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「2匹が寄り添うように死んでいた」孤独死現場に残されたペットたちの末路

プレジデントオンライン / 2020年12月18日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/caelmi

孤独死の現場ではペットが犠牲になりやすい。ノンフィクション作家の菅野久美子氏は「孤独死した人の部屋から餓死したペットが発見されることがある。もし生き残ったとしても、遺族が引き取ってくれることはほとんどないので保健所へ連れていかれてしまう」という――。

■20匹以上の猫の死体が部屋中に転がっていた

年間3万人といわれる孤独死。孤独死の背景で、一緒に道連れになるのが、犬や猫のペットたちだ。

飼育能力を超えた数の動物を飼う行為は、近年大きな社会問題になっている。これはアニマルホーダーと呼ばれ、異常な数の動物を集め、飼ってしまうことを指す。飼い主が生前、社会から孤立していたケースも多く、発見が遅れることでペットが悲惨な結末を迎えることにつながってしまうのだ。孤独死の8割を占めると言われるごみ屋敷などのセルフネグレクト(自己放任)には、このようなアニマルホーダーもかなりの数が含まれる。

原状回復工事(特殊清掃)に携わって10年以上になる武蔵シンクタンクの塩田卓也氏は、孤独死現場におけるペットの死について赤裸々に語る。

「犬や猫などのペットが犠牲になるケースには現場でよく遭遇するんです。孤独死した人は、生前に親族や友人関係など、人とのつながりがないことが多いので、たとえペットが生き残ったとしても、親族が引き取ってくれることはほとんどありません。そのため、保健所に連れていかれるケースが多いです」

東京都内の築50年ほどの木造アパート。2階の10畳間には、アンモニア臭と腐敗臭が立ち込めていた。部屋の中には、悲しい光景が広がっていた。20匹以上いるとみられる猫の死体が部屋中に散り散りになって転がっていたのだ。

■飢えて共食いをしていた形跡もあった

「猫たちは、頭以外は白骨化している子がいたり、そのままグッタリと亡くなっている子たちがいたり、壮絶で本当にかわいそうでした。完全に骨と化している子もいたんです。僕は数々の特殊清掃に携わっていますが、臭いも強烈でした。よく見ると、猫は飢えて共食いをしていた形跡が見てとれました。切なかったです」

住人の50代の男性は、若い頃はアクティブなタイプで友達も多く、外とのつながりもあった。しかし、晩年はこのアパートに引きこもるようになったらしい。そんな中、ジワジワと寂しさが募っていったのだろう。

男性はいつからか、猫たちを家で飼うようになった。猫たちは避妊手術せず、室内に野放しで、あれよあれよという間に数を増やしていった。男性亡き後の猫たちの断末魔を思うと、居たたまれない気持ちになってしまう。しかし、男性もそんな猫たちの悲惨な結末を望んだわけではないはずだろう。それがとても悲しい。

しかし、こういった孤独死後にペットが餓死するケースは、決して少なくない。

ケージの中で寄り添うように死んでいた小型犬2匹
筆者撮影

神奈川県の高級分譲マンションの一室。住民の50代の女性は一人暮らしで、孤独死して死後2週間が経過していた。玄関を開けると、すさまじいゴミがあった。それをかき分けて前に進むと、小さなケージがあり、中には白と茶色の小型犬2匹が寄り添うように亡くなっていた。

「頭と頭をお互いにくっつけて、寄り添うように亡くなっていたんです。それを見て、泣いてしまいましたね」

女性は、ゴミ屋敷でセルフネグレクトに陥り、精神的にも追い詰められて、犬たちを放置。そして、犬たちはゴミの山に埋もれて、亡くなっていた。きっと飢えて、のどが渇き、苦しかっただろう。それでも最後まで寄り添っていた2匹の最期の苦しみを思うと、胸が締めつけられる。

■高級マンションの一室で孤独死した30代女性の場合

特殊清掃人の上東丙唆祥氏も、ペット屋敷の清掃を数多く手掛けてきた人物だ。上東氏は、つい先日も関東某所の高級マンションの一室で30代の女性が孤独死した現場に遭遇したという。

リードを付けたブルテリアと夜の散歩
写真=iStock.com/AlexLinch
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AlexLinch

