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「コロナ赤字で急浮上」JR北海道とJR四国が消滅する日は近い

プレジデントオンライン / 2020年12月17日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Takashi Nakano

■発足から33年の「7社体制」が崩壊の危機にある

11月29日、国鉄民営化の生みの親、中曽根康弘元首相は101歳の生涯を閉じた。慢性的な赤字状態に陥り、職員のモラルも低下していた国鉄を分割民営化で再生させ、接遇やサービスを大きく改善させたことは、中曽根氏の功績として語り継がれている。

しかし、1987年に今の6つの地域別の旅客鉄道会社と1つの貨物鉄道会社体制になってから、33年が経過した今、その体制が崩壊の危機に陥っている。その元凶がJR北海道とJR四国の経営問題だ。

「なんとしても支援継続をしてもらわないといけない」――。

これまで政府は、老朽化した鉄道設備の補修や車両の購入費などに充てる助成金の交付と無利子の資金貸し付けを実施してきた。その根拠となる国鉄清算事業団債務等処理法の適用延長交渉が大詰めを迎える中、JR北海道の幹部は官邸や霞が関に日参する。

■JR北海道の鉄道事業は、売上高239億円で営業赤字が371億円

政府は2018年7月、相次ぐ事故や経営低迷に直面するJR北海道に対し、経営改善を求める異例の監督命令を出した。その履行を条件に、2019~2020年度の2年間を第1期集中改革期間として計約400億円の財政支援を決めた。

今回の支援継続は、来年度からの第2期集中改革期間(2021~2023年度)に向けたものだ。関連法の改正案を来年1月開会予定の通常国会に提出すべく、JR北海道の幹部は新型コロナウイルス感染拡大の中、「陳情」に走り回る。12月に入り、国交省との会議で支援継続の見通しとなったが、厳しい状況に変わりはない。

JR北海道の2020年9月中間決算は、売上高は前年同期比39.2%減の519億円、純損益は過去最悪の149億円の赤字(前期は3億円の赤字)だった。鉄道事業中心の単体では売上高239億円、営業赤字は371億円に膨らんだ。

■「年200億円台」の支援を得ても、すぐに底をつく

6月にJR東日本の元常務からJR北海道の会長に転じた田浦芳孝氏は「年200億円の国の支援法は継続していただきたい。コロナ禍によって鉄道事業は200億~300億円減収になる。コストダウンを進めてもカバーしきれず、減収分はそのまま赤字になる」と窮状を訴える。

岩見沢駅のローカル列車
写真=iStock.com/Takashi Nakano
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Takashi Nakano

だが、コロナ禍で他の鉄道会社や航空会社も軒並み業績が悪化している。JRを所管する国土交通省は「JR北海道にだけ大幅な支援上積みはできない」と厳しい見方を示す。

何とか従来の「年200億円台」の支援を得てもコロナ感染が再び猛威を見せ始める中、「鉄道事業の低迷はさらに続くため、その資金もすぐに底をつく」(大手証券アナリスト)と手厳しい。

同じ状況下にあるのがJR四国だ。

「鉄道局と協議中だが正直、煮詰まっていない。新たな設備投資の資金をお願いしたい」

JR四国の西牧世博社長は11月30日の定例記者会見で、苦しい胸の内を吐露した。

同社は3月下旬、今期を最終年度とする事業計画を下方修正。3億円の経常黒字の達成は困難で、12億円の経常赤字に陥るとの見通しを公表した。

■JR四国の最終損益は53億円の赤字

これを受け国交省は、JR四国に対し、四半期ごとの決算を開示して経営指標を検証することなどを求めていた。

それによると、売上高にあたる営業収益は前年同期比63%減の44億円だった。6割強を占める運輸業(バスを含む)が、同63%減の28億円に落ち込んだことが響いた。ホテルの稼働率や単価も低下。ホテル業の売上高は、同85%減の2億円にとどまった。

JR四国はこれまで4~6月期の決算をまとめていなかったため過去との比較は困難としているが、76億円の営業赤字は「おそらく過去最低の数字」(財務部)と話す。

JR四国は国の支援措置である経営安定基金の運用益を「営業外損益」に計上している。これまで本業の営業赤字を補填していたが、4~6月期は補いきれず48億円の経常赤字(前年同期は4億円の黒字)に転落した。

今年度上半期の決算も鉄道やホテル事業の利用者が減ったことが響き、最終損益は53億円の赤字(前年同期は12億円の黒字)だった。

■抜本的な構造改革に踏み切らず、その場しのぎに終始

大手証券アナリストは、「JR北海道と四国の危機の根源はコロナ禍の前から認識されていた。問題は課題を先送りしてきたことだ」と指摘する。

人口減少が叫ばれる中、実はJR北海道の鉄道輸送量は20年間変わっていない。このため、営業収益は1988年度が812億円、2018年度が819億円(そのうち運輸収入は705億円と712億円)とほぼ横ばいで推移している。

