マック、くら寿司…「コロナ禍でも伸びる投資先」を見極める財務諸表より大事なポイント
プレジデントオンライン / 2020年12月16日 13時15分
■株価がコロナ以前を超えた企業
2020年、株式市場に大きな影響を与えたのは「新型コロナウイルス」と「米国大統領選」であろう。米国のジョンズ・ホプキンス大学の発表によれば、新型コロナウイルスの感染が確認された人は世界全体で6681万人を超え、死亡者数も150万人を超えた(執筆中の12月9日時点)。
いまでこそ新型コロナウイルスに関する情報やデータは蓄積されてきたが、世界的に感染が拡大した当初は情報も少なく、未知のウイルスへの恐怖から世界中の投資家がリスク資産を現金化したことで、リーマンショック以上のスピードで株式市場が急落した。
その後は、前述のようにウイルスに関する情報が集積されていくにつれて、株式市場も平穏を取り戻し、興味の対象は米国大統領選へと移っていった。依然としてトランプ陣営の抵抗は続いているものの、バイデンで確定というのが世界的なコンセンサスになっている。政治イベントを通過して政局リスクがなくなったことで、世界の株式市場は年末に向けてブル(強気)相場を形成している。日本株市場も例外ではなく、日経平均は29年ぶり、1991年5月以来の水準まで上昇している。
株式市場の趨勢を語る際に日経平均という株価指数を引き合いに出したが、実際に株式市場を業種ごとに分けて株価の推移を見ていくと、コロナ禍においては業種ごとに明暗がはっきりと分かれている。
本稿では株価がコロナ以前を超えた企業を分析することで、将来伸びていく企業をどのように見極めるかを考えていきたいと思う。結果論と言われてしまうかもしれないが、筆者は今回のコロナ禍における明暗の分かれ方については、業種レベルでは非常に分かりやすい展開であったと考えている。
■外食産業の勝ち組はマクドナルドとくら寿司
不特定多数の第三者との接触を避けるべくリモートワークやデリバリーがはやったため、情報・通信業のパフォーマンスは良い。一方で、感染拡大防止のために人の動きが極端に減少したことから、陸運や空運はパフォーマンスが悪い。
また、リモートワークの普及によってオフィス需要が減退したり、商業施設も時短営業や営業の一時休止があったことから、不動産業もパフォーマンスが悪かった。特に難しい分析をせずとも、これらの結果は容易に想像できただろう。後学のために株価がコロナ以前を超えている企業を分析するのであれば、これらの分かりやすい業種以外から選んだ方がよさそうだ。
そこで、まずは一見コロナが逆風になると思われる外食産業において、株価を上昇させた企業を探してみよう。足元ではコロナ以前の株価水準に戻っているものの、夏には大きく株価を向上させた日本マクドナルドホールディングスや、直近でも高い株価を維持しているくら寿司は分析する価値がありそうだ。
■モバイルオーダーとデリバリーに評価が集まる
日本マクドナルドホールディングスがコロナ禍においても株価が上昇、つまり投資家から評価された理由の一つは、顧客のニーズにしっかりと応えることができたからだろう。ここでいう顧客のニーズとは不特定多数の客や店舗スタッフとの接触を避けながら、同社の商品を購入するということだ。
マクドナルドといえば、自動車で店舗まで行ってそのまま商品を受け取るドライブスルーを思い浮かべる人が多いかもしれないが、今回評価されたのはモバイルオーダーとデリバリーであろう。
同社は公式のアプリとモバイルオーダーを統合し、基本的にはアプリだけで商品の購入や受け渡し場所の指定も可能にした。これによって接触を極力回避することができる。また、デリバリーに関してもUber Eatsだけではなく、マックデリバリーという自社による配送網も構築していた。
当然ながら、自社商品を配達する際には、自前の配送網を使った方が質の高い配送が可能になることは言うまでもない。他社がコロナ禍において慌ててUber Eatsや出前館といった外部の配達手段に頼ったのとは状況が違うのだ。
くら寿司は回転寿司を展開する企業だが、同社もコロナ禍において評価を上げた外食企業である。具体的には「スマートくらプロジェクト」と称して、来店客の案内から会計までをスムーズに行う「セルフでくら」、スマホで注文など快適・便利な「スマホでくら」、感染症予防の取り組み「安心のくら」、お持ち帰りや出前、通販の「おうちでくら」という4つの取り組みが評価された。
■アパレル業界で株価上昇が目立つZOZO
次に見ていく業種はアパレルだ。生活必需品とまでは言えない衣料品について、感染リスクを恐れて店舗へ足を運ぶ人が急減したため、多くの企業が業績を落とし、株価も下落している。
そのような環境下で株価の上昇が目立つのが衣料ECの「ZOZOTOWN」を運営するZOZOだ。やはり、ECによって他人との接触を避けながらも、サイト上でさまざまなコーディネートを写真で確認しながら購入できることが選好された格好だ。
同社の2021年3月期第2四半期の決算説明会資料を見ると、この1年間1300店台で推移していた受託ショップ数が、直近の四半期では約1400店舗に増えている。これはコロナ禍で実店舗の売り上げが急減した分をECで補おうと自社サイトでECを始めたものの、あまりうまくいかないショップが利益率を落としてでも、同社のプラットフォームに相乗りしようと考えた結果だと考えられる。
■財務諸表と中期経営計画で成長力を見極める
これまで具体的に3社をみてきたが、すべての企業に共通していることは、今回投資家に評価された施策は、決してコロナ対策で打ち出した施策ではないということだ。これから訪れる新しい生活様式を考えたうえで取り組んできたことが、たまたまコロナ禍における人々の行動変容にマッチしたということでしかない。
たとえば、日本マクドナルドホールディングスは2018年に発表した中期経営計画のなかで、成長のための3本の柱のうち、「成長を加速」という項目で既にデリバリー、デジタル、未来型店舗体験を掲げていた。
つまり、将来伸びる企業を探す際には、足元の業績や目先の利益だけを追求している企業ではなく、将来を見据えて中長期の計画をしっかりと立てて、しっかりとコミットをしている企業を探すべきなのだろう。筆者はこれまでは財務諸表を中心に分析することが多かったが、コロナ禍をきっかけに企業の中期経営計画書も精査すべきだと実感した。
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マネネCEO/経済アナリスト
証券会社や運用会社にてアナリスト、エコノミストとしてリサーチ業務に従事した後、複数金融機関にて外国株式事業やラップ運用事業を立ち上げる。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾、マレーシアなどアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、各法人のCEOおよび取締役を歴任。現在はキャッシュレス企業のCOOやAI企業のCFOも兼任している。日本証券アナリスト協会検定会員。近著に『MMTが日本を救う』(宝島社新書)がある。
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(マネネCEO/経済アナリスト 森永 康平)
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