで、まだまだ課題が多いです。
コロナ禍になる前からマスクを着用する人が多かった日本とは違い、コロナ禍の前のヨーロッパにおいては「マスクを着用すること」は異様なこと、不審なこととして扱われていました。そんなところにもマスク着用がなかなか定着しない理由がありそうです。
■会話が盛り上がるとつい外してしまう人々
それはさておき、ヨーロッパでも日本でも「マスクをしているのに、飛沫が飛びそうな場面に限ってマスクを外す人」が目立ちます。たとえば日本の国会中継を見ていると、椅子に座って黙っている人がマスクをしているのに、立って話している人がマスクを外している姿を時折見かけます。
日本在住のドイツ人男性は、先日「ドイツに住む両親とその友達夫婦」の計4人とZoomで話したそうです。両親だけではなく友達夫婦もいるということで、日本でいう「3密」を心配した男性でしたが、彼がさらに驚いたのは、会話が盛り上がると4人ともマスクを外したことでした。
4人がマスクを外すのを見て男性は画面の前で思わず叫びそうになったとのことですが、きっと気持ちが顔に出てしまったのでしょう。4人は口をそろえて「大丈夫、大丈夫。私たちはいつも(コロナに)気をつけているから」と言ったのだとか。
「盛り上がったときにマスクを外すなんて全然気をつけてないじゃないか!」とツッコミたいところですが、思い当たる人もいるのではないでしょうか。
![マスクをあごまで下げて微笑みあうカップル](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/1/670/img_31c8ee57b47c84bb1ab1f07b99a348f8306447.jpg)
全体的にはやはり日本人のほうが「マスク慣れ」している気はします。たとえば筆者は友達と外で待ち合わせるとき、公共交通機関を使わずに徒歩で向かうことも多いのですが、人があまりいない道を歩くときはマスクを外して歩いています。そして待ち合わせ場所で友達を見つけると同時にマスクをするのですが、マスクをする筆者を見て相手(日本人)がホッとするのが分かるのです。
■抜けきらない「マスクをするのは相手に失礼」という感覚
筆者がマスクを着用するのを見てホッとした顔をするのは主に日本人で、相手がヨーロッパ人の場合はもっと複雑です。
何カ月か前、筆者は例によって人通りの少ない道をマスクをしないで歩いていましたが、なんと知り合いのドイツ人男性にバッタリ会ってしまいました。雑談が始まりそうだったので、筆者がマスクをしたら、「え?」という感じの怪訝な顔をされました。
「あなた、マスクをしないで歩いていたのに、僕と会った瞬間にマスクをつけるなんて、僕を感染者だと思っているの?」と言いたげな表情でしたが、そうではないんです。雑談をすると笑ったり声が大きくなったりするので、マスクの着用は「あなた」ではなく「わたし」(筆者)の飛沫が飛ぶことを心配してのことでした。
最近は「人と話すときこそマスクをする」人に対する訝しげな視線は少なくなってきているものの、「マスクは顔が見られないから残念」という感覚は今もヨーロッパ人のほうが日本人よりも強いと思います。
現に前述の「両親とその友達夫婦が盛り上がってマスクを外した」場面では、友達夫婦が「せっかく日本にいるあなたの顔が久しぶりに見られるのだから(日本在住の男性は一人で家にいたためマスクはしていませんでした)、私たちもマスクを外さないとね」と話していたのだとか。
つまりそこには「相手がマスクをしないで顔を見せてくれているのに、自分がマスクで顔の下半分を隠し表情が見えないようにしてしまうのは相手に対して失礼」という感覚があるのでした。
■単なる「ユニフォーム」に成り下がったマスク
コロナ禍によってマスクを着用するのが「常識」にはなったものの、依然「機能」についてはあまり真剣にとらえられていないことも。たとえば電車や人混みなど、人に見られている場ではみんな当たり前にようにマスクをしています。
![マスクをして渋谷スクランブル交差点を行き交う人々](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/5/670/img_355adaddd40e0bafff06b96a7e5e42f7307936.jpg)
ところがよく見ていると、普段しゃべらないときはずっとマスクをしているのに、
「人に話しかけられた途端にマスクを外す人」「国会中継のように自分がしゃべる場面になるとマスクを外す人」、そしてこれもビックリなのですが、「自分がくしゃみをするときにマスクを『ずらす』人」もいるのです!