営業費が収入を上回る1327億円と1378億円だったため、結果として営業損失は516億円と559億円となっているが、鉄道以外の事業を伸ばした。その結果、全事業ベースの営業損失では1988年度の534億円から2018年度には419億円と100億円以上改善している。

では、なぜJR北海道の窮状が深刻化しているのか。

その一つは低金利時代が想定以上に長引いていることだ。JR北海道や四国などは分割時に6822億円もの経営安定化基金による資金支援が実施されるようになったが、その運用益が減少で赤字が埋めきれなくなった。

しかし、さらに問題なのが、「赤字路線の廃止に踏み切れなかった」(JR東日本幹部)ことだ。鉄道からバスへの転換など、抜本的な構造改革に踏み切らず、営業費のカットというその場しのぎに終始した。

■無理なコストカットで事故多発、業績低迷で負のスパイラル

JR北海道は「冬は豪雪や寒さなどから保安事業が他の鉄道会社と比較にならないほどきつい。夏も暑さでレールが膨張するなど、脱線防止の苦労は絶えない」(JR北海道幹部)という環境にある。

近年多発した列車事故は「無理なコストカットにあった」(国交省)という指摘も多く、事故の多発は業績低迷に拍車をかける負のスパイラルに陥っている。

JR北海道は赤字路線の見直しを進め、北海道新幹線の札幌延伸後の2031年度以降は国の支援を受けずに経営を自立させる計画だ。2016年11月に、全路線の営業距離のほぼ半分にあたる10路線13区間を「単独では維持困難」と公表している。このうち5区間は廃止する方針と掲げている。残る8区間は、国や自治体の負担を前提に存続させる方針。

合計120億円規模の赤字の3分の2を国や自治体に肩代わりしてもらう形だが、支援を巡る国と北海道の協議は難航している。

JR四国も3月時点で147億円の現預金は6月末にも尽きかけ、約30億円の借り入れをした。こうした経営環境の悪化を受けて運賃改定の検討を開始。西牧世博社長は8月末の記者会見で2021年4月以降の改定に言及している。

■東急の豪華観光列車が北海道で運行開始

JR北海道や四国の危機をどう乗り越えるか。政権内でもコロナによる経営への追い打ちが激しくなる中、「国鉄民営化から30年以上経過した。再見直しが必要なのではないか」(自民党幹部)との議論が出始めた。

要は「地域旅客6社・貨物1社」体制の見直しだ。

実質的にJR北海道は、JR東日本から3代続けて会長を送り込むなど、役員の受け入れ以外にもさまざまな支援を得ている。

その一つがJR東日本、東京急行電鉄、JR貨物による「観光支援プロジェクト」だ。JR北海道がJR東日本の車両を借り受け、北海道北部での観光列車の運行を昨年夏から始めた。

この夏には東急の豪華観光列車「ザ・ロイヤルエクスプレス」を東急が北海道東部で運行を開始した。「東急は都心の路線での乗り入れでつながりの深いJR東日本が連れてきた」(JR東日本幹部)。

このプロジェクトは2018年9月に発生した北海道胆振東部地震への復興支援の一環としての位置づけだったが「今後のJR北海道や四国の再編問題に大きな示唆を与えるものだ」(自民党幹部)との声も多い。

その自民党幹部は、「JR四国もJR西日本や九州との統合などを考えれば、救済の手だてはある」と、言葉を継いでいる。

■統合が現実化すれば、インバウンド戦略にもプラス

鉄道事業だけではない。旅行業もJTBはJR東日本が、日本旅行はJR西日本が筆頭株主だ。「コロナで経営が厳しい旅行業界も併せて動員すれば、将来のインバウンド戦略など立てやすくなる」と国交省幹部は話す。

快速マリンライナー
写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

同じ中曽根元首相は電電公社の民営化も進めた。そのNTTはドコモを吸収し、さらには「旧電電ファミリー」の一員だったNECと資本提携に踏み切った。その狙いは米アマゾン・ドット・コムなどGAFAへの対抗にあるが、人口減少やコロナ渦で普及し始めた「リモートワーク」など、JR各社は運送客数の減少にさらされている。

小手先の営業費用のカットなどではなく、赤字路線の廃止で財務の悪化に歯止めをかけ、さらに再編で収益基盤を強化する。

JR再編の必要性は日ごとに高まっている。

(経済ジャーナリスト 矢吹 丈二)

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