証券会社の営業マンが50回以上も「手紙と名刺」を持ってくる納得の理由
プレジデントオンライン / 2020年12月26日 9時15分
※本稿は、宋世羅『ヨイショする営業マンは全員アホ 1%だけが知っている禁断の法則』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。
■「2日に1件新規開拓」という厳しいノルマ
私は、新卒で野村證券に入り、現場をひたすら駆けずり回ってお客様を獲得するドブ板営業マンとして4年働きました。現在はフルコミッション(完全歩合制)の生命保険営業マンとして働いていますが、営業力に関しては、野村時代に相当鍛えられました。
私は今、急に仕事がなくなっても街に出て1人の顧客を見つけられる自信があります。それは野村出身だからこそ鍛えられたものだと思っているのです。
本稿では、野村證券時代に私が体験した、営業失敗エピソードをご紹介したいと思います。実際、2000万個くらいあるんですが、そこから絞りに絞って印象的な「事件」を三つお話しします。
まず「新規口座開きました事件」です。
広島支店の配属になった新人時代の話です。野村證券に入社すると、新人は飛び込み営業で年間の新規口座開設100件のノルマが与えられます。つまり、1年間に100人のお客様を新規開拓しないといけないわけです。
年間で100件ということは、月に直すと8件。研修などで営業ができない期間もあるので、実際は月10件くらいで、2日に1件のペースで新規のお客様を獲得しないと間に合わないのです。
このようなとんでもないノルマだったので、4、5日新規開設ができないと、どんどんしんどくなっていくという状況でした。
■8日間新規顧客が取れずウソの報告をしてしまう
野村證券の場合、新人にはそれぞれ教育係のような上司がつきます。その上司との取り決めで、毎日お昼に必ず電話をして、「(新規開設)できました」「できませんでした」という報告をするルールがあります。
飛び込み営業に出かける中、8日間くらい1件も新規開設が取れない、かなり不調な月がありました。「できなかったです」、「今日もできなかったです」と、毎日上司に報告することになるのですが、5日目を過ぎた頃から精神的に追い詰められすぎて、電話がしづらくなってきました。ただ、しないとまずいわけです。
7日目を過ぎた頃には、もう「新規開設できませんでした」と言えなくなってしまって、8日目についに「今日、新規開設しました」と電話で報告しました。
もちろんこれはウソ。ただ、報告をしたのはお昼なので、夕方に支店に帰るまで4時間あります。この4時間でなんとかお客様を見つけて、さっきのウソを本当にしようと、命がけで飛び込みをしまくりました。
ですが、結局、新規口座開設できずに、そのままタイムリミットを迎えたのです。
■「お前、ほんまやな?」
野村證券では、お客様に書いていただいた口座開設用紙を直属の上司に渡すのではなく、総務課に提出して処理をしてもらうことになっていました。
つまり、実際に口座開設用紙を提出したかどうか上司は分からない。どのみち、2日後の集計に載ってしまうので、そこでバレてしまうのですが、今日のところはなんとかごまかせるかも、と私は考えました。
支店に戻ると、上司からの詰めが始まります。「やっと新規開設したな。お前、開設用紙は総務課に出したのか?」と。ここまで来たら、もう突っ張るしかありません。態度が大事です。
ですが、上司も鋭いので、「お前ほんまに、新規開設したのか?」「今から俺が総務課に内線して、確認するぞ」と、問い詰めてきます。
私は内心で「ヤバイ……」と思っていんですが、ここまで来たらイチかバチかで突っ張るしかないので、「大丈夫です、総務課に紙出したんで」と力強く答えました。
「お前、ほんまやな?」
「はい」
「お前、ほんまやな?」
「はい」
「お前、今から電話するぞ」
「出しました、大丈夫です」
と、問答は終わりません。
そしてついに、上司が受話器に手をかけて内線番号を押す瞬間に、私は
「すんません、開設してません」
と折れてしまったのです。結果、上司はブチ切れ、ゴリ詰めに合いました。
「そんなしょうもないウソつくな、アホちゃうか」と思われるかもしれませんが、当時のプレッシャーや追い込まれ方は半端じゃなかったんです。
今でこそ、そんなことしてもなんの意味もないと分かりますが、とことんプレッシャーをかけられると人間はこうなってしまう。まあ、そういう追い込まれ方を毎日していたということですね。
