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オンライン診療で「すぐに薬を出してくれる医者」が危ない理由

プレジデントオンライン / 2020年12月9日 11時0分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

一部の病院や診療所では、売り上げを確保するため患者に言われるがままに薬を処方する場合があるという。医師の木村知氏は、「新型コロナウイルスの影響による受診控えやオンライン診療で、そのような“取りあえず処方”が今年は増えるおそれがある」という——。

■コロナ禍で患者の行動に「異変」が出てきた

インフルエンザ流行を目前にして、新型コロナ感染者の急増が止まらない。もはや全国的感染爆発といえる状況だ。

気温、湿度ともに低下する冬場はただでさえ、カゼをはじめとした感染症が増える季節。コロナ上陸前から街場の診療所が最も忙しくなる季節でもある。特に、多くの医療機関が休診あるいは休日体制を敷くことで最も医療が脆弱(ぜいじゃく)となる年末年始ごろから、一気にインフルエンザ感染者が増えてくるというのが例年のパターンだ。

さて、今シーズンはどうなるだろう。コロナ禍によって昨シーズンと大きく異なる状況ゆえ、まったく予測できないというのが正直なところだ。ただ現時点で、ひとつ言えることがある。患者さんの受療行動に少なからぬ異変が起きているのだ。

コロナ上陸前は、いわゆるカゼの引き始めで受診する方が少なくなかったのだが、緊急事態宣言の頃からすっかりこのような患者さんが減った。小児はより顕著だ。以前なら続々と来院していた「ちょっとハナが出てきたので早めに」という元気な親子連れは、待合室からほぼ姿を消したと言っていい。 

■受診控えで“客単価”を増やすよう求められている

「ごくごく軽い初期症状で受診してコロナやインフルエンザといった感染症を持ち帰ることになれば元も子もない」。このような認識がもたらした受療行動の変容は、医療機関の使い方が適正化したものとみることもできる。しかしその一方で、軽症者の受診控えは医業収入を直撃する。むろんそればかりが要因ではないが、街場の診療所を中心に、少なくない医療機関で例年同月比で3〜5割の収入減による経営悪化を来している。私も勤務する医療機関の経営サイドから、なんとか受診者を増やすよう、なんとか“客単価”を増やすよう求められている現状だ。

もちろん受診者激減でも受診の必要性がない人ばかりであれば問題はない。しかし懸念されるのは、早期受診が必要な人までコロナを恐れるあまりに受診を躊躇(ためら)ってしまっていないか、ということだ。要受診者の受診控えがあるならば、それをいかに解決すべきかを真剣に考えねばならない。

■発熱者の受け入れは要受診者の受診控えを招く

医師会はインフルエンザ流行を前に、すべての身近な診療所が発熱者の診療をするよう呼びかけている。たしかに発熱者の受け入れを拒む医療機関が続出することによって、これらの患者さんが行き場を失うことになってはならない。しかし、それと一般の診療所、どのかかりつけ医でも発熱者の対応をすべきというのは別問題だ。

すべての診療所に発熱者が立ち入ることになれば、コロナ、インフルエンザ双方の院内感染と流行が引き起こされることになる。なぜなら多くの診療所はその構造上、発熱者と非発熱者とを動線および待合室で確実に分離することが困難だからだ。かえって要受診者の受診控えにも歯止めがかからなくなってしまうだろう。

この問題については、プレジデントオンラインで9月9日に配信された「『インフルとコロナのWパンチ』医師が危惧する待合室のカオス化」ですでに指摘し、冬に向けて早急に医療・検査体制を整えるよう訴えていた。しかしその後、行われたのは、感染症が疑われる人の診療に特化した医療機関の選定・設置ではなく、全国に「診療・検査医療機関」という発熱者の診察“も”行う医療機関を手挙げ方式で募集し指定するという施策のみだ。

厚生労働省は、これら指定医療機関が11月10日時点で全国に2万4629カ所存在すると胸を張るが、これらの数が増えれば万全だということにはまったくならない。

■指定医療機関でも発熱者と非発熱者が分離されていると限らない

そもそもこれらの医療機関は指定とはいえ、あくまでも“手挙げ”。空間的あるいは時間的に、発熱者と非発熱者を分離する“工夫”さえしていれば指定は受けられてしまう。厚生労働省からの通達でも、施設要件は「発熱患者等が新型コロナウイルス感染症以外の疾患の患者と接触しないよう、可能な限り動線が分けられていること」とされているのみだ。

