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統計が語る「アクセルとブレーキを同時に踏む」政府のコロナ対策を下支えする日本国民の自業自得

プレジデントオンライン / 2020年12月8日 11時15分

新型コロナ感染者数の増減の波が、世界各国で異なるのはなぜなのか。統計データ分析家の本川裕氏は「今、第3波が襲っている日本は、これまでアクセルとブレーキを同時に踏むようなコロナ対策だった。中途半端な対応を許し下支えしているのは、日本国民の危機意識の低さではないか」という——。

■日本はコロナ第3波襲来中だが、世界には第1波、2波の国も

新型コロナウイルス感染症の流行は、春先の第1波、夏場の第2波に続き、11月以降に第1波、第2波を上回る感染者数で第3波が襲ってきている。

今回は日本の感染者数の推移を、いまだ第1波、2波のところもある海外の動向と比較しながら日本はなぜ第3波なのかを考え、感染拡大防止の対策を練るための参考としたい。

新型コロナウイルスの感染拡大は世界的な現象であり、感染拡大の状況がもっぱらこのウイルスがもつ特性によっているのだとしたら、世界各国は同じ波動を描いてもおかしくない。実際はどうなのだろうか。

図表1には、WHO(世界保健機関)の公表データに基づき、世界の主要な国と地域の過去1週間の感染者数を日ごとに追ったグラフを掲げた(左目盛り)。日本と韓国は感染者数の規模が圧倒的に小さいので、比較のため、スケールを50分の1にした右目盛であらわしている(※左右の目盛りで単位が異なる。左目盛りは万人、右目盛りは千人)

新聞などでは、国別か大陸レベルの地域別か、どちらかのグラフは描かれるが、ここで示したような国と地域を混在させた推移グラフが描かれることは少ないので、目新しく感じられるかもしれない。前述したように数値の単位が異なるので、ここでは各国・地域のグラフの波形に着目いただきたい。

グラフの波形の特徴を見ていこう。世界でもっとも感染拡大が猛威をふるった国・地域については、まずヨーロッパで春先にはじまり、次いで米国がヨーロッパを上回るようになった。さらにその後、北半球で夏の時期に入ると、米国とラテンアメリカの拡大がもっとも大きくなり、秋に入ると最初はラテンアメリカ、次いでインドの感染拡大が米国を大きく上回るようになった。

さらに10月後半からはヨーロッパで、第1波を大きく上回る第2波の感染拡大が世界の中でも特に目立つようになった。ヨーロッパでは、これに対応し、春先に続いて2回目のロックダウン(都市封鎖)を行う国も増えた。米国も11月3日の大統領選挙前後から、ヨーロッパに追従するかのようにもう一度、急速に拡大の波が高まった。

ヨーロッパはロックダウンなど厳しい対策の効果が出たものか、ずいぶんと高いレベルではあるが11月8日にはピークを記している。米国もヨーロッパに遅れて、大統領選が一段落したころから横ばいか下落に転じたかに見えたが、直近ではヨーロッパを上回る拡大に至っている。

■同じ3波構造……なぜ日米のグラフ波形は似ているのか

各国・地域のこれまでの動きを見ると世界のコロナ感染拡大は、次の3パターンに分けられることが明確である。

3波構造…日本、韓国、米国
2波構造…ヨーロッパ
1波構造…インド、ラテンアメリカ

感染者数規模はまるで異なっているが、日本と米国では、感染者数の増減パターンは、奇妙なほど似通っている。時期は日本のほうが米国よりやや遅れているが、第1波、第2波、第3波と感染者数レベルがだんだんと高くなる程度も同じである。

もし、米国が日本の一歩先を行っているとしたら、日本の感染拡大は今後さらにもう一段と進むことになる。

米国とヨーロッパとでは、人種的、自然環境的には、そう異なっていないのに、なぜ米国は3波構造であるのに対して、ヨーロッパは2波構造なのであろうか。

この点に関しては、やはり、危機に対する文化的、民族的な行動パターンの差を考えざるを得ない。特に、米国の政治指導者であるドナルド・トランプ大統領とヨーロッパ主要国の政権トップとで、コロナ感染危機への対応の温度差は大きく、これが、3波と2波の分かれ道となっていると感じられる。

米国では11月の大統領選を控えた時期に当たっていたため、民主党サイドがマスク着用に積極的だったのに対抗して、現職大統領側の共和党サイドがマスク着用を忌避する行動パターンに出て、国民を二分するかたちでコロナ対策に選挙運動が持ち込まれたのが、コロナ感染拡大への歯止めに制約を及ぼす不幸な運命のめぐりあわせだったとも解せよう。

