「月給の業種間格差20万円」コロナでさらに給与ダウンした薄給業種の悲壮
プレジデントオンライン / 2020年12月14日 9時15分
■コロナで給与減少の業種が多い中、増えている業種もあった
2020年の日本経済は、新型コロナウイルスの影響で年初から大きな影響を受けました。とりわけ雇用情勢は一気に厳しくなり、給与が減少している業種が多いのですが、その一方で昨年に比べて給与が増えている業種もあります。
「現金給与総額」というデータが、毎月、厚生労働省から発表されています。この統計は、業種ごと、正規・非正規雇用ごとに実額で給与額が発表されており、よく見てみるとなかなか興味深いです。
■2019年前半には求人倍率1.63倍だったが、2020年9月は1.03倍
現金給与総額の数字を分析する前に、日本全体での雇用情勢の変化を見てみましょう。
図表1は、「有効求人倍率」と「失業率」です。有効求人倍率は、厚労省が毎月ハローワークでの求人票と求職票から割り出している数字です。この有効求人倍率が2018年度には1.62倍、2019年前半には1.63倍まで上昇しました。つまり、100人仕事を求めている人に対して163人分の仕事があったということです。日本全国で、場所と職種と賃金を選ばなければ、必ず仕事が見つかったということです。
しかし、2020年に入って、新型コロナウイルスが猛威をふるうにしたがって、雇用情勢は一変しました。どんどん有効求人倍率は落ち、9月には1.03倍まで落ちました。10月は少し戻していますが、それでも1.04倍です。失業率も3%を超える水準まで上昇しています。
別の統計を見ると、製造業での悪化が著しく、人余りと感じている企業も増えています。もちろん、運輸、旅行関連の業種や飲食業でも人が余っている企業も増えています。
■売り手市場から買い手市場へ、安易な転職はアブナイ
話が少しそれますが、こうした状況を踏まえ私は経営コンサルタントとして、最近、企業経営者の皆さんに「雨がやんだら傘をたたんだほうがいい」という話をします。2019年には、どこの会社の経営者に会っても、「人手不足で困っている」という話を聞かされました。しかし、現状では買い手市場の傾向が出てきており、優秀な人を採用するチャンスが来ているのです。
雨がやんでもずっと傘をさしている人がいますが、環境が変わったら、考え方や行動を変えることが重要です。今は、介護業界など一部の業種を除いて、人が採りやすくなっているのです。
その一方で、企業の若手社員に話す時には、「今は転職を考えないほうがいいよ」と、先ほど挙げた数字などを示して説明しています。つい1年前までは就職戦線は売り手市場だったため、その感覚で転職を考えている人も少なくないからです。
企業では、雇用調整助成金をもらいながら雇用を維持しているところも少なくなく、今後は、このままでは倒産や廃業により、そこで働く人たちの雇用が失われ、有効求人倍率のさらなる低下や失業率上昇の懸念もあります。求人数自身も減少していることも気がかりです。
■「現金給与総額」前年同月比で2%下落した月もあった
各業種の給与の変化を見る前に、コロナ禍で現金給与総額が全体的にどう変わってきたかを見ておきましょう。
現金給与総額とは、基本給などの所定内賃金、残業代などの所定外賃金、それに賞与を加えたものを指し、その額や推移を厚労省が毎月調べています。
![現金給与総額全産業前年比](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/3/500/img_93e3012461fae913bd3db1bb980fff18409433.jpg)
図表2は、全業種の2020年各月の前年比での推移です。
この数字を見ると明らかですが、2020年の4月から、前年比でマイナスが続いています。それまでは人手不足もあり、少し給与が上がる場面もあったのですが、4月以降は、前年比マイナスが続き、2%以上も下落している月もあります。
航空業界、旅行代理店大手などでは、「冬の賞与を支給しない」「支給しても大幅減」を発表しているところが多く、現金給与総額の前年比マイナスが今後もしばらく続くと考えられます。このままでは需要不足からデフレに陥ることも懸念されます。
■コロナ禍で高給の業種はさらに増加、薄給な業種はさらに減少
図表3は業種ごとの現金給与総額です。
![業種ごとの現金給与総額](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/4/670/img_c406e8bc3efa96f5a3aa711ee2d122e6498319.jpg)
この図表を見ると、結構興味深いことに気づきます。
講演などで「一番給与の高い業種は何ですか」と質問をすると、「金融ですか?」という回答が多いのですが、正解は「電気・ガス業」です。
図表は2020年の9月の給与ですが、他の月もたいてい「電気・ガス業」が最高(※)。この月で、40万円を超えたのはこの業種だけ。次いで、「情報通信業」「学術研究等」「金融業、保険業」と続きます。いずれも38万~39万円台です。
※図表では、左側がパートも含めた「全体:事業所規模5人以上の企業の非正規・正規社員の合計」、右側がそのうち正規雇用の「一般労働者」
こうしたデータはパートタイマーなどの非正規の人を調査対象に加えると数値が下がりますが、正規雇用者に該当する「一般労働者」をみても、「電気・ガス業」が45万6347円で一番です。
一方、最も低いのは「飲食サービス業等」で「全体」で平均11万3456円です。パートやアルバイトなど非正規雇用者が多いので数値が抑えられ気味ですが、正規雇用者の「一般労働者」の数字でも25万4072円と全業種の中でも最低です。
■全業種の中で最低「飲食サービス業」の正社員は月給マイナス6.5%
そうした厳しい状況で、前年比の増減もチェックすると、コロナ禍であるにもかかわらず、給与が上がっている業種もありました。
同じ図表3を見ると、もともと給料の高い「電気・ガス業」がさらに上がっています。パートなどを含めた「全体」も、正規雇用者の「一般労働者」も両方上がっています。インフラ産業はコロナや不況が影響しにくいことが改めてわかりました。また、「金融業、保険業」も「全体」「一般労働者」ともに0.4~0.5%上昇しています。
今回の調査で顕著だったのは、上昇している業種は1%に満たない上昇率のところが多かった半面、下落した業種では、その下落幅が大きいということでした。例えば……。
全体11万3456円(マイナス4.5%)
一般労働者25万4072円(マイナス6.5%)
●「建設業」
全体35万9799円(マイナス3.5%)
一般労働者37万4096円(マイナス3.1%)
●「製造業」
全体31万656円(マイナス1.8%)
一般労働者33万9714円(マイナス2.1%)
「飲食サービス業等」のように、給与の低い業種の給与が下がっていることは皮肉なことです。政府はこの現実を直視し、コロナ対策を万全にしつつも、的確な政策を打たなければならないことは言うまでもありません。とくにコロナの感染拡大で雇用が不安定となっている給与の低い非正規雇用者への支援が必要です。
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小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。
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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)
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