■すぐに結果を出さなければ、次はない
次の失敗エピソードは「ローム一点張り事件」です。
野村證券2年目を迎え、ある程度お客様ができて、毎日株取引などをやり始めていた時の出来事です。
私の2年目のノルマの半分以上を担っていたくらい、頻繁に取引をしてくださっていた大事な資産家の社長さんがいたのですが、ある月に、私の銘柄選定やタイミングのミスで5回連続で損をさせてしまいました。
そうなると、さすがの社長も萎えてきます。私も内心「まずいなぁ」と思っていたんですが、社長から電話がきて「最近、失敗しすぎだ。お前と株取引をしても損するばっかりだから、もうやめるわ」と言われてしまいました。
大ピンチです。ノルマの半分以上を失うわけですから、とんでもないことになってしまいます。どうにかして結果を出して、社長からの信頼を回復しないといけません。
電話を切ってすぐ、速攻で社長に会いに行きました。社長はもう半分キレている状態でしたので、このままだと離れていってしまいます。だから私は、
「社長、最後にひと勝負させてください! 私も死ぬ気で儲かりそうな株を見つけるので、それで損をしたら、私を切ってください!」
と、頭を下げたんです。社長は「これで本当に最後だからな」と、言ってくれました。
これが本当に最後の最後の最後だと思っていたので、私は死ぬ気で上がりそうな株を調べました。中長期で次第に上がるなんて悠長なことは言ってられない。
もう今日明日で短期的に儲かって、分かりやすい結果を出さないと、未来はない。いろんなところから情報を取って、どの株が上がるか必死で調べた結果、一つの銘柄を見つけました。
それが「ローム」という会社の株でした。当時、電子機器バブルというのがあり、関連銘柄が上がっていたので、もう「ローム」に賭けるしかないと考えたわけです。
■大口顧客の5000万円を一点張りして惨敗
翌日、社長に電話をして、
「このロームの株がダメだったら、その時は私を切ってください。その覚悟で銘柄を選びました」
と伝えると、社長は
「分かった。俺が持ってる株を全部売って、そのロームに一点張りしろ」
と言いました。金額はゆうに5000万円を超えていたと思います。
このロームの株が上がるか下がるかで、社長との取引が続くか終わるかが決まります。なので、株を買った後は、もちろんパソコンの前から動けなかった。よく馬券を買ったおっさんが「行け~!」と叫んでますが、本当に命がかかってる時って、あんなもんじゃないんですよ。無言のままチャートを見つめて念じるしかない。声が出ないです。
「頼むから上がってくれ」
「これで下がったら終わりや」
「俺の証券マン人生、ロームの株にかかってる」
「あがれ〜!」
ずっと念じていたのですが、買って30分後くらいに、ロームの株はビューっと下がっていきました。
パソコンの前で自分の呼吸が荒くなり、息苦しくなってくるのが分かりました。地上4メートルくらいの場所なのに、高山病にかかったような……気持ちは標高2000メートルいってるんちゃうかというくらい、呼吸がどんどんどんどん速くなります。その間も株はどんどん下がっていく。
そんな局面でも、社長に報告をしなくてはいけません。つまり「ローム、下がってます」と伝えるわけです。
■「その売却資金を銀行に送金しろ」
昨日あれだけ「最後のチャンスをお願いします!」と頭を下げた、社長とのやりとりを思うと、電話なんてできる気持ちではありません。ですが、どれだけつらかろうと担当者として、絶対に報告をしなければならない。
意を決して社長に電話をしました。「ツゥルルルル」という呼び出し音と、「ドクドクドクドク」という私の心臓の鼓動が共鳴します。
電話が繋がり、ロームの株が下がっていることを伝えると社長は、
「分かった、全部売却して、その売却資金を銀行に送金しろ」
と言いました。つまり、私との株取引をやめるという、死刑宣告です。私はこうして超大手のお客様を失い、翌月からまた新人と同じように新規外交をすることになりました。
■まずは受付嬢を攻略する
最後に紹介したいのが「大物社長に真っ向勝負事件」です。
野村證券1年目のこと、お客様がだんだんでき始め、上司から「お前は富裕層をお客様にしろ」という指令が下りました。つまり大物を新規開拓しろということなので、資産家の大物社長を狙って優良法人にどんどん飛び込んでいくことになります。