■「経済重視」日米の政治指導者に共通の危機対応が反映

米国と日本の類似性は、「経済重視」という点で両国の政治指導者が共通の危機対応の精神性を有していたためと考えたくなる。米国では「アメリカ・ファースト」、日本では「アベノミクス」という標語で政治指導者がライバルたちに対する優位性を主張していたので、そう思えるのである。

もっとも、感染者数の規模のレベルの差は大きく、日本の場合は、米国のように政権が再選に向け選挙戦略上「経済重視」を前面に打ち出したいため、あえて感染危機に鈍感とならざるを得なかったというのとは異なり、危機レベルがそもそも小さいので「経済重視」が可能となったというのが真相だろう。この結果、たまたま、日米は類似パターンとなったのである。

韓国は日本より第1波はかなり早かったが、第2波、第3波は日本より遅れている。しかし、3波構造である点では日米と共通した特徴があらわれている。

インドやラテンアメリカは1波構造となっているが、これは、途上国パターンと考えることができる。命の値段がなお先進国ほど高くない両地域では、コロナ危機への対応がかなり遅くなり、感染対策が効果をあらわしたのもさらに先進国より遅くなったため、1波構造となったのではなかろうか。先進国地域とは異なり、ヒトの移動のレベルが相対的に低く、世界的な感染拡大に巻き込まれるスピードも遅かったということも影響していよう。

それでもインドよりラテンメリカのほうが、感染拡大がやや早く、その結果、最近では、ラテンアメリカの場合は、第2波ともいうべき感染者数の高まりが認められるのである。

■米国と日本は死亡者数の「波形の動き」も類似

WHOのデータでは死亡者数の動きも分かるので、図表2では、これを追っている。日本と韓国は図表1と同じように50分の1のスケールの右目盛で表示している(目盛りの単位は左目盛:千人、右目盛:百人)

ヨーロッパ、ラテンアメリカ、米国の順番で深刻なコロナによる死亡

全体的に、感染者数のピークからやや遅れて死亡者数のピークが訪れていることがわかる。死亡者数のピークはヨーロッパでもごく最近である。日本や米国ではなお死亡者数が増加の一途をたどっている。

ヨーロッパの死亡者数は、第1波と第2波でほぼ人数規模が同じである。感染者数では第2波が第1波を大きく凌駕しているので、感染死亡率は第2波でずいぶんと低下したことがうかがえる。

3波構造の米国と日本は死亡者数の動きも類似している。第1波の死亡者数より第2波の死亡者数が少ないが、第3波は第2波を大きく越えており、日本の場合は第1波のピーク水準に迫る勢いである。

1波構造のラテンアメリカとインドを比較するとラテンアメリカの死亡者数規模が大きい点が目立っており、ラテンアメリカの死亡率の高さがうかがわれる。

■スウェーデンだけはヨーロッパの中でも特殊な感染推移パターン

ヨーロッパはそれぞれ独自な文化をもつ多くの国から構成されており、ヨーロッパを一本化して論じるのは、やや無理があるかもしれない。そう考え、図表3では、ヨーロッパの主要国の感染者数の推移パターンについてピーク時を100とする値であらわしてみた。

ヨーロッパ主要15カ国の動きを追ってみると、驚くほど、各国が類似した2波パターンをたどっていることが分かった。

やや異なるパターンを示しているのは、スペイン、ロシア、スウェーデンである。

しかし、スペインの場合は、第2波が他のヨーロッパ諸国より早く来たと考えれば、それ自体がなぜなのかの疑問は残るものの、納得できる。また、平均寿命が短いロシアは、命の値段が途上国並みであり、コロナ危機に対してインドやラテンアメリカほどではないが、それらの地域と同様にヨーロッパ一般より対応が遅かったと考えれば、第1波が遅かった2波構造と見なすことができる。

ヨーロッパで感染拡大が3波に及んだのはスウェーデンのみ

従って、ヨーロッパの中で特殊なのはスウェーデンのみということになる。スウェーデンは、ヨーロッパにもかかわらず、むしろ米国や日本と似た3波構造が認められるのである。

新型ウイルスの流行に対し、スウェーデン政府は、集団免疫の獲得を目指し、他のヨーロッパ諸国のようにロックダウン政策は採用せず、放任主義的な措置を選んで、幼稚園や学校、レストラン、カフェやバーなどが通常通り運営されていたことで有名である。こうした特殊な対応がヨーロッパの中で特異な推移パターンを生んだ要因だといえよう。

このようにヨーロッパ諸国の間の推移パターンの比較からも政権によるコロナ対策の在り方が感染拡大の波動構造に影響を与えていることがうかがえる。

■ブレーキとアクセルを同時に踏むような「経済重視」の対応

これまで、政府のコロナ対策によって感染拡大の推移パターンに差が出たと解釈してきた。

あらためて要約すると、ヨーロッパでは当初の感染拡大に対して大きくブレーキを踏んだため、すぐに第2波は訪れず、だんだんと対策が緩んだ秋になって第1波を大きく上回る第2波に襲われた。

