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ANA、JAL、JTB…超人気企業の採用中止は「就職氷河期」の前触れである

プレジデントオンライン / 2020年12月17日 11時15分

新型コロナウイルス感染拡大の影響で大規模イベントの参加人数が制限される中、2022年春卒業予定の学生らを対象にしたインターンシップ(就業体験)説明会「マイナビ仕事研究&インターンシップEXPO」が開かれた。=2020年10月17日、東京都 - 写真=時事通信フォト

コロナ禍で来年度新卒採用見送り企業が続出する中でも、加藤勝信官房長官は「第2の就職氷河期世代は作らない」と言い続けている。だが、この発言をそのまま受け止めるのは危険だ。すでにリーマン・ショック時に迫るほど就職内定率は低下しているのだ——。

■「人材はわが社の資産であり、人員削減は断腸の思いだ」

「就職氷河期」が再びやってきそうだ。学生が就職したい人気企業の常連だった航空、旅行は新型コロナウイルスの影響で市場が蒸発し、旅行大手に至っては軒並み2022年度の新卒採用を見送る総崩れのありさまだ。感染拡大に収束のめどがつかないようなら採用抑制の動きは業種を問わず広がり、学生が優位な「売り手市場」は一気に暗転し、第2の氷河期世代を生むレッドゾーンに突入しかねない。

「人材はわが社の資産であり、人員削減は断腸の思いだ」――。旅行大手JTBの山北栄二郎社長は11月20日、国内店舗の25%閉鎖や国内外グループ6500人の人員削減を含む事業構造改革を発表した会見で、苦渋の決断に悔しさをにじませた。

2021年3月期の経常損益は1000億円の赤字と、連結決算移行後で最大の損失を見通す深刻な非常事態にメスを入れない聖域はない。社員間の断層も覚悟のうえで2022年度の新卒採用の見送りも決めた。

■日本旅行、近畿日本ツーリスト、HISも採用抑制

競合他社も事情は同じだ。

日本旅行、近畿日本ツーリストを傘下に持つKNT-CTホールディングスは12月2日、2022年度の新卒採用見送りをそれぞれ発表した。エイチ・アイ・エス(HIS)も約600人を予定していた2021年度の新卒採用を6月に中止し、2022年度も引き続き採用を抑制する。

HISは12月11日発表した2020年10月期の連結決算で最終損益が250億円の赤字を計上し、2002年の株式上場以来初の最終赤字に転落した。主力の海外旅行は激減し、2021年度までに海外人員を3割削減し、海外拠点も95カ所減らす。国内は人員削減をしないものの100店舗を減らし、社員の配置転換を進める。経営体制の荒治療は新卒採用も無縁でないとメスを入れる。

旅行業界は菅義偉首相肝いりの政府による観光支援策「GoToトラベル」の効果で一息ついたとはいえ、新型コロナ感染の「第3波」が全国を襲う現状で先行き不透明感は拭えない。パンデミック(世界的大流行)で一般が観光などで自由に海外渡航できない局面が長期化するのは避けられず、人件費や店舗などの固定費を切り詰める中、新卒採用どころではない。

■ANA、JALが先行した新卒採用の圧縮

新卒採用の圧縮は航空大手が先行して進んだ。

全日本空輸(ANA)を傘下に置くANAホールディングス(HD)は2021年度新卒採用について、客室乗務員と空港の地上職員の採用を中止した。ここ数年、3200人程度の採用を続けてきたANAHDは、パイロットと障害者の採用に限定することで、2021年度を600人程度、翌2022年度は200人程度まで圧縮する。

日本航空(JAL)は1700人程度を予定していた2021年度の新卒採用活動を5月に取りやめ、同年度の採用は200人程度にとどめる。2022年度については現時点で未定としている。

旅客機で業務をするスチュワーデス
写真=iStock.com/YakobchukOlena
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/YakobchukOlena

2021年3月期の連結最終損益でANAHDは過去最大の5100億円、JALも2700億円とそれぞれ巨額の赤字を見通す。世界各国の入国規制により国際線の立て直しには長期間の対応を余儀なくされる。

実際に両社とも家電量販チェーンのノジマなど他業界に社員を出向させるなどで危機をしのぐのが精いっぱいで、コロナ禍前のような規模での新卒採用の余裕はもはやない。

■就職先人気企業ランキング上位が様変わり

航空、旅行の各社に共通するのは大学生を対象にした各種の就職先人気企業ランキングでこれまでは上位に位置してきた常連組の超人気企業である点だ。

2021年3月卒見込みの学生を対象にマイナビと日本経済新聞社が昨年実施した調査では文系総合でJTB、ANAが第1、2位、JALは4位に付けた。文系女子に限るとJTB、ANA、JALがトップ3を占めた。