でも、そういう優良法人というのは、パッと飛び込んで「社長さんいますか?」と言っても、受付が絶対に通してくれません。「本日、社長はいません」の一点張り。そういうマニュアルになっているのでしょう。
私がどうしていたかというと、社長宛に手紙を書き、受付のお姉さんに名刺を添えて渡していました。翌日、またその会社に行きます。手紙を置いて行ったからといって、もちろん通してはもらえません。で、また手紙と名刺を置いていきます。
これを50回以上はやったと思うんですが、そのうちに受付のお姉さんとはだんだん仲良くなってくるわけです。実際のところ7割くらいはウザいと思われていたでしょうが、「また来ちゃいました、テヘ」といった具合に振舞っていました。
そんなことを繰り返しているうちに、受付のお姉さんから社長の出社時間と退社時間をヒアリングすることに成功しました。何十回も名刺と手紙を渡してますから、私も「ここでケリをつけよう」と思い、社長と無理やりかち合うことを決意したのです。
■名前さえ伝わっていればチャンスはつかめる
その日、社長は夜9時に会社を出るということが分かっていたので、会社の裏口にスタンバイしました。変な営業マンが会社裏に張っていることがバレるとまずいので、裏口の裏手にあった森のような場所で、一人息を潜めます。
そんなところで社長が出てくるのを今か今かと待っていると、ゴルゴ13みたいな気分でした。裏口のドアと社長の車までの距離は10メートルほどしかありません。なので、このわずか10メートルが勝負。
裏口から出てくる社長を見つけた私は、森の中から社長めがけて猛ダッシュしました。森の奥から身長187センチのスーツを着た営業マンが突進してくるわけですから、社長の立場で見たらドン引きです。
「なんや、なんや」みたいな感じになっているところに、名刺を取り出して「私が宋です」とご挨拶をさせていただきました。
手紙を何十通も渡されているので、会社に証券会社の変な営業マンが来ていることは知っていたと思います。ただ、どんな顔してる奴なのか、っていうのは全然分からない。
はじめて「宋です」と言った時、私の顔と名刺を交互に五度見くらいしていました。そして「あ、お前か」と分かっていただけて、めちゃくちゃ驚かれました。
もちろん、相手は証券会社の若い営業マンだから、株を買ってもらいたいということは社長も分かっているはずです。社長は「もう今日は遅いから、明日会社に来い」と私に言いました。
やっと努力が実って、お客様になってもらえる。私は「よっしゃ~」とテンションが上がり、アメリカ大統領の送迎車を見送るホテルマンばりに、車に乗り込む社長を見送りました。
■手を尽くせば世の中に会えない人はいない
家に帰ってからも、明日は5000万で提案しようか、それとも1億いこうかとプラスの妄想がどんどん湧き出てきます。もう明日の提案が楽しみで楽しみで仕方がなかった。
そして翌日、初めてその会社の社長室に通されました。ものすごく厳かな雰囲気の社長室です。そこで社長から開口一番に、
「悪い。投資には全然興味がないから、お前のお客さんにはなれない。申し訳ない」
と言われてしまいました。さらに
「代わりと言っちゃなんだが、お前、野村證券を辞めてうちに来ないか?」
と社長。そんな営業のサラリーマンをするより、うちの方がもっと面白いことできるぞ、と。いわゆる、逆営業をかけられたんですね。
私も一年目だったので、支店に戻って相談するみたいなことを考えられなかったので、社長の申し出は断ってしまったんですが、「世の中に会えない人はいない」ということを体感しました。私にとってはいい経験になったなと思っています。
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ビジネス系ユーチューバー
1989年生。大阪府出身。早稲田大学人間科学部卒。新卒で野村證券入社。証券営業マンとして4年間勤務の後、独立し、現在はフルコミッション(完全歩合制)の保険営業マン。2020年2月よりYouTube「宋世羅の羅針盤ちゃんねる」にて保険、株、投資信託、貯金、営業などのノウハウを、現役のプロとして発信。チャンネル登録者数は12万人超(2020年11月時点)。
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(ビジネス系ユーチューバー 宋 世羅)
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