「認知症の親を棄てたい」「親の死を願う」その思いに罪悪感をもつ必要はないと断言できる理由
プレジデントオンライン / 2020年12月12日 9時15分
■子供が老親の介護に割く時間はコロナ感染前に比べて1日5.7時間増
新型コロナウイルスの感染拡大は介護業界にも甚大な影響を与えている。12月3日に東京商工リサーチが発表したところによると、介護施設の倒産は年間最多を更新、休廃業・解散も過去最多となったという。
介護事業は2015年以降の介護報酬の実質的なマイナス改定によって、経営難に陥る事業者が増加していたが、それにコロナ禍が加わった。
これにより利用者側(伴侶や子供など)が感染を恐れ、デイサービスなどの介護サービスを自粛したことと、自主休業を余儀なくされた介護施設が増えた。その結果の倒産である。
デイサービスを使いにくくなったことで、介護をする家族の負担は増大。一般社団法人日本ケアラー連盟の調査(2020年4月17日発表)では、介護者が介護に割く時間は新型コロナの感染拡大以前に比べて1日平均で実に5.7時間も増えたという。
こうした介護する側の負担の壮絶さは、両親を十余年にわたって介護した経験のある筆者にもいやというほどよくわかる。介護アドバイザーとして活動する筆者に最近寄せられてきた相談からはその厳しさ・ツラさがより強まっていることが実感できる。
以下、3人のケースを紹介しよう。
■「ひとりで母をあとどれくらい看ないといけないのか」
ケース1:
実家の関西で86歳の認知症の母親をワンオペ介護する62歳息子
剛さん(仮名62歳・無職)は近畿地方出身だが、就職以降は都内で働き、千葉県でマンションを購入。パート勤めの妻(58歳)と社会人の息子(30歳)との3人暮らしである。
故郷で1人暮らしをしていた剛さんの母親(86歳)に異変が起こったのは、2020年3月下旬。突然、警察から、母親を保護しているという電話を受けたという。
急ぎ、故郷に駆け付けた剛さんは、近所の人からこう聞いて愕然とした。
「ここ1年ほど、おばあちゃんはゴミの分別方法や収集日がわからなくなっているようで、心配していたんだよ。夜中に散歩していることもあるので、見かけたら連れて帰っていたが、もしかすると認知症が進んでいるかもしれない」
剛さんは母親に対しては、この1年は盆暮れに帰ることもなく「大丈夫か?」という安否確認の電話を時々入れる程度で、正直、母親の変わりようにショックを隠せないでいる。
「気丈な人ですし、電話では全然、普通にしゃべるんで、全く気が付きませんでした」
剛さんは緊急事態宣言を受け、自宅と母宅(実家)を自由に行き来することが叶わなくなったこともあり、再雇用で働いていた都内の会社を辞し、現在は母と同居している。
「母と妻は折り合いが悪かったので、妻がこちらに来る、または自宅で母と同居するって選択肢はないんですよ。妹がいますが、同居する姑さんのめんどうで手一杯ですし、自分がやるしかないんですよね」
母親の介護認定は要介護2。比較的費用がかからない特養は要介護3以上が入所基準になることと、他の高額な施設費用は出せないこと、なにより母親自身が自宅での暮らしを強く訴えていることが母宅での同居を選んだ理由だ。
「なんとかやっていますが、この生活も限界かなって思います。最近ようやくデイサービスが再開したんですが、母は頑なに行きたがりません。『お遊戯をやる暇はない!』って。もちろん、ケアマネたちが説得してくれてはいるんですが……。それに、時間感覚がなくなるらしく、昨日も夜中に『予約をしたから美容院に連れて行け!』と騒がれて、思わず怒鳴ってしまいました。怯えている母を見ると罪悪感しかありませんし、一方で、今やほとんど知る人もいないというこの土地で、ひとりで母をあとどれくらい看ないといけないのかと思うと、やるせなくなるんですよ」
■「親を見捨てて、さぞやいい気分だろうね」と泣き叫ぶ親を棄てたい
ケース2:
