「自民党が公明党に譲歩」窓口負担問題の決着で永田町がザワつく背景
プレジデントオンライン / 2020年12月15日 6時15分
■菅首相のひと言で決着した「窓口負担」問題
「年収200万円以上ということでお願いできますか」
9日夜、都内のホテル「ザ・プリンスギャラリー東京紀尾井町」のレストラン「蒼天」で公明党の山口那津男代表と向き合った菅氏は、会談冒頭、こう切り出した。山口氏は「結構です」と短く答え、あとは2人で夕食を楽しんだ。
75歳以上の後期高齢者の負担増をめぐる与党協議は難航を極めていた。菅氏が田村憲久厚生労働大臣らに負担対象額を「170万円」以上に引き下げるよう指示。比較的低所得層の高齢者が多い創価学会に支えられる公明党は引き下げに難色を示した。その後、条件付きで「240万円以上」まで譲歩したが、その後は一歩も譲らない構えだった。
一方、自民党側も、態度は硬く、下村博文政調会長が、公明党の竹内譲政調会長との協議では「上から目線」の対応に終始。両党の関係をこじらせてしまった。
その膠着状態は、菅、山口両氏のトップ会談の冒頭で解消されたのだ。
■絵に描いたような「足して2で割る」決着だが…
両党の妥協案を少し分析しておきたい。自民党は「170万円」から30万円、公明党は「240万円」から40万円歩み寄ったことになる。
さらに負担対象をみると自民党の「170万円」の場合、対象となる高齢者は全体の31%にあたる520万人、公明党の「240万円」は13%にあたる200万人だった。妥協した「200万円」は全体の23%にあたる370万人だから、公明党案よりも170万人増え、自民案よりも150万人減る。
まさに「足して2で割る」ような妥協案。公明党との交渉に際し「足して2で割るわけにはいかない」と言い続けてきた下村氏は、恥をかいたような形だ。
計算上は、公明党の譲歩幅がわずかに多いようにも見えるが、9日夜までは自民党側の譲歩はないとの見方が強かっただけに、公明党側が勝ち取ったという印象が強い。
■菅政権の弱点は「菅官房長官がいないこと」
今回の与党協議で鮮明に見えてきたことがある。与党間の調整パイプが機能しないことだ。菅政権の誕生により、公明党との政策調整にあたる政調会長には下村氏が就任。ほぼ同時期、公明党の政調会長は石田祝念氏から竹内氏に交代した。
下村氏はベテラン議員で、政策には明るいが、交渉ごとが得意ではない。ちょっとしたひと言で相手を怒らせることも少なくない。一方、竹内氏は経験不足。自民党とのパイプも乏しい。窓口負担を含む両党の協議は、この弱点を見事にさらけだした。
言い換えれば、安倍政権下で官房長官を担ってきた菅氏のように、表裏で政府・与党の調整役を務める人物が、この政権にいないのだ。「菅政権には菅官房長官がいないのが弱点」という永田町のささやきが現実のものとなった。
今回のように、最終局面で菅氏が出てきてトップ会談で決着すれば問題ない、という考えもあるかもしれないが、政策決定の度にトップが出張ってくるようでは、与党関係は不健全になる。
■両党にとって最大の懸案は、衆院広島3区の候補者調整
医療費窓口負担の問題は一応の決着をみた。だが、両党にとっては今後も調整すべき難問が多く立ちはだかる。「GoToキャンペーン」の見直しなども含めた新型コロナ対策。そして両党にとって最大の懸案は、衆院広島3区の候補者調整だ。
公職選挙法違反の罪に問われている河井克行元法相が現職のこの選挙区は、公明党の斉藤鉄夫副代表が比例代表からの鞍替え出馬を表明。
自民党の広島県連は、候補者選びの公募を断行。双方譲らぬ姿勢で緊張感が高まっている状況は、11月24日に配信した「自民党と公明党が繰り広げる『仁義なき戦い 広島死闘編』の全真相」で紹介した通りだ。自民党県連は12月8日、県議・石橋林太郎氏の擁立を決めている。
「広島3区」問題は、公明党が前幹事長の斉藤氏という超大物を擁立。一方、自民党は、「ポスト菅」を狙う岸田文雄氏の地元・広島県での候補者調整だ。双方譲るに譲れない事情がある。こちらも、現場レベルでの調整はできず、菅氏と山口氏に委ねられる可能性は高い。
その場合、どういう結末を迎えるか。
■菅首相は「創価学会」と太いパイプを持っている
自民党内の予想では、広島3区も公明党に軍配が上がるとの見方が強い。この問題は11月19日、山口氏が菅氏と会談した際、斉藤氏の擁立決定を伝達。菅氏は特に発言はしなかったが、黙ってうなずいていた。公明党側は「容認」と受け止め、その情報は自民党側にも伝わっている。
菅氏はもともと公明党や、その支持母体である創価学会と太いパイプを持っている。これは、山口氏との関係がよそよそしかった安倍晋三前首相とは決定的に違う。それだけに、最終判断も公明党寄りになる可能性が高いとみられているのだ。
毎日新聞が12月12日に行った世論調査の結果は菅政権に衝撃を与えた。内閣支持率は前回比17ポイント減の40%、不支持率は13ポイント上がって49%になった。菅内閣が誕生以来、不支持が指示を上回ったのは初。安倍内閣下でも、たまに不支持が支持を上回ることはあったが、これほどの「逆転現象」はほとんどない。
■不支持が支持を上回る「逆転現象」で公明党に存在感
これは、新型コロナウイルス対策での対策への不満が高まっているのが要因だ。間違いなく1年以内に衆院選が行われることを考えると、自民党にとっては危うい数字だ。
菅氏は選挙対策にも長けているだけに、世論の動向も重視している。浮動票が取りにくいと見切れば、確実な組織票・つまり創価学会票の荷崩れを防ぎ、守りを固めようとするだろう。そう考えれば、より一層、自民党が公明党に歩み寄るシーンが増えてくるかもしれない。
その判断は、政権運営の手段としては正しいだろう。ただし公明党に譲歩を続けると、自民党内の空気が悪くなることも予想される。
公明党は自民党との長い連立関係の中で「下駄の雪」と言われてきたことがある。「踏まれても、踏まれてもくっついていく」という意味だ。その「雪」が、自己主張を強くするようになれば「下駄」も面白くない。菅氏は、その難しい連立関係も差配していく重荷も背負うことになる。
(永田町コンフィデンシャル)
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