「性行為なしで10万円も」マジメな女子大生ほどパパ活にのめり込む切実な事情
プレジデントオンライン / 2020年12月17日 11時15分
■これまでの「売春」とは少し形が違う
――パパ活を取材し、小説を書こうとしたいきさつを教えてください。
パパ活について調べようと思ったのは、去年の夏ごろのことでした。知人の女性が町中でスカウトマンに声をかけられたというのです。
「パパ活、どうですか」
キャバクラや風俗のスカウトなら聞いた経験はありましたが、パパ活のスカウトなんて初めて聞きました。2017年、フジテレビのインターネットテレビで「パパ活」というドラマがつくられたのは聞いていましたが、実態はほとんど知らなかった。
そもそも私自身がパパ活に違和感を抱いていたのです。
一般的に、パパ活とは、肉体関係なしで裕福な年上の男性と食事をしたり、デートをしたりして、お金をもらう活動です。父親にお金をねだる父娘の関係に似ているから、パパ活と呼ばれるようになったそうです。
性的な関係の代償にお金をもらう。それなら昔から続いてきた売春だと理解できます。「援交(援助交際)」や「ワリキリ」……。時代とともに新たな呼び名が生まれましたが、セックスで報酬をえる売春には違いありませんから。
けれども、パパ活について調べてみると、これまでの売春とは少し形が違うらしいと徐々に分かってきました。
■太パパ、都度パパ、月極パパ…
実際にセックスなしの食事やデートだけで1万円、多い場合は月10万円以上も受け取る女性がいたのです。食事するだけで1万円以上もらえるのなら、普通にバイトをするよりも効率がいいと考える女子大生がいる。さらに割り切ってお金持ちの「太パパ」と肉体関係を結んで、毎月数十万円稼ぐ女の子もいました。
同時に、金払いのいいパパに出会えず、パパ活アプリで、食事5000円、性行為2万円程度を条件に、毎日、「都度パパ」を探す子もいました。その都度に違うパパと食事をし、そのたびに性行為をするかどうか、値段はいくらか交渉して決めている。
――「太パパ」に「都度パパ」ですか……。
太パパは、高級レストランや海外旅行に連れて行ってくれる裕福で金払いのいい男性のことです。都度パパは、アプリなどでその都度、その都度に見つけるパパ。ほかには、毎月決まったお小遣いをくれる「月極パパ」と呼ばれる男性もいます。
![東京タワー](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/1/670/img_918ccc92fbf17f0f4a092a4f9b39480d1345717.jpg)
■パパ活が広まることで「パパ」の質も玉石混淆に
――女の子たちはどんなところで、パパと知り合うんですか?
いくつかのパターンがあります。
まずパパ活業界の勝ち組と言えるのが、交際クラブを介した出会い。交際クラブを通して出会う男性は、高額の入会金や会費を支払えるだけの経済力を持っているうえ、身元もそれなりに保証されている。女性がギャラを取りっぱぐれたり、騙されたりするトラブルが少ない。
それから、キャバクラやラウンジで、ホステスと客の関係から、パパ活に発展するケース。なかにはパパ活のカリスマ女性などに、太パパを斡旋してもらったと語る女性もいました。
パパとの出会いで、もっとも多いのが、アプリやSNSです。
最近、パパ活という言葉が広まったせいか、お金持ちでもない男性や若いサラリーマンが、性風俗に行く感覚でパパ活アプリを使うようになりました。そうなると、利用者は玉石混淆です。トラブルもよく耳にします。
パパ活では、食事のギャラや、性行為の有無や値段などの条件を前もって決めます。仲介者を通さずに決めるから、女性にとっては金額を中抜きされないメリットがある。
しかし男性が約束を守るとは限らない。プロフィール自体がデタラメという話も珍しくはありません。自称医師の男性に「実はウソでお金がない」とギャラをもらえなかった女性の体験談も聞きました。金銭トラブルだけではなく、合意のない性行為を強いられる危険性もある。茨城県や新潟県では、パパ活を発端に女性が殺害された事件も起きています。
パパ活にも二極化が進んでいるのです。
■パパ活の背景には親世代の経済的困窮がある
――パパ活に、ブランドのバッグや洋服を身につけ、ぜいたくな生活をしたいがために、父親世代の男性と食事や性行為をしているというイメージを抱く人もいると思うのですが。