自治体や医師会による立ち入り調査や指導はないから、待合室は分離されていても入り口から受付までの動線が同一ということもあろうし、時間分離されていても待合室がひとつしかない診療所の場合、先ほどまで感染疑い者が咳(せ)き込んでいた待合室に通されることもあり得るのだ。

検査についても各医療機関の判断に任されているため、指定医療機関を受診してみても検査を行わない、あるいはそもそも行えない場合もある。特にビルの一室で開業している診療所の多くは、屋外スペースも無く、陰圧室や十分な換気が行える隔離部屋などを有していない。そのため、患者さんの安全を考えれば、唾液であろうが鼻咽頭からであろうが関係なく検体を採取したり、感染疑い者を隔離したりすることを院内で行えないはずである。だが、じっさいこのようなビル診療所でも指定は受けられている。

つまり指定医療機関であれば、コロナとインフルエンザ両方の検査を受けられるというわけでもないし、発熱者と非発熱者が確実に分離されているとは限らないのだ。これは受診の際に、十分留意しておくべき点と言えよう。

■発熱者全員にインフルエンザ検査が行われてしまう

検査といえば、例年インフルエンザシーズンに発熱者が受診すると、医師の診察前にまず全例インフルエンザ検査を行ってしまう医療機関があるのをご存じだろうか。“効率的”と思う人もいるかもしれないが、私に言わせれば、これは過剰検査だ。医療行為としてとても肯定できるものではない(拙著『病気は社会が引き起こす インフルエンザ大流行のワケ』(角川新書)にてその理由を詳述しているのでご興味ある方はご一読いただきたい)。

もちろん昨今の経営危機から、少しでも“客単価”を上げることを目的に行うという医療機関も今シーズンは増えるかもしれないが、検査はあくまでも診察した上で必要とする人に対して過不足なく行われるべきものだ。

投薬についても同様に、発熱者に対して“効率的”な処方が行われることがある。夜間の救急外来などに急な発熱で受診した際に、「今夜はもう時間外でいろいろな検査ができないので、取りあえず今夜のところはこの薬で様子をみましょう」と解熱剤だけ処方された経験のある人は、決して少なくないはずだ。なぜなら前夜にそういう対応をされたという患者さんを、翌朝の外来でよく診るからだ。

■オンライン診療推奨の今シーズンは“取りあえず処方”が増える

急な発熱に対しては“取りあえず解熱剤”だけでなく、“取りあえず抗菌薬(抗生物質)”という処方をされたという患者さんも少なくない。冬場であれば“取りあえずタミフル”という処方もよく見かける。もちろん発熱者の中には本当に抗菌薬を必要とする疾患の人もいるだろうし、インフルエンザの場合もあるだろう。しかしこれらは、取りあえず飲んでみて様子を見ましょう、という薬ではない。診断をつけたうえで、しかも治療上必要と認めた場合に限って処方されるべきものだ。決して、安心のため念のために飲んでおこうというものでもない。

もっとも、なにか処方しないと患者さんに満足してもらえないとか、なにも処方しないで帰すよりは“客単価”を上げることができるという、医学的根拠のない処方がなされることも、じっさいにはあるにはあろうが、それならなおのこと誤りだ。しかしこういった“取りあえず抗菌薬”、“取りあえずタミフル”という薬の誤用が、今シーズンは例年にも増して乱発されてしまうのではないかとの危惧を私は抱いている。

部屋のソファで寝ている具合の悪そうな女性
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

政府はこれまで初診の患者さんには原則適用外としてきたオンライン診療を、コロナ禍を機に、限定的とはいえ初診の患者さんにも拡大する方針を打ち出した。これによって、例えば高血圧治療でかかりつけている患者さんが急な熱発をした場合なども、オンライン診療で投薬することが可能となる。

オンラインだから当然ながら検査はできないし、診察といっても所見を正確に取ることは困難だ。問診だけオンラインで行って対面診察に切り替えるのであれば問題ないが、不十分なオンライン診察で完結しようとした場合、この“取りあえず処方”が行われる可能性があるのだ。

■携帯電話越しの問診のみで薬が処方された例も…

オンライン診療に限ったことではない。いわゆる「診療・検査医療機関」であっても、その施設の構造あるいはスタッフの防護体制によっては、同様に不十分な診察のもとでの“取りあえず処方”が起こり得る。

