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「傷んだ臓器はどんどん交換」これから確実に120歳まで生きられる時代が来る

プレジデントオンライン / 2020年12月16日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yevhen Lahunov

世界の平均寿命ランキングで日本はトップクラスにある。「人生100年時代」と言われるようになったが、医学博士の奥真也氏は「医療テクノロジーの進化により、『人生120年時代』も現実味を帯びてきている。すでに多くのがんは不治の病ではなくなりつつある」という――。

※本稿は、奥真也『「生存格差」時代を勝ち抜く 世界最先端の健康戦略』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■日本人の平均寿命が50歳を超えたのは戦後になってから

日本人の平均寿命(0歳の人の平均余命=出生時平均余命のこと)のおおまかな推移を辿ると意外な事実がわかります。

たとえば江戸時代、日本人の平均寿命は35歳くらいでした。明治時代になってもあまり変わらず、30代後半程度だったと言われています。

人間五十年――織田信長が吟じたとされる『敦盛』の一節ですが、戦国時代はおろか江戸時代も明治時代も、日本人の平均寿命は50年にはるか及ばなかったのです。そもそも信長の「人間五十年」は天界と比べた人間の人生の儚さのたとえで、平均寿命のことではありませんが。

実は、日本人の平均寿命が50歳を超えたのは戦後になってからのことです。厚生省(現厚生労働省)によると、1947年の平均寿命は男性50.06歳、女性53.96歳。ここで初めて男女ともに50歳を上回りました。つい70~80年前まで、日本人は50年間生きるのがやっとだったのです。

その後、戦後の高度経済成長期に伴って平均寿命も延び、1971年には男女とも70歳を超えました(男性70.17歳、女性75.58歳)。WHO(世界保健機関)が2018年に発表した「世界の平均寿命ランキング」では、日本は「男女の平均寿命」で世界1位(84.2歳)という世界トップクラスの長寿国になりました。

■医療の進化が「病気で死なない時代」を実現する

こうした超長寿時代を実現した背景にあるのが医療テクノロジーの画期的な進化です。

奥真也『「生存格差」時代を勝ち抜く 世界最先端の健康戦略』(KADOKAWA)
奥真也『「生存格差」時代を勝ち抜く 世界最先端の健康戦略』(KADOKAWA)

さまざまな説や考察がありますが、総合すると生物学的に見た人間の限界寿命は「120歳くらい」と考えられています。つまり「理論上、120歳まで生きることは可能」だということ。では人間がこれまで、その限界寿命を全うできなかったのはなぜか。その最大の理由は「病気によって志半ばで死を迎えてしまうこと」でした。

それが最新の医療テクノロジーの恩恵によって、結核や肺炎を患ったらまず助からなかったという時代と比べても、人間は圧倒的に「病気で死ななくなってきた」のです。

医療テクノロジーの進化においてエポックメイキング的な出来事となったのは「抗生物質の普及と実用化」でしょう。それによって、かつては「死病」と呼ばれていた結核などの感染症を克服できたことは、病死の減少や平均寿命の延伸に大きく貢献したと考えられます。

近年では、タミフルなどインフルエンザの強力な治療薬も登場し、オプジーボ(免疫チェックポイント阻害剤)に代表される画期的ながん治療薬にも注目が集まっています。

また、不治の病と恐れられていたエイズ、難病とされる筋ジストロフィーなどの遺伝的疾患などにも効果が期待される新薬が続々と開発されています。

さらにiPS細胞(人工多能性幹細胞)技術などによる臓器の再生や代替、ロボット手術やAI診断の導入など――今もさまざまな分野で医療テクノロジーは進化を続け、あらゆる病気が克服され始めています。病気で人が死ななくなる「不死時代」はすぐそこまで来ているといっても過言ではないでしょう。

■医療の進化によって大敵「結核」を攻略

「死の脅威となる大病」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは「がん」だと思います。

厚生労働省によると、2018年の日本人の死因第1位は悪性新生物(がん)、2位が心疾患、3位が老衰、4位が脳血管疾患、5位が肺炎となっています。

長い間、がんは不動の1位に君臨していますが、それ以前に日本人の大きな死因だったのは「結核」、つまり感染症です。世界的に見てもペストやコレラなどの感染症の流行は大きな死因のひとつとなっていました。

しかし前述したように、ペニシリンなどの抗生物質の普及により、結核で死亡する人は激減。医療の進化によって「感染症」という巨大な敵を攻略したことで、それ以降の主な死因は、がんや心疾患や脳血管疾患へと移行していったのです。