私が取材した女性に限っていえば、そんな余裕はなかったですね。
![志駕晃『彼女のスマホがつながらない』(小学館)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/3/200/img_33a683538def5e5cc41709c05bb8fcbf506427.jpg)
彼女たちがパパ活をはじめる動機は切実でした。私がインタビューをさせてもらったのは、主に20代前半から30代前半の女子学生やOL。彼女たちがパパ活を続ける最大の理由は、生活費と学費の支払い、あるいは奨学金の返済です。
昔は、親が授業料や生活費の一部を支払ってくれて、子どもたちは足りない分をバイトでまかなえばよかった。ただ、この30年でかつての当たり前だった役割を親が果たせなくなってしまった。
景気は一向に回復せず、格差が広がった。親世代も困窮している。収入が上がらず、子どもたちへの仕送りもままならない。
そのしわ寄せで、若者たちは学費と生活費を自ら稼ぎ、奨学金に頼らなければ、大学に通えない。仮に月8万円の奨学金を借りたら、年間約100万円。大学卒業までに、借金が400万円にまで膨れ上がる。普通のアルバイトだけで、とても賄える金額ではありません。その結果、水商売や風俗の仕事をはじめる女子学生は珍しい存在ではなくなった。
しかしキャバクラなどの水商売をはじめると、連日深夜まで働かなければならない。欠勤などには高額な罰金が科せられるから、学業よりもバイトを優先せざるをえなくなる。学生生活と水商売は両立しにくいのです。風俗は時間の都合はつきやすいのですが、会ったばかりの見知らぬ男の前で裸になるのは嫌だ。そんな状況で、時間の融通が利き、短時間に高収入をえられるパパ活が新たな選択肢として登場した。
■パパ活で「自分の商品価値」を残酷に突きつけられる
――やむにやまれぬ事情で、パパ活をはじめているのですね。
私が話を聞いた女性たちは、本当にマジメで前向きな子ばかりでした。そして生活には、本当に困っている。だからこそ、パパたちは「オレが支えなければ」とお金を出すようになる。
パパも、お金を持っているだけでなく、年齢の割にオシャレで、おいしいレストランを知っていて、遊び方も分かっている。同世代の貧乏な大学生と付き合うよりもずっといいと感じるのでしょう。
ただしパパ活を続けるうち、手段が目的化してしまう女性も少なくないようです。ある女性は「いつやめられるか分からないから怖い」と漏らしていました。
パパ活に足を踏み入れたばかりの女性には、デメリットは見えていません。
毎月、おいしい料理をごちそうしてもらえて、オシャレなパパと性行為をしてお金をもらえるのなら、自尊心を保てるのかもしれない。けれど、そんな女性は一握り。現実は太パパを巡る女の争いです。
あの子は高級レストランで食事だけして毎月10万円ももらえているのに、なんで私にはいいパパがいないのか……。なんで私はイヤな男と寝て2万円しかもらえないのか……。
パパ活で優雅に暮らしているように見える女性に対する嫉妬もあるのでしょう。もっと美しくならなければ、と追い詰められ、せっかく稼いだお金をブランド品と美容整形につぎ込んでしまう女性もいます。
パパ活の商品は、自分自身です。毎回、自分の商品価値を残酷に突きつけられる。それでも、生活や将来のために、パパ活を続けざるをえない女性もいるのです。(後編に続く)
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小説家
1963年生まれ。明治大学商学部卒業。2017年、第15回『このミステリーがすごい!』大賞・隠し玉として、『スマホを落としただけなのに』で小説家デビュー。著書に、『ちょっと一杯のはずだったのに』(宝島社文庫)、『あなたもスマホに殺される』(角川文庫)、『オレオレの巣窟』(幻冬舎文庫)、『私が結婚をしない本当の理由』(中央公論新社)など。
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(小説家 志駕 晃 聞き手・構成=山川徹)
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