78歳母親の連日の鬼電に「着信拒否し、母を棄てたい」48歳女性
一方、埼玉県に住む悦子さん(仮名・48歳・自営業)はこう嘆く。
「ウチの母(78歳)は、私の弟にばかり愛情を注ぎ、姉である私はずっと差別をされてきました。私の出産の時も母に『オマエは嫁に行った人間だから』と里帰りを拒否され、子育て中も助けてもらうことは皆無でした。それなのに、自分が要介護状態(介護度は要介護1)になった途端、弟に無視されたらしく、私にすり寄って来たんですよ。施設入居どころか、ヘルパーさんが家に入るのも断固拒否なもので、仕方なく週2日、私が遠方の実家(茨城県)へ通っていたんですが、このコロナで行くに行けず。その間は狂ったように、毎日、何回も電話をかけてきます。しかも『オマエは親を見捨てて、さぞやいい気分だろうね』って泣き叫ばれるので、着信拒否にしたいくらいです。正直、もう母を棄てたいです……」
ケース3:
介護施設の職員に暴力ふるい退去させられた83歳の父を引き取る56歳女性
神奈川県に夫と子供とともに住む真由美さん(仮名・56歳・パートタイマー)は父親のことで困っている。83歳の父親は現在介護施設に入所している。
「もともと横柄でDV気質の人でしたが、認知症が進み、自宅(同県内)で看ていた母(80歳)が音を上げたので、父を高齢者施設に入所させたんです。でも、このコロナ禍で面会禁止。私も母も逆にヤレヤレと思っていたんです。ところが、施設から『(職員に暴力をふるい)集団生活には困難なのでお引き取り願いたい』と言われてしまって。まさか、追い出されるとは思っていませんでしたが、あんな父親、引き取りたくありません! それでも、父の面倒を看ないといけませんか?」
■親には恩もあるが、怨もある。だから介護は難しい
筆者は先日『親の介護をはじめる人へ 伝えておきたい10のこと』(ダイヤモンド社)を上梓した。その中にも書いたが、介護がしんどくなる理由のひとつに、介護する側の複雑な葛藤がある。介護を受ける側、する側の間柄が夫婦や親子という肉親であるためだ。
介護者から見ると、その思いは「恩と怨」の間で激しく揺れるように感じている。
要介護という事態を招いたのは、親のせいではない。好きで老いる人はいないし、好んで不自由になる人もいない。ましてや家族としての情はあるし、その対象が親であれば、ふつうは産み育ててもらったという“恩”を感じるだろう。
しかし、介護する者にも自分の家庭や仕事がある。なおかつ、上で紹介したエピソードのように自身の育てられ方に疑問を持っている場合だと、心情的にも介護は非常に厳しいものになりがちだ。
その他にも、介護者が疲れ果ててしまう要因には次のようなものが挙げられる。
2 兄弟姉妹がいた場合、役割分担がうまくいかずに不平等感に苛まれる
3 失禁、おむつ替え、移乗、通院付き添いなどの時間的・肉体的負担が重過ぎる
4 親の妄想、暴言、繰り言などにより、こちらのメンタルがおかしくなる
5 介護や医療に関係する費用がどんどん増えていく
介護は長期間になりやすく、しかも孤独に陥りやすい。
ひどい場合には「親の死を願う」ことも稀ではないが、それは単純に「介護生活からの解放」を願っているだけである。筆者はその思いに罪悪感を持つ必要はないと考えている。なぜならば「恩と怨」の狭間で揺れ動きながらも、その人は結局、介護をやり続けているからだ。
■心優しい人が親の介護で自滅の道を歩まないための5つの方法
そういう心優しい人が自滅の道を歩まないようにするためにはどうすればいいのか。筆者自身の経験と、相談事例から導きだした5つの方法を挙げてみたい。
【1】まずは誰でもいいので、愚痴を吐く。もし見つけられなければ、SNSを使って、呟くのでもいい。自分の中の負のエネルギーは溜め込まずに発散することが有効である。