そして不治の病、最大の病魔とも言われるがんもまた、新たな治療法や新薬の登場に後押しされ、克服度合いは確実に上がっています。

■多くのがんは「恐れるに足らない」病気になる

たとえば、がん細胞だけをピンポイントで狙い撃ちすることで個別のがんに対応した治療を可能にした「分子標的薬」による治療の確立。

がん細胞によって沈黙してしまった免疫細胞を覚醒させ、再びがん細胞を攻撃できるようにする「免疫チェックポイント阻害剤」という画期的な治療薬の開発。

さらに、がん細胞に感染して溶解させる性質を持った腫瘍溶解性ウイルスを使用した治療薬といった新薬の治験も、多くの企業で現在進行形で行われています。

また、アメリカ国立衛生研究所(NIH)に所属する小林久隆医師が開発した「光免疫療法」は、分子標的薬による「標的療法」と「近赤外線による光化学反応」を組み合わせた新しいがん治療。日本では、楽天メディカルジャパン社(旧楽天アスピリアン社)というベンチャー企業がライセンスを受けて2018年から治験を開始。2020年3月に承認申請され、同年9月25日に頭頚部がんを対象に正式に「アキャルックス」という名で承認されました。

胃がんや直腸がん、大腸がん、乳がんなどは、大方の人にとってもはや不治の病ではなく、手術や治療で克服可能な「普通の病気」になってきています。また、血液のがんである白血病も、「不治の病リスト」からもうほぼ消えました。

ほとんどのがんが「恐れるに足らない病気」となり、がんによる死亡率が「ゼロ」になる日も決して遠くはないでしょう。

ただ誤解のないように申し上げると、すべてのがんが「恐れるに足らず」というわけではありません。克服可能ながんは増えるけれど、膵臓がんや胆管がんなど現代の医療をもってしても克服が険しいがんも存在しています。それゆえ、医療テクノロジーのより一層の進化が期待されているということは認識しておく必要があるでしょう。

■老朽化した臓器を“交換”する時代に

人生120年の不死時代を迎える私たちにとって注目すべき医療テクノロジーに、老朽化してきた臓器を新しい人工の臓器に置き換える「臓器代替技術」があります。臓器の交換には提供者(ドナー)の存在が不可欠な臓器移植という方法もありますが、人工臓器との交換ならばドナーに頼らない治療が可能になります。

実は、医療の現場ではすでに部分的な臓器の交換が行われています。たとえば水晶体を人工レンズに交換する白内障の手術は立派な臓器交換と言えます。また、損傷した角膜にiPS細胞からつくったシート状の角膜細胞を移植する治療も臨床応用に近づいています。

■やがて肺や胃、関節も代替可能になるだろう

心臓については、大動脈弁を人工弁に入れ替える手術も臓器交換のひとつ。さらに現在ではiPS細胞技術を用いた心筋シートが実用段階に入っているほか、外部心臓とも呼べる「補助循環装置」の臨床使用も広まってきています。

腎臓に関しても、携帯型の透析治療装置が実現する日は近いと考えられ、将来的には腎臓そのものを人工腎臓に総取り換えすることも可能になるでしょう。

現段階ではまだ研究開発や実験段階のものも多いのですが、これ以外の肺や胃、関節なども近い将来、人工臓器で代替可能になるだろうと期待されています。

「五臓六腑」すべての臓器を“総取っ換え”して全身を機械の体にすることはさすがに難しいでしょう。しかし、部分的にせよ臓器の多くが「傷んだら交換できる」時代になってきているのは事実。臓器代替は、不死時代の行方を大きく左右するファクターになるのではないでしょうか。

■AI診断の導入で「誤診」が激減する

医療テクノロジーの飛躍的進化がいくら最新の治療法をもたらしても、治療の前段階である医師による診断(見立て)が間違っていたら元も子もありません。病気の克服のためには、診断プロセスにおける最初の「誤診」をなくすことが重要な課題になるのです。

そのための取り組みとして大きく期待されているのがAI(人工知能)による診断の導入です。誤診の多くは、医師の思い込みや疲労といった要素が影響した判断ミスによって発生しています。ならば人間のような思い込みや疲労のないAIのほうが、むしろ安定した正確な診断ができるということ。AIの導入によって「人間だから間違いはある」というヒューマンエラーによる誤診リスクが激減するのです。

UIを用いた未来的なデジタルヘルスケアのイメージ
写真=iStock.com/Nattapon Kongbunmee
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nattapon Kongbunmee

また、AIはITテクノロジーとの親和性が高いため、インターネットを通じた遠隔診断や自動診断の実現にも普及にも大きく貢献します。医療の世界、とくに「診断」の分野においてはそう遠くない将来に、AIがデータ分析や照会を行い、最終チェックやその結果を参考にした診断を人間の医師が行うというスタイルが主流になっていくでしょう。

がんの克服、人工臓器への交換、AI診断による誤診の激減など、医療テクノロジーがもたらす「病気で死ぬリスクの激減」が、人生120年という不死時代、超長寿時代の到来を強く後押ししているのです。

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奥 真也(おく・しんや)
埼玉医科大学総合医療センター客員教授
1962年、大阪府生まれ。医師、医学博士。経営学修士(MBA)。大阪府立北野高校、東京大学医学部医学科卒。英レスター大学経営大学院修了。専門は、医療未来学、放射線医学、核医学、医療情報学。東京大学附属病院に入局後、フランス国立保健医学研究所に留学。東京大学医学部附属病院22世紀医療センター准教授等を経て、製薬会社等に勤務。著書に『Die革命』(大和書房)、『未来の医療年表』(講談社現代新書)など。

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(埼玉医科大学総合医療センター客員教授 奥 真也)

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