「渋谷と歌舞伎町の治安は決定的に違う」とホストクラブ経営者が言い切る納得の理由
プレジデントオンライン / 2020年12月17日 15時15分
※本稿は、手塚マキ『新宿・歌舞伎町』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
■23年にわたって歌舞伎町の街を見てきて思うこと
歌舞伎町は世界一安全な繁華街である。私はそう思う。ただ、そう思ってはいない人がかなり多くいる。
私は1997年からホストとして歌舞伎町の人間になった。ホストクラブのキャストから経営側にまわり、「Smappa! Group(スマッパグループ)」の会長として歌舞伎町でホストクラブやバー、美容室などを経営している。2017年からは歌舞伎町商店街振興組合常任理事を務めている。ホスト時代から23年にわたって歌舞伎町の街を見てきた。体感として「歌舞伎町は世界一安全な繁華街」と思うようになったきっかけは2002年のことだ。
50台の防犯カメラが歌舞伎町にやってきた。警視庁生活安全部が繁華街に防犯カメラを大量に設置したのは歌舞伎町が日本で初めてだった。暴対法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)の効果が出てきたという面もあると思うが、我々住人たちは飲み屋で「雨の日に傘をさすと防犯カメラに写らないから怖い人が街にたくさんいるらしいよ」なんて噂するくらい、防犯カメラの監視を信頼していた。それは同時に、自分たちも悪さをしたらすぐ捕まるという認識の共有でもあった。
さらに、歌舞伎町の防犯カメラは警察が設置するものだけではない。1階にあるお店は大体自店で防犯カメラを付けているのだ。店の種類によって目的はそれぞれにあるとは思うが、道行く酔客が起こすトラブル、あるいは自店で起きるトラブル回避のためなど、基本的には抑止力としての効果が強いと思う。実際にダミーのカメラもたくさんある。
■「人の目」という私的な抑止力
警察も防犯カメラの効果を認め、現在ではカメラを5台増やし、さらに高性能なものに切り替え、歌舞伎町1丁目での死角をなくした。そして歌舞伎町に倣って、各地の繁華街で防犯カメラが設置されるようになった。
警視庁のHPによると、街頭防犯カメラシステム整備地区の刑法犯認知件数は、カメラ設置の2002年から2018年の間で、約半数になっている。私の肌感覚でも路上の喧嘩などを見ることは最近ほとんどなくなった。そして歌舞伎町の真ん中に位置する歌舞伎町交番には、警察官が毎日24時間、4交代制で8人いる。歌舞伎町で110番すれば5分も掛からず警察官が来てくれる。24時間態勢で歌舞伎町内をパトロールしている警察官も目にする。
「共生はしないが共存はする」防犯カメラ、そして警察、そういった公的な抑止力がある上で、さらに歌舞伎町には私的な抑止力もある。それは衆人環視、人の目だ。
歌舞伎町の路上では前後10メートル、誰の目にも触れられない場所はない。24時間どこでも必ず人がいる。必ず誰かが見ている。そして見られているのだ。正確なデータは取れなかったが、コロナ禍以前まで、10年で歌舞伎町の来訪者数は倍くらいに増えているように感じた。毎日たくさんの人が訪れていて、多種多様なお店が林立し存在し続けられているということは、警察やカメラのおかげだけでは成り立たない、連綿と引き継がれてきた「街の秩序」があるからではないだろうか。決して「警察が見ているから」だけではないと思う。
![美しく積み重ねられたシャンパンタワー](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/1/670/img_31edb4f0b68a5f7427146af6a3f249a0856957.jpg)
■歌舞伎町の住人たちはそれぞれの「テリトリー」を持っている
歌舞伎町を訪れたことがない方のイメージするような「怖い方々」ももちろんいる。でも、そういう方々は、我々が何もしなければ、決して危害を加えることはない。現在は反社会的勢力と言われる方々が一般人と揉めることに伴うリスクはものすごく大きい。もしそういう揉め事を起こすことがあるならば、組織のトップの責任になる。そんなリスクを背負って一般人に自ら絡むような人はいない。彼らが怒るとしたら余程のことだろう。だからと言って、彼らを舐めてからかうようなことを歌舞伎町の住人たちはしない。