じっさい患者さんから耳にした話だが、発熱したためPCR検査を屋外で行うことが可能な医療機関を受診したものの、PCR検査後の診察は医師によって直接行われることなく、携帯電話越しでの問診のみで“取りあえず抗菌薬”が処方されたという。

これがレアケースであることを祈るばかりだが、今後、コロナとインフルエンザの同時大流行が発生した場合に、医療機関側の感染防護策として発熱者を直接診察することをやめ、問診のみで薬だけ処方するというケースが増えてこないとも限らない。そしてその場合、“取りあえず抗菌薬”や“取りあえずタミフル”、さらには“取りあえず抗菌薬とタミフル”という最悪のダブル処方さえ行われる可能性が否定できないのだ。

■薬の乱用で耐性を持つ病原体が生まれてしまう

このような処方はもちろん医療とは呼べないものだが、もしこれらを仮に服用しても、なんら副作用を来さない人もあろう。そのどちらかの薬剤が効果をもたらして解熱、結果オーライというケースもあるかもしれない。今は緊急事態なのだから、取りあえず試せる薬があるならなんでも使ってみればいいじゃないか、という意見もあるかもしれない。

しかし新型ウイルスへの恐怖があるからといって、いくら今は非常時だからといって、このような念のための薬漬け治療があってよいものだろうか。薬剤乱用の後に待っているのは、その薬剤に耐性を持つ病原体の出現だ。

現時点で新型コロナウイルスを直接にたたく特効薬は存在しないが、もし今後開発されたとして、その“特効薬”も、抗菌薬やタミフルなどと同様に、念のためと称した“取りあえず処方”で乱用されれば、せっかく手にした特効薬にも早晩耐性ウイルスが生じ、私たち人類として貴重な武器を失ってしまうことにもなりかねないのだ。この非常時を契機にして“取りあえず処方”が広く長期に定着してしまうことを、私は今から危惧している。

今シーズン発熱して受診した際、診察はそこそこに、もしこのような“取りあえず処方”をされた場合は、ぜひ担当医に、なぜそのような処方をするのか詳しく理由を尋ねてほしい。その処方薬を服用するメリットとデメリットについての詳しい説明を求めてほしい。もちろん新型ウイルスの脅威は否定しないが、ただやみくもに薬を使えば良いというものでは決してない。感染爆発の今だからこそ、私たち医師にも患者さんの側にもよりいっそうの冷静さが求められよう。

■医療インフラにこそ財源投入をするべきだ

わが国は、コロナ上陸後これまで多くの時間があったにもかかわらず、政治の不作為によって医療・検査体制の整備がなされないまま感染爆発に突入してしまった。今ある体制・リソースの範囲で、検査すべき人を早く・取りこぼすことなく検査し早期治療につなげ、いかにこれ以上重症者と死亡者を増やさぬようにするか。それを、個々の医療現場で悩み続けながら対応していくしかなくなってしまった。まさに現政権ならではとも言うべき自助努力の極みだ。

あれだけ時間があったのに、これまで政府が行ってきたのは、コロナの感染爆発を見据えた医療・検査体制の整備、医療インフラへの財源投入ではなかった。感染爆発など起こり得ないという根拠なき希望的観測を前提として、感染拡大阻止どころか感染爆発すら招きかねない事業に巨額の財源が投入されてきたのだ。

おそらくはもう手遅れであろうと思うが、今からでも、過剰検査や過剰投薬といったゆがんだ医療に手を出さずとも医療機関がまっとうな医療を提供し続けることができるよう医療・検査体制を整備するべきだ。医療インフラという、まさに国民の命に直結する事業に大胆に財源投入することのできる知性と胆力を有した者に、政治を担ってもらいたい。

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木村 知(きむら・とも)
医師
医学博士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。1968年、カナダ生まれ。2004年まで外科医として大学病院等に勤務後、大学組織を離れ、総合診療、在宅医療に従事。診療のかたわら、医療者ならではの視点で、時事・政治問題などについて論考を発信している。ウェブマガジンfoomiiで「ツイートDr.きむらともの時事放言」を連載中。著書に『医者とラーメン屋「本当に満足できる病院」の新常識』(文芸社)、『病気は社会が引き起こす――インフルエンザ大流行のワケ』(角川新書)がある。

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(医師 木村 知)

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