そもそもマスクは「飛沫が飛ばないため」という要素も強いはずなのに、一番飛沫が飛びそうなタイミングでマスクを外すのは……周りの人からすると意味が分かりません。
ただこれなどまさに「マスク」というものが「服を着る」というのと同じようなレベルに成り下がっているともいえます。「服を着る」のは常識であると同時に、着ていないと逮捕されてしまいます。
本当に服が体を暑さや寒さから守るためだけのものであるならば、5月など穏やかな気候の日は裸で歩いたほうが気持ちよさそうなものです。しかし常識や法律はそれを許しません。
マスクに関してもこれに近づきつつあります。マスクは「とりあえず着用」するのが普通であり、着用しない場合は周りの人と揉めそうです。そんな理由からマスクを着用はしているけれど、本来の機能はなんだか忘れられていることが少なくありません。
マスクが「ユニフォーム化」してしまい「とりあえずつけてさえいればいい」とばかりに、鼻が出ている「鼻マスク」やマスクを顎の下に下げてしまう「顎マスク」もよくみられます。
■ドイツのマスク反対のデモ…背景にある「社交至上主義」
ロックダウン状態のドイツでは今もなおマスクに反対する人がデモで声を上げています。11月28日にもベルリンを始めドイツ各地でデモが行われました。
前述のようにコロナ禍以前のドイツでは「マスクを着用すること」イコール「異様」だと見なされていたため、その感覚が今も抜けない人がいます。一方で、ドイツのほうが日本よりも「マスクを着用しない人に対して厳しい」のです。
ドイツではマスク着用が法律で義務づけられているため、公共交通機関でマスクを着用しない場合、たとえばノルトライン・ヴェストファーレン州では150ユーロ(約1万9000円)の罰金が科せられます。外食の際に席を立ちトイレに行くとき、うっかりマスクをし忘れると罰金刑に課せられることもあります。
あれだけマスクを否定的に考える人が多いのに法律が厳しいとは矛盾しているようですが……「だからこそ」厳しく取り締まらないと、さらに感染が拡大してしまいます。
現在ドイツで定期的に行われているデモでは「ドイツ政府はドイツ基本法(憲法に相当)を守れ」などの主張がされていますが、これは「外出できず人と会うこともできずストレスがたまっている人の心の叫び」とも取れます。
日本と違うと感じるのは、ドイツには「社交は絶対的に良いことだ」という「社交至上主義」が根底にあることです。長年その感覚で生きてきたため、新型コロナウイルスの登場によって「人と交流することに制限をかけられること」や「マスクの着用が義務づけられること」に対する拒否感が強いのです。
■居心地の良さを取り戻すためのマスクであるはずだ
たしかにマスクをつけたまま他人と話すことは「社交的」だとはいえないかもしれません。ドイツでは「自分の表情を相手に見せて情報開示をすること」「相手の表情が見えること」「ハグなど物理的な距離の近さ」も重要視されてきたので、これらを全部「不可能」としてしまう「新型コロナウイルスにまつわる規制」について、心から納得がいかずいら立っている人が多いというわけです。
「マスクをつけながら人と会っても楽しめない」という声はよく聞くのです。自分がマスクを着用することで自分自身の感染を防止するだけではなく、相手の感染も防ぐことができることは今ようやくヨーロッパでも共有されつつあるものの、「マスクを着用している」状態はやはり多くの人にとって「居心地の悪さ」とつながっています。
マスクなしの生活を一日も早く取り戻したいと考える人がデモに繰り出しているわけですが、11月28日のベルリンでのデモでも、マスクをしていない人が多かったようです。
一部の人は「マスクが体質に合わない」という医師の診断書を提出していますが、マスクをせずにデモで怒りに任せて声を荒らげ飛沫を撒き散らしているのを見ると、コロナの収束はまだまだ先になりそうだと思ってしまいます。
■大切な人のため、コロナ以前の日常を取り戻すために
このようにドイツのデモでマスクをせずに絶叫したり、冒頭の日本の中学校のようにあえてマスクを外して合唱するのは問題だと書きましたが……筆者自身もマスク着用に戸惑いを感じる場面はあります。
たとえば人と会う際、もともと互いの顔を知っていれば双方がマスクを着用していても違和感はないのですが、問題は初対面です。仕事などで初めて人と会う際に互いがマスクをしていると、「相手の顔が覚えられない」問題が発生します。
目元だけを見て顔を記憶できる人もいるのでしょうが、筆者は初対面の相手がマスクをしていると、次回会っても全く分かりません。
「マスクをしなければいけないから、やらなくなった」ものもあります。以前はカラオケで思いっきり歌ってストレス解消をしていましたが、コロナ禍の今はマスクを着用したまま歌わなくてはなりません。でもこれでは「自由に思いっきり歌う」ことは難しく、カラオケにはあまり行かなくなってしまいました。
コロナ禍により、以前は当たり前だった「日々の何でもないようなこと」が失われたのは確かです。ある日の早朝、誰もいない道で筆者は10カ月ぶりぐらいにマスクをせずに大きなくしゃみをしたのですが、「ああ気持ちよかった」と思ってしまいました。
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ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。ホームページ「ハーフを考えよう!」 著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから‼』(中公新書ラクレ)、『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)など。
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(著述家・コラムニスト サンドラ・ヘフェリン)
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