昨年まではこのほかのランキング調査でもこの傾向は顕著だった。

しかし、コロナ禍の直撃を受けて状況は一変した。今年の夏と現在進行中の秋冬のインターンシップ(就業体験)を通じ、就活に取り組み出している大学3年生らの学生を対象にした調査で航空、旅行のランクが急落し、上位から消えたのは言うまでもない。

ダイヤモンド・ヒューマンリソースが6月から11月にかけて大学3年生と大学院1年生を対象に実施した「就職先人気企業ランキング調査」によれば、航空、旅行は上位20位から姿を消した。

とりわけ文系女子の調査結果はこの傾向が顕著で、同社は12月8日発表のリリースで「文系女子の人気の高かったオリエンタルランドやJTB、日本航空、ANAなどエンターテインメント、旅行、運輸業界はコロナ禍の影響を大きく受けて順位を下げた」とコメントを添えた。

■大企業の大半は「例年並み」「遜色ない」というが…

こうした新卒採用状況の激変でも、確かに、人気業種の航空、旅行の総崩れをもってして、「就職氷河期」の再来を声高に唱えるのは早計との見方がある。

実際、大企業のほとんどは2022年度の新卒採用に向けて精力的に動いている。この夏場もリモートや対面方式とリモートを組み合わせたハイブリッドなインターンを実施するなど、コロナ禍にあってもこれまでと変わらない水準を維持しながら採用活動に取り組んでいる。

人材サービス大手による調査もこうした大企業の新卒採用活動の動向を裏付ける。

マイナビが9月から10月にかけて実施した調査では2022年度の新卒採用を予定している企業は8割近くに達した。マイナビでは、この水準を「例年並み」と分析する。

リクルートキャリア・就職みらい研究所の9月の調査でも、2022年度採用を予定しているとの回答がほぼ6割に達し、前年度の採用予定と「遜色ない水準」と結論付ける。

しかし、現実は厳しい。「例年並み」「遜色ない」とのんきには構えていられないデータが並ぶ。

■就職内定率の下げ幅はリーマン直後に次ぐ冷え込み

文部科学、厚生労働両省による2021年3月卒業予定の大学生の10月1日時点での就職内定率は69.8%で、前年同期を7.0ポイント下回った。「リーマン・ショック」直後の2009年調査(前年比7.4ポイント減)に次ぐ大きな下げ幅で、長期にわたって続いた就職に学生側が有利な「売り手市場」は終焉を迎え、大きな節目を迎えることだけは間違いない。

新型コロナが収束に向かう見通しが立たない中で、航空、旅行に加えて、内需型の産業に雇用の痛みは着実に広がってきている。感染防止のため、移動や会食の自粛が続いている。このため鉄道や外食の疲弊度は半端でない。

E5 系新幹線
写真=iStock.com/MasaoTaira
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MasaoTaira

大量採用を続けてきた東日本旅客鉄道(JR東日本)は2021年3月期連結決算で本業の利益を示す営業利益、最終利益とも民営化後初の赤字に転落する見通しで、新卒採用は抑制せざるを得ない。小売業でも百貨店はコロナ禍でインバウンド需要が消滅した上、対面販売を主体とするため打撃も深刻で、今後、新卒採用に反映されることは十二分に予想される。

■頼みのメガバンクはすでに雇用の受け皿機能を喪失

コロナ禍の影響を抜きにしても、毎年1000人を超える大量採用で鳴らしてきた3メガバンクは、マイナス金利下での収益低下からコロナ禍前からすでに新卒採用の抑制を打ち出してきていた。そのため、学生からの就職人気ランキングも急落し、雇用の受け皿としての機能はもはや失っている。

半面、コロナ禍によって勢いを増すデジタル化の流れや次世代通信規格「5G」、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)への対応を捉えて、デジタル関連企業で新卒採用を増やす動きは、一定の受け皿になる。

しかし、「コロナ禍不況」が長引くようなら、新卒採用を抑え込む流れは、より幅広い業種で加速せざるを得ない。

こうした状況に対して、「GoToトラベル」「GoToイート」といった「GoToキャンペーン」の需要喚起策をとり続け、感染拡大阻止より経済を優先してきたとみられている菅政権は、「第2の就職氷河期世代は作らない」(加藤勝信官房長官)とする。だが、現実には効果的な施策を打ち出せていない。

結局は経団連、経済同友会、日本商工会議所をはじめとする経済団体への要請を通じて、民間の努力に期待するより打つ手はない。このままでは、政府がいかに否定しようとも、「就職氷河期の再来」は避けられないだろう。

(経済ジャーナリスト 水月 仁史)

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