歌舞伎町で働く人や歌舞伎町を遊びのホームタウンにするような歌舞伎町の住人たちは、羽目も外すがお互いが一定の緊張感を持って生きている。また、歌舞伎町で働く人は大体歌舞伎町で遊ぶ。最低限のモラルを守って周りに迷惑を掛けないように、それぞれで勝手に暴れるのだ。歌舞伎町には約600棟のビルがある。
一つのビルに10のテナントがあると仮定して、住居、事務所などを多めに見積もっても約4000軒を超すお店が存在する。いまだかつてすべてのお店を把握した人は1人もいないだろう。その数あまた多のお店の中で住人たちは、それぞれのテリトリーを持っている。それは物理的なテリトリーではなく、コミュニティと言われているものに近いのかもしれない。自分の安全圏を確保して、そこで心を解放させるのだ。
■「共生はしないが共存はする」
私の会社が経営する歌舞伎町内のバーは6店舗ある。各店舗それぞれに固定のスタッフもいるが、どの店舗にも所属しないスタッフが数名いる。そのメンバーが6店舗を回遊して、お客様のテリトリーを拡げてあげる。彼らはうちのグループ店舗だけではなく、それぞれ自身のテリトリーを歌舞伎町に持っていて、重なるハブの部分がうちのグループ店舗だということだ。自店だけに留まるのではなく、テリトリーを共有する文化があるのだ。
「共生はしないが共存はする」というのは長年、歌舞伎町商店街振興組合の事務局長を務めてきた城克(じょうまさる)さんの言葉だ。まさに歌舞伎町を表す言葉だと思う。決まったルールも線引きもない。だが歌舞伎町なりのモラルがある。自分のテリトリーを大事にするということは、他人のテリトリーに対しても敬意を持つということなのだ。
そんな自分のテリトリーを大事にする人々は、自分の懇意にしている店の前でたむろして缶ビールを飲んでいる人がいたら当然注意する。ふらっと来た行儀の悪いお客は追い出す。そういう光景を幾度となく見てきたし、自分もしてきた。
■客引きは違法行為だが治安を守る存在でもある
こう言うと「初見では遊びに行きづらい街だな」と思うかもしれない。それはある意味間違っていない。1回飲みに行って最高の思い出になるようなエンタメ性が高い店は歌舞伎町には少ない。人間関係を継続的に構築していくこと、職種・性別を気にせず1人の人間として扱うコミュニティがたくさんあることこそが歌舞伎町の魅力だ。4月になると新しい客引きが増えて、街がポイ捨てのゴミで汚れる。しかし冬になるとゴミの量は減る。そうやって彼らも街の住人になっていく。
![手塚マキ『新宿・歌舞伎町』(幻冬舎新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/1/200/img_314b170278de4535a8808a504979dbb6428765.jpg)
2018年のハロウィン、渋谷では車をひっくり返すような暴動が起きた。もし、同じような状況が歌舞伎町で起きたら、客引きたちは営業妨害だと止めるだろう。客引きは違法行為だ。そうであるにもかかわらず、彼らは歌舞伎町の安全性をある意味で守る存在なのだ。
自分のお店の前で暴れていればお店の人は注意する。実際に我々のお店で問題が起きても、近所のお店の人やお客様の協力で解決することがほとんどだ。みんな自分事のように協力してくれる。そうやって、歌舞伎町を自分たちの街だと感じるような、比較的長く働いている人やお客様が街中にいて自分たちのテリトリーを守るのだ。
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ホストクラブ「Smappa! Group」会長
1977年生まれ。中央大学理工学部中退後、歌舞伎町のナンバーワンホストを経て独立。ホストのボランティア団体「夜鳥の界」を立ち上げ、NPO法人「グリーンバード」理事。2017年「歌舞伎町ブックセンター」をオープン。近著に『自分をあきらめるにはまだ早い[改訂版]』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『裏・読書』(ハフポストブックス/ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
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(ホストクラブ「Smappa! Group」会長 手塚 マキ)
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