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「豪首相は激怒」なぜ中国報道官は"陰惨なフェイク画像"で豪州を挑発したのか

プレジデントオンライン / 2020年12月4日 18時15分

中国外務省の趙立堅副報道局長(中国・北京=2020年4月8日) - 写真=AFP/時事通信フォト

■豪州のモリソン首相はツイートの削除と謝罪を求めたが…

オーストラリア(豪州)のスコット・モリソン首相が11月30日、中国政府に抗議し、中国外務省の報道官がツイッターに投稿した画像の即時削除と謝罪を求めた。一国のトップが他国にこうした抗議を行い、謝罪を求めるのは異例である。

問題の画像は、豪州の兵士が国旗とみられる布を子供の頭にかぶせ、その喉元に血まみれのナイフを突き付けているように見える。英語で「怖がらないで。われわれは平和をもたらすためにやって来た」との文言も添えられている。

モリソン首相は記者会見で「画像はフェイクだ。偽造されたものだ」と明確に否定し、「非常に攻撃的だ。中国政府はこの投稿を恥じるべきだ。不快で侮辱的行いだ」と厳しく批判した。アメリカのツイッター社にも削除を求めた。

■中国報道官はむしろ「固定ツイート」に変更して挑発

ツイッターに画像を投稿したのは、中国外務省の報道官、趙立堅(ちょう・りつけん)副報道局長だ。趙氏は48歳。2010年5月にツイッターを開始し、アメリカを攻撃批判することで注目され、現在のフォロワーは85万人以上となっている。自信たっぷりに声明を発表する彼の姿をテレビのニュースで見たことのある方も多いと思う。

趙氏は問題の画像とともに「オーストラリアの兵士によるアフガン市民や捕虜の殺害に強く衝撃を受けている。われわれはこうした行動を強く非難し、責任を負うよう求める」とも投稿していた。

中国外務省の趙立堅報道官がツイッターに投稿した(画像=趙氏のツイッター<@zlj517>より)
中国外務省の趙立堅報道官がツイッターに投稿した(画像=趙氏のツイッター<@zlj517>より)

モリソン氏の記者会見後には、画像を含めた投稿をツイッターのタイムライン上で上部に表示される固定ツイートに変えた。豪州の抗議に反省の色も示さず、さらに愚行をエスカレートさせる行為は、国家間の国際秩序を破壊する。

オーストラリアの国防軍司令官は11月19日、アフガンに駐留した兵士たちが39人の非戦闘員を違法に殺害したとの内部調査結果を発表していた。趙氏はこれを知ってツイッターに投稿したのである。

最近関係が悪化しているオーストラリアと中国の間で緊張がさらに高まる可能性が強い。モリソン氏が今年4月、新型コロナウイルスの発生源について調査を求めたことに中国は反発し、5月以降、一部の豪州産食肉の輸入を停止するなどオーストラリア政府に圧力を加えている。

■趙氏がこれほど好戦的に振る舞う本当の理由

12月1日付の記事「『第二の尖閣に』日本海のスルメ漁場を荒らし回る中国漁船の厚顔無恥」でも指摘したように、中国は日本に対しても沖縄・尖閣諸島の周辺海域で船舶の航行を繰り返したり、スルメイカやカニの好漁場として知られる日本海の大和堆で違法操業を続けたりしている。そのうち中国は国際社会から相手にされなくなり、孤立状態に追い込まれるだろう。

それにしてもなぜ、中国外務省の趙氏はこれほど好戦的なのか。

趙氏には「戦狼(せんろう)」というあだ名が付いている。戦狼は中国国内で大ヒットしたアクション映画『戦狼(ウルフ・オブ・ウォー)』(2017年)に由来する。この映画は中国軍元特殊部隊の兵士がアフリカで同胞を救う活躍を描いている。中国版『ランボー』である。

趙氏のような好戦的外交は「戦狼外交」と呼ばれ、中国にはこうした外交官も多い。中国国内では彼らを「狼の戦士」と評価し、中国政府は「中国が従順な時代は終わった」と判断している。趙氏はあだ名を名誉に感じ、さらに好戦的外交を続けているのだ。