【2】専門家の窓口を繰り返し頼る。自治体の福祉担当部門、地域包括センター、社会福祉協議会、民間のNPO法人……。ありとあらゆるプロのアドバイスを仰ごう。思わぬ解決方法が見えてくる場合もよくあることだ。ここだけの話、介護は「ゴネた者勝ち」=「諦めずに助けを呼んだ者勝ち」ともいえるのだ。
【3】ケアマネジャーなど、要になってくれるべき人と信頼関係を築こう。もし、肌が合わないなという場合、ケアマネジャーはいつでも変更可能。例えば、介護を受ける側に持病がある場合で、ケアマネジャーに医療系の知識があった方が心強いならば、看護師経験者のケアマネジャー。寝たきりの人を在宅介護する場合であれば、ヘルパー経験のあるケアマネジャーにお願いするというのも一つの方法だ。ケアマネジャーとの相性次第で、介護は天と地ともいうほど変わってくるので、人選は大事にしてほしい。
【4】介護者と要介護者が密にならないように、風通しをよくするべく他人を入れてみる。ある高齢の女性は断固としてデイサービスに行かなかったのだが、新しく担当になった若い男性介護士さんが玄関でシンデレラのように靴を履かしてくれたことがきっかけで、デイサービスを心待ちにするようになったと聞いた。また、ある福祉用具のレンタル業者さんは度々、「ご機嫌伺い」と称して新製品を紹介しがてら話し相手になってくれているので、親子の険悪な雰囲気解消の一翼を担ってくれているそうだ。要介護者の心を解きほぐすのは肉親よりも介護に明るい専門家の方が適任であることも覚えておきたい。
【5】介護者は休息を忘れずに取ろう。機械であってもメンテナンスは必須。ましてや人間には休息が必要だ。ひとときでもいいので、介護から離れる時間を取ろう。介護はひとりで抱え込みがちだが、親族や親戚などから介護を頼める人を探してみることも大切だ。そして、時々は、身も心も介護から離れることがとても大事。そのためにショートステイ(短期入所生活介護)やレスパイト入院(介護家族支援短期入院)というものがある。自宅で介護をしている人の休息を主な目的としたものなので、安心して要介護者を預けることができる。希望する場合はケアマネジャーに言ってみよう。
もちろん、デイサービスやショートステイなど通所型施設の利用が難しくなった場合には、入居型施設の利用も選択肢になることを忘れないでほしい。経験から言わせてもらえば、入居型介護施設も悪くないし、共倒れにならなかったのは施設のおかげだ。
※
介護は本当に腹立たしいことが多く、介護する側がこのままではノイローゼになるのではないかと悩むことも多い。親子、あるいは夫婦間で怒りの応酬を繰り返す率は高いだろうが、それも「要介護者であるお年寄りの刺激になる!」とプラスに考えて、気持ちの転換を図るほうが好循環に繋がる。
「人間はどう生きたって、他人に迷惑をかけて生きる生き物! それの何が悪い? 社会全体で要介護者を看ればよいのだ!」
そんなふうに半ば開き直って、「頑張りすぎない」介護をすることがコツなのだ。
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エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー
執筆、講演活動を軸に悩める母たちを応援している。著作としては「偏差値30からの中学受験シリーズ」(学研)、「ノープロブレム 答えのない子育て」(学研)、「主婦が仕事を探すということ」(東洋経済新報社 共著)などがある。最新刊は「鳥居りんこの親の介護は知らなきゃバカ見ることだらけ」(ダイヤモンド社)。ブログは「湘南オバちゃんクラブ」「Facebook 鳥居りんこ」。
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(エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー 鳥居 りんこ)
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