女性は、犬やフェレットなど10匹以上を飼っていたが、ソファは中のスポンジがむき出しになるほどに、食い荒らされていた。床にはふん尿が散らばり、生前から衛生的に飼育しているとは思えない状況だった。ペットたちは餓死寸前だったが、命からがら助かったという。

■お金では埋まらない心の空白や寂しさを解消しようとして

「驚いたのが、亡くなった女性を尋ねてペットショップの店員さんがやってきたということです。店員さんは、子犬を自宅に届けに来たそうです。犬の代金の入金が済んでいるが、取りに来ないので直接家に届けに来たそうです。あれだけの数のペットを飼っていながら、まだ増やそうとしていたんだなとビックリしましたね」

女性は、経済的には何不自由なかった。しかし、経済的充足では埋まらない心の空白や寂しさを解消しようと、次々とペットを増やしていったのだろう。

清掃作業を始める前に手を合わせる男性
筆者撮影

私自身が取材で印象に残っているのは、犬猫7匹以上が餓死した現場だ。そこは千葉市内の築1年の新築マンションで、亡くなった50代の男性は親の遺産があり、経済的には恵まれていた。しかし、他者との関係性を示すものはなく、親族も関わりを拒絶。そのため、死後6カ月以上男性の遺体は放置されたままだった。残されたペットたちは、男性の死後、室内で餓死。ペットだけを心の支えとしてきた男性、そして飼い主亡き後に苦しみの中で死んでいったと感じると、切なくなる。

このように飼い主に社会的つながりがなく、ペットが共倒れしているケースは、現場ではありふれているのだ。

■亡き後にペットを託せる相手を探しておく

寂しさや孤独から、その心を満たそうとしてペットを飼うが、そもそも飼い主が社会から切り離されている。そのため、その部屋だけ島宇宙化し、亡くなっても誰も訪ねてくることはない。結果として、本人の心の支えとなっていたペットも悲惨な結末を迎えてしまう。そんな痛ましいケースが特殊清掃の現場では後を絶たない。そこには、社会的孤立の問題が横たわっている。

それを表すのが2020年、11月に発表された第5回孤独死現状レポートだ。同レポートは、孤独死保険などの商品を提供している保険会社らでつくる少額短期保険協会が発表している。それを見ると、孤独死をめぐる現状がわかる。

レポートによると、孤独死発生から発見までの平均日数は男女ともに17日、孤独死者の平均年齢は男女ともに約61歳という。

孤独死する人は、平均寿命と比較し20歳以上若くして亡くなっている。これは、不摂生や不衛生な環境での生活など、セルフネグレクトに陥っていることも一因だろう。また、その中にはペット屋敷もかなりの数に上ると考えられる。

また、孤独死の発見者の特徴として、親族や友人、いわゆる近親者が発見者となるケースは、全体のわずか約35%でしかない。一方、警察や管理会社の職員など、職業上の関係者や他人は6割超。これは、人と人とのつながりの無さ、無縁社会の到来を表す数字ともいえる。

ペットはそんな無縁社会が進行した現代日本で個人に寄り添ってくれる、かけがえのない存在だ。その反面で、言葉を持たない彼らは、最も残酷な形で犠牲者にもなりえてしまう。取材を通じて、孤独死した後にペットが飢餓に耐えきれず、思わず飼い主を食べてしまったということもよく耳にした。そんな痛ましい現実は日々起こっているが、人目に触れずに、ひっそりと処理されている。

私自身、物心ついたときからペットが好きで、今も犬と猫を飼っている。

そんな愛すべきペットたちが非業の死を遂げないためにも、やはり日本が抱える社会的孤立の問題に国を挙げて取り組み、もっと、孤立や孤独といった問題に寄り添うことが必要ではないだろうか。また社会全体で、この問題に目を向けるべきでだと感じずにはいられないのである。

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菅野 久美子(かんの・くみこ)
ノンフィクション作家
1982年、宮崎県生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒。出版社で編集者を経てフリーライターに。著書に、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)、『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)、『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)などがある。また、東洋経済オンラインや現代ビジネスなどのweb媒体で、生きづらさや男女の性に関する記事を多数執筆している。

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(ノンフィクション作家 菅野 久美子)

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