だが、沙鴎一歩は一方的に下品な批判を繰り返す趙氏のどこがランボーなのかと思う。シルヴェスター・スタローンも怒っているに違いない。

■大国外交の象徴として戦狼外交が評価されるようになった

中国政府の指摘する従順な時代とは、かつてのアヘン戦争で負けて以来、「東亜病夫(東洋の病人)」といわれ続けた時代を指す。

好戦的外交への路線転換は、2008年のリーマン・ショックで中国が「4兆元(57兆円)の景気対策」を取ったことで世界経済が救われたという自信に基づく。習近平(シー・チンピン)政権は「大国外交」を掲げ、経済・軍事の力をバックにアジアからアフリカへと「一帯一路」構想を推し進めている。習国家主席は「大国外交で新たな国際関係を築く」と語り、大国外交の象徴として戦狼外交が大きく評価されるようになった。しかしながらアメリカ・トランプ大統領の自国第一主義と同じく、自らの国益だけを追求する中国の行動は、国際社会との間に大きな摩擦を生じさせる覇権主義に他ならない。日本をはじめとする国際社会は中国の卑劣でかつ愚劣な政策を決して許してはならない。

12月2日付の産経新聞の社説(主張)は「『偽画像』ツイート 中国は悪質な宣伝やめよ」との見出しを掲げてこう訴える。

「緊張関係にある豪州を根拠の示せない画像で貶めるのは公正でなく、悪質な宣伝といえる。中国政府は趙氏の投稿を謝罪し、画像を削除しなければならない」

■趙氏の上司はツイートを擁護し、豪側の要求に応じなかった

産経社説はこの訴えの前にこうも指摘している。

「趙氏の上司である中国の華春瑩(か・しゅんえい)報道官は『犯罪行為を非難することが不当なのか』と擁護し、豪側の要求に応じなかった。画像はインターネットで見つけたもので誰が作ったか分からないとした」
「香港や新型コロナウイルスをめぐる豪州の批判に中国は反発し、豪産品の輸入停止、制限などで不当な圧力をかけている」

華報道官は報道局長だ。上司に当たる報道官が、部下の副報道局長の報道官をかばう。もはや趙氏だけの犯行ではない。中国政府による国家的犯罪行為と断定すべきだ。ツイッターは中国では一般的に禁じられている。そのツイッターへの投稿が許されるのもおかしな話である。趙氏の投稿は事前にチェックされ、中国政府からお墨付きをもらっているはずだ。

■「目を突かれて失明しないように気を付けよ」とも言い放つ

産経社説は書く。

「趙氏は今年3月、新型コロナをめぐって『米軍が感染症を武漢に持ち込んだかもしれない』とツイッターに投稿した。これも根拠を示しておらず、ポンペオ米国務長官が『今はデマを拡散したり奇怪な噂を流したりしている場合ではない』と抗議した。趙氏は11月には、香港をめぐる米英豪など5カ国の外相声明に反発して『目を突かれて失明しないように気を付けよ』と言い放った」

「米軍が持ち込んだ」も「目を突かれる」も一方的な批判である。しかも根拠のない「奇怪な噂」というから開いた口がふさがらない。

■中国報道官の問題投稿を取り上げたのは産経社説だけだった

最後に産経社説はこう主張する。

「攻撃的なスタイルから、趙氏は『戦狼外交官』と呼ばれる。根拠に欠ける非難や無頼漢のような言動を繰り返す趙氏が、謝罪も反省もなく働き続けているのは中国政府が是としているからだ。このままでは中国の品位と信用が傷つくばかりであると気づき、改めるべきである」

習近平国家主席は趙氏の言動をどう考えているのだろうか。沙鴎一歩は中国政府が愚行をあらためない限り、国賓としての習氏の来日を求めるべきでないとこれまで主張してきたが、それでも来日するようなら記者会見場で習氏の考えを聞いてみたい。

ところで「豪州の兵士が子供にナイフ」の画像投稿の問題を社説のテーマにストレートに取り上げたのは、産経社説だけだった。残念だった。

他の全国紙も社説に取り上げ、真正面から中国政府を厳しく批判すべきである。新聞社説の継続的な批判こそが、中国に「戦狼外交」「大国外交」「覇権主義」を思いとどまらせることができると、沙鴎一歩は信じている。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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