米国や日本では、当初の感染拡大に対してブレーキは踏んだものの、危機感がヨーロッパほどではなかったので、すぐさまブレーキとアクセルを同時に踏むような「経済重視」の対応に転じた。このため、夏場には第2波が訪れ、これに対しても同様の対応をしたため、一度沈静化した後、その後、再度、第3波に襲われている。

ヨーロッパの中でもスウェーデンはヨーロッパの中でも独特な考え方の感染拡大対策を採ったので日米と似た3波構造となっている。

ラテンアメリカやインドといった途上国では、ヒトの移動がそれほど頻繁でないのに加え、感染拡大への危機感が先進国ほどではなく、対策が講じられるのも、それが効果をあらわすのも先進国地域と比較してかなり遅れた。このため、これまでのところ感染拡大は1波の構造をもっている。

■コロナ流行に対して案外すぐ緩んだ日本人の危機意識

政権トップ、あるいは政権内のコロナ対策司令塔の方針によってこうした差が出ているようにも見えており、特に、政権批判によって信任を得ている報道機関はそういう見方に偏りがちであるが、政権の方針は国民の危機感を反映したものであるにすぎない可能性もある。そこで、日本人の危機意識の推移についてデータを見てみよう。

コロナ流行に対する危機感を月次調査などでこまめに直接に追っている意識調査はない。しかし、内閣府が景気判断のために毎月15日現在の国民意識の状況を定期的に調べている「消費動向調査」の中で「今後半年間の暮らし向きの展望」を聞いた設問があり、これが国民の危機意識の推移を反映していると考えられるのでその推移を追ったグラフを図表4に掲げた。

コロナ感染拡大による国民の不安は大きかったが長続きしなかった

緊急事態宣言が発せられた今年4~5月の調査結果は、暮らし向き意識が2月の37.5%からほぼ半減して20%台まで落ち込み、リーマンショック時の30%前後までの落ち込みを上回った。国民の危機意識はそれだけ大きかったといえよう。

ところが、緊急事態宣言が解除された6月以降はこの指標がまさにV字回復を見せている。夏ごろの第2波を受けて、8月には一時、若干値が低下したが、その後も回復し、11月には36.7%とほぼ落ち込み前の2月の水準にまで回復している。これを見る限り、少なくとも経済的な危機状況からはほぼ脱したと国民は感じているようである。

リーマンショック時の落ち込みは、今回の落ち込みよりも底のレベルは浅かったが、時期的には危機感が1年以上にわたって長く続いていた。これと比較すると今回のコロナ危機については、国民の不安は、「深かったが長続きはしなかった」といえよう。

■国民の危機意識の状況自体が日本政府のハンパな施策を下支え

もちろん、これは経済的な危機感の推移であり、病気や心身に関わる危機感の推移とは同一ではない。しかし、それについても似た推移をたどっていると解することは可能である。「ウィズ・コロナ」あるいは「コロナ疲れ」「コロナ慣れ」と呼ばれる意識変化がそうした状況を生んでいると考えられる。

こうした日本人の危機意識の推移が、第2波や今回の第3波という感染拡大の波動をもたらしているといえる。

政権や地方自治体のコロナ対応方針がこうした危機意識の状況をもたらしたのか、それとも国民の危機意識の状況が政府の方針決定に影響を与えたのかは微妙である。両方の側面があったのではないかと考えられよう。

ヒトの移動促進による経済刺激策であるGoToトラベル事業を一時停止せず基本的に継続する方針の政府の姿勢に、医療関係者など感染症対応の現場やそれと同調するマスコミは批判的である。

そのため、いま以上に感染拡大の被害が拡大していくとしたら、犯人探しが深刻化していくであろうが、あまり不毛な議論に陥らないためには、国民の危機意識の状況自体がそうした政府の施策を下支えしている面にもっと注目しておいてよいのではなかろうか。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
1951年神奈川県生まれ。東京大学農学部農業経済学科、同大学院出身。財団法人国民経済研究協会常務理事研究部長を経て、アルファ社会科学株式会社主席研究員。「社会実情データ図録」サイト主宰。シンクタンクで多くの分野の調査研究に従事。現在は、インターネット・サイトを運営しながら、地域調査等に従事。著作は、『統計データはおもしろい!』(技術評論社 2010年)、『なぜ、男子は突然、草食化したのか――統計データが解き明かす日本の変化』(日経新聞出版社 2019年)など。

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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)

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